嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい

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第1章 黒領主の婚約者

3 最初の仕事

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「次は、まだ行われていなかった領主就任のお披露目と、クローディア様のイメージアップを兼ねて、豊穣祭でちょっとしたサプライズをしてみませんか?」

 ユージーンが家令となり、二人で仕事をすることにも慣れ始めた頃、彼が困難を極める提案をしてきた。
 引きこもり気味で隠れるようにして生きてきた私にとって、お披露目なんて何をされたり言われたりするのか怖くて仕方がない。

 まして、お祭りでサプライズだなんて、到底できそうもないのだけれど――


 ***


 普通に仕事ができるくらいに落ち着くまでも、色々あった。

 叔父一家の散財と、前家令のヘイデンの横領で財産を失ったハイド伯爵家で最初にユージーンが行ったのは、エリカからの聞き取り調査だった。
 ユージーンに『信頼できる使用人で固めた上でたて直しを計りましょう!』と熱く語られ、そのとおりだと許可をした。

「これはなかなかに……」
「お気を確かに。――ま、ボスやお局がいるところは御しやすいかと……」

 ユージーンとエリカの背後から殺気が駄々漏れている気がしたが、気のせいだろう。私も混ざろうとしたら、『使用人のことで、クローディア様のお手を煩わせる訳には参りません』と、黄金の天使の微笑みを向けられた。

 調査結果を精査し、今まで叔父一家やヘイデンと一緒になって私を蔑ろにして裏切ってきた者たちの、大規模な粛清に取り掛かることにしたらしい。

 ほとんどの使用人は上の立場の者に背くことができず、どうしようもなく命令を聞いていただけだったので厳重注意を与えるに留めた。
 だが、自ら好んで私を貶めていた者や改める姿勢のない者に、ユージーンは一切容赦をしなかった。


「わ、私はドナ様の着なくなったドレスを、クローディア様にお届けしていただけではございませんか!?」
「だけ? ――ではないですよね? 何故そこで、貴女がクローディア様の容姿について、口を出す必要があったのでしょうか?」

「そ、それは……。ドナ様の命で……」

 確かにこの人は、ドナのドレスを持って来ながらよくこう言っていたわね。

「(地味な烏が、ドナ様のドレスを与えられるだけでもありがたいことなのに、ブスッとしちゃって嫌ねぇ。陰気臭いったらありゃしない!)」

 !! まあ、エリカったら、物真似が上手なのね。あの時の彼女そのままよ。思わず吹き出しそうになったじゃない。
 ドナ付きだったメイドは自分を真似たエリカを恨めしそうに眺めたが、逆にエリカに凄まれシオシオと肩を落とした。

「……。誠に申し訳ございませんでした。今後そのようなことは、命じられたとしてもニ度と申し上げたりいたしません……」
「クローディア様は陰気か?」

「いえ。私が誤解しておりました。クライヴ様を亡くされ、あのようにお辛い立場にも負けず凛とし、女丈夫なお方だと今は思っています。本当にすみませんでした」

 立ち上がり、もう下げられないところまで深々と頭を下げている。彼女もドナの機嫌を取るため苦労したのだろう。

「気持ちと事情は分かったから、顔を上げてちょうだい。これからもハイド家をよろしくお願いするわね」
「はい!! ありがとうございます」

 涙を浮かべ、何度も礼を言いながらメイドは部屋を出た。彼女の様に改心する者もいれば、どうしても辞めさせざるを得ない者もいた。


「この疫病神。アンタみたいな領主の元で働く気になんて、死んでもならねぇ! 旦那様たちもヘイデンさんも、アンタさえいなけりゃみんなずっと此処にいられたんだ。悪魔め! こっちから辞めてやるよ!」
「分かりました。どうぞ、お辞めください。明日から来なくて良いですよ」

 こちらの問いかけに返答もせずただ喚き散らすだけの男に、ユージーンは視線も合わせず答えながら手続きの書類を準備する。

「あ!? ああ。もう来ねぇよ」

 厨房で料理人をしていた男は呆気なく辞めることができて拍子抜けしていたが、形としては本人希望による円満退職。この手のタイプには、丁寧に説明をしても時間の無駄でしょうし、ユージーンの判断は正解だと思う。
 どうやら彼と私の意見は一致するみたい。

「ああ。今までの行いに対し、罪を問わないことは感謝なさい」
「グッ」

 ユージーンの言葉に料理人はビクリとし、そそくさとサインをすると逃げるように退室した。




「予想より残った使用人が多かったですね。もう少し削りたかったのですが……」
「今、強引に進めなくてもいいわ。私が領主になったばかりで、相手も見定めている最中だろうし。できることからして行くうちに、もっと見えることがお互いあるでしょうから」

「そうですね。おっしゃるとおりです。しかし、問題は山積みですね。ヘイデンに横領された損害の回収に、クローディア様の悪いイメージの払拭。そういえば、クローディア様には婚約者がおいででしたね?」

 あっ。自分でも忘れかけていた。叔父が来てすぐの頃、無理やり婚約させられたのよね。どうしましょう……。近い内に何とかしないといけない……。

 本当に、山積みになっている問題から目を背けたくなるけど、ユージーンが家令になってくれたお陰で助かっているし、抑圧されずに私の世話をできるのが楽しいのか、エリカが細かいところまで気を配って支えてくれる。
 泣き言は言わずに、一つ一つ片付けて行きましょう!

 ***

 そう思って何とかかんとかやってこられたのだが、流石にお披露目やイメージアップのためサプライズだなんて怯んでしまう。書類仕事なら大歓迎なのだけれど……。人前はどうも苦手なのだ……。
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