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2 不審者がいますよー
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え? なんですか、この不審人物は!?
「ちょっと、あなた? どうしてそんな、『今から強盗殺人でもします』って、恰好しているの?」
顔も首も指先も足首も、肌色が一切見えないように、全身を黒い布で隠した新人が、私の第4師団の最終訓練に参加していた。
「ご説明が遅れすみません。私は太陽の光に当たると、肌に炎症が起きるのです。入団試験の際、団長から任務に支障がないなら良いと、許可を得て合格したのですが……」
「そうだったのね。分かったわ。無理はしないように」
ま、肌が出ないのなら、本人も大丈夫なんだろうし、第2師団は絶対無理かもしれないけど、うちや第5なんかなら、任務遂行に問題ないしね……。
でも、ちょっと怪しいから、引き抜くのはやめておこうかな。
**********
さて、第4の訓練は魔物をテイムすることだから、夕方の集合時間になるまで各自自由に、遠征で訪れたこの森を動き回っている。
私は一応見回りながら、魔物ちゃんの良い子でも探しますかねー。
私は相棒のププを連れ、森の中を見渡す。
ほとんどの第4に所属する騎士は、『俺はお前より強いんだぞ!』アピールをして、魔物を手懐けるのだが、私は特殊なのだ。
仲良く出来そうで、良い子だなーって思う子は、たいてい、自然に懐いてくれることが多い。
でも、それを続けていたら、魔物がジャンジャン増え過ぎて、1人の身じゃもたないので、丁重にお断りして、相棒のププとだけずっと一緒にいる。
必要があれば助けてねって感じだ。各地に友達を増やす? そんな感覚かもしれない。
**********
――森の中を、ウロウロウロウロしていると、熱~い視線を感じた――
あ、やばいのがいましたよ。ユニコーンちゃんですね……。バッチリ目が合っていますが、これはまずい。こちらに来そうだ。
――ああ。もう懐く気満々ね。でも君だけはご免なさいなのよ。
クッ! 何でかって? そりゃあ、君に懐かれているところを見られたら、私がこの歳で処女だってばれるじゃない!! 噂話が面白おかしく広がって、散々な目に遭うこと間違いなしなのよ!!
ただでさえ、もうすでにババア呼ばわりされてるっていうのに、『干物女』って言われる位ならまだしも、恋愛経験皆無の可哀想な奴認定だよね? 同情されるのが1番悲しくなるわ!
やばい。最悪な未来しか見えない……。
幸いにも、近くに訓練中の新人はいない。パカパカついて来る子に『ダメ! 帰りなさい!』と威嚇しつつ、ユニコーンちゃんから逃げていると――
あ……、見られてた……。しかも、あの不審者――いや、ダメね、そういうのは。あの、太陽ダメ新人君に見られていた。
口止めするため、猛ダッシュで近づく。私の後を、パカラッパカラッと、ユニコーンちゃんもついて来る……。
もう泣きそうなんですけど……。
「ねえ。色々と事情があって、大変な事になるから、この事は言わないで欲しいんだけど……」
「……分かりました。しかし、相手はテレーズ師団長から、離れる気はなさそうですよ?」
ブルルっと鼻を鳴らして、奴はすり寄って来る。こんのぉぉー、来るな! カワイコちゃんめぇ!
「無理だよ……。お願いだから帰って?」
このユニコーンちゃんは、大変な頑固者らしい。テコでも動かぬってこんな感じかね。
「……。私がテイムしたことにしましょうか?」
「え? でも貴方、男でしょう?」
「私の顔は、誰にも見られていないのですよ? 実は女性かもしれませんよね?」
大分無理があると思う。だって、声が完全に男だし。でも、ワラにでも縋りたいのは本当だ。
「悪いけど、お願いするわ。ちょっと君、どうしてもついて来るのなら、この人と一緒にいてくれる? それで良いなら来てもよし」
「ブルルルルゥ」
私の近くにいられるなら、太陽ダメ新人君のところにいるのも、OKらしい。交渉は成立したみたい。
「じゃ、そういう事で!」
スタコラサッサと逃げようとすると、あら、後ろからユニコーンさんがついて来るわ。ホホホホ。
「待て、コラ! せめて離れなさい! その、太陽ダメ新人君より私に近づいたら、馬刺しにするからね!」
「ヒヒン……」
「納得したようですね。ところで、テレーズ師団長。私はマクシムと申します」
「ああ、失礼したわね、マクシム」
「そして、このユニコーンにも名付けてあげれば、満足して、私の側で大人しくするようになるのでは?」
「そう? じゃ、ユニね」
「……」
「ブヒヒン」
「……気に入ったみたいで、良かったですね……」
**********
「ねえー。俺はどう? 取りあえず、お試しで付き合ってみようよー」
「ええーでもー。まだ、研修期間も終わってないしー」
「ダメだよー。そんな堅い事言ってると、某テレーズ師団長みたいになっちゃうよー?」
「クスクス。やだー。名前、言っちゃってるしー。ひどーい。クスクスクス。行き遅れと一緒にしないでよー」
はいはい。最後の遠征、初日の夜ですよー。しょ・に・ち!! またお前か? 盛んな! 名前なんだっけ?
――ナタンか。いい加減、懲らしめてやろうかねー。
こんな雑魚に、ププの力を使うのはもったいないから、素手で行きますかね。
私が腕まくりをし、ジリジリと雑魚ナタンに近づいていると――
「ここには、女性を口説くために来たのか? よほどモテないんだな?」
ワザと挑発しながら、太陽ダ……――マクシムが、雑魚とぶりっ子の元へ向かって行く。
「なんだ? お前? ずっと、そんな恰好で、気持ち悪いんだよ。お前こそモテないだろーが! どうせ不細工過ぎて、顔を隠してんだろ?」
「ほう。私がモテない不細工だと……。夜だし、阿呆そうだし、構わないか?」
「なにブツブツ1人で言ってんだよ! 頭おかしいのか!?」
――バサっ――
マクシムが、自身の全身を覆っていた黒い布を取った。
「きゃっ」
ナタンに口説かれていたぶりっ子の新人が、両手を頬にあてる。
やばい……、良い男だ。銀色の少し長めの髪に、すっと通った眉と鼻筋。少し垂れ気味の青い瞳が、やさし気かつ色っぽい。はい! 眉目秀麗出ましたー!!
「えっ!!」
雑魚ナタンも負けを認めざるを得ない、完璧な容姿だわ。このまま適当に濁して、逃亡しちゃうのかなー。
「かっこいいですぅー。お名前はなんていうんですかぁー?」
雑魚ナタンが逃げる前に、ぶりっ子新人が食いついちゃったね……。あーあ、マクシムに、クネクネクネクネしながらすり寄ってるよ……。
「失礼。他者を貶めるような発言をする女性と、親しくなる気はない。近寄らないでくれるか」
「ひっ、酷ぉーい! 最悪ぅー。もう帰る!!」
そう言って、ぶりっ子新人は、プリプリしながら消えていった。少ない女子なのに、このまま脱落しないといいけれど。
「まっ、待ってくれよ!」
退却のチャンスとばかりに、雑魚ナタンも、ぶりっ子新人を追いかけて逃げて行った。
「テレーズ師団長、申し訳ございませんでした。貴重な女性の人材を、失ったかもしれません」
「あら、気づいていたのね。ま、あれくらいでダメになるようなら、騎士になったって、すぐに辞めていたでしょうから、別にいいんじゃない?」
「あの2人の、あまりの言いぐさに、ついカッとなってしまいました……」
「かばってくれてありがとう。でも、マクシムって、もっと冷静なタイプに見えたんだけどね」
「抑えこんでいるだけですよ。サレイト王国の騎士になる自覚もなければ、師団長を敬う心もないなんて……。あんな、品性のかけらもないような者が入団するとは……」
ああ、マクシムは本当に怒っているのね。綺麗な顔に青筋が浮き出ているわ。
「ま、阿呆は放っておきましょう? 自覚のない奴が騎士になって、他の騎士の命に係わるようなことにでもなったら、そりゃあ大事だもの。さあ、切り替えて、ちゃんと休む! まだまだ初日! 明日も早い!」
「はい。テレーズ師団長」
ユニコーンに絡まれるし、マクシムに処女だってばれるし……。濃い初日だったわ。はあ、寝よ寝よ――
「ちょっと、あなた? どうしてそんな、『今から強盗殺人でもします』って、恰好しているの?」
顔も首も指先も足首も、肌色が一切見えないように、全身を黒い布で隠した新人が、私の第4師団の最終訓練に参加していた。
「ご説明が遅れすみません。私は太陽の光に当たると、肌に炎症が起きるのです。入団試験の際、団長から任務に支障がないなら良いと、許可を得て合格したのですが……」
「そうだったのね。分かったわ。無理はしないように」
ま、肌が出ないのなら、本人も大丈夫なんだろうし、第2師団は絶対無理かもしれないけど、うちや第5なんかなら、任務遂行に問題ないしね……。
でも、ちょっと怪しいから、引き抜くのはやめておこうかな。
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さて、第4の訓練は魔物をテイムすることだから、夕方の集合時間になるまで各自自由に、遠征で訪れたこの森を動き回っている。
私は一応見回りながら、魔物ちゃんの良い子でも探しますかねー。
私は相棒のププを連れ、森の中を見渡す。
ほとんどの第4に所属する騎士は、『俺はお前より強いんだぞ!』アピールをして、魔物を手懐けるのだが、私は特殊なのだ。
仲良く出来そうで、良い子だなーって思う子は、たいてい、自然に懐いてくれることが多い。
でも、それを続けていたら、魔物がジャンジャン増え過ぎて、1人の身じゃもたないので、丁重にお断りして、相棒のププとだけずっと一緒にいる。
必要があれば助けてねって感じだ。各地に友達を増やす? そんな感覚かもしれない。
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――森の中を、ウロウロウロウロしていると、熱~い視線を感じた――
あ、やばいのがいましたよ。ユニコーンちゃんですね……。バッチリ目が合っていますが、これはまずい。こちらに来そうだ。
――ああ。もう懐く気満々ね。でも君だけはご免なさいなのよ。
クッ! 何でかって? そりゃあ、君に懐かれているところを見られたら、私がこの歳で処女だってばれるじゃない!! 噂話が面白おかしく広がって、散々な目に遭うこと間違いなしなのよ!!
ただでさえ、もうすでにババア呼ばわりされてるっていうのに、『干物女』って言われる位ならまだしも、恋愛経験皆無の可哀想な奴認定だよね? 同情されるのが1番悲しくなるわ!
やばい。最悪な未来しか見えない……。
幸いにも、近くに訓練中の新人はいない。パカパカついて来る子に『ダメ! 帰りなさい!』と威嚇しつつ、ユニコーンちゃんから逃げていると――
あ……、見られてた……。しかも、あの不審者――いや、ダメね、そういうのは。あの、太陽ダメ新人君に見られていた。
口止めするため、猛ダッシュで近づく。私の後を、パカラッパカラッと、ユニコーンちゃんもついて来る……。
もう泣きそうなんですけど……。
「ねえ。色々と事情があって、大変な事になるから、この事は言わないで欲しいんだけど……」
「……分かりました。しかし、相手はテレーズ師団長から、離れる気はなさそうですよ?」
ブルルっと鼻を鳴らして、奴はすり寄って来る。こんのぉぉー、来るな! カワイコちゃんめぇ!
「無理だよ……。お願いだから帰って?」
このユニコーンちゃんは、大変な頑固者らしい。テコでも動かぬってこんな感じかね。
「……。私がテイムしたことにしましょうか?」
「え? でも貴方、男でしょう?」
「私の顔は、誰にも見られていないのですよ? 実は女性かもしれませんよね?」
大分無理があると思う。だって、声が完全に男だし。でも、ワラにでも縋りたいのは本当だ。
「悪いけど、お願いするわ。ちょっと君、どうしてもついて来るのなら、この人と一緒にいてくれる? それで良いなら来てもよし」
「ブルルルルゥ」
私の近くにいられるなら、太陽ダメ新人君のところにいるのも、OKらしい。交渉は成立したみたい。
「じゃ、そういう事で!」
スタコラサッサと逃げようとすると、あら、後ろからユニコーンさんがついて来るわ。ホホホホ。
「待て、コラ! せめて離れなさい! その、太陽ダメ新人君より私に近づいたら、馬刺しにするからね!」
「ヒヒン……」
「納得したようですね。ところで、テレーズ師団長。私はマクシムと申します」
「ああ、失礼したわね、マクシム」
「そして、このユニコーンにも名付けてあげれば、満足して、私の側で大人しくするようになるのでは?」
「そう? じゃ、ユニね」
「……」
「ブヒヒン」
「……気に入ったみたいで、良かったですね……」
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「ねえー。俺はどう? 取りあえず、お試しで付き合ってみようよー」
「ええーでもー。まだ、研修期間も終わってないしー」
「ダメだよー。そんな堅い事言ってると、某テレーズ師団長みたいになっちゃうよー?」
「クスクス。やだー。名前、言っちゃってるしー。ひどーい。クスクスクス。行き遅れと一緒にしないでよー」
はいはい。最後の遠征、初日の夜ですよー。しょ・に・ち!! またお前か? 盛んな! 名前なんだっけ?
――ナタンか。いい加減、懲らしめてやろうかねー。
こんな雑魚に、ププの力を使うのはもったいないから、素手で行きますかね。
私が腕まくりをし、ジリジリと雑魚ナタンに近づいていると――
「ここには、女性を口説くために来たのか? よほどモテないんだな?」
ワザと挑発しながら、太陽ダ……――マクシムが、雑魚とぶりっ子の元へ向かって行く。
「なんだ? お前? ずっと、そんな恰好で、気持ち悪いんだよ。お前こそモテないだろーが! どうせ不細工過ぎて、顔を隠してんだろ?」
「ほう。私がモテない不細工だと……。夜だし、阿呆そうだし、構わないか?」
「なにブツブツ1人で言ってんだよ! 頭おかしいのか!?」
――バサっ――
マクシムが、自身の全身を覆っていた黒い布を取った。
「きゃっ」
ナタンに口説かれていたぶりっ子の新人が、両手を頬にあてる。
やばい……、良い男だ。銀色の少し長めの髪に、すっと通った眉と鼻筋。少し垂れ気味の青い瞳が、やさし気かつ色っぽい。はい! 眉目秀麗出ましたー!!
「えっ!!」
雑魚ナタンも負けを認めざるを得ない、完璧な容姿だわ。このまま適当に濁して、逃亡しちゃうのかなー。
「かっこいいですぅー。お名前はなんていうんですかぁー?」
雑魚ナタンが逃げる前に、ぶりっ子新人が食いついちゃったね……。あーあ、マクシムに、クネクネクネクネしながらすり寄ってるよ……。
「失礼。他者を貶めるような発言をする女性と、親しくなる気はない。近寄らないでくれるか」
「ひっ、酷ぉーい! 最悪ぅー。もう帰る!!」
そう言って、ぶりっ子新人は、プリプリしながら消えていった。少ない女子なのに、このまま脱落しないといいけれど。
「まっ、待ってくれよ!」
退却のチャンスとばかりに、雑魚ナタンも、ぶりっ子新人を追いかけて逃げて行った。
「テレーズ師団長、申し訳ございませんでした。貴重な女性の人材を、失ったかもしれません」
「あら、気づいていたのね。ま、あれくらいでダメになるようなら、騎士になったって、すぐに辞めていたでしょうから、別にいいんじゃない?」
「あの2人の、あまりの言いぐさに、ついカッとなってしまいました……」
「かばってくれてありがとう。でも、マクシムって、もっと冷静なタイプに見えたんだけどね」
「抑えこんでいるだけですよ。サレイト王国の騎士になる自覚もなければ、師団長を敬う心もないなんて……。あんな、品性のかけらもないような者が入団するとは……」
ああ、マクシムは本当に怒っているのね。綺麗な顔に青筋が浮き出ているわ。
「ま、阿呆は放っておきましょう? 自覚のない奴が騎士になって、他の騎士の命に係わるようなことにでもなったら、そりゃあ大事だもの。さあ、切り替えて、ちゃんと休む! まだまだ初日! 明日も早い!」
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