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5「『許し』と『雷』について」
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【レ・ミゼラブル】は1800年代のフランスにおける激動の時代を舞台に描いた物語である。
1832年の6月5日から6日にかけて実際に発生した『六月暴動』。著者ヴィクトル・ユーゴーは当時パリの中心部に位置するテュイルリー庭園というところで戯曲を執筆しており、この暴動の始まりとなった銃声などを実際に聞いたという。
現在の感覚ではあまり考えられないかもしれないが、世の中をより良くしたいと願う人々の必死な抵抗や行動はそれほどまでに切実なものだったのだ。
(著者ヴィクトル・ユーゴーはその後バリケードのそばまで行き、柱の間に隠れて飛び交う銃弾を避けるなどもしたようだ)
この【レ・ミゼラブル】という作品がなければ長い歴史における些細な出来事の1つとして忘れ去られていたかもしれないこの小さな抵抗。
作中ではその締めくくりがABCの友のリーダー【アンジョルラス】と【グランテール】の印象的な場面として描かれている。
ーーーーーー
全5章で構成されている物語の内の最後の章『Tome V - Jean Valjcan』。その前の『Tome Ⅳ』終盤から始まった革命に対する活動はすでにこの第5章になった時点でかなり厳しいものになっており、いくつか他にもバリケードがあるとはいえアンジョルラスにはこの行動の結末がいかなるものかというのがはっきりと見えるほどになっていた。
そこで彼は『無駄な犠牲は必要ない』『我らが共和国を実現させても人がいなくなってしまっては何の意味もないだろう。女子供、そして守らなければならない家庭がある者はここを立ち去れ。次に来たるその日のために命を繋ぐことが君達のなすべきことだ』と演説し、警官隊の服を着せて紛れ込ませることでバリケードから数人逃すなどもしている。(映画やミュージカルでは省かれているが、アンジョルラスには大局を見据える確かなリーダーシップがあったということがうかがえるエピソードである)
そうしていよいよ、物語は『Chapitre XXIII – Oreste à jeun et Pylade ivre』つまり『空腹のオレステスと酔っぱらったピュラデス』というチャプターを迎えるのだ。
このタイトルからして誰と誰が主役となっているのかは明らかだろう。
『前日からのバリケード籠城によって空腹になっているアンジョルラス』と『未だ酔いの醒めていないグランテール』だ。
このチャプターはグランテールがアンジョルラスに『ここから出て行け!君はバリケードの恥だ!』と厳しく非難された翌朝頃の話であり、グランテールは周りが激しい戦いを繰り広げている中でも1人眠っていたという状況で展開していく。
以下『Tome V - Jean Valjcan』の『Chapitre XXIII – Oreste à jeun et Pylade ivre』を適宜省略しながら意訳満載で紹介する。
ーーーーー
次々と仲間達が倒れる中、アンジョルラスは警官隊によって1人部屋の隅へと追い詰められていた。
アンジョルラスと警官隊達の間にあるバリケードはビリヤード台1つのみである。
「お前がここのリーダーだな」と銃を向ける警官隊に、アンジョルラスは手に持っていた銃身を投げ捨てて言った。
「さぁ、撃て」
腕を組んで胸を堂々と差し出すアンジョルラス。その大胆さは周囲を一瞬にして静寂で包み込んだ。武器も持たずにじっとこちらを見つめてくる彼はそれまで銃弾が飛び交う中にいたとは思えないほど傷一つなく見事なまでに魅力的で、誇り高さに満ち、返り血などを浴びてもなお 美しかったのだ。
後に軍法会議が開かれた際『アポロ(ギリシャ神話の神)という名の反乱者がいたそうだ』と話されたのはおそらく彼のことを指してのものだっただろう。
アンジョルラスを狙っていた警官隊12人が『まるで花を撃てと言われているかのようだ…』と思わず構えていた武器を下ろしたほどである。
目隠しすらも拒みながら、彼はまっすぐに警官隊を見据えて威圧した。
~中略~
グランテールはほんの数分前に目を覚ました。
それまでの彼はまさに『泥酔』という言葉そのものを体現したように眠っていたのだ。
彼が突っ伏していた机は小さく、バリケードにも使えないようなものだったので誰も起こそうとしなかったのだろう。
周囲が銃弾や砲弾による激しい騒音に包まれていても彼はたまにいびきをかくなどして眠り続けていた。
すでに周りには何人もの人が倒れており、警官隊も彼がただ眠っているだけなのだとは思わなかったに違いない。
酔っぱらいというのは周りがどれだけ騒がしくしていようとも起きることはないのだが、その代わり 静寂に包まれるとにわかに目を覚ますものである。
彼もそうだった。
どんなに周囲がうるさくても構わず眠り続けていた彼はアンジョルラスの堂々とした態度がもたらした静寂によってふっと目を覚ましたのだ。
例えるならば、それまで走っていた乗り物が急停止したことで眠っていた乗客達の目が覚めたりするようなものである。
ハッとして立ち上がったグランテールは、腕を伸ばして目をこすり、あくびをしながら状況を見て理解した。
警官隊の面々は部屋の隅に追いやられたビリヤード台の向こう側にいるアンジョルラスにしか目を向けておらず、グランテールの存在には一切気が付いていない。
『狙え!』という命令が警官隊に下されようとしたその時、突然隣から「共和国 万歳!」という大きな声が聞こえてきた。
そこで繰り広げられた輝かしい戦闘の数々がその酔っぱらいの瞳の中に映る。
「共和国 万歳!」
彼はそう繰り返しながらしっかりとした足取りでアンジョルラスのそばに寄っていき、そして銃口の前に立って言った。
「一発で俺達2人を片付けてくれ」
そしてグランテールはアンジョルラスに向き直った。
「許してくれるか?」
アンジョルラスは微笑みながらグランテールの手を握る。
その微笑みは銃声が鳴り響いた後も終わらなかった。
8発の弾に射抜かれたアンジョルラスは項垂れながら壁にもたれかかり、グランテールは雷に打たれかのようにその足元に倒れた
『Chapitre XXIII – Oreste à jeun et Pylade ivre』(全体の26%に相当する128ページ)
※読みやすいようかなり省略し、意訳を多めにしています
ーーーーー
…いかがだろうか。これが彼らの結末である。
銃を突き付けられながらも誇り高く胸を張り、目隠しすらも拒んで警官隊を圧倒したアンジョルラス。そして酔って寝ていたせいでちっとも戦いには参加しなかったものの、アンジョルラスのそばへとしっかりとした足取りで向かったグランテール。
彼らが手を取り合って最期を迎えた、というのはとても印象的なのではないだろうか。
しかもそこに至るまでの経緯も素晴らしいのである。
1人で散る覚悟をしていたところに『共和国 万歳!』と言いながらグランテールが現れたのだから、アンジョルラスは『革命に対する情熱なんかこれっぽっちもないくせに…なに一丁前なことを言ってるんだ』と思ったことだろう。しかし彼は『俺達2人を一発で片付けてくれ』『(君と同じ弾丸に倒れることを)許してくれるか?』というグランテールのまっすぐな言葉に思わず笑みをこぼし、その手を握ることで応えたのだ。
グランテールの『許してくれるか?』という言葉は、つまり『君と同じ日の同じ時間に、同じ場所で、同じ弾に撃たれても散ってもいいか?』ということであり、さらにその前夜に言った『【ここで眠らせてくれないか】【ここで眠らせてくれ。ここで、死ぬまで】という願いを叶えてもいいか?』ということだったのである。
グランテールに対してずっと『酔っぱらってふざけてばかりいるヤツ』という印象を持っていたに違いないアンジョルラスは、この時になって初めてグランテールが言っていたことすべては彼なりの本気によるものだったのだと理解し、そしてそれを承諾したのだ。
なんだかもう、これだけでお腹がいっぱいになるだろう。
しかしこの場面におけるもっとも重要なのはその後の一文(表現)なのであるということを強調しておきたい。
彼らにはもっと決定的な示唆が著者ヴィクトル・ユーゴーの手によってなされているのだ。
重要な表現というのはグランテールが倒れた際に使われている『雷に打たれたかのように』というものである。
この部分の原文は『foudroyé, s’abattit à ses pieds.』、直訳すると『雷に打たれて倒れた』だ。
ではなぜこの表現が重要だというのか。
それは、フランス語では『Coup de foudre(雷の一撃)』という言葉が『一目惚れ』を意味する比喩(慣用句)として使われているという事実があるからである。
全く同じというわけではないが、『雷に打たれた』というのは『雷の一撃を食らった』ということだろう。それが意味するものは大きく変わらない。つまりそういうことなのだ。
この部分をもう少し考察してみると…
それまでのグランテールはたしかにアンジョルラスに対して特別な想いを抱いていたものの、彼自身にもその想いの正体というのがはっきりとしておらず、ただ漠然と『そばにいたい』『倒れるなら彼のそばで』と思っていただけだった。
しかし、同じ銃弾に倒れることに対しての許しを請った時に彼は初めてアンジョルラスから微笑みを向けられ、まさしく彼に『一目惚れ』をしたのだ。
軽蔑されるばかりで微笑みかけられることもなかったグランテールはそれでもアンジョルラスのことを『大理石でできているかのような美しさだ』と褒め讃えていたのだから、初めて微笑み(それも自分に向けられたもの)を目にしたとなればに落ちずにはいられなかっただろう。
このごく短い一文にはそれだけの意味が込められている。
もはや著者ヴィクトル・ユーゴーによる『これまで色々と散りばめてきたんだし、伝わってないなんてことはないよな…いや、もう、だからこういうことなんだよ…!』というダメ押し感があることすら否めない。
※ちなみにこの部分は翻訳家によってはまったく重要視されていないこともあり、慣用句としての表現である『雷に打たれた』をただ単に『銃で撃たれた衝撃』として翻訳している本もある。こうした原作における重要な表現を取り逃してしまう可能性があるので、翻訳だけではなくぜひ原書にも親しみを持っていただきたい…
ーーーーー
原作において彼ら2人について言及されている部分というのはこれですべてだ。
登場から退場に至るまで、そう多くはないもののかなりしっかりとした場面が描き出されているということがお分かりいただけたことだろう。
次のページではこれまでのすべてを振り返りながら『結論』と称して蓬屋なりの考察をお伝えしていこうと思う。
ぜひ最後までお付き合いいただきたい。
1832年の6月5日から6日にかけて実際に発生した『六月暴動』。著者ヴィクトル・ユーゴーは当時パリの中心部に位置するテュイルリー庭園というところで戯曲を執筆しており、この暴動の始まりとなった銃声などを実際に聞いたという。
現在の感覚ではあまり考えられないかもしれないが、世の中をより良くしたいと願う人々の必死な抵抗や行動はそれほどまでに切実なものだったのだ。
(著者ヴィクトル・ユーゴーはその後バリケードのそばまで行き、柱の間に隠れて飛び交う銃弾を避けるなどもしたようだ)
この【レ・ミゼラブル】という作品がなければ長い歴史における些細な出来事の1つとして忘れ去られていたかもしれないこの小さな抵抗。
作中ではその締めくくりがABCの友のリーダー【アンジョルラス】と【グランテール】の印象的な場面として描かれている。
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全5章で構成されている物語の内の最後の章『Tome V - Jean Valjcan』。その前の『Tome Ⅳ』終盤から始まった革命に対する活動はすでにこの第5章になった時点でかなり厳しいものになっており、いくつか他にもバリケードがあるとはいえアンジョルラスにはこの行動の結末がいかなるものかというのがはっきりと見えるほどになっていた。
そこで彼は『無駄な犠牲は必要ない』『我らが共和国を実現させても人がいなくなってしまっては何の意味もないだろう。女子供、そして守らなければならない家庭がある者はここを立ち去れ。次に来たるその日のために命を繋ぐことが君達のなすべきことだ』と演説し、警官隊の服を着せて紛れ込ませることでバリケードから数人逃すなどもしている。(映画やミュージカルでは省かれているが、アンジョルラスには大局を見据える確かなリーダーシップがあったということがうかがえるエピソードである)
そうしていよいよ、物語は『Chapitre XXIII – Oreste à jeun et Pylade ivre』つまり『空腹のオレステスと酔っぱらったピュラデス』というチャプターを迎えるのだ。
このタイトルからして誰と誰が主役となっているのかは明らかだろう。
『前日からのバリケード籠城によって空腹になっているアンジョルラス』と『未だ酔いの醒めていないグランテール』だ。
このチャプターはグランテールがアンジョルラスに『ここから出て行け!君はバリケードの恥だ!』と厳しく非難された翌朝頃の話であり、グランテールは周りが激しい戦いを繰り広げている中でも1人眠っていたという状況で展開していく。
以下『Tome V - Jean Valjcan』の『Chapitre XXIII – Oreste à jeun et Pylade ivre』を適宜省略しながら意訳満載で紹介する。
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次々と仲間達が倒れる中、アンジョルラスは警官隊によって1人部屋の隅へと追い詰められていた。
アンジョルラスと警官隊達の間にあるバリケードはビリヤード台1つのみである。
「お前がここのリーダーだな」と銃を向ける警官隊に、アンジョルラスは手に持っていた銃身を投げ捨てて言った。
「さぁ、撃て」
腕を組んで胸を堂々と差し出すアンジョルラス。その大胆さは周囲を一瞬にして静寂で包み込んだ。武器も持たずにじっとこちらを見つめてくる彼はそれまで銃弾が飛び交う中にいたとは思えないほど傷一つなく見事なまでに魅力的で、誇り高さに満ち、返り血などを浴びてもなお 美しかったのだ。
後に軍法会議が開かれた際『アポロ(ギリシャ神話の神)という名の反乱者がいたそうだ』と話されたのはおそらく彼のことを指してのものだっただろう。
アンジョルラスを狙っていた警官隊12人が『まるで花を撃てと言われているかのようだ…』と思わず構えていた武器を下ろしたほどである。
目隠しすらも拒みながら、彼はまっすぐに警官隊を見据えて威圧した。
~中略~
グランテールはほんの数分前に目を覚ました。
それまでの彼はまさに『泥酔』という言葉そのものを体現したように眠っていたのだ。
彼が突っ伏していた机は小さく、バリケードにも使えないようなものだったので誰も起こそうとしなかったのだろう。
周囲が銃弾や砲弾による激しい騒音に包まれていても彼はたまにいびきをかくなどして眠り続けていた。
すでに周りには何人もの人が倒れており、警官隊も彼がただ眠っているだけなのだとは思わなかったに違いない。
酔っぱらいというのは周りがどれだけ騒がしくしていようとも起きることはないのだが、その代わり 静寂に包まれるとにわかに目を覚ますものである。
彼もそうだった。
どんなに周囲がうるさくても構わず眠り続けていた彼はアンジョルラスの堂々とした態度がもたらした静寂によってふっと目を覚ましたのだ。
例えるならば、それまで走っていた乗り物が急停止したことで眠っていた乗客達の目が覚めたりするようなものである。
ハッとして立ち上がったグランテールは、腕を伸ばして目をこすり、あくびをしながら状況を見て理解した。
警官隊の面々は部屋の隅に追いやられたビリヤード台の向こう側にいるアンジョルラスにしか目を向けておらず、グランテールの存在には一切気が付いていない。
『狙え!』という命令が警官隊に下されようとしたその時、突然隣から「共和国 万歳!」という大きな声が聞こえてきた。
そこで繰り広げられた輝かしい戦闘の数々がその酔っぱらいの瞳の中に映る。
「共和国 万歳!」
彼はそう繰り返しながらしっかりとした足取りでアンジョルラスのそばに寄っていき、そして銃口の前に立って言った。
「一発で俺達2人を片付けてくれ」
そしてグランテールはアンジョルラスに向き直った。
「許してくれるか?」
アンジョルラスは微笑みながらグランテールの手を握る。
その微笑みは銃声が鳴り響いた後も終わらなかった。
8発の弾に射抜かれたアンジョルラスは項垂れながら壁にもたれかかり、グランテールは雷に打たれかのようにその足元に倒れた
『Chapitre XXIII – Oreste à jeun et Pylade ivre』(全体の26%に相当する128ページ)
※読みやすいようかなり省略し、意訳を多めにしています
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…いかがだろうか。これが彼らの結末である。
銃を突き付けられながらも誇り高く胸を張り、目隠しすらも拒んで警官隊を圧倒したアンジョルラス。そして酔って寝ていたせいでちっとも戦いには参加しなかったものの、アンジョルラスのそばへとしっかりとした足取りで向かったグランテール。
彼らが手を取り合って最期を迎えた、というのはとても印象的なのではないだろうか。
しかもそこに至るまでの経緯も素晴らしいのである。
1人で散る覚悟をしていたところに『共和国 万歳!』と言いながらグランテールが現れたのだから、アンジョルラスは『革命に対する情熱なんかこれっぽっちもないくせに…なに一丁前なことを言ってるんだ』と思ったことだろう。しかし彼は『俺達2人を一発で片付けてくれ』『(君と同じ弾丸に倒れることを)許してくれるか?』というグランテールのまっすぐな言葉に思わず笑みをこぼし、その手を握ることで応えたのだ。
グランテールの『許してくれるか?』という言葉は、つまり『君と同じ日の同じ時間に、同じ場所で、同じ弾に撃たれても散ってもいいか?』ということであり、さらにその前夜に言った『【ここで眠らせてくれないか】【ここで眠らせてくれ。ここで、死ぬまで】という願いを叶えてもいいか?』ということだったのである。
グランテールに対してずっと『酔っぱらってふざけてばかりいるヤツ』という印象を持っていたに違いないアンジョルラスは、この時になって初めてグランテールが言っていたことすべては彼なりの本気によるものだったのだと理解し、そしてそれを承諾したのだ。
なんだかもう、これだけでお腹がいっぱいになるだろう。
しかしこの場面におけるもっとも重要なのはその後の一文(表現)なのであるということを強調しておきたい。
彼らにはもっと決定的な示唆が著者ヴィクトル・ユーゴーの手によってなされているのだ。
重要な表現というのはグランテールが倒れた際に使われている『雷に打たれたかのように』というものである。
この部分の原文は『foudroyé, s’abattit à ses pieds.』、直訳すると『雷に打たれて倒れた』だ。
ではなぜこの表現が重要だというのか。
それは、フランス語では『Coup de foudre(雷の一撃)』という言葉が『一目惚れ』を意味する比喩(慣用句)として使われているという事実があるからである。
全く同じというわけではないが、『雷に打たれた』というのは『雷の一撃を食らった』ということだろう。それが意味するものは大きく変わらない。つまりそういうことなのだ。
この部分をもう少し考察してみると…
それまでのグランテールはたしかにアンジョルラスに対して特別な想いを抱いていたものの、彼自身にもその想いの正体というのがはっきりとしておらず、ただ漠然と『そばにいたい』『倒れるなら彼のそばで』と思っていただけだった。
しかし、同じ銃弾に倒れることに対しての許しを請った時に彼は初めてアンジョルラスから微笑みを向けられ、まさしく彼に『一目惚れ』をしたのだ。
軽蔑されるばかりで微笑みかけられることもなかったグランテールはそれでもアンジョルラスのことを『大理石でできているかのような美しさだ』と褒め讃えていたのだから、初めて微笑み(それも自分に向けられたもの)を目にしたとなればに落ちずにはいられなかっただろう。
このごく短い一文にはそれだけの意味が込められている。
もはや著者ヴィクトル・ユーゴーによる『これまで色々と散りばめてきたんだし、伝わってないなんてことはないよな…いや、もう、だからこういうことなんだよ…!』というダメ押し感があることすら否めない。
※ちなみにこの部分は翻訳家によってはまったく重要視されていないこともあり、慣用句としての表現である『雷に打たれた』をただ単に『銃で撃たれた衝撃』として翻訳している本もある。こうした原作における重要な表現を取り逃してしまう可能性があるので、翻訳だけではなくぜひ原書にも親しみを持っていただきたい…
ーーーーー
原作において彼ら2人について言及されている部分というのはこれですべてだ。
登場から退場に至るまで、そう多くはないもののかなりしっかりとした場面が描き出されているということがお分かりいただけたことだろう。
次のページではこれまでのすべてを振り返りながら『結論』と称して蓬屋なりの考察をお伝えしていこうと思う。
ぜひ最後までお付き合いいただきたい。
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