行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい

文字の大きさ
2 / 10

2 不審者がいますよー

しおりを挟む
 え? なんですか、この不審人物は!?

「ちょっと、あなた? どうしてそんな、『今から強盗殺人でもします』って、恰好しているの?」

 顔も首も指先も足首も、肌色が一切見えないように、全身を黒い布で隠した新人が、私の第4師団の最終訓練に参加していた。

「ご説明が遅れすみません。私は太陽の光に当たると、肌に炎症が起きるのです。入団試験の際、団長から任務に支障がないなら良いと、許可を得て合格したのですが……」

「そうだったのね。分かったわ。無理はしないように」

 ま、肌が出ないのなら、本人も大丈夫なんだろうし、第2師団は絶対無理かもしれないけど、うちや第5なんかなら、任務遂行に問題ないしね……。
 でも、ちょっと怪しいから、引き抜くのはやめておこうかな。


 **********


 さて、第4の訓練は魔物をテイムすることだから、夕方の集合時間になるまで各自自由に、遠征で訪れたこの森を動き回っている。
 私は一応見回りながら、魔物ちゃんの良い子でも探しますかねー。
 私は相棒のププを連れ、森の中を見渡す。

 ほとんどの第4に所属する騎士は、『俺はお前より強いんだぞ!』アピールをして、魔物を手懐けるのだが、私は特殊なのだ。
 仲良く出来そうで、良い子だなーって思う子は、たいてい、自然に懐いてくれることが多い。
 でも、それを続けていたら、魔物がジャンジャン増え過ぎて、1人の身じゃもたないので、丁重にお断りして、相棒のププとだけずっと一緒にいる。

 必要があれば助けてねって感じだ。各地に友達を増やす? そんな感覚かもしれない。


 **********


 ――森の中を、ウロウロウロウロしていると、熱~い視線を感じた――

 あ、やばいのがいましたよ。ユニコーンちゃんですね……。バッチリ目が合っていますが、これはまずい。こちらに来そうだ。
 ――ああ。もう懐く気満々ね。でも君だけはご免なさいなのよ。

 クッ! 何でかって? そりゃあ、君に懐かれているところを見られたら、私がこの歳で処女だってばれるじゃない!! 噂話が面白おかしく広がって、散々な目に遭うこと間違いなしなのよ!!

 ただでさえ、もうすでにババア呼ばわりされてるっていうのに、『干物女』って言われる位ならまだしも、恋愛経験皆無の可哀想な奴認定だよね? 同情されるのが1番悲しくなるわ!
 やばい。最悪な未来しか見えない……。


 幸いにも、近くに訓練中の新人はいない。パカパカついて来る子に『ダメ! 帰りなさい!』と威嚇しつつ、ユニコーンちゃんから逃げていると――


 あ……、見られてた……。しかも、あの不審者――いや、ダメね、そういうのは。あの、太陽ダメ新人君に見られていた。
 口止めするため、猛ダッシュで近づく。私の後を、パカラッパカラッと、ユニコーンちゃんもついて来る……。
 もう泣きそうなんですけど……。

「ねえ。色々と事情があって、大変な事になるから、この事は言わないで欲しいんだけど……」
「……分かりました。しかし、相手はテレーズ師団長から、離れる気はなさそうですよ?」

 ブルルっと鼻を鳴らして、奴はすり寄って来る。こんのぉぉー、来るな! カワイコちゃんめぇ!

「無理だよ……。お願いだから帰って?」

 このユニコーンちゃんは、大変な頑固者らしい。テコでも動かぬってこんな感じかね。

「……。私がテイムしたことにしましょうか?」
「え? でも貴方、男でしょう?」
「私の顔は、誰にも見られていないのですよ? 実は女性かもしれませんよね?」

 大分無理があると思う。だって、声が完全に男だし。でも、ワラにでも縋りたいのは本当だ。

「悪いけど、お願いするわ。ちょっと君、どうしてもついて来るのなら、この人と一緒にいてくれる? それで良いなら来てもよし」
「ブルルルルゥ」

 私の近くにいられるなら、太陽ダメ新人君のところにいるのも、OKらしい。交渉は成立したみたい。

「じゃ、そういう事で!」

 スタコラサッサと逃げようとすると、あら、後ろからユニコーンさんがついて来るわ。ホホホホ。

「待て、コラ! せめて離れなさい! その、太陽ダメ新人君より私に近づいたら、馬刺しにするからね!」
「ヒヒン……」

「納得したようですね。ところで、テレーズ師団長。私はマクシムと申します」
「ああ、失礼したわね、マクシム」

「そして、このユニコーンにも名付けてあげれば、満足して、私の側で大人しくするようになるのでは?」
「そう? じゃ、ユニね」

「……」
「ブヒヒン」

「……気に入ったみたいで、良かったですね……」


 **********


「ねえー。俺はどう? 取りあえず、お試しで付き合ってみようよー」
「ええーでもー。まだ、研修期間も終わってないしー」

「ダメだよー。そんな堅い事言ってると、某テレーズ師団長みたいになっちゃうよー?」
「クスクス。やだー。名前、言っちゃってるしー。ひどーい。クスクスクス。行き遅れと一緒にしないでよー」

 はいはい。最後の遠征、初日の夜ですよー。しょ・に・ち!! またお前か? 盛んな! 名前なんだっけ?
 ――ナタンか。いい加減、懲らしめてやろうかねー。
 こんな雑魚に、ププの力を使うのはもったいないから、素手で行きますかね。

 私が腕まくりをし、ジリジリと雑魚ナタンに近づいていると――


「ここには、女性を口説くために来たのか? よほどモテないんだな?」

 ワザと挑発しながら、太陽ダ……――マクシムが、雑魚とぶりっ子の元へ向かって行く。

「なんだ? お前? ずっと、そんな恰好で、気持ち悪いんだよ。お前こそモテないだろーが! どうせ不細工過ぎて、顔を隠してんだろ?」

「ほう。私がモテない不細工だと……。夜だし、阿呆そうだし、構わないか?」

「なにブツブツ1人で言ってんだよ! 頭おかしいのか!?」

 ――バサっ――

 マクシムが、自身の全身を覆っていた黒い布を取った。

「きゃっ」

 ナタンに口説かれていたぶりっ子の新人が、両手を頬にあてる。

 やばい……、良い男だ。銀色の少し長めの髪に、すっと通った眉と鼻筋。少し垂れ気味の青い瞳が、やさし気かつ色っぽい。はい! 眉目秀麗出ましたー!!

「えっ!!」

 雑魚ナタンも負けを認めざるを得ない、完璧な容姿だわ。このまま適当に濁して、逃亡しちゃうのかなー。

「かっこいいですぅー。お名前はなんていうんですかぁー?」

 雑魚ナタンが逃げる前に、ぶりっ子新人が食いついちゃったね……。あーあ、マクシムに、クネクネクネクネしながらすり寄ってるよ……。

「失礼。他者を貶めるような発言をする女性と、親しくなる気はない。近寄らないでくれるか」
「ひっ、酷ぉーい! 最悪ぅー。もう帰る!!」

 そう言って、ぶりっ子新人は、プリプリしながら消えていった。少ない女子なのに、このまま脱落しないといいけれど。

「まっ、待ってくれよ!」

 退却のチャンスとばかりに、雑魚ナタンも、ぶりっ子新人を追いかけて逃げて行った。


「テレーズ師団長、申し訳ございませんでした。貴重な女性の人材を、失ったかもしれません」
「あら、気づいていたのね。ま、あれくらいでダメになるようなら、騎士になったって、すぐに辞めていたでしょうから、別にいいんじゃない?」

「あの2人の、あまりの言いぐさに、ついカッとなってしまいました……」
「かばってくれてありがとう。でも、マクシムって、もっと冷静なタイプに見えたんだけどね」

「抑えこんでいるだけですよ。サレイト王国の騎士になる自覚もなければ、師団長を敬う心もないなんて……。あんな、品性のかけらもないような者が入団するとは……」

 ああ、マクシムは本当に怒っているのね。綺麗な顔に青筋が浮き出ているわ。

「ま、阿呆は放っておきましょう? 自覚のない奴が騎士になって、他の騎士の命に係わるようなことにでもなったら、そりゃあ大事だもの。さあ、切り替えて、ちゃんと休む! まだまだ初日! 明日も早い!」

「はい。テレーズ師団長」

 ユニコーンに絡まれるし、マクシムに処女だってばれるし……。濃い初日だったわ。はあ、寝よ寝よ――
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~

ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。 それが十年続いた。 だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。 そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。 好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。 ツッコミどころ満載の5話完結です。

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト
恋愛
 マリリン・モントワール伯爵令嬢。  実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。  地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。 「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」 ※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。 ※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

指さし婚約者はいつの間にか、皇子に溺愛されていました。

湯川仁美
恋愛
目立たず、目立たなすぎず。 容姿端麗、国事も完璧にこなす皇子様に女性が群がるのならば志麻子も前に習えっというように従う。 郷に入っては郷に従え。 出る杭は打たれる。 そんな彼女は周囲の女の子と同化して皇子にきゃーきゃー言っていた時。 「てめぇでいい」 取り巻きがめんどくさい皇子は志麻子を見ずに指さし婚約者に指名。 まぁ、使えるものは皇子でも使うかと志麻子は領地繁栄に婚約者という立場を利用することを決めるといつのまにか皇子が溺愛していた。 けれども、婚約者は数週間から数か月で解任さた数は数十人。 鈍感な彼女が溺愛されていることに気が付くまでの物語。

パン作りに熱中しすぎて婚約破棄された令嬢、辺境の村で小さなパン屋を開いたら、毎日公爵様が「今日も妻のパンが一番うまい」と買い占めていきます

さら
恋愛
婚約者に「パンばかり焼いていてつまらない」と見捨てられ、社交界から追放された令嬢リリアーナ。 行き場を失った彼女が辿り着いたのは、辺境の小さな村だった。 「せめて、パンを焼いて生きていこう」 そう決意して開いた小さなパン屋は、やがて村人たちの心を温め、笑顔を取り戻していく。 だが毎朝通ってきては大量に買い占める客がひとり――それは領地を治める冷徹公爵だった! 「今日も妻のパンが一番うまい」 「妻ではありません!」 毎日のように繰り返されるやりとりに、村人たちはすっかり「奥様」呼び。 頑なに否定するリリアーナだったが、公爵は本気で彼女を妻に望み、村全体を巻き込んだ甘くて賑やかな日々が始まってしまう。 やがて、彼女を捨てた元婚約者や王都からの使者が現れるが、公爵は一歩も引かない。 「彼女こそが私の妻だ」 強く断言されるたび、リリアーナの心は揺れ、やがて幸せな未来へと結ばれていく――。 パンの香りと溺愛に包まれた、辺境村でのほんわかスローライフ&ラブストーリー。

処理中です...