恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい

文字の大きさ
26 / 35

26 さようならドロテア

しおりを挟む
 元取引先から鷹を購入した証拠や、元使用人や元領民たちからの情報提供により、ボルダン伯爵の第二皇子並びに公爵令嬢暗殺未遂の罪が確定した。

 そんな事になっているとは露知らず、第一皇子名で召喚されたボルダン伯爵家の父娘は浮かれて登城した。兵に第二・・皇子の執務室まで案内され、小躍りしながら伯爵とドロテアがやって来る。
 待ち構えるは、クラウスティン公爵家から父と弟のミカエル。ヴェントゥル公爵家からは小父様とセオ兄様にその婚約者のエレナさんだ。

 そして、第二皇子ユリアン様とその隣に官僚の私が控える。


「お連れしました」
「入りなさい」

 勢ぞろいした私たちにドロテアは目を見開いて驚いていたが、それ以上に、皇族として上座に座るユリアン様をチラチラ見て驚愕している。

 どうやら、見たことがあるなとは気づいていそうだが、先日街で会った人物とは一致しないのだろう。それよりも、仮面を外し惜しみなく人間離れした麗しいお姿を見せるユリアン様が気になっているらしい。
 ユリアン様をまじまじと眺めては、一人頬を染めている。

「伯爵、私が第二皇子ユリアンです。こちらはクラウスティン公爵家のモニカ嬢ですよ? 最初に何か言うことはありませんか?」
「畏れながら、主催した狩りの際は誠に申し訳ございませんでした。まさか、我が領地でお二人が行方不明になるなんて……。本当に生きた心地がしませんでした。皇子課の皆様とご家族の皆様の捜索へのご協力にも感謝申し上げます」

「御託は結構。私たちを襲った鷹の出所も、毒が仕込まれていたことも全て調べが付いています。皇族と公爵家の令嬢の命を狙った罪、きちんと罪人として償って貰いますよ?」
「えっ!? パパったら、第二皇子とモニカの命を狙っていたの? ちょっと痛めつけるくらいかと思ってた」
「この馬鹿者。そ、そんな事をパパがするわけないだろう! いや~、妻を亡くしてから娘を少々甘やかし過ぎまして、このとおり頭の中に花が咲いておりまして」

 「なにそれ? でも今、パパ馬鹿って言ったよね!」「うるさい! 黙っていなさい!」とボルダン父娘が騒ぎ出し、面倒なのでサクッとユリアン様が次の一手に出た。

「自ら罪を認めないのなら、減刑はしません。ただ最後に一つ、面白い事をお教えしましょう。入ってください」
「失礼いたします」
「お、お前……。なぜここにいる?」

 ユリアン様の執務室に入って来たのは、先日までボルダン伯爵家で家令をしていたトムさんだ。私も今朝初めてお会いし、第二王子係の同僚だとレン係長から紹介された。

「先代にお世話になってから四十年、未だ私の名前すら覚えられないのですね。只々残念です。伯爵の動きは、私の方からもユリアン様に報告しておりました。逃げおおせることは不可能ですよ」

 ドロテアが先日、街で会ったユリアン様の名前を覚えないと言ったのは血筋だったのかもしれない。

「なっ! 雇ってやった恩も忘れ、裏切りおったのか!」
「事業や他の使用人の給料に回すため、貴方の代となって早々、私は無給で働いておりましたよ。それも全て、先代のボルダン子爵に雇っていただいた恩があるからです。貴方に恩義はこれっぽっちもございません」

「お前が勝手にしたことなぞ知らんわ!」
「伯爵、心配しなくて良いですよ。トムは一年程前から私の部下で、今までの分も補てん出来るくらいの給金は支払ってきましたから」
「へっ?」

 一年程前から第二王子係のトムさんとして伯爵家に潜入していた事実を知らされ、ボルダン伯爵が青ざめる。

「そういう訳で伯爵、今から兵部でみっちり取り調べですよ」
「ちょっと待ってください、ユリアン様! パパが居なくなったら私はどうすればいいんですか!!」
「ドロテアさん、心配しなくて大丈夫です。貴女の行き先はちゃんと準備しましたから」
「モニカはでしゃばらないで! いつもいつもいつもいつもいっつーも、うるさいんだから!」

 どこまでも駄目なだ。ここで大人しくしていれば、唯一の身内が収監された可哀想な令嬢として、情状酌量の余地があったのに……。
 私は何案か提出し、最終決定を一任された“ドロテア更生プラン”を、一番厳しい選択肢にする事を決めた。


「ユリアン様。先日お話したとおり、彼女とは一対一で決着をつけたいです。お許し願えますか?」
「勿論。モニカの気がそれで済むのなら、存分にそうすると良いよ」

「では、伯爵が収監される前に、親は親でケリをつけますかな?」
「我が家も加勢するぞ」
「クラウスティン公爵、ヴェントゥル公爵、ほどほどに頼みますよ」
「ミカエル、お父様と小父様をお願い」
「分かりました、姉上」

(そちらはお父様たち、もとい、ミカエルに任せれば安心ね)



 第二皇子の執務室には、セオ兄様とエレナさんが残った。

「俺は卒業パーティーで言いたい事言ったから、今回は女性陣に任せるぞ」
「私もモニカに一任済みです」
「モニカお姉様。最初に一言、私が彼女に申し上げてもよろしいですか?」
「ええ、勿論です。エレナさんは辛い思いをしたのですから」

 私に「ありがとうお姉様」と愛くるしい笑顔を向けながら、エレナさんが素早く動いた!

「失礼いたしますわ!」
「わっぷ!」

 なんと、エレナさんがセオ兄様に飛びついている。いくらエレナさんが小柄で華奢でも、ドレスの重量を考えればそれなりの重さがあるはずだ。それを難なくセオ兄様は抱き上げた。

(さすが大型犬と小型犬。絵になる二人だわ……)

「ドロテアさんだったかしら? 一時期私のセオドア様に懸想したようですが、貴女が付け入る隙なんて一切ありませんでしたわね。ざぁーんねん」

 そう言って、エレナさんは兄様の頬にキスをした。私より四つも年下でまだ学園にも通っていないのに、私よりも大人でとても大胆だ。すごい。
 思わず両手で顔を覆い、指の隙間から見える二人を、ドキドキしながら見てしまった。

「彼は私のモノ。モニカお姉様の優しさに免じてこの場は治めますけれど、次はありませんわよ?――セオドア様、惚けていないでさっさと行きますわよ」
「あ、ああ」

 赤くなったセオ兄様は、エレナさんを抱き上げたまま退室した。エレナさんは末恐ろしい。これならヴェントゥル公爵家も安泰だろう。

「なっ、いったい何だったの……」

 珍しく唖然とし、言葉が出ないドロテア。
 ドロテアは伯爵と違って法的に裁かれることにはならないが、このまま放置するわけにはいかないと国は判断した。官僚として、私が彼女の更正先を言い渡す。


「ドロテア。次は私から話があるんだけれど?」
「やだ。モニカも平民と一緒になって働いているうちに、そんな話し方をしちゃうようになったんだ。クスッ」

 あんたは最初から私にこんな話し方だったぞ? と言いたいところだが、話が進まないので捨てておく。

「私、貴女を親友だと思ってた。セオ兄様と繋がるために利用されたとしても、その時の私は学園生活が楽しかったのは本当。だから、これ以上何もしなければ穏便に済ませ、許してあげようと思ってた」

「それで? 私は友達だなんて思ってなかったし、モニカに許してもらう必要もないしね。モニカって、一人の世界で完璧令嬢しててつまらないんだもん。あ、もう違うんだっけ。平民に馴染んだ官僚だもんね」

 官僚仲間まで貶められる発言に腹が立つ。

「フン。どうせまた、おかしな魔法でも使うんでしょ? そういうところも嫌いなのよ」

 今までの経験から、ドロテアに理詰めは通用しないと知っている。セオ兄様が卒業パーティーの時彼女に言ったように、分かりやすい言葉の方が良いのだろう。エレナさんの対応も、明瞭で効き目があったのかもしれない。明確にハッキリと伝えるのだ!

「いいよ。魔力は使わないから。――官僚として国の決定を伝えます。ドロテア・ボルダン、貴方は辺境の修道院に入ることになります。そこでしっかり今までの行いを反省し、更生しなさい。以上」
「はあ!? 何を偉そうに! ふざけんじゃないわよ!!」

 掴みかかってきたドロテアを躱す。

「クソっ。モニカのくせに!!」

 こりずに今度は平手打ちしてきたドロテアの手を左腕で払いのけ、その勢いを利用しクルリと回転させる。そして――

 ――パシーン――

 私の右の手のひらが、ドロテアの左頬を気持ちいい程打ち抜いた。

「痛いっ! パパにだってぶたれたことないのに! モニカのバーカバーカ」
「黙りなさい」

 もう一発。今度は右手の甲で、ドロテアの右頬を打ち抜いた。

「私の分と嫌な思いをした皆の分よ。貴女は人を貶め過ぎたの。――じゃ、これで本当にさようなら。御機嫌よう――」

「ふっ、ふえっ。うえ~ん」

 両頬を押さえ、大声を上げ泣き出したドロテアを残し、私は第二皇子の執務室を立ち去った。そうしなければ、私も泣いてしまいそうだったから……。彼女に国としての決定を言い渡したのだから、涙を見せるわけにはいかない。
 彼女を親友と思っていた時期もあった。素行に問題のある女性ばかりが集まり、一番厳しいと言われる修道院を最後に私が選んだ。初めて人を叩いた……。

 予想以上に、ドロテアと決着をつけた事は辛かった。後は願うばかり。彼女の人生が、少しでも明るいものとなりますように――
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

処理中です...