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27 新たな天敵
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ボルダン伯爵とドロテアが処分され、ユリアン様とも気持ちが通じ、私は再び平穏な日々を送っていた。
(なんだか意識しちゃうな。職場内恋愛なんて難易度が高過ぎるよね)
ドロテアと決着をつけた後、「嫌な役どころだったね。モニカはよく頑張ったよ」とユリアン様に慰められ、私は愛する人に理解されている幸福をしみじみ感じていた。
恋愛初心者の私は膨らみ続ける愛情に翻弄されっぱなしで、抑えきれないニヤニヤと幸福感に包まれながらユリアン様の執務室へ向かっていると、当のユリアン様が向こう側から歩いて来た。
「おはようございます、ユリアン様。マスクはどうなされたのですか?」
例え城内でも、第二皇子の執務室以外では絶対にマスクを取らないのに、今日は外して普通に執務棟内を歩いていた。着けるのをお忘れになったのだろうか? なぜか私を凝視し、ひどく驚かれている。
「えっ!?」
ユリアン様に突然ガバリと腕を捕まれた。いつもより少しお顔の色が悪いし、頬も少しこけている気がする。
「ユリアン様、どうされたのです? んん? 違うわ!? ちょっと離してください!」
この人はユリアン様ではない。第一、ユリアン様を見ればすぐに飛び出して行くココが私から離れず、背中に張り付いたままではないか。
私はユリアン様じゃない人に引きずられ、ジタバタする。
「静かにしろ……。いいからこっちに来い」
「はい???」
でも、お声はユリアン様のテノールボイス。まさか――
(ユリアン様の影武者!?)
レン係長はコテージで、『俺の部下は他にもいる』と言っただけだし、先日、やっとトムさんを紹介されたばかりだ。まだまだ私には知らない第二王子係の同僚がいてもおかしくはない。
ユリアン様に瓜二つの影武者が私の腕を引っ張り、回廊をやって来た方向へと戻り始めた。
(えっ? ここは……私室棟? まさか、ユリアン様に何かあったの!?)
瀟洒な調度品が並び、私たち第二皇子係の者でも滅多に立ち入らない域に連れて来られた。影武者に促され部屋に入る――
「ユリアン様に何かあったのですか?」
「うるさい。質問するのは私だよ。――ねえ、お前はユリアンの素顔を見たの?」
「やはり、ユリアン様の影武者の方ですね。まあ、私も第二皇子係の一員ですから」
(なぜ、そんな嫌そうな顔で突っかかる物言いをしてくるのだろう? ユリアン様はどうしたの?)
「ふん。試用期間の分際で……。しかし、そこまで気を許していたのか……」
「まあ、その、なんとお答えしていいものか。ところで、ご挨拶が遅れました。初めてお目にかかります。私――」
「モニカ・クラウスティン。帝国の剣クラウスティン公爵家の長女として生まれながらも、その性格の悪さから帝国の恋愛戦線からあぶれ、官僚となったはみ出し者」
先程から薄々気づいていたが、ハッキリと悪意を感じた。ドロテアという天敵がいなくなったというのに、この手の人間は一定数現れるものなのだろうか。今まで良い同僚にばかり恵まれていたから、面食らってしまう。
しかし、第一印象で舐められてもよろしくない。ここはガツンと言わねば!
「ユリアン様の影武者をされるなら、もっと言動を似せるべきですね。ユリアン様は貴方と違って性格がねじ曲がっていませんから、その皮肉っぽいところをどうにかした方が良いですよ」
「なっ! モニカ・クラウスティン! なぜお前のような性悪女がユリアンに好かれる。まさか、お前が扱う闇魔法でユリアンの心を……」
「あらまあ。妄想癖もおありのようですね」
「このぉ!」
おっと、先輩に言い過ぎただろうか。ただ、少し言い返しただけで女性に掴みかかろうとするなんて、男性としていかがなものか。頭に血が上って、私も諜報である第二王子係の一員という事を忘れてしまったらしい。
「いやだ、先輩。動きが止まって見えますよ」
「待てっ!!」
「オホホホホ。私、最近、マサさんから「風属性持ちなら覚えた方が良い」と、倍速で動く訓練をしてもらったんですよ~」
忍直伝の動きに、影武者さえ追いつけない。でも、ユリアン様の影武者ならもっと能力が高い方が良いのでは? お顔で選ぶと仕方ないのか? でも、普段はマスク着用だし……。
――バタアァン――
「モニカ!!」
ユリアン様の影武者から逃げながら色々考えていると、連れて来られた部屋の扉が勢いよく開き、いつも通りマスクを身につけたユリアン様が入って来た。
「あっ……」
「ユリアン様」
「ユリアン……」
私を追いかける影武者と、風をまとわせ室内を駆け回る私、それを見て固まるユリアン様……。
「二人とも……。屋内を走り回るのは良くないよ。そして、いくら体調が良いからといって無理をしてはなりませんね」
「いつもユリアンは私の事をよく考えてくれてるね。嬉しいよ。でも、体調が良い時こそ鍛えて健康になりたいのだから仕方ないだろう? 動かなきゃ生命力が衰えるばかりだよ」
ペラペラペラペラとよく舌が回る人だ。
「モニカ・クラウスティン、その目は何。そんなところが気にくわないんだ。やはり学園の時の噂は本当だったんだな。お前は立派な悪役令嬢だよ」
「まだそんな事をおっしゃる人がいたのですね。影武者さんは、情報が遮断された世界で生きているのでしょうか?」
「お前! モーガンの仕事を馬鹿にするのか!」
モーガンって、あのモーガンさん? 答えを求めるように、ユリアン様を見る。「そうだよ」と頷くユリアン様。良い。この会話せずとも心が通じる感じ。
その時、慌てた様子のモーガンさんまで部屋に入って来た。
「モーガンさん!」
「ジェラルド様。お身体の調子が良いのは分かりますが、一人で動き回らないでください」
「モーガンの言うとおりですよ、兄上」
ん? おかしなワードが出て来たぞ。
「ジェラルド様? 兄上?」
「ごめんね、モニカ。この方は私の影武者ではなく、本当の兄上なんだ。兄上は心配性だから、私の想い人のモニカとちょっと話したかっただけなんだよ」
マズイ……。ユリアン様のお兄様にとんだ不敬を働いてしまった。ここは平謝りするべきだろう。
「違うよ、ユリアン。私はこんな女と話したくなどないんだ。ユリアンのために我慢して嫌々接触しただけだよ」
先程までとは打って変わって、大変お優しそうなお声をお出しになられますね。謝る気が半減した。しかし、相手は皇族であり、愛するユリアン様のお兄様だ。謝るべきところはきちんと謝ろう。
「ジェラルド様。先ほどは、知らなかったとは――」
「うるさい。モニカ・クラウスティンはもう喋るな」
はい。謝る気さらに半減。
「ジェラルド様。ユリアン様の事もお考えください」
「はっ! ユリアンの事を想うからこそ、私はこやつに騙されないのだ! モーガンも黙れ!」
はい。謝る気ゼロになりました。モーガンさんに対してその態度、本当によろしくない。
「ユリアン様、モーガンさん、ありがとうございます。私はドロテアで慣れております故、全く気にしておりませんから」
「お前! 私をあんな女と一緒にするのか!」
同じになりたくなければ、自分の胸に手を当ててみればいい。こういう人とは関わらないのが一番だ。
「私を連れ出しておいて、私が居ると不愉快になる御方がいるようなので、これにて失礼いたします」
「モニカ・クラウスティン、逃げるのか!」
「兄上……」
「ジェラルド様……」
私がこの場に居ては、いつまでもジェラルド様が騒ぐだろう。ユリアン様とモーガンさんにお任せすべきだ。
(しかし、随分と嫌われたものね。一難去ってまた一難か)
ドロテアが修道院に行って新たなスタートを切ったかと思えば、今度は目の前にお兄様が立ちはだかってきた。
(まあでも、あの娘に比べたら理屈も通用しそうだし楽かもね)
いつの間にか私は、困ったさん耐性を身に付けていたらしい。正直、ブラコンを拗らせたジェラルド様には負ける気がしない。
ユリアン様やモーガンさんの心労を減らしながら、解決するだけだ――
(なんだか意識しちゃうな。職場内恋愛なんて難易度が高過ぎるよね)
ドロテアと決着をつけた後、「嫌な役どころだったね。モニカはよく頑張ったよ」とユリアン様に慰められ、私は愛する人に理解されている幸福をしみじみ感じていた。
恋愛初心者の私は膨らみ続ける愛情に翻弄されっぱなしで、抑えきれないニヤニヤと幸福感に包まれながらユリアン様の執務室へ向かっていると、当のユリアン様が向こう側から歩いて来た。
「おはようございます、ユリアン様。マスクはどうなされたのですか?」
例え城内でも、第二皇子の執務室以外では絶対にマスクを取らないのに、今日は外して普通に執務棟内を歩いていた。着けるのをお忘れになったのだろうか? なぜか私を凝視し、ひどく驚かれている。
「えっ!?」
ユリアン様に突然ガバリと腕を捕まれた。いつもより少しお顔の色が悪いし、頬も少しこけている気がする。
「ユリアン様、どうされたのです? んん? 違うわ!? ちょっと離してください!」
この人はユリアン様ではない。第一、ユリアン様を見ればすぐに飛び出して行くココが私から離れず、背中に張り付いたままではないか。
私はユリアン様じゃない人に引きずられ、ジタバタする。
「静かにしろ……。いいからこっちに来い」
「はい???」
でも、お声はユリアン様のテノールボイス。まさか――
(ユリアン様の影武者!?)
レン係長はコテージで、『俺の部下は他にもいる』と言っただけだし、先日、やっとトムさんを紹介されたばかりだ。まだまだ私には知らない第二王子係の同僚がいてもおかしくはない。
ユリアン様に瓜二つの影武者が私の腕を引っ張り、回廊をやって来た方向へと戻り始めた。
(えっ? ここは……私室棟? まさか、ユリアン様に何かあったの!?)
瀟洒な調度品が並び、私たち第二皇子係の者でも滅多に立ち入らない域に連れて来られた。影武者に促され部屋に入る――
「ユリアン様に何かあったのですか?」
「うるさい。質問するのは私だよ。――ねえ、お前はユリアンの素顔を見たの?」
「やはり、ユリアン様の影武者の方ですね。まあ、私も第二皇子係の一員ですから」
(なぜ、そんな嫌そうな顔で突っかかる物言いをしてくるのだろう? ユリアン様はどうしたの?)
「ふん。試用期間の分際で……。しかし、そこまで気を許していたのか……」
「まあ、その、なんとお答えしていいものか。ところで、ご挨拶が遅れました。初めてお目にかかります。私――」
「モニカ・クラウスティン。帝国の剣クラウスティン公爵家の長女として生まれながらも、その性格の悪さから帝国の恋愛戦線からあぶれ、官僚となったはみ出し者」
先程から薄々気づいていたが、ハッキリと悪意を感じた。ドロテアという天敵がいなくなったというのに、この手の人間は一定数現れるものなのだろうか。今まで良い同僚にばかり恵まれていたから、面食らってしまう。
しかし、第一印象で舐められてもよろしくない。ここはガツンと言わねば!
「ユリアン様の影武者をされるなら、もっと言動を似せるべきですね。ユリアン様は貴方と違って性格がねじ曲がっていませんから、その皮肉っぽいところをどうにかした方が良いですよ」
「なっ! モニカ・クラウスティン! なぜお前のような性悪女がユリアンに好かれる。まさか、お前が扱う闇魔法でユリアンの心を……」
「あらまあ。妄想癖もおありのようですね」
「このぉ!」
おっと、先輩に言い過ぎただろうか。ただ、少し言い返しただけで女性に掴みかかろうとするなんて、男性としていかがなものか。頭に血が上って、私も諜報である第二王子係の一員という事を忘れてしまったらしい。
「いやだ、先輩。動きが止まって見えますよ」
「待てっ!!」
「オホホホホ。私、最近、マサさんから「風属性持ちなら覚えた方が良い」と、倍速で動く訓練をしてもらったんですよ~」
忍直伝の動きに、影武者さえ追いつけない。でも、ユリアン様の影武者ならもっと能力が高い方が良いのでは? お顔で選ぶと仕方ないのか? でも、普段はマスク着用だし……。
――バタアァン――
「モニカ!!」
ユリアン様の影武者から逃げながら色々考えていると、連れて来られた部屋の扉が勢いよく開き、いつも通りマスクを身につけたユリアン様が入って来た。
「あっ……」
「ユリアン様」
「ユリアン……」
私を追いかける影武者と、風をまとわせ室内を駆け回る私、それを見て固まるユリアン様……。
「二人とも……。屋内を走り回るのは良くないよ。そして、いくら体調が良いからといって無理をしてはなりませんね」
「いつもユリアンは私の事をよく考えてくれてるね。嬉しいよ。でも、体調が良い時こそ鍛えて健康になりたいのだから仕方ないだろう? 動かなきゃ生命力が衰えるばかりだよ」
ペラペラペラペラとよく舌が回る人だ。
「モニカ・クラウスティン、その目は何。そんなところが気にくわないんだ。やはり学園の時の噂は本当だったんだな。お前は立派な悪役令嬢だよ」
「まだそんな事をおっしゃる人がいたのですね。影武者さんは、情報が遮断された世界で生きているのでしょうか?」
「お前! モーガンの仕事を馬鹿にするのか!」
モーガンって、あのモーガンさん? 答えを求めるように、ユリアン様を見る。「そうだよ」と頷くユリアン様。良い。この会話せずとも心が通じる感じ。
その時、慌てた様子のモーガンさんまで部屋に入って来た。
「モーガンさん!」
「ジェラルド様。お身体の調子が良いのは分かりますが、一人で動き回らないでください」
「モーガンの言うとおりですよ、兄上」
ん? おかしなワードが出て来たぞ。
「ジェラルド様? 兄上?」
「ごめんね、モニカ。この方は私の影武者ではなく、本当の兄上なんだ。兄上は心配性だから、私の想い人のモニカとちょっと話したかっただけなんだよ」
マズイ……。ユリアン様のお兄様にとんだ不敬を働いてしまった。ここは平謝りするべきだろう。
「違うよ、ユリアン。私はこんな女と話したくなどないんだ。ユリアンのために我慢して嫌々接触しただけだよ」
先程までとは打って変わって、大変お優しそうなお声をお出しになられますね。謝る気が半減した。しかし、相手は皇族であり、愛するユリアン様のお兄様だ。謝るべきところはきちんと謝ろう。
「ジェラルド様。先ほどは、知らなかったとは――」
「うるさい。モニカ・クラウスティンはもう喋るな」
はい。謝る気さらに半減。
「ジェラルド様。ユリアン様の事もお考えください」
「はっ! ユリアンの事を想うからこそ、私はこやつに騙されないのだ! モーガンも黙れ!」
はい。謝る気ゼロになりました。モーガンさんに対してその態度、本当によろしくない。
「ユリアン様、モーガンさん、ありがとうございます。私はドロテアで慣れております故、全く気にしておりませんから」
「お前! 私をあんな女と一緒にするのか!」
同じになりたくなければ、自分の胸に手を当ててみればいい。こういう人とは関わらないのが一番だ。
「私を連れ出しておいて、私が居ると不愉快になる御方がいるようなので、これにて失礼いたします」
「モニカ・クラウスティン、逃げるのか!」
「兄上……」
「ジェラルド様……」
私がこの場に居ては、いつまでもジェラルド様が騒ぐだろう。ユリアン様とモーガンさんにお任せすべきだ。
(しかし、随分と嫌われたものね。一難去ってまた一難か)
ドロテアが修道院に行って新たなスタートを切ったかと思えば、今度は目の前にお兄様が立ちはだかってきた。
(まあでも、あの娘に比べたら理屈も通用しそうだし楽かもね)
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