六股聖女の七度目の召喚 〜正体を隠して日本に戻るまでの一年間を逃げ切りたい聖女ヤマダと六人の王の攻防記〜

小声奏

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聖女ヤマダ

04

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 たっぷりの絹と繊細なレースのドレス。大粒の宝石がはめ込まれた装飾品。
 楽隊は昼夜を惜しみ練習に励み、パレードの警備体制のチェックは入念に。
 結婚式は国民に向けてのお披露目をかねて、それはそれは盛大なものになるはずだった。
 総費用は考えたくもない。
 散々、質素に! お披露目なんていらないし! ドレスの布地なんて、そこらへんのカーテンでいいから! とまで言ったのに、「そんなことできるわけないでしょう」と呆れられたのは記憶に新しい。

「結婚詐欺? 賢王様がですか?」

 兵士は悪い冗談を聞いたとでも言いたげな顔をしている。

「ええ。恋は盲目とはよく言ったものです。大切にしていたのに、何が気に入らなかったのやら」

 賢王は悲しげに首を横に振った。
 しばし沈黙がその場を支配した。
 兵士は唖然とするばかりだし、ナルヒは極端に無口な性質だし、私が口を開けるはずもない。

「彼女も聖女と名乗っておりましたから、つい思い出してしまいました」

 皆の視線が、恐る恐る私に向く。
 わかる。わかります。お前のことじゃないのかと言いたいんですね。
 正念場である。絶対にバレるわけにはいかない。
 良くて諸費用の請求。悪ければ首が飛ぶ。

「ペテンに引っかかってしまったのですね。よりにもよって聖女を騙るなど、その者には神罰がくだることでしょう」

 私は嘆かわしいとばかりにそう言うと、アーメンと呟きながら九字を切った。
 一年だ。たった一年乗り切れば日本に戻れる。

「あなたは本物だと?」
「無論です」
「そういえば先ほど神の御技を目にしたと言っていましたね。どういったものだったんです?」

 パーヴェルは私ではなく跪く兵に問いかける。

「はっ、槍の刃で傷ついた腕が見る間に元どおりになるのをこの目で見ました」
「ほう、切り傷が」

 良かった。パーヴェルの前でやってみせたのが服毒で、本当に良かった。

「賢王パーヴェル・バタノフ」

 背筋を正すと、殊更に声を低くしてパーヴェルの名を呼ぶ。次は私のターンだ。

「よもや神の使いたる私をお疑いなのですか?」

 あくまで上から。あくまで偉そうに。

『ええか。自分が一等偉いって顔でおれ』
 ダニエルの声が背中を押す。
 四度目の召喚で出会ったダニエル・ダールクヴィストは商会を取りまとめる男だった。
 身一つで成り上がった彼の信条は『絶対になめられるな』だ。
 他にも彼から教わったことは『女の武器は有効に使え。ただし簡単に触れさせるな』『自分に価値があると思わせろ』などなど多岐にわたる。とにかく処世術に長けた男だった。

「なんという侮辱でしょう。気分を害しました。貴方と話すことは最早ありません。失礼いたします」

 胸を張って居丈高に言い切ると、その場をあとに……は出来なかった。
 進行方向を遮るようにパーヴェルが立ちはだかる。
 くそぅ。このまま逃げるつもりだったのに。
 パーヴェルとナルヒさえ撒いてしまえば、適当な街で適当な権力者を見繕ってたかるもよし、宗教関係機関で勿体ぶるもよし。最悪以前のように荒くれ仕事をしたってかまわない。
 こちらの算段を折ってくれたパーヴェルが恭しく礼をする。

「申し訳ございません。御身を疑ってなどおりませんとも。なにせここは中央海に浮かぶ孤島。警備は万全を期しております。ただの女が侵入できるはずもありません」

 ――孤島?

「蟻の子一匹入れぬこの島におられることこそ、まさしく、神に遣わされ顕現された聖女でいらっしゃる証」

 つまり、なにか、逃げ道がないということか。
 絶望である。

「そ、その通りです! 聖女様は恐れ多くも我ら迷える子羊をお導きになりにいらしたとのこと!」

 壺兵士が余計な口を挟む。
 さっきまでは有難かった擁護が今は大迷惑だ。

「それは僥倖。これから開かれるのは初めて六大陸の代表者が顔を合わせる会談ですから、紛糾するのは目に見えています。ぜひ聖女様にご臨席いただきお導きを請いたいものです」

 もう何も言い返せなかった。
 ため息を吐きたいのを我慢して頷く。

「承知いたしました。しかしその前に着替えを用意していただけますか?」

 足が濡れてる状態って本当に冷えるんです。

「これは気が付きませんで。すぐにご用意いたしましょう。ところで……」

 パーヴェルはにっこりと微笑んだ。

「ご尊顔を拝させてはいただけないのですか?」

 そりゃ気になりますよねー。

「人は見た目に囚われやすいもの。いらぬ邪心を抱かせぬよう、姿を晒すことは極力控えております」

 実は超美人です! と言っているようにとれなくもないがこれでいい。『価値があると思わせろ』だ。

「ではご意向に添えるようにヴェールをご用意いたしましょう。聖女様どうぞ御手を」

 拒否すれば、パーヴェルはあっさり引き下がる。
 差し出された手に右手を乗せると、絶妙な力加減で握られた。一年前と同じ完璧なエスコートが懐かしい。
 回廊に戻る途中、ナルヒの側をすり抜けた時、彼が小さくつぶやいた声が耳に入る。

「違う。俺の聖女じゃない」

 いや、同一人物ですけど……
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