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悠久の始まりの物語
5「ケーキのように、それ以上に」その後
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静かな夜半。
恋人との初めての情事を終えて気を失うように眠ってしまっていた律悠は さらさらとした肌触りのいい寝具に包まれている肩のくすぐったさで目を覚ました。
身動ぎをすれば、今横になっているのがいつもの自分の寝室とは違う場所だということがはっきりと分かる。
ほんの少しの気恥ずかしさと嬉しさ、そして満足感が胸いっぱいに溢れてくる瞬間だ。
薄目を開けると、真横にはヘッドボードに寄りかかるようにして身を起こしている玖一がいる。
いつの間にか窓のカーテンを開けていたらしい。
室内が暗いにもかかわらず、玖一の横顔は夜景の明かりを受けてぼんやりと輝いていた。
「…ごめん、起こしちゃった?」
律悠が目を覚ましたことに気がついた玖一が肩のところを撫でながら訊ねるので、律悠も「ううん」と応えて少しだけ身を起こす。
…玖一は本当によく気が回る男らしい。
律悠はまだ下着すら身につけておらず、情事の痕跡をベッドに残してしまっている可能性も大いにあったのだが、そういった部分には玖一によって大きめのタオルが掛けられており、直接寝具には触れないようになっていたのだ。
自宅ならばまだしも こうした場所で妙な汚れを残してしまうのは避けたかった律悠にとっては とても嬉しい配慮だ。
せっかくのそのタオルから腰や尻が離れてしまわないよう気をつけながら身を起こした彼は、そっと玖一のウエストの辺りに抱きつき、半分寝転がる格好で夜景が広がる窓の方に目を向ける。
2人がベッドに入ったのがそこそこ早い時間だった上、一線交えた後の睡眠もごく短い間だったため、今の時刻はまだ日付が変わる前の、真夜中というほどでもないくらいだ。
それでもいくらか光度が大人しくなった夜景をぼぅっと眺めつつ、玖一と律悠は言葉を交わす。
「一度目が覚めたらなんだか眠るのがもったいなくなっちゃって…カーテンを開けてみたんだ。眩しくない?」
「ん…大丈夫…」
「リモコンでカーテンの開け閉めができるって、なんだかすごいね…」
「ふふっ…ほんとだね」
「ベッドから出たくなかったから ちょうど良かった」
「…体調は大丈夫?」
「うん。なんともないよ」
「ごめんね、俺結構がっついちゃって…余裕なくなってたかも…」
「それは僕もだよ、あんなに気持ちいいなんて…おかしくなっちゃいそうだった」
「そ…そう…?」
どちらもまだ体には繋がり合った感覚が残っていて、余韻も充分だ。
目が合えばどちらからともなく顔を寄せて口づけが交わされる。
律悠は「…ねぇ、なんかさ、僕に愛称をつけてよ」と微笑んだ。
「愛称?」
「うん。だって今まで君は僕のことを『加賀谷さん』か『律悠さん』って呼んでたでしょ。せっかく恋人になったんだし“さん”付けじゃなくてもっと…」
『もっと近い間柄であることが感じられるような呼び名を』
そうした律悠からの提案に「そうだよね、なんて呼んだらいいかな…」と悩みだす玖一。
【律悠】では常日頃から呼ぶにはなんだか気がひけてしまうし。
【チカ】というのは彼のバーでのあだ名だったので、恋人としてその呼び名を使うのはあまりいい気がしない。
かといって名字からもじるのは恋人というよりは友達のようで本末転倒だ。
(あだ名、愛称…大好きだからこそ変な呼び名は嫌だし…)
こうした愛称を級友に対してですらつけた経験がなく、そもそもそういったことを考えたり決めたりするのが苦手な玖一はどんな愛称ならばしっくり来るだろうかと唸りながら考える。
律悠は「じゃあさ、悠はどう?」と助け舟を出した。
「初めて僕の名前を知ったとき、名刺を見ながら『りつ…ゆう…?』って言ってたでしょ。だから『悠』って呼ぶのはどう?」
律悠による当初の思い出を交えたその提案に「うわぁ…そうだったね」と玖一も苦笑する。
「読めなかっただなんて恥ずかしいな…もう今見たら『のりちか』しかあり得ないのに」
「ははっ、最初から読める人はなかなかいないと思うよ」
出会ったばかりの頃を思い出してクスクスと笑い合う2人。
そうして玖一が「じゃあ…悠がいいかな?」と試しに呼んでみると、律悠は満足そうに微笑みながら「うん」と応えたのだった。
「僕が『悠』って呼ばれるなら君もなにか似た感じのがいいな。う~ん…そうだ、たしか僕も初めは君のことを『玖』って呼んだよね?だから『玖』はどう?」
「玖?」
「うん。嫌?」
「まさか!嫌じゃないよ!今まで『月ヶ瀬』とか『玖一』とかしか呼ばれたことがなかったから…なんかすごく新鮮な感じがするってだけ」
「そうなの?それなら本当に僕だけが呼ぶ呼び名ってことだね」
「そうかも。それに、2人の呼び名を続けて呼んだら…なんだかすごく語呂がいい感じがする」
「ゆう、きゅう…ふふっ、そうだね」
誰にも邪魔されることのないベッドの上で意味もなく声をひそめてそうした話をしていると、恋人達の間には妙に甘ったるい雰囲気が漂い始めるというものだ。
律悠は伸び上がって玖一と口づけを交わし、玖一のちょうど股があるあたりを枕にするようにして自らの恋人の体を下から眺めた。
恋人の体を直に目にする前に映像で観たことがあるというのはそうそうないだろう。
律悠は映像で見るよりも断然素晴らしい玖一の生の体をうっとりとして眺めた。
きちんと手入れがなされている体だ。
貧相なのではなく、引き締まっていて、傷などは一切見当たらない完璧な肉体。
その体に抱きしめられて感じる温もりや包み込まれる気分というのは見る以上に素晴らしいものだった。
恋人として、この体の持ち主が自らに想いを寄せてくれているということがなによりも嬉しく誇らしく思えてならないほどに。
あまりの素晴らしさにしばらく言葉もなくしたまま見惚れてしまっていた律悠。だが、そのうち彼は頭を預けているところの、頬の辺りになにやら“存在感”を放つものがあることに気付く。
太ももの筋肉にしては少し固さがあるような“なにか”だ。
場所的にも思い当たるものはただ1つである。
「…ここ、勃っちゃった?」
少しだけいたずらっぽく言いつつ掛け具の上からその部分をつんつんとつつくと、玖一は「あ…いや、ごめん、気にしないで…」と苦笑いを浮かべる。
「あきれちゃうよね、こんなの。さっきしたばっかだっていうのに」
恥に思ってか「ほんとに気にしないで、放っておけばいいから」と穏やかに笑って律悠の髪を撫でる玖一。
律悠は「なんで?健康な若い男なら普通のことでしょ」と小首を傾げると、掛け具をめくって玖一の下半身を露出させた。
「…自分だけいつの間に下着履いてたの?」
「あ…うん、裸のままじゃなんだか落ち着かなかったから…」
「ふぅん…脱がしちゃお」
トランクスの上から窮屈そうにしている中身へと口づけ、唇でひとしきり弄んだ後、律悠は下着の縁に手をかけて一息に太ももまで下げさせる。
まだ腹につくほどは反り勃ってはいないものの、拍動に合わせてふるふると揺れ動くその男根は律悠を怪しく誘っているかのようだ。
大きさ、硬さ、形…そのどれもが申し分なく律悠の好みに沿っているその男根。
律悠が夢中になって奉仕し始めると、それはさらに立派に雄々しくなる。
「悠…そんなことしなくても…っ」
初めて体験する律悠の口での奉仕は『のす』も経験したことが無いほど的確な力加減で刺激をもたらし、たちまち玖一を興奮させた。
緩急も舌の使い方も、時折鈴口をちゅっと吸い上げるのも。
そのすべてが巧みなのだ。
頭を上下させることで漏れ出す音は ともすればやかましく下品極まりないものであるはずなのに、それすらも上手く操っているようで堪らない。
考えすぎかもしれないが『こんな風にできるほど経験を積んできたのだろうか』という若干の嫉妬を掻き立てるところまで完璧だ。
跪いてするよりもこうして顔を伏せての方が奉仕する側にとってはいくらか困難であり、律悠も深くまで呑み込んだ際には少々苦しげな声を喉からもらす。
「悠…そんなに深くは、しないで…苦しくなるほどはそんな…」
なんとか律悠を気遣おうとする玖一だが、しかし律悠が苦しげにするたびに喉奥がキュッと締まって男根の先端にえもいわれぬ快感をもたらすのも事実であり、彼は苦悩する。
一瞬でも気を抜いてしまえば無意識のうちに腰が動いて喉を突き、律悠をひどく苦しめてしまうだろう。
しかし気を抜かずにいるというのはとても難しいことなのだ。
唇を軽く噛み締めてみたり、シーツを握る手に思い切り力を込めてみたり、つま先を曲げ伸ばししてみたり。
ありとあらゆる対策を講じるものの、律悠の口技の前にはそれもなしのつぶてだ。
衝動は抑えられなくなってゆく。
「…っもういい、から…それ以上はされたら…俺、すぐイッちゃうよ…」
「せっかくの夜なんだからもっとゆっくりしよ、1回だけじゃなくて…いっぱい こうするために…」
玖一が頬を撫でたことでようやく顔を上げた律悠。
ベッドサイドランプが点いていなくても彼の頬が上気していることがありありと分かるようだ。
窓の外から届いてくる夜景の弱い明かりだけが照らすその姿もいいが…せっかくの夜にしてはひそやかすぎて、玖一には少々物足りない。
「ねぇ、明かり点けてもいい?弱くでいいから…」
「…明るくしたいの?」
「うん。悠のこと、隅々まで見ながらくっついてたい」
囁くようにしながら玖一が隠さずに本心を伝えると、ベッドに手をついて起き上がった律悠は玖一に跨って手を伸ばし、ベッドサイドランプを一番弱い光量で点灯させた。
ぼんやりとした暖色の明かりがベッドに広がると同時にはっきりとする律悠の裸体。
玖一はこの時初めてきちんと落ち着いた状態で、彼の体を真正面から見た。
スーツを着ている姿、そして洗練された私服姿。
いつも見てきたそれらの姿の下に隠されている律悠の体は…玖一にとって、これまでの人生で目にしてきたどの肉体よりも素晴らしく魅力的なものだった。
だが、ものすごく筋肉が発達しているだとかではない。強いて言えば乳首が少々ぷっくらと立ち上がっていて愛らしいくらいの、少々痩せ型という いたってごく普通の体だ。
しかし本当に玖一にとって未だかつてないというほど強烈に欲を掻き立てる何かを秘めているのである。
玖一は慌ててリモコンを操作して窓のカーテンを閉めた。
たとえ外からはっきりと見ることができないとしたって、もし万が一にでもこの部屋の様子を、律悠の体を、第三者の目に晒すのは我慢がならなかったからだ。
部屋に備え付けられていたペットボトルの水を飲んでいる律悠の喉が上下する動きにですら、玖一は欲情してしまう。
頭のどこか後ろの辺りがかぁっと熱くなるのを感じながら、玖一は自らの唇を人差し指で軽く叩くように『俺にも水をちょうだい』と示した。
律悠は注意深くペットボトルの飲み口を玖一の口元に近づけて、そして傾ける。
コクコクと水を飲んだ玖一が「…口移ししてくれなかったね」と少し残念な様子で言うと、律悠は困ったような顔で笑った。
「なに…そういうことだったの?」
「うん」
「あ、そうだったんだ…ごめん。でもそういうの嫌かなと思って」
「嫌って?」
「だって口移しってさ、なんていうか、嫌がる人も多いと思うし。だから…」
ペットボトルをベッドサイドに置いた律悠がそう言いかけつつ再び玖一に向き直った瞬間、彼は玖一からの深い口づけを受けていた。
唇と舌が絡んでつぶさにその柔らかさを伝え合うという口づけだ。
互いに水を飲んだばかりなので少し口内が冷えているのだが、それがすぐに熱を帯びてゆくのも興奮を掻き立てる。
「これと…何が違うの?」
ごく小さく囁いたその玖一の声が耳に響いた律悠は半ば襲い掛かるようにしてそれまで以上に激しく玖一に口づけていた。
どれだけ唇を合わせてもまだまだ足りないという焦燥感にも揉まれながら肩で息をし、頬を寄せて抱きしめ合う2人。
ただの抱擁ではないその全身での触れ合いはたとえまだ挿入していなくとも、繋がっていない状態だったとしても身と心を溶かしてしまう。
「はぁ…悠…」
肌の香りと温もりとを存分に味わうかのように玖一がうなじから腰までを手のひらで撫でていると、少し身動ぎをした拍子に律悠が小さな喘ぎ声をあげた。
なにが律悠にそんな声を出させたのか。
玖一にはその見当がついている。
「…ね、さっきからここに触られるとすごい感じてるね」
「元からここが弱いの?ちょっと触られただけで気持ちよくなっちゃうくらい…?」
玖一はそう訊ねながら律悠の両胸のぷっくりと立ち上がっている愛らしい胸を揉み、乳首を軽くつまむ。
すると律悠は目を閉じながら上半身を少し反らすようにして息を荒らげ始めた。
陰茎もそれまで以上にビンと立ち、感じていることを顕著に知らしめているようだ。
「んっ…はぁ、あっ……」
「そんなに気持ちいいの?敏感すぎて…すごくエッチなんだけど」
「あぁっ…そ、そこばっか、だめ…」
「自分でもイジったりする?いつからイジりだしたのかな…最近、じゃないよね」
「っ……!」
元からこうなのかと訊ねながらひたすらに乳首を攻め続ける玖一と、それに応えることなく体をひくつかせている律悠。
律悠は応えるのをためらっているようで、玖一はさらに答えをためらう理由が知りたくなって攻める。
「悠?ねぇ、自分でこんなにしたの?」
「ん…んん…」
「悠…?ねぇってば」
答えるよう促す玖一はなぜ律悠が口を閉ざそうとしていたのかの、その理由にはまったく考えが及んでいなかったのだろう。
ついに律悠は応えたが、それは玖一にとって決して快いものであるとはいえないものだった。
「あ…その、これは…前に付き合ってた人がそういうの好きな人、で…それでちょっと僕も…うん…覚えちゃった……っていうか、教えられた…っていうか……」
もちろん玖一は律悠がこれまでにも他の男達と夜を過ごしてきたであろうということは理解している。十分それは理解していたはずだったのだが、しかし『付き合っていた人がいた』『恋人がいた』ということをあらためて知らされると、ひどく心を乱されてしまってどうしようもなくなる。
しかもその“恋人”は律悠の体を開発してしまっていたのだ。
少し触れただけでも敏感に感じてしまうほどしっかりと、丹念に。
それは1度や2度そうして触れ合った程度では教え込むことができないものだ。
きっとあまり感じていなかった時から時間をかけて何度も触れることで、彼の乳首をぷっくりとした性感帯の1つへと作り替えてしまったのに違いない。
言葉では言い表せない感情が奥底から湧き上がってきて抑えられなくなってゆく玖一。
彼は律悠の腰裏を抱きしめて引き寄せると、膝立ちになった律悠のその胸を口に含み、舌と唇とを使って手では味わえない刺激をそこに加え始めた。
「あっ…!それ、だめ…っ!!」
唾液を絡めながら丹念にしゃぶり、吸い付き、ぬるりとした感覚を与えれば 律悠の呼吸も一層激しくなる。
ピンと勃った乳首は唇で容易に摘まんで引っ張ることができるほどになっていて、おおよそ成人男性の胸とは思えない。
文字通り舌で転がせば、律悠の手や腕にも力が入る。
嫉妬心に駆られている玖一の愛撫は一切留まるところを知らず、律悠が身を捩って逃れようとしても決してそれを許さない。
律悠は堪らずベッドの端に投げ捨てられていたコンドームの箱から1枚取ると、それを強引に玖一のものに装着させて、そしてその勢いのまま上から腰を下ろした。
もう今夜すでに1度玖一のものを受け入れていた内部は突然の挿入でもまったく臆することなくそれを最奥まで招き入れてしまうほど柔らかくなっていて、律悠がひたすら体を上下したとしても滑らかそのものだ。
独りよがりとも言える挿入と抽挿。
それに対する仕返しかのように玖一も新しいコンドームを律悠のものに装着させる。
それはベッドの汚れに配慮してのものというよりは律悠を焦らすための一種のテクニックだ。
それから玖一は律悠を下からゴツゴツと突いて攻めていった。
互いの肘のあたりを掴んで支え合いながら上半身を少し後ろに反らすと、ちょうど律悠の体内の1番感じる部分が玖一の先端に当たって強烈な悦楽の波を巻き起こす。
「あぁっ、あぁ…そこっ…そこ……っうぅ………~~~っ!!」
息を切らしながら眉根を寄せて喘ぐ律悠と快感を植えつけるようにひたすら腰を動かす玖一。
やがて2人は体位を変え、後背位になってさらに絡み合った。
後ろからの抽挿は他のどんな体位よりも奥深くまでつながることができる体位だ。
必ずしも奥深くへの挿入が良いものであるとは限らないが、『こんなにも深くに熱く固い恋人のものが挿入っている』という事実が性感帯への愛撫と同じかそれ以上の心地よさを全身にもたらす。
それに、後背位であれば抱きしめながら胸への愛撫も行うことができるので、まさに一石二鳥である。
1度目とはまた違った激しさと興奮に駆られながらの2度目。
ヘッドボードに手をかけながら体を揺さぶられていた律悠はすでにいつ絶頂したのか分からないほど何度も小刻みに震えていて、もはや常に絶頂させられているような状態になっている。
存分に快感を貪り合って果てる頃には、律悠が着けていたコンドームは精液でいっぱいになっていたのだった。
ーーーーーー
夜が深まりつつある中で始まり、真夜中になってようやく落ち着いた2度目の情事。
ベッドに体を横たえながらビリビリとした余韻が治まるのを待つ間も、彼らは髪を撫でたり指を絡め合ったりして少しも離れることなく過ごし、軽い口づけまで交わす。
散々好き放題してしまった代償として、玖一と律悠の体はこのまま休むにはいささか汚れすぎてしまっていた。
ベッドから離れがたい気持ちを無理に抑え込みながら「…そろそろシャワーでも浴びて寝ないと」と玖一がベッドから体を起こすと、律悠はそんな玖一をじっと見つめる。
「…どうかした?」
「ううん」
「具合悪いわけじゃ…ないよね?」
「うん」
「シャワーはどうする?疲れたでしょ、悠は朝浴びる?」
「ううん、今浴びる。玖と一緒に」
「そう?」
何かを訴えたそうにしている様子が気になりながらもベッドから降りて律悠に手を差し伸べる玖一。
すると律悠はその手を取って起き上がりながら、なんと無造作にコンドームの箱から数個の包装をひったくったのだった。
「それ、持ってくの?」
疲れているのではないかと気遣いながら持っているものについて訊ねると、律悠は「…ごめん、しつこいよね」と手放そうとする。
玖一はそれを止めて言った。
「いいじゃん、とりあえず持っていこうよ」
「シャワー浴びて体を洗い合いながら…使うかどうかを決めればいいじゃん」
ベッドに敷いていたタオルを腰に巻きつけただけの状態というのはつまりは何も着ていないのと同じだ。
これだけしたい放題をすれば情熱というのはなりを潜めるのが必定だが、彼らに限ってはそうではなかったらしい。
今宵何度目かの深い口づけを交わした2人は、そのまま揃って浴室へと向かってゆく。
美しいホテル、美しい夜景。
そこで過ごした1日は間違いなく彼らにとっての忘れられない思い出となったのだった。
恋人との初めての情事を終えて気を失うように眠ってしまっていた律悠は さらさらとした肌触りのいい寝具に包まれている肩のくすぐったさで目を覚ました。
身動ぎをすれば、今横になっているのがいつもの自分の寝室とは違う場所だということがはっきりと分かる。
ほんの少しの気恥ずかしさと嬉しさ、そして満足感が胸いっぱいに溢れてくる瞬間だ。
薄目を開けると、真横にはヘッドボードに寄りかかるようにして身を起こしている玖一がいる。
いつの間にか窓のカーテンを開けていたらしい。
室内が暗いにもかかわらず、玖一の横顔は夜景の明かりを受けてぼんやりと輝いていた。
「…ごめん、起こしちゃった?」
律悠が目を覚ましたことに気がついた玖一が肩のところを撫でながら訊ねるので、律悠も「ううん」と応えて少しだけ身を起こす。
…玖一は本当によく気が回る男らしい。
律悠はまだ下着すら身につけておらず、情事の痕跡をベッドに残してしまっている可能性も大いにあったのだが、そういった部分には玖一によって大きめのタオルが掛けられており、直接寝具には触れないようになっていたのだ。
自宅ならばまだしも こうした場所で妙な汚れを残してしまうのは避けたかった律悠にとっては とても嬉しい配慮だ。
せっかくのそのタオルから腰や尻が離れてしまわないよう気をつけながら身を起こした彼は、そっと玖一のウエストの辺りに抱きつき、半分寝転がる格好で夜景が広がる窓の方に目を向ける。
2人がベッドに入ったのがそこそこ早い時間だった上、一線交えた後の睡眠もごく短い間だったため、今の時刻はまだ日付が変わる前の、真夜中というほどでもないくらいだ。
それでもいくらか光度が大人しくなった夜景をぼぅっと眺めつつ、玖一と律悠は言葉を交わす。
「一度目が覚めたらなんだか眠るのがもったいなくなっちゃって…カーテンを開けてみたんだ。眩しくない?」
「ん…大丈夫…」
「リモコンでカーテンの開け閉めができるって、なんだかすごいね…」
「ふふっ…ほんとだね」
「ベッドから出たくなかったから ちょうど良かった」
「…体調は大丈夫?」
「うん。なんともないよ」
「ごめんね、俺結構がっついちゃって…余裕なくなってたかも…」
「それは僕もだよ、あんなに気持ちいいなんて…おかしくなっちゃいそうだった」
「そ…そう…?」
どちらもまだ体には繋がり合った感覚が残っていて、余韻も充分だ。
目が合えばどちらからともなく顔を寄せて口づけが交わされる。
律悠は「…ねぇ、なんかさ、僕に愛称をつけてよ」と微笑んだ。
「愛称?」
「うん。だって今まで君は僕のことを『加賀谷さん』か『律悠さん』って呼んでたでしょ。せっかく恋人になったんだし“さん”付けじゃなくてもっと…」
『もっと近い間柄であることが感じられるような呼び名を』
そうした律悠からの提案に「そうだよね、なんて呼んだらいいかな…」と悩みだす玖一。
【律悠】では常日頃から呼ぶにはなんだか気がひけてしまうし。
【チカ】というのは彼のバーでのあだ名だったので、恋人としてその呼び名を使うのはあまりいい気がしない。
かといって名字からもじるのは恋人というよりは友達のようで本末転倒だ。
(あだ名、愛称…大好きだからこそ変な呼び名は嫌だし…)
こうした愛称を級友に対してですらつけた経験がなく、そもそもそういったことを考えたり決めたりするのが苦手な玖一はどんな愛称ならばしっくり来るだろうかと唸りながら考える。
律悠は「じゃあさ、悠はどう?」と助け舟を出した。
「初めて僕の名前を知ったとき、名刺を見ながら『りつ…ゆう…?』って言ってたでしょ。だから『悠』って呼ぶのはどう?」
律悠による当初の思い出を交えたその提案に「うわぁ…そうだったね」と玖一も苦笑する。
「読めなかっただなんて恥ずかしいな…もう今見たら『のりちか』しかあり得ないのに」
「ははっ、最初から読める人はなかなかいないと思うよ」
出会ったばかりの頃を思い出してクスクスと笑い合う2人。
そうして玖一が「じゃあ…悠がいいかな?」と試しに呼んでみると、律悠は満足そうに微笑みながら「うん」と応えたのだった。
「僕が『悠』って呼ばれるなら君もなにか似た感じのがいいな。う~ん…そうだ、たしか僕も初めは君のことを『玖』って呼んだよね?だから『玖』はどう?」
「玖?」
「うん。嫌?」
「まさか!嫌じゃないよ!今まで『月ヶ瀬』とか『玖一』とかしか呼ばれたことがなかったから…なんかすごく新鮮な感じがするってだけ」
「そうなの?それなら本当に僕だけが呼ぶ呼び名ってことだね」
「そうかも。それに、2人の呼び名を続けて呼んだら…なんだかすごく語呂がいい感じがする」
「ゆう、きゅう…ふふっ、そうだね」
誰にも邪魔されることのないベッドの上で意味もなく声をひそめてそうした話をしていると、恋人達の間には妙に甘ったるい雰囲気が漂い始めるというものだ。
律悠は伸び上がって玖一と口づけを交わし、玖一のちょうど股があるあたりを枕にするようにして自らの恋人の体を下から眺めた。
恋人の体を直に目にする前に映像で観たことがあるというのはそうそうないだろう。
律悠は映像で見るよりも断然素晴らしい玖一の生の体をうっとりとして眺めた。
きちんと手入れがなされている体だ。
貧相なのではなく、引き締まっていて、傷などは一切見当たらない完璧な肉体。
その体に抱きしめられて感じる温もりや包み込まれる気分というのは見る以上に素晴らしいものだった。
恋人として、この体の持ち主が自らに想いを寄せてくれているということがなによりも嬉しく誇らしく思えてならないほどに。
あまりの素晴らしさにしばらく言葉もなくしたまま見惚れてしまっていた律悠。だが、そのうち彼は頭を預けているところの、頬の辺りになにやら“存在感”を放つものがあることに気付く。
太ももの筋肉にしては少し固さがあるような“なにか”だ。
場所的にも思い当たるものはただ1つである。
「…ここ、勃っちゃった?」
少しだけいたずらっぽく言いつつ掛け具の上からその部分をつんつんとつつくと、玖一は「あ…いや、ごめん、気にしないで…」と苦笑いを浮かべる。
「あきれちゃうよね、こんなの。さっきしたばっかだっていうのに」
恥に思ってか「ほんとに気にしないで、放っておけばいいから」と穏やかに笑って律悠の髪を撫でる玖一。
律悠は「なんで?健康な若い男なら普通のことでしょ」と小首を傾げると、掛け具をめくって玖一の下半身を露出させた。
「…自分だけいつの間に下着履いてたの?」
「あ…うん、裸のままじゃなんだか落ち着かなかったから…」
「ふぅん…脱がしちゃお」
トランクスの上から窮屈そうにしている中身へと口づけ、唇でひとしきり弄んだ後、律悠は下着の縁に手をかけて一息に太ももまで下げさせる。
まだ腹につくほどは反り勃ってはいないものの、拍動に合わせてふるふると揺れ動くその男根は律悠を怪しく誘っているかのようだ。
大きさ、硬さ、形…そのどれもが申し分なく律悠の好みに沿っているその男根。
律悠が夢中になって奉仕し始めると、それはさらに立派に雄々しくなる。
「悠…そんなことしなくても…っ」
初めて体験する律悠の口での奉仕は『のす』も経験したことが無いほど的確な力加減で刺激をもたらし、たちまち玖一を興奮させた。
緩急も舌の使い方も、時折鈴口をちゅっと吸い上げるのも。
そのすべてが巧みなのだ。
頭を上下させることで漏れ出す音は ともすればやかましく下品極まりないものであるはずなのに、それすらも上手く操っているようで堪らない。
考えすぎかもしれないが『こんな風にできるほど経験を積んできたのだろうか』という若干の嫉妬を掻き立てるところまで完璧だ。
跪いてするよりもこうして顔を伏せての方が奉仕する側にとってはいくらか困難であり、律悠も深くまで呑み込んだ際には少々苦しげな声を喉からもらす。
「悠…そんなに深くは、しないで…苦しくなるほどはそんな…」
なんとか律悠を気遣おうとする玖一だが、しかし律悠が苦しげにするたびに喉奥がキュッと締まって男根の先端にえもいわれぬ快感をもたらすのも事実であり、彼は苦悩する。
一瞬でも気を抜いてしまえば無意識のうちに腰が動いて喉を突き、律悠をひどく苦しめてしまうだろう。
しかし気を抜かずにいるというのはとても難しいことなのだ。
唇を軽く噛み締めてみたり、シーツを握る手に思い切り力を込めてみたり、つま先を曲げ伸ばししてみたり。
ありとあらゆる対策を講じるものの、律悠の口技の前にはそれもなしのつぶてだ。
衝動は抑えられなくなってゆく。
「…っもういい、から…それ以上はされたら…俺、すぐイッちゃうよ…」
「せっかくの夜なんだからもっとゆっくりしよ、1回だけじゃなくて…いっぱい こうするために…」
玖一が頬を撫でたことでようやく顔を上げた律悠。
ベッドサイドランプが点いていなくても彼の頬が上気していることがありありと分かるようだ。
窓の外から届いてくる夜景の弱い明かりだけが照らすその姿もいいが…せっかくの夜にしてはひそやかすぎて、玖一には少々物足りない。
「ねぇ、明かり点けてもいい?弱くでいいから…」
「…明るくしたいの?」
「うん。悠のこと、隅々まで見ながらくっついてたい」
囁くようにしながら玖一が隠さずに本心を伝えると、ベッドに手をついて起き上がった律悠は玖一に跨って手を伸ばし、ベッドサイドランプを一番弱い光量で点灯させた。
ぼんやりとした暖色の明かりがベッドに広がると同時にはっきりとする律悠の裸体。
玖一はこの時初めてきちんと落ち着いた状態で、彼の体を真正面から見た。
スーツを着ている姿、そして洗練された私服姿。
いつも見てきたそれらの姿の下に隠されている律悠の体は…玖一にとって、これまでの人生で目にしてきたどの肉体よりも素晴らしく魅力的なものだった。
だが、ものすごく筋肉が発達しているだとかではない。強いて言えば乳首が少々ぷっくらと立ち上がっていて愛らしいくらいの、少々痩せ型という いたってごく普通の体だ。
しかし本当に玖一にとって未だかつてないというほど強烈に欲を掻き立てる何かを秘めているのである。
玖一は慌ててリモコンを操作して窓のカーテンを閉めた。
たとえ外からはっきりと見ることができないとしたって、もし万が一にでもこの部屋の様子を、律悠の体を、第三者の目に晒すのは我慢がならなかったからだ。
部屋に備え付けられていたペットボトルの水を飲んでいる律悠の喉が上下する動きにですら、玖一は欲情してしまう。
頭のどこか後ろの辺りがかぁっと熱くなるのを感じながら、玖一は自らの唇を人差し指で軽く叩くように『俺にも水をちょうだい』と示した。
律悠は注意深くペットボトルの飲み口を玖一の口元に近づけて、そして傾ける。
コクコクと水を飲んだ玖一が「…口移ししてくれなかったね」と少し残念な様子で言うと、律悠は困ったような顔で笑った。
「なに…そういうことだったの?」
「うん」
「あ、そうだったんだ…ごめん。でもそういうの嫌かなと思って」
「嫌って?」
「だって口移しってさ、なんていうか、嫌がる人も多いと思うし。だから…」
ペットボトルをベッドサイドに置いた律悠がそう言いかけつつ再び玖一に向き直った瞬間、彼は玖一からの深い口づけを受けていた。
唇と舌が絡んでつぶさにその柔らかさを伝え合うという口づけだ。
互いに水を飲んだばかりなので少し口内が冷えているのだが、それがすぐに熱を帯びてゆくのも興奮を掻き立てる。
「これと…何が違うの?」
ごく小さく囁いたその玖一の声が耳に響いた律悠は半ば襲い掛かるようにしてそれまで以上に激しく玖一に口づけていた。
どれだけ唇を合わせてもまだまだ足りないという焦燥感にも揉まれながら肩で息をし、頬を寄せて抱きしめ合う2人。
ただの抱擁ではないその全身での触れ合いはたとえまだ挿入していなくとも、繋がっていない状態だったとしても身と心を溶かしてしまう。
「はぁ…悠…」
肌の香りと温もりとを存分に味わうかのように玖一がうなじから腰までを手のひらで撫でていると、少し身動ぎをした拍子に律悠が小さな喘ぎ声をあげた。
なにが律悠にそんな声を出させたのか。
玖一にはその見当がついている。
「…ね、さっきからここに触られるとすごい感じてるね」
「元からここが弱いの?ちょっと触られただけで気持ちよくなっちゃうくらい…?」
玖一はそう訊ねながら律悠の両胸のぷっくりと立ち上がっている愛らしい胸を揉み、乳首を軽くつまむ。
すると律悠は目を閉じながら上半身を少し反らすようにして息を荒らげ始めた。
陰茎もそれまで以上にビンと立ち、感じていることを顕著に知らしめているようだ。
「んっ…はぁ、あっ……」
「そんなに気持ちいいの?敏感すぎて…すごくエッチなんだけど」
「あぁっ…そ、そこばっか、だめ…」
「自分でもイジったりする?いつからイジりだしたのかな…最近、じゃないよね」
「っ……!」
元からこうなのかと訊ねながらひたすらに乳首を攻め続ける玖一と、それに応えることなく体をひくつかせている律悠。
律悠は応えるのをためらっているようで、玖一はさらに答えをためらう理由が知りたくなって攻める。
「悠?ねぇ、自分でこんなにしたの?」
「ん…んん…」
「悠…?ねぇってば」
答えるよう促す玖一はなぜ律悠が口を閉ざそうとしていたのかの、その理由にはまったく考えが及んでいなかったのだろう。
ついに律悠は応えたが、それは玖一にとって決して快いものであるとはいえないものだった。
「あ…その、これは…前に付き合ってた人がそういうの好きな人、で…それでちょっと僕も…うん…覚えちゃった……っていうか、教えられた…っていうか……」
もちろん玖一は律悠がこれまでにも他の男達と夜を過ごしてきたであろうということは理解している。十分それは理解していたはずだったのだが、しかし『付き合っていた人がいた』『恋人がいた』ということをあらためて知らされると、ひどく心を乱されてしまってどうしようもなくなる。
しかもその“恋人”は律悠の体を開発してしまっていたのだ。
少し触れただけでも敏感に感じてしまうほどしっかりと、丹念に。
それは1度や2度そうして触れ合った程度では教え込むことができないものだ。
きっとあまり感じていなかった時から時間をかけて何度も触れることで、彼の乳首をぷっくりとした性感帯の1つへと作り替えてしまったのに違いない。
言葉では言い表せない感情が奥底から湧き上がってきて抑えられなくなってゆく玖一。
彼は律悠の腰裏を抱きしめて引き寄せると、膝立ちになった律悠のその胸を口に含み、舌と唇とを使って手では味わえない刺激をそこに加え始めた。
「あっ…!それ、だめ…っ!!」
唾液を絡めながら丹念にしゃぶり、吸い付き、ぬるりとした感覚を与えれば 律悠の呼吸も一層激しくなる。
ピンと勃った乳首は唇で容易に摘まんで引っ張ることができるほどになっていて、おおよそ成人男性の胸とは思えない。
文字通り舌で転がせば、律悠の手や腕にも力が入る。
嫉妬心に駆られている玖一の愛撫は一切留まるところを知らず、律悠が身を捩って逃れようとしても決してそれを許さない。
律悠は堪らずベッドの端に投げ捨てられていたコンドームの箱から1枚取ると、それを強引に玖一のものに装着させて、そしてその勢いのまま上から腰を下ろした。
もう今夜すでに1度玖一のものを受け入れていた内部は突然の挿入でもまったく臆することなくそれを最奥まで招き入れてしまうほど柔らかくなっていて、律悠がひたすら体を上下したとしても滑らかそのものだ。
独りよがりとも言える挿入と抽挿。
それに対する仕返しかのように玖一も新しいコンドームを律悠のものに装着させる。
それはベッドの汚れに配慮してのものというよりは律悠を焦らすための一種のテクニックだ。
それから玖一は律悠を下からゴツゴツと突いて攻めていった。
互いの肘のあたりを掴んで支え合いながら上半身を少し後ろに反らすと、ちょうど律悠の体内の1番感じる部分が玖一の先端に当たって強烈な悦楽の波を巻き起こす。
「あぁっ、あぁ…そこっ…そこ……っうぅ………~~~っ!!」
息を切らしながら眉根を寄せて喘ぐ律悠と快感を植えつけるようにひたすら腰を動かす玖一。
やがて2人は体位を変え、後背位になってさらに絡み合った。
後ろからの抽挿は他のどんな体位よりも奥深くまでつながることができる体位だ。
必ずしも奥深くへの挿入が良いものであるとは限らないが、『こんなにも深くに熱く固い恋人のものが挿入っている』という事実が性感帯への愛撫と同じかそれ以上の心地よさを全身にもたらす。
それに、後背位であれば抱きしめながら胸への愛撫も行うことができるので、まさに一石二鳥である。
1度目とはまた違った激しさと興奮に駆られながらの2度目。
ヘッドボードに手をかけながら体を揺さぶられていた律悠はすでにいつ絶頂したのか分からないほど何度も小刻みに震えていて、もはや常に絶頂させられているような状態になっている。
存分に快感を貪り合って果てる頃には、律悠が着けていたコンドームは精液でいっぱいになっていたのだった。
ーーーーーー
夜が深まりつつある中で始まり、真夜中になってようやく落ち着いた2度目の情事。
ベッドに体を横たえながらビリビリとした余韻が治まるのを待つ間も、彼らは髪を撫でたり指を絡め合ったりして少しも離れることなく過ごし、軽い口づけまで交わす。
散々好き放題してしまった代償として、玖一と律悠の体はこのまま休むにはいささか汚れすぎてしまっていた。
ベッドから離れがたい気持ちを無理に抑え込みながら「…そろそろシャワーでも浴びて寝ないと」と玖一がベッドから体を起こすと、律悠はそんな玖一をじっと見つめる。
「…どうかした?」
「ううん」
「具合悪いわけじゃ…ないよね?」
「うん」
「シャワーはどうする?疲れたでしょ、悠は朝浴びる?」
「ううん、今浴びる。玖と一緒に」
「そう?」
何かを訴えたそうにしている様子が気になりながらもベッドから降りて律悠に手を差し伸べる玖一。
すると律悠はその手を取って起き上がりながら、なんと無造作にコンドームの箱から数個の包装をひったくったのだった。
「それ、持ってくの?」
疲れているのではないかと気遣いながら持っているものについて訊ねると、律悠は「…ごめん、しつこいよね」と手放そうとする。
玖一はそれを止めて言った。
「いいじゃん、とりあえず持っていこうよ」
「シャワー浴びて体を洗い合いながら…使うかどうかを決めればいいじゃん」
ベッドに敷いていたタオルを腰に巻きつけただけの状態というのはつまりは何も着ていないのと同じだ。
これだけしたい放題をすれば情熱というのはなりを潜めるのが必定だが、彼らに限ってはそうではなかったらしい。
今宵何度目かの深い口づけを交わした2人は、そのまま揃って浴室へと向かってゆく。
美しいホテル、美しい夜景。
そこで過ごした1日は間違いなく彼らにとっての忘れられない思い出となったのだった。
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