六股聖女の七度目の召喚 〜正体を隠して日本に戻るまでの一年間を逃げ切りたい聖女ヤマダと六人の王の攻防記〜

小声奏

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聖女ヤマダ

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「賢王様!」

 先頭の兵士が声を上げる。
 私はとっさにマントを頭から被った。
 声をあげた兵士がパーヴェルたちの一行に駆け寄る。私のことを説明しているのだろう。時折、視線が向けられる。
 賢王に会えたことで、正体不明の女から解放されると思ったのか兵士達は皆、安堵の表情を浮かべていた。
 一方、私は未だ恐慌状態だった。
 私は過去に六回異世界に召喚されている。それらは全く別々の世界のはずだった。一度目の召喚で出会った人々は角の生えた馬に乗っていたけれど、二度目の世界の人々はそんな動物はいないと言う。二度目の世界の人々の中には植物の成長を促進させる能力を持った人がいたけれど、三度目の世界の人はそんな不思議な力があってたまるかと言う。
 さらに、どの世界の人々も口を揃えてこう言った。

『世界は自分たちが住んでいるこの地だけ。海は二百海里もいけば航行が不可能になり、その先にはなにもない』

 ひくりと喉が鳴った。
 さっき傍の若い兵はなんと言っていた?

「荒れ狂う海流や濃霧が世界の各地で収まり、六つの大陸の往来が可能になって一年」そう言っていたはず。
 嫌な予感がする。とんでもなく嫌な予感が……

 説明が終わったのか、賢王パーヴェル・とバタノフと幻王ナルヒが兵に護られながら、回廊から出てきた。
 向かう先はもちろん私のもと。
 背中を汗が伝う。
 ナルヒはまだいい。彼は究極のイエスマンだ。
 出会い頭の会話を思い出す。

「私は聖女です」
「うん」
「ですがこの地に降り立つとき、手違いがあり、本来の力が発揮できません。本当は数多の、ほんっとーに数多くの奇跡を起こせるのですが」
「うん」
「お力になれず非常に残念です」
「うん」
「ところで一目で恋におちました。私と恋仲になりませんか?」
「うん」
「ただし一年間は清い関係でいましょう。私は本来天にあるもの。まだこの地に馴染んでおりませんので」
「うん」
「では無事恋仲になったことですし、護ってくださいね」
「うん、わかった」

 パーフェクトだ。
 五度目ともなると擦れて、私は彼を利用する気満々で近づいた。しかしどこまでも素直なナルヒに日々絆されていたのも事実。一年でサヨナラだと分かっていなかったら危なかったかもしれない。
 対して賢王パーヴェル・バタノフは嫌な奴だった。

「私は聖女です」
「ほう、聖女ですか」
「ですがこの地に降り立つとき、手違いがあり、本来の力が発揮できません。本当は数多の、ほんっとーに数多くの奇跡を起こせるのですが」
「なるほど。ではおこせるはずの奇跡の説明を具体的にお願いします。あとで書記官をよこしますので、一覧にして提出してください」
「……お力になれず非常に残念です」
「もとより期待しておりません」
「……ところで一目で恋に落ちました。私と恋仲になりませんか?」
「私に利点があれば考慮致しますが、なければお断りです」

 正論にイラっときた私は、並み居る貴族や神職関係者の前で毒をあおり、奇跡の力を持つ聖女であると宣言した。
 求心力を欲していたパーヴェルは、猛毒を口にしても生きている私を聖女だと噂する人々の反応を見て、結婚致しましょうと言い出した。恋人では立場が不鮮明で駄目らしい。

「お申し出をお受けします。けど一年間は婚約期間としてください。私は本来天にあるもの。まだこの地に馴染んでおりませんので」
「かまいませんよ。では式は一年後ということでよろしいですか?」
「わかりました。では無事婚約者になったことですし、護ってくださいね」
「もちろんです。大切な婚約者ですから。そちらも約束を違えぬようお願い致します」

 全くもって嫌なやつである。
 嫌なやつではあるが、以降の彼は私を『大切な婚約者』として扱った。例え下心があったのだとしても丁重に扱い護ってくれたことには変わりない。別れも近くなったころには、着々と進む式の準備を見て憂鬱になったものだ。
 ぼうっと二人との邂逅を思い出す間にも彼らは近づいてくる。
 私は顔が見えぬよう、頭から被ったマントを握りしめた。

「聖女というのは、こちらの方ですか?」

 金の髪に、茶色い瞳のパーヴェルは穏やかな表情を常とする。しかしその虫も殺せぬような善人面の裏であらゆる画策を練れる人物であると知っている。
 パーヴェルに危害が及ばないようにだろう、兵の幾人かは私に槍を向けたままだ。
 そんな中、壺を買ってしまいそうな兵士がさっと膝をついた。

「この森の奥にございます聖なる泉に顕現なさいました。先ほど我ら一同、神の御技を拝見したところでございます」

 確かに出た先は泉だったけれど、彼はその場を目撃したわけではない。なのにすっかり話が出来上がってしまっている。
 パーヴェルは鷹揚に頷いた。

「なるほど、聖女」

 それから腕を組んで考え込む素ぶりを見せる。
 隣ではナルヒがじっと立っている。フードからはみ出た長い髪は、記憶と違わぬ見事なプラチナブロンドだ。普段は隠れて見えない瞳の色は菫のような紫。物珍しくてよくフードの中を覗いては眺めていた。

「賢王様?」

 私を見たまま動かないパーヴェルに兵が声をかけた。パーヴェルは「ああ、失礼」と言うと苦笑を浮かべる。彼には珍しい表情だ。

「いえ、昔ね。結婚詐欺に遭いまして」

 申し訳ありませんでした!!
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