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第1章 黒領主の婚約者
12 些細なことから
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私は今日、街の集会所の修繕現場の確認に来ていた。
こうして細やかに、領民の生活に携われることを幸せに感じる。修繕箇所の確認を終えてからは、リオ君を筆頭に集まっていた子どもたちと遊んでいた。
「クローディア様。そろそろお時間です。屋敷に戻りましょう」
「もうそんな時間? あと少しだけなら良いでしょう? お願い、ユージーン」
次は私が狼の番。領主が容赦なく追いかけてくるのを、子どもたちはドキドキしながら楽しんでくれてるみたいだ。
夕方には一斉に帰るから、それがラストターンになると思う。そしたら皆で一緒にバイバイと家へ帰ればいい――
「いけません。今日の内に、ここの修繕完了の書類を整えないとなりません。業者だって、支払いを待っているのですよ?」
「そんなこと……、私だってわかっているわ」
こんな風に、我が儘を言ったのは父が生きていた時以来。ユージーンを信頼しているし、今は安心しているからこそ出た言葉だった。
それをすぐに否定されたことが悲しくて、思わず反論してしまった。
私はユージーンに甘えたの。それを頭ごなしに否定されて、無性に悲しくなっただけだったの。
「もういいわ。みんな、ごめんね。また今度ゆっくり遊ぼうね。気をつけて帰るのよ」
「「「「はーい!!」」」」
大人二人の不穏な空気に気づいていないのか、子どもたちは元気よく広場の方へ駆け競べをしながら去って行った。
「「……」」
伯爵邸までの帰り道。私たちは一言も喋らなかった。本当に些細なことだったのに。
でも、引くに引けなくなって……。
兄弟ゲンカをしたこともないし友達もいなかったから、人と関わる経験が少な過ぎてこんな時どうしていいのか分からない。
無言の時間だけが続く……。エリカが一緒だったら良かったのに……。
***
クローディアを怒らせてしまった。最近、あのリオってガキをはじめ、街の奴等がずいぶんとクローディアに馴れ馴れしい。
ちょっとだけ、いや、だいぶ距離が近いと思っただけだった。
こちらの勝手な嫉妬心。俺の器は、東洋のお猪口ってやつか?
クローディアなら俺の言うことを聞いて、すぐ屋敷に戻ってくれると思っていた。どうしてこんなに険悪な雰囲気になってしまったんだ?
適当な相手なら簡単にいなせるのに、クローディア相手だとどうして良いのか分からなくなる……。
無言の時間が続いていた。必要な時にいないなんて、エリカの奴め……。
***
「お帰りなさいませ、クローディア様。大変お疲れのご様子ですね? お部屋で少し休みましょう」
なんだなんだ? ユージーン様め、何かやらかしやがったのか? 無言で帰ったお二人の様子を伺う。
後ろめたい事でもあるのか、ユージーン様は私の方を見ず、クローディア様はとても悲しそうなお顔をしていた。
「気分が優れないから、夕食はここでいただくわ。それまで少し休むわね」
「かしこまりました。ゆっくりお休み下さい」
やはりクローディア様の様子がおかしい! 絶対にこれは、ユージーン様のせいに違いない!
お父君のオリバー・ロシスター侯爵様もお兄様方も、男らしく騎士らしく、公明正大で小賢しいところなんて一切ない実直なお方たちだ。
なのに、なんでこの三男は、裏から物事を動かしたり、他者を思いのまま操ろうとしたり、小細工が得意になったんだろう?
我々騎士たちと一緒に、毎日心身の鍛錬をしていたくせに!
「とっちめて吐かせるか」
このハイド領にこっそり私を送り込んだり、身分を隠して家令の真似事なんかしたり、私にはまったく理解できない! 敵には正々堂々と勝負を挑んで勝つのみ!
以前、クローディア様の亡くなったお父様と、何か約束をしたからって言い訳していたが、多分こういうことではないと思うし!
私は、苛立ちながらユージーン様を探し、執務室でぼんやり考え事に耽っていた今の指示役様を発見した。
「ユージーン様! 一体何があったのです!?」
「エリカ……。実はな――――」
神々しい外見と、表ヅラが天使なだけで、コイツは腹黒粘着男だ。ケネスって奴も同じタイプで、よくもまあ、似た者同士で友達になるもんだと感心していたが、子どもにまで嫉妬するなんて!
ここは一発かましておこう!
「はあ? 勝手に落ち込めば? ユージーン様から謝る! の一択しかないのに何言ってんだか。付き合いきれませんね。事情は分かったので失礼します」
「待て、エリカ。素が出ているぞ? お前は今メイドなんだから、少しは淑やかにしろ!」
フン。まるで私が下品で悪いみたいに言って、論点をずらそうとしたな?
「余計なお世話ですよ。最近、株を上げたかと思っていたら、くだらないことでクローディア様を悲しませやがって!」
「やがって!? お、お前……」
剣を持てぃ! 剣を! 今すぐ腹黒粘着野郎を切り刻んでやる!!
「エリカ……。クローディアには謝りに行くから、殺気を出すな……。他の使用人に怪しまれる。クローディアもびっくりしてしまうぞ?」
「……」
そうですね。おっしゃる通りでございます。私はメイドの仮面を被り、クローディア様をずっとお守りしたいのです。
「ふうーーーっ。――さっさとクローディア様に謝りに行ってください」
「分かった……」
こうして細やかに、領民の生活に携われることを幸せに感じる。修繕箇所の確認を終えてからは、リオ君を筆頭に集まっていた子どもたちと遊んでいた。
「クローディア様。そろそろお時間です。屋敷に戻りましょう」
「もうそんな時間? あと少しだけなら良いでしょう? お願い、ユージーン」
次は私が狼の番。領主が容赦なく追いかけてくるのを、子どもたちはドキドキしながら楽しんでくれてるみたいだ。
夕方には一斉に帰るから、それがラストターンになると思う。そしたら皆で一緒にバイバイと家へ帰ればいい――
「いけません。今日の内に、ここの修繕完了の書類を整えないとなりません。業者だって、支払いを待っているのですよ?」
「そんなこと……、私だってわかっているわ」
こんな風に、我が儘を言ったのは父が生きていた時以来。ユージーンを信頼しているし、今は安心しているからこそ出た言葉だった。
それをすぐに否定されたことが悲しくて、思わず反論してしまった。
私はユージーンに甘えたの。それを頭ごなしに否定されて、無性に悲しくなっただけだったの。
「もういいわ。みんな、ごめんね。また今度ゆっくり遊ぼうね。気をつけて帰るのよ」
「「「「はーい!!」」」」
大人二人の不穏な空気に気づいていないのか、子どもたちは元気よく広場の方へ駆け競べをしながら去って行った。
「「……」」
伯爵邸までの帰り道。私たちは一言も喋らなかった。本当に些細なことだったのに。
でも、引くに引けなくなって……。
兄弟ゲンカをしたこともないし友達もいなかったから、人と関わる経験が少な過ぎてこんな時どうしていいのか分からない。
無言の時間だけが続く……。エリカが一緒だったら良かったのに……。
***
クローディアを怒らせてしまった。最近、あのリオってガキをはじめ、街の奴等がずいぶんとクローディアに馴れ馴れしい。
ちょっとだけ、いや、だいぶ距離が近いと思っただけだった。
こちらの勝手な嫉妬心。俺の器は、東洋のお猪口ってやつか?
クローディアなら俺の言うことを聞いて、すぐ屋敷に戻ってくれると思っていた。どうしてこんなに険悪な雰囲気になってしまったんだ?
適当な相手なら簡単にいなせるのに、クローディア相手だとどうして良いのか分からなくなる……。
無言の時間が続いていた。必要な時にいないなんて、エリカの奴め……。
***
「お帰りなさいませ、クローディア様。大変お疲れのご様子ですね? お部屋で少し休みましょう」
なんだなんだ? ユージーン様め、何かやらかしやがったのか? 無言で帰ったお二人の様子を伺う。
後ろめたい事でもあるのか、ユージーン様は私の方を見ず、クローディア様はとても悲しそうなお顔をしていた。
「気分が優れないから、夕食はここでいただくわ。それまで少し休むわね」
「かしこまりました。ゆっくりお休み下さい」
やはりクローディア様の様子がおかしい! 絶対にこれは、ユージーン様のせいに違いない!
お父君のオリバー・ロシスター侯爵様もお兄様方も、男らしく騎士らしく、公明正大で小賢しいところなんて一切ない実直なお方たちだ。
なのに、なんでこの三男は、裏から物事を動かしたり、他者を思いのまま操ろうとしたり、小細工が得意になったんだろう?
我々騎士たちと一緒に、毎日心身の鍛錬をしていたくせに!
「とっちめて吐かせるか」
このハイド領にこっそり私を送り込んだり、身分を隠して家令の真似事なんかしたり、私にはまったく理解できない! 敵には正々堂々と勝負を挑んで勝つのみ!
以前、クローディア様の亡くなったお父様と、何か約束をしたからって言い訳していたが、多分こういうことではないと思うし!
私は、苛立ちながらユージーン様を探し、執務室でぼんやり考え事に耽っていた今の指示役様を発見した。
「ユージーン様! 一体何があったのです!?」
「エリカ……。実はな――――」
神々しい外見と、表ヅラが天使なだけで、コイツは腹黒粘着男だ。ケネスって奴も同じタイプで、よくもまあ、似た者同士で友達になるもんだと感心していたが、子どもにまで嫉妬するなんて!
ここは一発かましておこう!
「はあ? 勝手に落ち込めば? ユージーン様から謝る! の一択しかないのに何言ってんだか。付き合いきれませんね。事情は分かったので失礼します」
「待て、エリカ。素が出ているぞ? お前は今メイドなんだから、少しは淑やかにしろ!」
フン。まるで私が下品で悪いみたいに言って、論点をずらそうとしたな?
「余計なお世話ですよ。最近、株を上げたかと思っていたら、くだらないことでクローディア様を悲しませやがって!」
「やがって!? お、お前……」
剣を持てぃ! 剣を! 今すぐ腹黒粘着野郎を切り刻んでやる!!
「エリカ……。クローディアには謝りに行くから、殺気を出すな……。他の使用人に怪しまれる。クローディアもびっくりしてしまうぞ?」
「……」
そうですね。おっしゃる通りでございます。私はメイドの仮面を被り、クローディア様をずっとお守りしたいのです。
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