【完結】小さな村の娘に生まれ変わった私は、また王子に愛されて幸せに暮らします。みんな私の事を小娘扱いするけど、実はお姫様だったのよ!

風見鳥

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第5章 最後の戦い

35話

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グレイオス視点

「報告します、ラグナル将軍がやられました!」

「なっ……なんだって?」

 部下の報告を受けて私は言葉を失った。ラグナルは古くからの家来で頼りになる男だった。騎士道のある勇敢な戦士でもあり多くの者から慕われていたのだが……

「そうか、やられたのか……」

 私は自分に言い聞かせるように呟くと、目を閉じてあの日の事を思い起こした。

──ラグナルよ、この世は不平等だ。富がある者とそうではない者の格差は広がり不満が募っている。だから私は世界を統一して平等な世界を作ろうと思っている。

──分かりました。私もグレイオス陛下のために全力を尽くします。いつの日か陛下が世界を統一されて理想の世界が完成するのを楽しみにしています。

 そっと目を開いて現実世界に戻ってくると、どうしようもない虚しさに襲われた。一体いつから私は目的を見失ってしまったのだろうか?

「報告します、アルバード軍がすぐそこまでやって来ました!」

「報告します! アルバード軍は一般市民に立ち退きを命じ、ついに攻め込んで来るそうです!」

 絶望的な報告が多すぎて、返す言葉が見当たらない。なぜこんな事に……

「これは随分と追い込まれていますね」

 危機的な状況にも関わらず、殺し屋のアモンは他人事のように呟く。

「こうなったら、もう後には退けん! なんとかしてこい」

「分かりました」

 アモンは深く一礼をすると、まるで遊びに行くような軽い足取りで王室を出て行った。



* * *

パトレシア視点

「ついにここまで来たわね」

 一般市民には申し訳ないけど立ち退きを命じて、巻き込まれるのを防ぎ、私たちはついに敵国のお城までたどり着いた。

「バトラ将軍とティレンド副将軍の部隊は、敵がどこかに潜んでいないか警戒をお願いします。私とマルクスの部隊は一緒について来て来ださい!」

 私は先頭に立つと、兵士を引き連れてお城に潜入した。中は怖いほど静かで見張りの兵士が1人もいない。これは一体?

 長い廊下を進み、私たちは重厚な扉の前で立ち止まった。そっと手を当てて押し開けると、中は大広間だった。高い天井には豪華なシャンデリアが輝き、壁にはオシャレな絵画が飾ってある。

 さらに中央の階段を登った先に金色に輝く扉が見えた。なんとなくあの扉の向こうにグレイオス陛下がいる気がする。

「みんな、気を引き締めて!」

 周りを警戒しながら大広間を進み、中央の階段まで辿り着くと、

「また会ったな、姫様!」

 殺し屋のアモンが金色に輝く扉の前で待ち構えていた。その口調は親しい友人に話しかけるような明るくて弾んだ声だった。

「お前が殺し屋のアモンだな? これ以上、パトレシアに関わるな!」

 マルクスは剣を抜くと、今にも飛びかかりそうな勢いでアモンを睨みつける。

「待って、ここは私に任せて」

 私はマルクスの手を掴んで引き止めると、一歩前に出てアモンと対峙した。

「決着をつけましょう。殺し屋のアモン!」

「あぁ、望むところだ!」

 この男とは切っても切れない因縁がある。クレア妃だった頃は毒入りワインを飲まされ殺されたし、建国祭の時に潜入してきて、舞台の最中に殺されそうになった。

 今こそ、アモンとの決着をつける!

「覚悟しなさい!」

 私は剣を強く握りしめると、床を強く蹴って駆け出した。アモンも低く構えて剣を振る。金属同士がぶつかり甲高い音が大広間に響き渡る。

「俺を楽しませてくれよ」

 アモンは子供のように無邪気な笑みを浮かべると、連続攻撃を仕掛けてきた。二本の剣が交差して火花が飛び散る。

「っ……なんて重たいの……」

 殺気を帯びたアモンの攻撃は一つ一つの攻撃が重たくて、まともに受けたら剣が折れてしまいそうだった。でも、ここで負けるわけにはいかない!

「はぁ、ぁぁああ!!!!」

 私はお腹のそこから声を絞り出すと、剣を大きく振り上げた。アモンが上からくる攻撃に備えて防御の構えをする。やるなら今しかない!

「そこよ!」

 私は上から振り下ろす攻撃を寸前でやめて、鋭い突きをした。奇襲攻撃は上手く決まり、アモンの横脇を切り裂いた。

「いいフェイントだな。どこで覚えたんだ?」

「貴方の元部下のララから教わったのよ。今ではすっかり優秀な近衛兵よ。ねぇ、貴方はどうして殺し屋を続けるの? ララみたいに別の人生を歩もうと思わないの?」

「そいつは無理だな。グレイオス陛下からあんたを殺すように命じられているからな」

「どうして人を殺すのよ? 一体何が貴方を突き動かしているの?」

「俺を動かしているもの? そうだな……」

 アモンは薄く笑うと、目を細めて答えた。

「人を殺している時だけが唯一生きていると実感できるんだよ。それをやめたら死んだのと同じさ。それに……ゴホぉ、ゴホぉ!」

 アモンは突然激しく咳き込むと口元に手を当てた。手の隙間から血が溢れて床が赤く染まる。

「持病のせいで先は長くないからな、少しでも生きている実感が欲しいんだよ。殺しの仕事はその実感を満たしてくれる。だから人を殺す。それだけの事さ」

 まるでお腹が空いたから食事をする。みたいな当たり前の事を説明する口調でアモンは語った。

「やっぱり、貴方はここで倒さないといけないみたいね」

 私は覚悟を決めると、再び剣を交えた。少しだけ、ほんの少しだけ、改心しないかと期待したけど、それは無理そうね。このまま野放しにしていたらこの男は殺しを続ける。なんとしてでも止めないと!

「随分と殺気立った剣筋だな。いいぞその調子でかかって来い!」

 何度も何度も剣がぶつかり合って腕が痺れる。額からは汗が吹き出して、身体中に無数の切り傷が刻まれる。

「随分と楽しそうね」

 2つの剣がぶつかりあってアモンの顔がまじかに迫る。その表情は子供のように純粋で無邪気な笑みを浮かべていた。

「あぁ、こんなに楽しい戦いは初めてだ。今までで一番生きているのを実感している」

 2人の戦いはさらに勢いを増していくが、命をかけた本気の戦いはついに最終局面を迎えた。

「そこよ!」

 大きく足を踏み込んで放った一撃がアモンの胴を貫いて、確かな手応えが伝わってきた。

「チッ、やるじゃねーか!」

 アモンの手からするりと剣が滑り落ちて、大広間に甲高い音が響く。そして大の字になって床に背中をつけた。

「タイムリミットか……俺の負けだ。最後に戦ったのがあんたでよかったぜ……」

 アモンはスッと目を閉じて、今にも途切れそうな声で語った。

「終わったのね……」

 私は剣を横に置いて胸の前で手を合わせた。持病と共に生きて、最後の瞬間まで懸命に生きたアモン、敵ではあるけれど一種の敬意に似たものを感じる。

「さぁ、皆さん行きましょう!」

 私はそっと立ち上がると、グレイオス陛下がいる部屋に向かった。
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