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5 誕生! 女性騎士団
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女性騎士団が創設? 団長が私? 副団長がマクシム? おいコラ! 私は何も聞いてないぞ!!
取りあえず、事情を知っているはずのマクシムを探す。あぁ。きっと今、私は、鬼の様な形相になっているのね。ますます婚期が遠のいていくわ……。
「マークーシームー!!」
「テレーズ師団長。女性騎士団の創設と、団長へのご就任、おめでとうございます」
何が『おめでとうございます』ニコっ。だよ!! でも、麗しいモノを見て、怒りが半減したかも。そんな自分が、単細胞で嫌だわー。
「いつも、後から説明するのね? どういうことなの!」
「女性騎士団ですから、団長に相応しいのはテレーズ団長しかおりません。しかし、副団長は、今は人材がいないだけで、いずれは女性騎士に任せたいのです。私はその間の繋ぎですよ。これからも部下として、よろしくお願いします」
再び綺麗な顔で、ニコっ。とされ、さらに怒りが半減したから、ほぼほぼ平常心だわ。
今年の入団者35名のうち女性は3名だが、彼女たち全員が、女性騎士団に配属されるのを快諾したらしい。どうせマクシムの顔を見たからだよね?
形としては女性騎士団が出来たんだろうけど、先の見通しがたちませんよ。みんな、いつもの如く、辞めちゃうんじゃないの? 責任重過ぎるなー。
**********
正式な配属先の発表を見たテレーズ以外の師団長4人は、団長のオレノに抗議をしに行った。
事前に団長・師団長会議で協議をし、内々に決めていたことを反故にされたのは初めてだった。
団長執務室の扉を蹴り開け、全員が血走った眼で団長オレノに詰め寄った。
「団長! これは一体どういうことですか!」
「ご説明下さい。団長」
「僕達の意見を無視したの?」
「こういうのは、よろしくないですねぇ」
サレイト王国騎士団のトップである団長オレノは、やれやれと肩をすくめながら、4人の師団長に説明をしはじめた。
「テレーズは、今まで通り同じ騎士団の敷地にいるし、魔物討伐の遠征にも参加させる。しかも、ダメな男達から距離が出来、お前たちからすれば、かえって都合が良いだろう?」
そう団長オレノに言われ、容易くそれなら良いかと納得した4人は、この人事も悪くはないなと考えた。
『テレーズを陰日向になって守る会』の活動は続いている。
**********
新人の全体訓練が終った。今日からは、女性騎士団の団長として、任務と訓練にあたるのか。
不安でしかないわ。これで団員に逃げられたら、責任取らされて、クビになったりしないかな? 10年以上、騎士団に身を捧げて来たのにさ。騎士生活のカウントダウンが始まったのかも……。
あら、嫌だ。マイナス思考になっていたわ。団長たる者、常にみんなの標となるのよ! ひ弱な心、さようなら。
「おはようございます。テレーズ団長」
「お、おはよう。マクシム副団長」
はうっ! 完全に変装を止め、騎士の正装に身を包んだマクシムが、朝日以上に眩しすぎる。私は標。邪な心、さようなら。
さて、女性騎士団の活動初日と行きますか。
「3人は顔見知りだと思うけど、まずは、自己紹介をしましょうか。女性騎士団が創設されていなかったら、どの師団に配属希望を出していたのかも教えてちょうだい」
右から順番にお願いと、最初にあのぶりっ子ちゃんを指名した。
「はいっ。私はアリス・バシェです。第3師団を希望していました。よろしくお願いします!」
魔法が得意なのかな? 1か月前よりしっかりしたわね。よし、あの時のことは綺麗サッパリ水に流そう。
「コリンヌ・アダンと申します。テレーズ団長の、第4師団希望でした。よろしくお願いします」
少し恥ずかしがり屋さんかな? でも、第4希望なんてレアな子がいたのね。ケット・シーの子だったかな?
「ミレーヌ・ドゥ・ベルレアン。第1師団を希望しておりました。よろしくお願いいたします」
貴族のお嬢様が入団していたんだ。クールビューティーって感じ。
第4の訓練って、魔物のテイムと評価がメインだから、新人と過ごした時間が他より少なくて不安だったけど、みんな良い子っぽくて安心したわ。
何より、希望に満ちた目をしている。この娘たちが、今日を無事に迎えられて良かったわ。
「私は、マクシミリアン・フォン・アインホルン。副団長です。みなさんには期待していますよ」
頬をほんのりピンクに染める乙女たち。マクシムは、自分の顔の使いどころを知っているんだ。この腹黒め!
「テレーズ・リヴィエです。女性騎士団の初代団長職を賜ったわ。みんなよろしくね。今日はこのまま、騎士叙任式に向かってもらうわ。その後は他の団員と同様に、家に帰ってそれぞれお祝いをしてね。本格的な訓練は明日からよ。さあ、聖堂に向かいましょう」
厳かな空気の中、若い騎士達が陛下から剣を与えられ後、私も形だけだが、団長に昇任したので叙勲された。
どんどん逃げ道を塞がれていく。陛下からの『娘のためによろしくな』の眼圧が半端なくて、気が遠くなりそうだった。
長時間の儀式を終え、生まれたての女性騎士の帰りを見届けると、マクシムに声を掛けられた。
「テレーズ団長、今日はみんな帰るだけですから、よろしければこの後、昼食を食べながら今後の活動について打ち合わせしませんか?」
「そうね。そうしましょうか」
「それではこのまま、街に繰り出しましょう」
「いいわよ。でも、公爵様が平民のような真似をしてもいいの?」
「民の中で、ずっと外遊していた私の顔を知る者はいませんよ。大丈夫ですから行きましょう」
**********
具だくさんのカスレと、肉汁滴るステーキ・フリットを食べながら、マクシムと話をする。
マクシムは、外国でどんな生活をして、何を学んで来たのか怪しんでしまう程、食べ方や仕草が庶民と変わらない。
容姿が整い過ぎて浮いているだけで、王族が完全に街にとけ込んでいる。きっと外国で、羽目を外して遊んできたに違いない!
「予想以上に良い騎士たちで良かったわ。このまま騎士団にいてくれれば、けして男騎士団に劣ることはない娘たちだと思ったわ」
「そうですね。入団試験を突破しただけありますね。それに、当初から3人とも能力は優れていましたよ」
「訓練が楽しみだわ。みんな資質も能力も違うから、専門的な訓練をする時は、各師団にお願いするね」
「分かりました」
ああ、なんだか期待で胸が膨らむわね。団長として、精一杯努めて行かないと。
あ、そういえば、話に夢中になって忘れていたけれど、気になっていたことがあったんだ。
「ところでマクシム。本来、あなたを敬うべきは私なんだから、団の外でまで敬語はやめてほしいわ」
「よろしいのですか? お気づきかもしれませんが、私は放埓王子でしたから、堅苦しいのは苦手なのです。任務時間外は、遠慮なく自由に振舞わせていただきますよ?」
「ふふ。放埓って。庶民の私に遠慮なんてしないでちょうだい。こっちだってしていないんだから」
マクシムは『なら遠慮なく』と言って、素で話すようになった。気兼ねなく話をすると、下らない訓練計画までポンポン出始めたが、今後の方針は概ねまとまった。
「じゃ、テレーズ団長の就任祝いに乾杯するか! お祝いだから、もちろん俺の奢りで!」
「まだ15時だけど、たまにはいいわね! よし! 奢って貰おうじゃあないの!」
「でねぇー。その時の討伐遠征でぇ、私がオチューに捕まってんのにぃ――ヒック――ダミアンは助けもしないでぇ、ずっとニヤニヤして見てるだけなのよぉ。いくら懐かれているだけでぇ、食べられないって知ってたとしてもぉ――ヒック――酷過ぎない? 肝心のププは討伐に夢中でぇ、気づいてくれないしぃ」
「それは陰湿だな」
「後から来たミカエルもぉ、お腹を抱えて笑っているだけだしぃ、――ヒック――エミールは『早く仲間にしてあげなよー』って言うしぃ。オチューの食事なんて準備できないわよぉ! ――ヒック――」
「確かに腐った肉を毎日準備したくはないな」
「テオドールがぁー、気づいて助けてくれるまでぇー、大変だったのよぉー。――ヒック――……。マクシム……。ありがとねぇ。団長大変そうだけどぉ頑張るわぁ――」
**********
――チュンチュンチュンチュン――
あれ? ここはどこでしょうかね?
白を基調とした室内に、小花を散りばめた可愛らしい調度品で統一された、だだっ広い部屋を見回す。人の気配はない。
そーっとベッドから抜け出し、足音をひそめ、扉の隙間から外の様子をうかがう。バチリと部屋の向かいに控えていたメイドさんと目があった。
「お目覚めですね、テレーズ様。お召し物はこちらにございます」
!? そう言われ、夜着に着替えさせられていたことに気がついた。ああぁぁ。31歳にもなって、他人に着替えさせてもらうとは……。何たる不覚……。
「着替えられましたらお声掛け下さい。セルジュが参ります」
セルジュさんと言われ、昨日の記憶が一気によみがえって来た。
ここは公爵邸ですよね。やっちまった! 30超えると、途端にお酒が弱くなるのよ! でも気持ちは若いままだから、限界突破しやすいのよ……。
遠征の話をしていた記憶はあるんだけど、それ以外がごっそりと抜け落ちている! 待て! 身体に異変は? なさそうだな……。朝チュンは健全な方だよね……?
ヘロヘロしながら着替え終え、青い顔のまま部屋の外に声を掛けると、すぐにセルジュさんが来てくれた。
「おはようございます、テレーズ様。マクシム様がお待ちです。食堂にご案内します」
と、優しく丁寧に言われ、少しだけ気が楽になった。さっきのメイドさんもだけど、ここのお屋敷のみなさんはとても優しい。
あまりの気まずさに、身もだえそうになる私をおもんばかってか、「体調はいかがですか?」「身支度の準備をお手伝いしますか?」「のどは渇いていらっしゃいませんか?」と、大変気遣ってくれた。
広すぎて迷子になりそうな屋敷の廊下を、セルジュさんに連れられ、罪人のような気持ちで歩く。
ああ。マクシムに合わせる顔がないよ。すごく気まずいな……。
取りあえず、事情を知っているはずのマクシムを探す。あぁ。きっと今、私は、鬼の様な形相になっているのね。ますます婚期が遠のいていくわ……。
「マークーシームー!!」
「テレーズ師団長。女性騎士団の創設と、団長へのご就任、おめでとうございます」
何が『おめでとうございます』ニコっ。だよ!! でも、麗しいモノを見て、怒りが半減したかも。そんな自分が、単細胞で嫌だわー。
「いつも、後から説明するのね? どういうことなの!」
「女性騎士団ですから、団長に相応しいのはテレーズ団長しかおりません。しかし、副団長は、今は人材がいないだけで、いずれは女性騎士に任せたいのです。私はその間の繋ぎですよ。これからも部下として、よろしくお願いします」
再び綺麗な顔で、ニコっ。とされ、さらに怒りが半減したから、ほぼほぼ平常心だわ。
今年の入団者35名のうち女性は3名だが、彼女たち全員が、女性騎士団に配属されるのを快諾したらしい。どうせマクシムの顔を見たからだよね?
形としては女性騎士団が出来たんだろうけど、先の見通しがたちませんよ。みんな、いつもの如く、辞めちゃうんじゃないの? 責任重過ぎるなー。
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正式な配属先の発表を見たテレーズ以外の師団長4人は、団長のオレノに抗議をしに行った。
事前に団長・師団長会議で協議をし、内々に決めていたことを反故にされたのは初めてだった。
団長執務室の扉を蹴り開け、全員が血走った眼で団長オレノに詰め寄った。
「団長! これは一体どういうことですか!」
「ご説明下さい。団長」
「僕達の意見を無視したの?」
「こういうのは、よろしくないですねぇ」
サレイト王国騎士団のトップである団長オレノは、やれやれと肩をすくめながら、4人の師団長に説明をしはじめた。
「テレーズは、今まで通り同じ騎士団の敷地にいるし、魔物討伐の遠征にも参加させる。しかも、ダメな男達から距離が出来、お前たちからすれば、かえって都合が良いだろう?」
そう団長オレノに言われ、容易くそれなら良いかと納得した4人は、この人事も悪くはないなと考えた。
『テレーズを陰日向になって守る会』の活動は続いている。
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新人の全体訓練が終った。今日からは、女性騎士団の団長として、任務と訓練にあたるのか。
不安でしかないわ。これで団員に逃げられたら、責任取らされて、クビになったりしないかな? 10年以上、騎士団に身を捧げて来たのにさ。騎士生活のカウントダウンが始まったのかも……。
あら、嫌だ。マイナス思考になっていたわ。団長たる者、常にみんなの標となるのよ! ひ弱な心、さようなら。
「おはようございます。テレーズ団長」
「お、おはよう。マクシム副団長」
はうっ! 完全に変装を止め、騎士の正装に身を包んだマクシムが、朝日以上に眩しすぎる。私は標。邪な心、さようなら。
さて、女性騎士団の活動初日と行きますか。
「3人は顔見知りだと思うけど、まずは、自己紹介をしましょうか。女性騎士団が創設されていなかったら、どの師団に配属希望を出していたのかも教えてちょうだい」
右から順番にお願いと、最初にあのぶりっ子ちゃんを指名した。
「はいっ。私はアリス・バシェです。第3師団を希望していました。よろしくお願いします!」
魔法が得意なのかな? 1か月前よりしっかりしたわね。よし、あの時のことは綺麗サッパリ水に流そう。
「コリンヌ・アダンと申します。テレーズ団長の、第4師団希望でした。よろしくお願いします」
少し恥ずかしがり屋さんかな? でも、第4希望なんてレアな子がいたのね。ケット・シーの子だったかな?
「ミレーヌ・ドゥ・ベルレアン。第1師団を希望しておりました。よろしくお願いいたします」
貴族のお嬢様が入団していたんだ。クールビューティーって感じ。
第4の訓練って、魔物のテイムと評価がメインだから、新人と過ごした時間が他より少なくて不安だったけど、みんな良い子っぽくて安心したわ。
何より、希望に満ちた目をしている。この娘たちが、今日を無事に迎えられて良かったわ。
「私は、マクシミリアン・フォン・アインホルン。副団長です。みなさんには期待していますよ」
頬をほんのりピンクに染める乙女たち。マクシムは、自分の顔の使いどころを知っているんだ。この腹黒め!
「テレーズ・リヴィエです。女性騎士団の初代団長職を賜ったわ。みんなよろしくね。今日はこのまま、騎士叙任式に向かってもらうわ。その後は他の団員と同様に、家に帰ってそれぞれお祝いをしてね。本格的な訓練は明日からよ。さあ、聖堂に向かいましょう」
厳かな空気の中、若い騎士達が陛下から剣を与えられ後、私も形だけだが、団長に昇任したので叙勲された。
どんどん逃げ道を塞がれていく。陛下からの『娘のためによろしくな』の眼圧が半端なくて、気が遠くなりそうだった。
長時間の儀式を終え、生まれたての女性騎士の帰りを見届けると、マクシムに声を掛けられた。
「テレーズ団長、今日はみんな帰るだけですから、よろしければこの後、昼食を食べながら今後の活動について打ち合わせしませんか?」
「そうね。そうしましょうか」
「それではこのまま、街に繰り出しましょう」
「いいわよ。でも、公爵様が平民のような真似をしてもいいの?」
「民の中で、ずっと外遊していた私の顔を知る者はいませんよ。大丈夫ですから行きましょう」
**********
具だくさんのカスレと、肉汁滴るステーキ・フリットを食べながら、マクシムと話をする。
マクシムは、外国でどんな生活をして、何を学んで来たのか怪しんでしまう程、食べ方や仕草が庶民と変わらない。
容姿が整い過ぎて浮いているだけで、王族が完全に街にとけ込んでいる。きっと外国で、羽目を外して遊んできたに違いない!
「予想以上に良い騎士たちで良かったわ。このまま騎士団にいてくれれば、けして男騎士団に劣ることはない娘たちだと思ったわ」
「そうですね。入団試験を突破しただけありますね。それに、当初から3人とも能力は優れていましたよ」
「訓練が楽しみだわ。みんな資質も能力も違うから、専門的な訓練をする時は、各師団にお願いするね」
「分かりました」
ああ、なんだか期待で胸が膨らむわね。団長として、精一杯努めて行かないと。
あ、そういえば、話に夢中になって忘れていたけれど、気になっていたことがあったんだ。
「ところでマクシム。本来、あなたを敬うべきは私なんだから、団の外でまで敬語はやめてほしいわ」
「よろしいのですか? お気づきかもしれませんが、私は放埓王子でしたから、堅苦しいのは苦手なのです。任務時間外は、遠慮なく自由に振舞わせていただきますよ?」
「ふふ。放埓って。庶民の私に遠慮なんてしないでちょうだい。こっちだってしていないんだから」
マクシムは『なら遠慮なく』と言って、素で話すようになった。気兼ねなく話をすると、下らない訓練計画までポンポン出始めたが、今後の方針は概ねまとまった。
「じゃ、テレーズ団長の就任祝いに乾杯するか! お祝いだから、もちろん俺の奢りで!」
「まだ15時だけど、たまにはいいわね! よし! 奢って貰おうじゃあないの!」
「でねぇー。その時の討伐遠征でぇ、私がオチューに捕まってんのにぃ――ヒック――ダミアンは助けもしないでぇ、ずっとニヤニヤして見てるだけなのよぉ。いくら懐かれているだけでぇ、食べられないって知ってたとしてもぉ――ヒック――酷過ぎない? 肝心のププは討伐に夢中でぇ、気づいてくれないしぃ」
「それは陰湿だな」
「後から来たミカエルもぉ、お腹を抱えて笑っているだけだしぃ、――ヒック――エミールは『早く仲間にしてあげなよー』って言うしぃ。オチューの食事なんて準備できないわよぉ! ――ヒック――」
「確かに腐った肉を毎日準備したくはないな」
「テオドールがぁー、気づいて助けてくれるまでぇー、大変だったのよぉー。――ヒック――……。マクシム……。ありがとねぇ。団長大変そうだけどぉ頑張るわぁ――」
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――チュンチュンチュンチュン――
あれ? ここはどこでしょうかね?
白を基調とした室内に、小花を散りばめた可愛らしい調度品で統一された、だだっ広い部屋を見回す。人の気配はない。
そーっとベッドから抜け出し、足音をひそめ、扉の隙間から外の様子をうかがう。バチリと部屋の向かいに控えていたメイドさんと目があった。
「お目覚めですね、テレーズ様。お召し物はこちらにございます」
!? そう言われ、夜着に着替えさせられていたことに気がついた。ああぁぁ。31歳にもなって、他人に着替えさせてもらうとは……。何たる不覚……。
「着替えられましたらお声掛け下さい。セルジュが参ります」
セルジュさんと言われ、昨日の記憶が一気によみがえって来た。
ここは公爵邸ですよね。やっちまった! 30超えると、途端にお酒が弱くなるのよ! でも気持ちは若いままだから、限界突破しやすいのよ……。
遠征の話をしていた記憶はあるんだけど、それ以外がごっそりと抜け落ちている! 待て! 身体に異変は? なさそうだな……。朝チュンは健全な方だよね……?
ヘロヘロしながら着替え終え、青い顔のまま部屋の外に声を掛けると、すぐにセルジュさんが来てくれた。
「おはようございます、テレーズ様。マクシム様がお待ちです。食堂にご案内します」
と、優しく丁寧に言われ、少しだけ気が楽になった。さっきのメイドさんもだけど、ここのお屋敷のみなさんはとても優しい。
あまりの気まずさに、身もだえそうになる私をおもんばかってか、「体調はいかがですか?」「身支度の準備をお手伝いしますか?」「のどは渇いていらっしゃいませんか?」と、大変気遣ってくれた。
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