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悠久の始まりの物語
5「ケーキのように、それ以上に」後編
玖一と律悠。
ホテルの中を連れ立って歩く彼らの姿は、周囲の人の目にはどう映っただろうか。
まだ社会に出てそう何年も経っていないだろうという年若さでありながらも整った容姿や身なりをしている2人のことだ、きっとクライアントとの会食に利用する場所の下見などのためにホテルを訪れた大手外資系の社員同士という風に見られたことだろう。
なんにせよ、まさか誕生日を祝うために同じ部屋に泊まりに来た恋人同士だとは思われまい。
だが彼らはそれでも一向に構わなかった。
恋人として見られることがなくても、誕生日を祝うための宿泊だと思われなくても。
たとえ同僚同士、仕事の一環としてホテルに来ているのだと思われたとしても。それで構わなかったのだ。
なぜなら彼らは自分達が『世間においてどのような存在なのか』を、そして『どう見られる関係であるか』というのをよくよく理解していたからである。
玖一も律悠も自分達の関係性をこうした場面でひけらかすような振る舞いは一切するべきではないという慎み深い考えを持っている。
だがそれはけっして自分達の関係を恥じているからだとか、性的指向を恥じているからだとかではない。
むしろ自分達について後ろめたく思うことがないからこそのことなのだった。
中には自分達の関係性を世間に公表することで、いわゆる“権利”を得ようと主張する人達もあるだろう。しかし男が女に、女が男に惹かれるのは生物学的にもごく普通のことであり、それが大多数である以上、少数派となる側がそれに関する全面的な理解を得ようと激しく主張するのは、かえってそのコミュニティに対する印象を悪くしてしまうことに他ならないのである。
誰しも平和であることを望むものだが、その平和を求めるために過激なことをしてしまうというのは…本末転倒なことではないだろうか。
それはこれに限らずどの分野でもいえることだ。
声を上げることを悪だとするわけではないが、そうして行動を起こすことが一番の解決策だと考えるのはあまりにも無茶なことなのである。
どのような場合でも、このように“多様性”が絡んでいる権利を認めさせようと活動している側は『世間に認めてもらえる日が来るまで戦い続ける』というような表現を利用するが、しかし本来は多様性というのは『浸透』し『溶け込んでゆく』ものであって、けっして『戦って勝ち得るもの』でも『認めさせるもの』でもないわけだ。
自分達の置かれている状況をすぐにでも180°ガラリと変えたいと思うこともあるだろうが、なんでも一朝一夕に代わるなどということはありえない。
どだいそれは無理な話である。
にもかかわらずそれを強行しようとするのは、それは自らの首を絞め、生きづらい状況へと追い込んでいくことに他ならない。そして厳しい状況に直面すると“自分達がなぜこんな扱いをされなくてはいけないのか”という考えになり余計に過激な活動へと身を投じていくのだ。(もちろん多数派がそれをかさに着て少数派に対して心無いことをするなど以ての外だが)
現状を打破せんと活動する革命家というのはその活動が成功したかどうかにかかわらず、常に大きな犠牲を生み出しているものだ。しかしよしんば本人がそれで良いと考えていたとしても果たしてそれが本当に万人のためになることなのだろうか。
自らが属しているコミュニティを守ってひっそりと暮らすことも悪いことではない。
むしろそうして“自分達も普通の人と同じなのだ”ということを家族や友人など身近な人達へと見せて徐々に浸透させていったほうがずっと明るい未来を作り出すための良好な手段になるはずだ。
玖一と律悠、そして代表やそのパートナーである穏矢、さらにその周りで同じコミュニティに属している人々はそう思っている。
こうしたことから玖一と律悠はホテルのラウンジでお茶をしているときも、まるで百貨店かのような店舗が立ち並んでいる階を歩くときも、恋人同士であることを周囲に悟らせないような振る舞いをしていた。
まぁ、男女のカップルだってこのような格式高いホテルでそんな風にべたべたとくっついればあまりのふさわしくない振る舞いに周囲からの視線が注がれるだろうが。
とにかく2人は恋人然としなくても楽しいひと時を過ごしたのだった。
ラウンジで軽くお茶をし、ホテル内のいろいろなところを見てまわった玖一と律悠。
やがてディナーの時刻が迫ってきた彼らは、自室、つまり宿泊する部屋へと戻った。
そう。彼らはルームサービスを利用することでディナーにしようと決めていたのである。
それはけっしてレストランなどの予約が取れなかったからだとかというわけではない。
これも他の様々な利用客に対する彼らなりの配慮の一環としてのものであって、2人は同意の上でそうすることを選んでいたのだ。
『せっかく有名ホテルに泊まっているのにディナーがルームサービスだなんて』と思われるかもしれないが、しかし意外にもこれがまたなんとも心地のよいものだったのである。
というのもこういった有名ホテルにあるレストランなどは宿泊客以外にも多くの人が様々な場面で利用するため、ただでさえ気を遣ってしまうものなのだが、ルームサービスではそういった心配がないので心置きなく2人きりでの食事を楽しむことができたからだ。
レストランなどでディナーにしていたとしたら誕生日を祝う言葉1つ言うのさえ憚られてしまっていたかもしれないが、自室であれば気兼ね無く口にすることができる。
それに、一流のホテルではルームサービスだって一流なのである。
ホテル内にある和洋中、フレンチなどの名店が手掛ける料理を好きな組み合わせで好きにメニューから選んだとしても、それはレストランでいただくのとまったく遜色がないクオリティで部屋まで届けられるのだ。
昼間の明るいときとは違う表情になった夜景を眺めながら、2人きりで、何も気にすることなく素晴らしい料理と共にディナータイムを…これほど贅沢なことはないだろう。
玖一はさらにそれに加え、あらかじめホテルに連絡して用意してもらっていたという小さなバースデーケーキと持参していたプレゼントで律悠とのディナーを締めくくったのだった。
玖一が律悠に渡した誕生日プレゼントはイニシャル入りのネクタイである。
艶のある薄い水色と紺色のストライプがあしらわれているそのネクタイは細身な律悠によく似合っていて、律悠は裏に刺繍されている美しい筆記体のイニシャルまでまじまじと見つめながら「すごく嬉しい…!!」と喜んだ。
「うわぁ…汚しちゃったら嫌だな…でも今度からこれを使わせてもらうね!本当にありがとう…!」
「喜んでもらえた?」
「もちろんだよ!それにこんなに綺麗なケーキまで…本当に、まさかこんな風にお祝いしてもらえるなんて…」
心からの嬉しそうな様子を見せる律悠に、ほっと胸を撫で下ろした玖一。
2人はそうして夜景を背にして写真を撮ったりした後、1つのケーキを分け合いながら味わったのだった。
誰にも邪魔されることのない夜。
周りの視線なども一切気にすることなく並んで座りながら細々と言葉を交わし、次第に深まっていく夜をじっとして過ごす玖一と律悠。
ふと言葉が途切れて静かになったことで、なんだか妙な緊張感が漂い始める室内。
「………」
先に動いたのは律悠だった。
そっと手を伸ばし、ぎゅっと固く握られている玖一の手を握った律悠はさわさわとそのまま手に触れ続け、同じように反応を返してくる玖一と指と指を絡ませる。
たとえどんなに鈍感な人間であっても、きっと“今がその時だ”と気付くことだろう。
夜景を前にして漂うこの雰囲気と流れがどんな結果へ繋がるものなのかは火を見るより明らかだ。
言葉もなく、じっと見つめ合う玖一と律悠。
だが律悠がさらに近づこうとすると…
「ま、待って…!」
玖一は律悠を制止して鞄からなにやら一通の封筒を取り出してくると、それを律悠に手渡した。
その封筒に入っていた紙は玖一がありとあらゆる性に関する病において陰性、つまり健康であることを示すものだった。
玖一はそれを律悠に見せながら言う。
「その、俺…こんなのじゃ全然 律悠さんに安心してもらえるとは思ってないんですけど…でも少しでも俺なりの誠意を見せたいと、そう思ってて……なのでこれを……」
ひどく緊張している様子の玖一。
彼は自身の“仕事”が律悠によくない影響を与えてしまうことを恐れていたのだろう。
だが律悠はこんな風にしてなんの病も得ていないことを証明しようとしてくれる相手にこれまで一度も出会ったことがなかったので、安心だとかどうとかいう以前に『彼は本当に僕のことを大切に思ってくれているんだ』と感じて嬉しくなった。
律悠のこれまでの性生活というのはワンナイトは当たり前ということから分かるようにあまり褒められたものではなく、いちいち相手がそういった類の病を得ているかなんて確認することもなくことに及んでいたのだ。
はっきり言って、そんな生活を送っていながらも1つの病もうつされたことがなかったのはかなり幸運なことだっただろう。
とにかく、律悠はそうしてあらためて『誰かと性的な触れ合い』を『性交渉をする』ということに対して真剣な考えを持ち、そして相手を大切にするということがどういうことかを見つめ直した。
そしてまじまじと玖一の検査結果を眺めた後で、自らも一通の封筒を取り出したのだった。
「ありがとう、玖一くん。実は僕も…これを持ってきてたんだ」
それは玖一が見せたものとほとんど同じ、律悠が一切その類の病に罹っていないことを示すものだ。
律悠はそれを玖一の仕事の差し支えになるようなことはないということを伝えるために用意していたのである。
玖一は「律悠さんも…これを…?」と驚いた。
「これ…俺のために…?」
「うん、そうだよ。やっぱりこういうことは気になるでしょ?でも君からは訊きづらいだろうなって思ったから前もって調べてきておいたんだ。君のは見るまでもないなと思ってたけど」
「え、そう…?」
「うん。だって君はきちんとした人だから。もし仮になにかあったらそもそもこうやって外で飲食するのは避けてたでしょ?そういうのを気にしてないってことは大丈夫なんだなって、僕には分かってたよ」
「律悠さん…」
相手が偶然にも自分と同じように考え、行動をしていたことを知ると、人間はより一層親近感を抱いて想いを寄せるようになるものだ。
ついになんの気兼ねもすることがなくなった今。
高鳴る胸の鼓動に急き立てられるままに2人はそっと唇を寄せ合った。
触れた唇の感触はそれだけで心と体を蕩けさせてしまうほどに甘露だ。
軽いものからすぐにうっとりするような深さにまでなってゆく口づけを目を閉じて味わう律悠。
今夜が間違いなく2人にとっての初めての夜になる…それを全身が感じ取っている。
律悠は頬や耳元に口づけを浴びながら玖一へと先にシャワー浴びてくるように言った。
もちろんそれは自分が後からゆっくりと支度するためである。
玖一も同じように考えていたのか「え…でも……」と言いかけたが、律悠はさらに言ったのだった。
「今日は僕の誕生日をお祝いしてくれるんでしょ?」
「…僕のこと、抱いてよ」
ーーーーーーー
きちんと身支度をすることは相手に対するマナーであり、円滑にことを進めるための重要な手順の一つだ。
それを心得ている律悠はこれまでしてきた以上に念入りに体を洗った。
隅々まできちんと。少しの洗い残しもないように。
そして髪もドライヤーでしっかりと乾かし、他にもやり残したことはないかと何度も確認をした上で、部屋へと戻っていった。
先にシャワーを済ませていた玖一は夜景を一望することができる窓のそばに立って外を眺めているがその背中からは緊張感が漂ってきていて、律悠も息を呑む。
窓のそばへ向かいながら、ベッドサイドの明かりを灯し、部屋の電気を消した律悠。
手に小さなリモコン1つだけを持った彼は玖一に後ろから抱きついた。
「………」
窓には部屋の様子が薄く反射しているので玖一には近づいてくる律悠の姿が振り向かずとも見えていたことだろう。
抱きつかれた玖一は一瞬びくりとしたようだったが、すぐに律悠の方へと向き直って抱きしめ返してきた。
重なり合う胸と胸がつぶさに伝えてくる互いの鼓動。
薄暗い中で交差する視線に惹きつけられるように2人は再び口づけを交わした。
今度の口づけは先ほどのものよりもさらに深く…絡みつくようなものだ。
もはや互いに“もっと親密になりたい”という想いを抑え込む必要がなくなっているのは明らかだった。
「………」
息つく間もないほどに口づけが熱を帯びてゆくのを感じた律悠は自らの手の中にあるリモコンのボタンを押して、少しずつ、徐々に玖一をベッドの方へと押しやる。
律悠が操作したボタンによって、自動でカーテンが掛けられてゆく夜景を映していた窓。
静かな中で響くカーテンが動く音というのも 彼らにとっては情熱を加速させる燃料でしかなかった。
2人はより一層激しく舌を絡めながらバスローブの上から体をまさぐり合う。
前もって灯しておいたベッドサイドランプの、まるで熟成されたウイスキーのような色の薄明りに酔ったようになりながら、律悠が玖一に抱きついたままベッドへと倒れこむと、玖一もふかふかとした寝具を握りしめるようにしつつ律悠へ迫った。
触れ合う舌の柔らかく熱い感触と頭の中に直接響く音、そして吐息…
それらを一緒くたに感じさせられている律悠が大人しく我慢していられるはずもなく、彼は唇を離すことなく性急な手つきで玖一の腹の辺りを探り、バスローブの結び目を見つけ出すと、その端を無遠慮に引っ張って解いた。
緩んだバスローブが肩や胸元に触れるのがうっとおしくなったらしい玖一が体を起こしてそれを脱ぎ始めたことで、初めて玖一の肉体を直接その目で見た律悠は、その瞬間完全に理性というものをどこかへ飛ばしてしまった。
彼の目の前にいたのはまさに理想的な肉体を持つ男だったのである。
均整の取れた美しいその筋肉から構成されている胸や腹や肩、腕、腰というありとあらゆるパーツが律悠の琴線に触れるものだった。
それに、トランクスの下に隠されているものも…素晴らしいものであるということははっきりとしている。
『今すぐにこの肉体を持つ男に、玖一にめちゃくちゃにしてほしい』
突き飛ばすような激しいものだってかまわない。
たとえ腰の骨が砕けることになろうとも、尻の肉が赤く腫れあがることになろうとも。
この男に抱かれるのであればその内容がどんなものであったとしても恐ろしく興奮して素晴らしい心地がすることだろうと、そう思うほどに。
律悠は玖一がそばにあった大きなバスタオルを一枚無造作に掴んだのを見ただけで激しく勃起し、身悶えてしまう。
それを見た玖一にバスローブを解かれ、下着を脱がされると、彼はすでに先端からぬるぬるとした透明なものを滴らせるほどになっていた。
「はぁ…律悠さん……」
玖一はくすぐったくなるような声量で囁きながらいつの間にかコンドームを装着させていた自らの指を律悠の尻の間に差し込み、そして逃すまいとするかのように抱きしめて口づけと愛撫を繰り出す。
密着した互いの足は太ももの辺りから擦り合わされていて、普段は触れられることが一切ない内ももの皮膚の薄いところに体温が感じられることが余計に気分を高めていくようだ。
律悠が少し身じろぎをすると未だにトランクスの中にしまわれたままでいる玖一の肉棒がちょうど膝に当たり、その硬さがあからさまに示される。
そして律悠の秘部も玖一に揉まれるとすぐに従順にそこを柔らかくして、執拗なならしは不必要だと言わんばかりな様子を見せる。
もはや他にするべき前戯がどうだとか、そういうことは彼らの意識から一切消え失せていた。
気分はこれ以上どうしようもないというほどにまで高まりきっていて、体の方も他の手順が必要な様子はない。
期待感に打ち震える律悠は膝で玖一の勃起したものを下着越しに触れながら意思表示をした。
「玖一…玖一ぃ……っ」
今すぐにこの硬いもので中心を貫き、すべてを埋め尽くして、そして愛してほしい。
その想いを込めた彼のかすれた声での呼びかけは玖一にもまっすぐに届いたようだ。
にわかに熱気に満ちてゆくベッドの上でついに2人は一糸まとわぬ姿になってそれぞれいたる時に備える。
こうして肌を合わせることは初めてではないのに。
これまでにも何度だって男と夜を過ごしてきたというのに。
それなのに、まるで初めて行為に臨むような…そんな気持ちになりながら律悠は挿入のための準備をしている玖一を眺める。
実のところ、彼はバスルームに備えられていたブランド物のアメニティの香りがどんなものだったかも分からないほど緊張していたのである。
だがそんな緊張感を感じているのは玖一の方も同じだったようだ。
自身のものにコンドームを装着させた彼はそのまま切っ先を律悠の秘部にあてがうことはせず、ふと胸に手を当ててばつが悪そうに肩をすくめた。
「俺…今、すごく…緊張してて………」
「こんなに好きな人とこんな…初めてだから…」
かっこ悪いな、俺…と苦笑いを浮かべている玖一の胸は、どんなに離れていたとしてもその鼓動が聴こえてきそうだというほどどくどくと脈打っていることが分かる。
律悠はベッドから体を起こすと玖一のうなじに両腕を回し、抱きつきながら口づけて、そして囁いた。
《僕も…こんなに好きな人に抱いてもらうの、初めて…》
《こんなに素敵でかっこいい人、他にいないから》
瞬きをすれば触れ合う睫毛。
そんな距離で囁き、言葉を交わすことがくすぐったくなった2人は微笑む。
そして再び玖一に自らを押し倒させた律悠は従順に足を開き、膝の内側のところで玖一のことを挟み込んだ。
その先に進もうとする彼らを引き留めるものはもはや何もなかった。
律悠の秘部に切っ先を当てた玖一はもう一度律悠の唇、首筋、耳元へと口づけてから体勢を整え、それからゆっくりと律悠の中へと進んでいく。
「律悠…さん…」
その瞬間、まさに“言葉では言い表すことのできない感覚”が2人の体中を駆け巡ったのだった。
ゆっくりでありながらも遠慮なく奥深くへと入り込んでゆく玖一の太くて熱い陰茎。
進めば進むほど逃しはしないというように絡みついてくる律悠の熱い肉壁。
「あ…あ、あぁっ…ぁっ………」
一息に玖一のものを根元まで挿入された律悠は目を白黒させながら、これまでの行為では味わったことのない快感を感じて息もできなくなる。
隙間なく迎合しているそれは本当に合うべくして合ったパズルのピースかのようだった。
他のどんな男の陰茎でも、ディルドでも。ここまでぴったりと合うことはないというほどに。
その大きさと長さ、硬さは抽挿がなくても律悠に充分な快感を与える。
「く、くいち…はぁ、あぁっ…きもちい…きもちいよ……」
体の中心から満たされていると感じることができるその心地よさに律悠が涙を溢れさせると、玖一も「俺も…たまんないよ」と切なげに応える。
「律悠さん…律悠さん、好きです、律悠さん…本当に、本当に好きだ…」
『律悠』という名前と『好きだ』という言葉を聞かせるたびに律悠の体内は収縮して玖一のものを締め付ける。
いよいよじっとしていることができなくなった玖一は体を起こして律悠の腰を掴み、そして抽挿を始めた。
初めての性行為のような緊張感があるとはいえ、やはりそれぞれそれなりの経験がある2人。
玖一が少し体を後ろにそらせながら腰を打ち付けると、彼の陰茎は律悠の体内の腹側にある前立腺の辺りを的確になぞって強烈な快感をもたらす。
あまり喘いではうるさく思われてしまうだろうと声を抑えようとしていた律悠はそんな風にされて静かにしていることなどできず、玖一の動きに合わせてあけすけな喘ぎ声を響かせた。
「~~~っ!!あぁっ!だめ…だめっ、そこ…っ!!!」
ふるふると揺れる律悠の陰茎は彼自身の腹の上に愛液をだらだらと流しているが、玖一にはそんな姿ですらも愛おしくて仕方がない。
律悠が眉根を寄せながらくぐもった声を出そうとも、寝具を掴んでベッドをめちゃくちゃにしようとも、その腕にはっきりとした筋肉の形を浮き上がらせようとも…玖一はもっと喘がせたくて、乱れさせたくて、愛したくて動き続ける。
「だ、だめ…だめ…!!イっちゃ…イ、イっちゃう…うぅ…っく!!!」
やがてひときわ大きく喘ぎながらベッドから逃れようとするかのようにじたばたとし始めた律悠。
もちろんそんな律悠を玖一が逃すはずもなく、彼は律悠の手をベッドに押さえつけながらさらに動きを速めて攻める。
それからすぐに律悠は腰、太もも、そして体全体を大きくビクつかせながら彼自身の胸元にまで白濁が飛ぶほどの絶頂を迎えた。
玖一はまだ射精を促すつもりはなく、わざと陰茎には触れていなかったのだが、それでも律悠は抽挿だけで達してしまったようだ。
律悠はかつてこんなにも乱れて勢いよく白濁を飛ばしたことはなかっただろう。
腕で顔を隠しながら激しく胸を上下させる律悠。
だが玖一は彼の体のビクつきが収まったと見るや否や、再び腰を動かして抽挿を再開させてしまう。
射精した直後にそんなにも強い刺激を受けるというのは、男にとってはほとんど拷問のようなものだ。
「くいち…くいちっ、むりっ…無理ぃ…イッた、イったばっか…も…むり…イっグぅ……っ!!!」
「あぁっあっ…!!~~~ッ!!!もうむり、ぃッ……!!!」
上気しきって潤んだその瞳がちらりとこちらを見てくるのも堪らず、玖一は想いを遂げるためにさらに止まることなく腰を動かす。
そうしてついに彼も絶頂し、射精を果たした。
コンドーム越しに律悠の熱い体内へと白濁を放出した玖一。
それはいつまで経っても止まりそうにないほど激しく濃厚な射精だった。
……
少しずつ穏やかになってゆく呼吸音。
それでもあまりにも強い快感にさらされたことで敏感になりきっている全身は未だに触れるだけでもびりびりとして電流が走ったようになる。
事後の気だるさにぐったりとして、ベッドに倒れこみながら律悠を胸元にしっかりと抱き寄せる玖一。
本来であればまだ続けて何戦か交えることだってできるはずなのにそうすることができそうにないのは、つまりそれだけ満ち足りた濃密な時間を過ごすことができたからだということなのだろう。
それは律悠の方も同じだったようだ。
見つめ合う瞳はとろりとしていて、いかにも眠たげである。
額と瞼と唇へ口づけながら言葉もなく体を寄せ合っていると指一本動かすのでさえ難儀するほどの眠気がベッドを包み込んでゆく。
かろうじてベッドの端に散らばっていた2人分のバスローブを手繰り寄せた玖一はそれを自分達に被せる。
そうしてそれから、ほとんど同時に眠りこけてしまったのだった。
ーーーーーー
※次回更新が7月ではあまりにも遠いので、5月か6月のどこかの土曜日で続話を更新しようと思います。
引き続き彼らの物語をお楽しみに…
ホテルの中を連れ立って歩く彼らの姿は、周囲の人の目にはどう映っただろうか。
まだ社会に出てそう何年も経っていないだろうという年若さでありながらも整った容姿や身なりをしている2人のことだ、きっとクライアントとの会食に利用する場所の下見などのためにホテルを訪れた大手外資系の社員同士という風に見られたことだろう。
なんにせよ、まさか誕生日を祝うために同じ部屋に泊まりに来た恋人同士だとは思われまい。
だが彼らはそれでも一向に構わなかった。
恋人として見られることがなくても、誕生日を祝うための宿泊だと思われなくても。
たとえ同僚同士、仕事の一環としてホテルに来ているのだと思われたとしても。それで構わなかったのだ。
なぜなら彼らは自分達が『世間においてどのような存在なのか』を、そして『どう見られる関係であるか』というのをよくよく理解していたからである。
玖一も律悠も自分達の関係性をこうした場面でひけらかすような振る舞いは一切するべきではないという慎み深い考えを持っている。
だがそれはけっして自分達の関係を恥じているからだとか、性的指向を恥じているからだとかではない。
むしろ自分達について後ろめたく思うことがないからこそのことなのだった。
中には自分達の関係性を世間に公表することで、いわゆる“権利”を得ようと主張する人達もあるだろう。しかし男が女に、女が男に惹かれるのは生物学的にもごく普通のことであり、それが大多数である以上、少数派となる側がそれに関する全面的な理解を得ようと激しく主張するのは、かえってそのコミュニティに対する印象を悪くしてしまうことに他ならないのである。
誰しも平和であることを望むものだが、その平和を求めるために過激なことをしてしまうというのは…本末転倒なことではないだろうか。
それはこれに限らずどの分野でもいえることだ。
声を上げることを悪だとするわけではないが、そうして行動を起こすことが一番の解決策だと考えるのはあまりにも無茶なことなのである。
どのような場合でも、このように“多様性”が絡んでいる権利を認めさせようと活動している側は『世間に認めてもらえる日が来るまで戦い続ける』というような表現を利用するが、しかし本来は多様性というのは『浸透』し『溶け込んでゆく』ものであって、けっして『戦って勝ち得るもの』でも『認めさせるもの』でもないわけだ。
自分達の置かれている状況をすぐにでも180°ガラリと変えたいと思うこともあるだろうが、なんでも一朝一夕に代わるなどということはありえない。
どだいそれは無理な話である。
にもかかわらずそれを強行しようとするのは、それは自らの首を絞め、生きづらい状況へと追い込んでいくことに他ならない。そして厳しい状況に直面すると“自分達がなぜこんな扱いをされなくてはいけないのか”という考えになり余計に過激な活動へと身を投じていくのだ。(もちろん多数派がそれをかさに着て少数派に対して心無いことをするなど以ての外だが)
現状を打破せんと活動する革命家というのはその活動が成功したかどうかにかかわらず、常に大きな犠牲を生み出しているものだ。しかしよしんば本人がそれで良いと考えていたとしても果たしてそれが本当に万人のためになることなのだろうか。
自らが属しているコミュニティを守ってひっそりと暮らすことも悪いことではない。
むしろそうして“自分達も普通の人と同じなのだ”ということを家族や友人など身近な人達へと見せて徐々に浸透させていったほうがずっと明るい未来を作り出すための良好な手段になるはずだ。
玖一と律悠、そして代表やそのパートナーである穏矢、さらにその周りで同じコミュニティに属している人々はそう思っている。
こうしたことから玖一と律悠はホテルのラウンジでお茶をしているときも、まるで百貨店かのような店舗が立ち並んでいる階を歩くときも、恋人同士であることを周囲に悟らせないような振る舞いをしていた。
まぁ、男女のカップルだってこのような格式高いホテルでそんな風にべたべたとくっついればあまりのふさわしくない振る舞いに周囲からの視線が注がれるだろうが。
とにかく2人は恋人然としなくても楽しいひと時を過ごしたのだった。
ラウンジで軽くお茶をし、ホテル内のいろいろなところを見てまわった玖一と律悠。
やがてディナーの時刻が迫ってきた彼らは、自室、つまり宿泊する部屋へと戻った。
そう。彼らはルームサービスを利用することでディナーにしようと決めていたのである。
それはけっしてレストランなどの予約が取れなかったからだとかというわけではない。
これも他の様々な利用客に対する彼らなりの配慮の一環としてのものであって、2人は同意の上でそうすることを選んでいたのだ。
『せっかく有名ホテルに泊まっているのにディナーがルームサービスだなんて』と思われるかもしれないが、しかし意外にもこれがまたなんとも心地のよいものだったのである。
というのもこういった有名ホテルにあるレストランなどは宿泊客以外にも多くの人が様々な場面で利用するため、ただでさえ気を遣ってしまうものなのだが、ルームサービスではそういった心配がないので心置きなく2人きりでの食事を楽しむことができたからだ。
レストランなどでディナーにしていたとしたら誕生日を祝う言葉1つ言うのさえ憚られてしまっていたかもしれないが、自室であれば気兼ね無く口にすることができる。
それに、一流のホテルではルームサービスだって一流なのである。
ホテル内にある和洋中、フレンチなどの名店が手掛ける料理を好きな組み合わせで好きにメニューから選んだとしても、それはレストランでいただくのとまったく遜色がないクオリティで部屋まで届けられるのだ。
昼間の明るいときとは違う表情になった夜景を眺めながら、2人きりで、何も気にすることなく素晴らしい料理と共にディナータイムを…これほど贅沢なことはないだろう。
玖一はさらにそれに加え、あらかじめホテルに連絡して用意してもらっていたという小さなバースデーケーキと持参していたプレゼントで律悠とのディナーを締めくくったのだった。
玖一が律悠に渡した誕生日プレゼントはイニシャル入りのネクタイである。
艶のある薄い水色と紺色のストライプがあしらわれているそのネクタイは細身な律悠によく似合っていて、律悠は裏に刺繍されている美しい筆記体のイニシャルまでまじまじと見つめながら「すごく嬉しい…!!」と喜んだ。
「うわぁ…汚しちゃったら嫌だな…でも今度からこれを使わせてもらうね!本当にありがとう…!」
「喜んでもらえた?」
「もちろんだよ!それにこんなに綺麗なケーキまで…本当に、まさかこんな風にお祝いしてもらえるなんて…」
心からの嬉しそうな様子を見せる律悠に、ほっと胸を撫で下ろした玖一。
2人はそうして夜景を背にして写真を撮ったりした後、1つのケーキを分け合いながら味わったのだった。
誰にも邪魔されることのない夜。
周りの視線なども一切気にすることなく並んで座りながら細々と言葉を交わし、次第に深まっていく夜をじっとして過ごす玖一と律悠。
ふと言葉が途切れて静かになったことで、なんだか妙な緊張感が漂い始める室内。
「………」
先に動いたのは律悠だった。
そっと手を伸ばし、ぎゅっと固く握られている玖一の手を握った律悠はさわさわとそのまま手に触れ続け、同じように反応を返してくる玖一と指と指を絡ませる。
たとえどんなに鈍感な人間であっても、きっと“今がその時だ”と気付くことだろう。
夜景を前にして漂うこの雰囲気と流れがどんな結果へ繋がるものなのかは火を見るより明らかだ。
言葉もなく、じっと見つめ合う玖一と律悠。
だが律悠がさらに近づこうとすると…
「ま、待って…!」
玖一は律悠を制止して鞄からなにやら一通の封筒を取り出してくると、それを律悠に手渡した。
その封筒に入っていた紙は玖一がありとあらゆる性に関する病において陰性、つまり健康であることを示すものだった。
玖一はそれを律悠に見せながら言う。
「その、俺…こんなのじゃ全然 律悠さんに安心してもらえるとは思ってないんですけど…でも少しでも俺なりの誠意を見せたいと、そう思ってて……なのでこれを……」
ひどく緊張している様子の玖一。
彼は自身の“仕事”が律悠によくない影響を与えてしまうことを恐れていたのだろう。
だが律悠はこんな風にしてなんの病も得ていないことを証明しようとしてくれる相手にこれまで一度も出会ったことがなかったので、安心だとかどうとかいう以前に『彼は本当に僕のことを大切に思ってくれているんだ』と感じて嬉しくなった。
律悠のこれまでの性生活というのはワンナイトは当たり前ということから分かるようにあまり褒められたものではなく、いちいち相手がそういった類の病を得ているかなんて確認することもなくことに及んでいたのだ。
はっきり言って、そんな生活を送っていながらも1つの病もうつされたことがなかったのはかなり幸運なことだっただろう。
とにかく、律悠はそうしてあらためて『誰かと性的な触れ合い』を『性交渉をする』ということに対して真剣な考えを持ち、そして相手を大切にするということがどういうことかを見つめ直した。
そしてまじまじと玖一の検査結果を眺めた後で、自らも一通の封筒を取り出したのだった。
「ありがとう、玖一くん。実は僕も…これを持ってきてたんだ」
それは玖一が見せたものとほとんど同じ、律悠が一切その類の病に罹っていないことを示すものだ。
律悠はそれを玖一の仕事の差し支えになるようなことはないということを伝えるために用意していたのである。
玖一は「律悠さんも…これを…?」と驚いた。
「これ…俺のために…?」
「うん、そうだよ。やっぱりこういうことは気になるでしょ?でも君からは訊きづらいだろうなって思ったから前もって調べてきておいたんだ。君のは見るまでもないなと思ってたけど」
「え、そう…?」
「うん。だって君はきちんとした人だから。もし仮になにかあったらそもそもこうやって外で飲食するのは避けてたでしょ?そういうのを気にしてないってことは大丈夫なんだなって、僕には分かってたよ」
「律悠さん…」
相手が偶然にも自分と同じように考え、行動をしていたことを知ると、人間はより一層親近感を抱いて想いを寄せるようになるものだ。
ついになんの気兼ねもすることがなくなった今。
高鳴る胸の鼓動に急き立てられるままに2人はそっと唇を寄せ合った。
触れた唇の感触はそれだけで心と体を蕩けさせてしまうほどに甘露だ。
軽いものからすぐにうっとりするような深さにまでなってゆく口づけを目を閉じて味わう律悠。
今夜が間違いなく2人にとっての初めての夜になる…それを全身が感じ取っている。
律悠は頬や耳元に口づけを浴びながら玖一へと先にシャワー浴びてくるように言った。
もちろんそれは自分が後からゆっくりと支度するためである。
玖一も同じように考えていたのか「え…でも……」と言いかけたが、律悠はさらに言ったのだった。
「今日は僕の誕生日をお祝いしてくれるんでしょ?」
「…僕のこと、抱いてよ」
ーーーーーーー
きちんと身支度をすることは相手に対するマナーであり、円滑にことを進めるための重要な手順の一つだ。
それを心得ている律悠はこれまでしてきた以上に念入りに体を洗った。
隅々まできちんと。少しの洗い残しもないように。
そして髪もドライヤーでしっかりと乾かし、他にもやり残したことはないかと何度も確認をした上で、部屋へと戻っていった。
先にシャワーを済ませていた玖一は夜景を一望することができる窓のそばに立って外を眺めているがその背中からは緊張感が漂ってきていて、律悠も息を呑む。
窓のそばへ向かいながら、ベッドサイドの明かりを灯し、部屋の電気を消した律悠。
手に小さなリモコン1つだけを持った彼は玖一に後ろから抱きついた。
「………」
窓には部屋の様子が薄く反射しているので玖一には近づいてくる律悠の姿が振り向かずとも見えていたことだろう。
抱きつかれた玖一は一瞬びくりとしたようだったが、すぐに律悠の方へと向き直って抱きしめ返してきた。
重なり合う胸と胸がつぶさに伝えてくる互いの鼓動。
薄暗い中で交差する視線に惹きつけられるように2人は再び口づけを交わした。
今度の口づけは先ほどのものよりもさらに深く…絡みつくようなものだ。
もはや互いに“もっと親密になりたい”という想いを抑え込む必要がなくなっているのは明らかだった。
「………」
息つく間もないほどに口づけが熱を帯びてゆくのを感じた律悠は自らの手の中にあるリモコンのボタンを押して、少しずつ、徐々に玖一をベッドの方へと押しやる。
律悠が操作したボタンによって、自動でカーテンが掛けられてゆく夜景を映していた窓。
静かな中で響くカーテンが動く音というのも 彼らにとっては情熱を加速させる燃料でしかなかった。
2人はより一層激しく舌を絡めながらバスローブの上から体をまさぐり合う。
前もって灯しておいたベッドサイドランプの、まるで熟成されたウイスキーのような色の薄明りに酔ったようになりながら、律悠が玖一に抱きついたままベッドへと倒れこむと、玖一もふかふかとした寝具を握りしめるようにしつつ律悠へ迫った。
触れ合う舌の柔らかく熱い感触と頭の中に直接響く音、そして吐息…
それらを一緒くたに感じさせられている律悠が大人しく我慢していられるはずもなく、彼は唇を離すことなく性急な手つきで玖一の腹の辺りを探り、バスローブの結び目を見つけ出すと、その端を無遠慮に引っ張って解いた。
緩んだバスローブが肩や胸元に触れるのがうっとおしくなったらしい玖一が体を起こしてそれを脱ぎ始めたことで、初めて玖一の肉体を直接その目で見た律悠は、その瞬間完全に理性というものをどこかへ飛ばしてしまった。
彼の目の前にいたのはまさに理想的な肉体を持つ男だったのである。
均整の取れた美しいその筋肉から構成されている胸や腹や肩、腕、腰というありとあらゆるパーツが律悠の琴線に触れるものだった。
それに、トランクスの下に隠されているものも…素晴らしいものであるということははっきりとしている。
『今すぐにこの肉体を持つ男に、玖一にめちゃくちゃにしてほしい』
突き飛ばすような激しいものだってかまわない。
たとえ腰の骨が砕けることになろうとも、尻の肉が赤く腫れあがることになろうとも。
この男に抱かれるのであればその内容がどんなものであったとしても恐ろしく興奮して素晴らしい心地がすることだろうと、そう思うほどに。
律悠は玖一がそばにあった大きなバスタオルを一枚無造作に掴んだのを見ただけで激しく勃起し、身悶えてしまう。
それを見た玖一にバスローブを解かれ、下着を脱がされると、彼はすでに先端からぬるぬるとした透明なものを滴らせるほどになっていた。
「はぁ…律悠さん……」
玖一はくすぐったくなるような声量で囁きながらいつの間にかコンドームを装着させていた自らの指を律悠の尻の間に差し込み、そして逃すまいとするかのように抱きしめて口づけと愛撫を繰り出す。
密着した互いの足は太ももの辺りから擦り合わされていて、普段は触れられることが一切ない内ももの皮膚の薄いところに体温が感じられることが余計に気分を高めていくようだ。
律悠が少し身じろぎをすると未だにトランクスの中にしまわれたままでいる玖一の肉棒がちょうど膝に当たり、その硬さがあからさまに示される。
そして律悠の秘部も玖一に揉まれるとすぐに従順にそこを柔らかくして、執拗なならしは不必要だと言わんばかりな様子を見せる。
もはや他にするべき前戯がどうだとか、そういうことは彼らの意識から一切消え失せていた。
気分はこれ以上どうしようもないというほどにまで高まりきっていて、体の方も他の手順が必要な様子はない。
期待感に打ち震える律悠は膝で玖一の勃起したものを下着越しに触れながら意思表示をした。
「玖一…玖一ぃ……っ」
今すぐにこの硬いもので中心を貫き、すべてを埋め尽くして、そして愛してほしい。
その想いを込めた彼のかすれた声での呼びかけは玖一にもまっすぐに届いたようだ。
にわかに熱気に満ちてゆくベッドの上でついに2人は一糸まとわぬ姿になってそれぞれいたる時に備える。
こうして肌を合わせることは初めてではないのに。
これまでにも何度だって男と夜を過ごしてきたというのに。
それなのに、まるで初めて行為に臨むような…そんな気持ちになりながら律悠は挿入のための準備をしている玖一を眺める。
実のところ、彼はバスルームに備えられていたブランド物のアメニティの香りがどんなものだったかも分からないほど緊張していたのである。
だがそんな緊張感を感じているのは玖一の方も同じだったようだ。
自身のものにコンドームを装着させた彼はそのまま切っ先を律悠の秘部にあてがうことはせず、ふと胸に手を当ててばつが悪そうに肩をすくめた。
「俺…今、すごく…緊張してて………」
「こんなに好きな人とこんな…初めてだから…」
かっこ悪いな、俺…と苦笑いを浮かべている玖一の胸は、どんなに離れていたとしてもその鼓動が聴こえてきそうだというほどどくどくと脈打っていることが分かる。
律悠はベッドから体を起こすと玖一のうなじに両腕を回し、抱きつきながら口づけて、そして囁いた。
《僕も…こんなに好きな人に抱いてもらうの、初めて…》
《こんなに素敵でかっこいい人、他にいないから》
瞬きをすれば触れ合う睫毛。
そんな距離で囁き、言葉を交わすことがくすぐったくなった2人は微笑む。
そして再び玖一に自らを押し倒させた律悠は従順に足を開き、膝の内側のところで玖一のことを挟み込んだ。
その先に進もうとする彼らを引き留めるものはもはや何もなかった。
律悠の秘部に切っ先を当てた玖一はもう一度律悠の唇、首筋、耳元へと口づけてから体勢を整え、それからゆっくりと律悠の中へと進んでいく。
「律悠…さん…」
その瞬間、まさに“言葉では言い表すことのできない感覚”が2人の体中を駆け巡ったのだった。
ゆっくりでありながらも遠慮なく奥深くへと入り込んでゆく玖一の太くて熱い陰茎。
進めば進むほど逃しはしないというように絡みついてくる律悠の熱い肉壁。
「あ…あ、あぁっ…ぁっ………」
一息に玖一のものを根元まで挿入された律悠は目を白黒させながら、これまでの行為では味わったことのない快感を感じて息もできなくなる。
隙間なく迎合しているそれは本当に合うべくして合ったパズルのピースかのようだった。
他のどんな男の陰茎でも、ディルドでも。ここまでぴったりと合うことはないというほどに。
その大きさと長さ、硬さは抽挿がなくても律悠に充分な快感を与える。
「く、くいち…はぁ、あぁっ…きもちい…きもちいよ……」
体の中心から満たされていると感じることができるその心地よさに律悠が涙を溢れさせると、玖一も「俺も…たまんないよ」と切なげに応える。
「律悠さん…律悠さん、好きです、律悠さん…本当に、本当に好きだ…」
『律悠』という名前と『好きだ』という言葉を聞かせるたびに律悠の体内は収縮して玖一のものを締め付ける。
いよいよじっとしていることができなくなった玖一は体を起こして律悠の腰を掴み、そして抽挿を始めた。
初めての性行為のような緊張感があるとはいえ、やはりそれぞれそれなりの経験がある2人。
玖一が少し体を後ろにそらせながら腰を打ち付けると、彼の陰茎は律悠の体内の腹側にある前立腺の辺りを的確になぞって強烈な快感をもたらす。
あまり喘いではうるさく思われてしまうだろうと声を抑えようとしていた律悠はそんな風にされて静かにしていることなどできず、玖一の動きに合わせてあけすけな喘ぎ声を響かせた。
「~~~っ!!あぁっ!だめ…だめっ、そこ…っ!!!」
ふるふると揺れる律悠の陰茎は彼自身の腹の上に愛液をだらだらと流しているが、玖一にはそんな姿ですらも愛おしくて仕方がない。
律悠が眉根を寄せながらくぐもった声を出そうとも、寝具を掴んでベッドをめちゃくちゃにしようとも、その腕にはっきりとした筋肉の形を浮き上がらせようとも…玖一はもっと喘がせたくて、乱れさせたくて、愛したくて動き続ける。
「だ、だめ…だめ…!!イっちゃ…イ、イっちゃう…うぅ…っく!!!」
やがてひときわ大きく喘ぎながらベッドから逃れようとするかのようにじたばたとし始めた律悠。
もちろんそんな律悠を玖一が逃すはずもなく、彼は律悠の手をベッドに押さえつけながらさらに動きを速めて攻める。
それからすぐに律悠は腰、太もも、そして体全体を大きくビクつかせながら彼自身の胸元にまで白濁が飛ぶほどの絶頂を迎えた。
玖一はまだ射精を促すつもりはなく、わざと陰茎には触れていなかったのだが、それでも律悠は抽挿だけで達してしまったようだ。
律悠はかつてこんなにも乱れて勢いよく白濁を飛ばしたことはなかっただろう。
腕で顔を隠しながら激しく胸を上下させる律悠。
だが玖一は彼の体のビクつきが収まったと見るや否や、再び腰を動かして抽挿を再開させてしまう。
射精した直後にそんなにも強い刺激を受けるというのは、男にとってはほとんど拷問のようなものだ。
「くいち…くいちっ、むりっ…無理ぃ…イッた、イったばっか…も…むり…イっグぅ……っ!!!」
「あぁっあっ…!!~~~ッ!!!もうむり、ぃッ……!!!」
上気しきって潤んだその瞳がちらりとこちらを見てくるのも堪らず、玖一は想いを遂げるためにさらに止まることなく腰を動かす。
そうしてついに彼も絶頂し、射精を果たした。
コンドーム越しに律悠の熱い体内へと白濁を放出した玖一。
それはいつまで経っても止まりそうにないほど激しく濃厚な射精だった。
……
少しずつ穏やかになってゆく呼吸音。
それでもあまりにも強い快感にさらされたことで敏感になりきっている全身は未だに触れるだけでもびりびりとして電流が走ったようになる。
事後の気だるさにぐったりとして、ベッドに倒れこみながら律悠を胸元にしっかりと抱き寄せる玖一。
本来であればまだ続けて何戦か交えることだってできるはずなのにそうすることができそうにないのは、つまりそれだけ満ち足りた濃密な時間を過ごすことができたからだということなのだろう。
それは律悠の方も同じだったようだ。
見つめ合う瞳はとろりとしていて、いかにも眠たげである。
額と瞼と唇へ口づけながら言葉もなく体を寄せ合っていると指一本動かすのでさえ難儀するほどの眠気がベッドを包み込んでゆく。
かろうじてベッドの端に散らばっていた2人分のバスローブを手繰り寄せた玖一はそれを自分達に被せる。
そうしてそれから、ほとんど同時に眠りこけてしまったのだった。
ーーーーーー
※次回更新が7月ではあまりにも遠いので、5月か6月のどこかの土曜日で続話を更新しようと思います。
引き続き彼らの物語をお楽しみに…
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