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番外編
『喧嘩』前編
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「んっ、く、くまぁ…あっ、あっ…」
薄明かりが照らす食堂の2階。
寝台の上で向き合って座っている『熊』に跨った彼は体を上下させ、天井を仰ぎ見ながら愉悦の声をもらす。
自身の重さで深く突かれることはもちろんだが、腕を回し、互いに固く抱きしめ合いながら快感を得ることができるこの体位は彼が最近好んでいる体位だ。
「今日は…特にキツいね。そんなに気持ちいい?」
「ん…うん…」
「…かわいいな」
胸を舌でなぞられ、彼は嬌声をあげながら動きを止めた。
吸われ、舐められる度にビリビリとした感覚が全身を駆け巡り、足や腰から一切の力を失わせてしまう。
後ろに『熊』のものを深く咥えこんだまま胸を攻められるのも、彼がこの体位を好む理由の1つだ。
抱き合い、胸を攻められながら軽く前後に揺り動かされると、彼の中はまた大きく硬いものにかき回され、突かれるのとはまた違う快感に晒される。
彼の前のものも痛いほどに張りつめ、漏れ出る嬌声は荒い吐息へと変わっていく。
「仰向けになって。…奥まで突いてあげる」
頷くことさえままならない状態の彼は体位を変えられるのさえもされるがままだ。
ゆっくりと背を寝具につけられ、覆い被さってくる『熊』のためになんとか足を広げると、両足の間からは水音と肌のぶつかり合う音がし始めた。
ーーーーーー
「あぁ…またいい季節になったな。ちょっと湯が冷めてるくらいが丁度いい」
「そうだね」
体を洗い終えた『熊』が彼の入っている湯桶に身を沈めると、適温の湯はざぁっと音を立てて浴室の床へ流れていく。
「なぁ、俺達が一緒になってもうどれくらい経った?6年くらい?」
「うん。6年と8ヶ月」
「そんなに細かく憶えてるのか?まさか日までは分からないだろ」
そのまさかで、軽く笑い声をあげながら言う彼に『熊』は「15日」と答える。
「今、日が変わってたら16日」
「うわ、なんでそんなのまで知ってるんだ…それが合ってるかどうかも俺にはさっぱりだな。でもそうか、6年になるのか…熊はちっとも変わんないね、もうじき30だっていうのにさ、何1つ変わってない」
「…君は随分と様変わりしたよ」
「俺が?へぇ…どこが?」
「色々だよ。例えば…」
6年という月日が経ち、彼は出逢った当時の『熊』の年齢を3つも越していた。
『熊』の言う通り、彼は6年前よりも体つきから何からが変化している。
鉱業地域の奥地で暮らしていた当時は、筋肉はあってもどこか頼りなく、笑顔にも どこか陰りがあった。
しかし、今ではしっかりとした食事のためもあってか筋肉の密度が増し、ややほっそりとした印象にはなっているものの、以前よりずっと頼もしい体躯をしていて、笑顔も心の底からの、明るいものになっている。
さらに、「熊に髪を触られるのが好きだから」という理由で後ろ髪の1部分を伸ばし、毎朝結わせているのも印象を変えた大きな要因の1つだ。
ややほっそりとした体躯は2人共同じでよく似ているため、彼がこうして後ろ髪を伸ばす前はよく後ろ姿で間違えられていた。
「たしかに、まぁ変わったといえば変わったか…でも髪はともかくとして、自分じゃよく分かんないよ」
「そう?」
「うん、そういうもんじゃないかな。他は?ほら、かっこよくなったとか、どう?」
「…かっこよくて、可愛くて、素敵なのはずっと変わらない。変わったのは…」
「…っ!」
胸に触れられて思わず体を跳ねらせてしまった彼は、細めた目を『熊』に向ける。
「へぇ…口で言えばいいのにわざわざ実践するなんてな。思い出した、熊も1つ変わったところがあったよな?俺の『味』にすっかり虜になってる…」
彼が胸元にある『熊』の手を取り、感触を確かめるように何度か握ってから1本の指先に口づけると、『熊』は彼を引き寄せて唇を重ね合わせた。
その口づけは深さを増し、結局互いの首筋を舐め尽くすほどの情熱的なものへと変化する。
「んっ…もう、また…今 体を洗ったばっかなのにな…」
「…」
「ほら、湯桶ではのぼせて散々な目に遇ってきたろ…出よう…」
軽く頷いて応えると、湯桶からあがった『熊』は慎重に彼を抱き上げて浴室の床へ寝かせ、そのまま新たな一戦を始めた。
ーーーーーー
食堂へは実に多くの人々が食事を求めてやってくる。
地域間を物品の配達の為に行き交う人や休みをとって遊びに来た人、作業の忙しさから昼食の用意ができない人。
毎日のように顔を合わせる人もいれば、全く見たことのない人もいる。
昼時は広い食堂が人でいっぱいになるほどの盛況ぶりで目が回るような忙しさになるものの、彼はそれにも慣れ、食器下げなどの手伝いを率先しておこなっては女性達に頼りにされていた。
「兄ちゃんもよく働くよなぁ、疲れないか?」
「うん、このくらい大丈夫だよ」
「おい、そりゃそうだろ!兄ちゃんは若いもんな」
「そうだよ、俺らとは違うよ!この前なんか積荷を降ろすのも軽々とやっててさ、頼もしいったらなかったぞ」
「なんだ?おじさん達、今日は随分と俺をおだててくるな」
すっかり顔馴染みとなった男性達と談笑を交わす彼は、時々おどけたような話し方をしてよく可愛がられている。
「俺をおだてても何もないぞ。…汁物でも、もう1杯もらってこようか?」
「いやいや、いいよ!そんなんじゃないって、本当に感心してるんだ」
「そうそう!俺らは常々言ってるんだよ、『兄ちゃんみたいなのが仕事を手伝ってくれりゃあな』ってさ」
「俺らの息子達は職人になったり城で料理人になったりして離れたから、男手がないんだ。娘は働きもんだけど、力仕事をさせるのは気が引けるし…」
「今はまだいいけど、いつ俺らも動けなくなるか分かんないからな」
男性達の口ぶりやそれとなく家庭事情を話す様子から、彼はその裏にある意図を汲み取って笑みをこぼす。
(わぁ、これ、婿候補ってことかな?でも俺、とっくに誰かさんの夫になってるからなぁ)
後ろの調理場では『熊』がこちらの様子を伺っているのが見なくても分かり、思わず笑い出しそうになるのを堪えながら「悪いけど…」と口を開く。
すると、彼よりも先に横を通りがかった食堂の女性が「ちょっと!」と声を上げて彼を遮った。
「ここの貴重な働き手を引き抜こうっていうの?やめてちょうだい」
「引き抜きですって!?この子を?」
「いや、手伝ってくれたら楽だと…」
「いい?ここの男手は絶対に渡さないわよ、居なくなったら困るんだから!」
「他をあたってちょうだい!」
2人の女性にきっぱりと言われてたじろぐ男性達に、彼は「俺は人気だなぁ」とのんびり笑顔で言った。
ーーーーーー
「なぁ、さっきの、聞いてたんだろ。ん?」
昼時を過ぎ、すっかりガラガラになった食堂の厨房で彼は『熊』にニコニコと尋ねる。
「聞き耳、立ててたよな?」
「…何の話かよく…」
「もう、しらばっくれちゃって。6年も一緒に居るんだ、熊のことは知り尽くしてるんだぞ。だいたいさ、いつも俺のことを気にしてるくせに こういう時だけ誤魔化そうとしてどうするんだ?…なぁ、今、熊が考えてることを当てようか…」
彼が声を潜めて『熊』に近付くと、食堂の扉が開いて「すみません、あの…」と1人の女性が入ってきた。
「今、おやすみ…ですか?」
「いいえ、大丈夫よ。お食事?」
「いえ、あの…こちらのお菓子を貰ってきてほしいと母から頼まれまして…」
「あら、おつかい?お菓子ね、もちろんいいわよ」
「ありがとうございます」
10代の大人しそうな少女は母親から持たされたらしいかごを携えていて、それを受け取った食堂の女性達は常備しているものと簡単に作れる数種類の菓子を用意し始めた。
広い陸国ではそれぞれの地域に特色があり、それらは料理にも色濃くあらわれている。
工芸地域に属しているこの食堂では地域を代表する木の実などを使った菓子が主に用意されていて、こうして他地域の人々が菓子や料理を求めてやってくることも少なくない。
この少女も遣いに来るのは初めてのようだが、菓子には以前から強い関心があったらしく、女性達が「用意している間に一息ついてね」とお茶や菓子を差し出すと嬉しそうにお礼を言った。
「すごくいい香り…お茶までいただいて、ありがとうございます」
「いいのよ、そんなに遠慮しないで。やっぱりお菓子にはお茶がなくちゃね。お嬢さんはどこから来たの?」
「農業地域です、漁業地域寄りの。母が元々この辺りの出身で…よく工芸地域のお菓子の話をしてはいたんですが、昨日話していたらどうしても食べたくなったみたいで私にお遣いを…」
「あら、そうだったの!」
「ここまで来るのは大変だったでしょう?焼き上がるまでにそんなに時間はかからないけど、ゆっくり休んでから帰ってちょうだいね」
「あ…ありがとうございます」
和やかな雰囲気の食堂や女性達に囲まれ、すっかり緊張が解けた少女は菓子を口に運んでは「美味しいです、とても」と笑みを見せる。
特に目立つような娘ではないが、柔らかく、人当たりの良い印象だ。
「あの子、若いなぁ。もしかしたら熊の半分くらいの歳じゃないか?」
「…そうかな」
「まぁ、『歳だけで言えば』な。熊は若々しいし、俺より歳下だって言っても信じられる気がする。…この鍋、片付けてくるよ」
「うん」
「そこのもちょうだい、一緒に持ってくから」
彼はいくつかの調理器具と鍋とをまとめて持つと、裏の倉庫へと向かい、慣れた様子で1つずつ収納していく。
昼の片付けがすべて済むと次は余った材料を使って女性達がそれぞれの家庭に持ち帰るための夕食を数品作ることになっているため、彼は持ってきたものをしまい終えると、今度は小鍋などを持ち出した。
これも彼にとっては毎日のことだ。
食堂ではすっかり打ち解けた女性達が少女を中心に何やら楽しげに話していて、とても賑やかになっていた。
「…なんだ、随分と楽しそうにしてるな」
「うん。焼き菓子は木の実と茶葉、どっちが好きかって話になって」
「あぁー、それはどっちも捨てがたいな。選ぶことなんかできないけど、どっちか1つ選ぶとしたら…うーん…そうだな、俺は…」
「茶葉、だよね」
「うん!さすが分かってるな、熊!あれはいくらでも食べれちゃうから危ないんだ、本当に」
彼は持ち出してきた小鍋などを並べながら声を潜めてさらに続ける。
「でも、もっと言えばさ、ただの茶葉の菓子じゃなくて『熊が作った茶葉の焼き菓子』が1番なんだ…」
「……」
「熊、照れてんのか?もう何度もこんなことを言ってきたっていうのに、まだ照れるのか」
顔を背ける『熊』に、彼は満面の笑みを見せた。
「ねぇ、そろそろ焼き上がるわよ!」
「お嬢さんもこっちにおいで、焼き立ての香りを味わっていきなさい」
「わぁ…!ありがとうございます!」
女性達が窯の周りに集まれるよう、彼と『熊』はそっと厨房の奥の方に移動して場所をあける。
窯から出された菓子は美しい色に焼き上げられていて、それを見た女性達は「もう…どっちも美味しいそう」「木の実も茶葉も、どっちも食べればいいわよ」とくすくす笑い合った。
厨房の台に置かれた3枚の天板にはそれぞれ木の実、茶葉、そして何も入っていない普通の焼き菓子がのっている。
いそいそとお茶の支度が進められているのを見ると、少女が持ち帰る分以外は女性達の休憩のお供となるようだ。
(あ、この天板、ちょっと不安定じゃないか…?)
彼は1番端の、自らの前に置かれた天板が僅かにぐらついたのを見た。
だが、それもほんの一瞬のことで、今見てもまったく他と変わりないように見える。
(…まぁ、天板自体にも重さはあるし、菓子ものってるからな。そんな簡単には落っこちたりしないだろう。まだ熱いし、下手に触らないほうがいいか)
そう考えた彼が何気なく1つずつ盛られていく菓子を見ていると、最後の1つが無くなった瞬間、天板はわずかにぐらついて再び斜めになった。
(あっ、危ない…)
天板の滑り落ちそうな先には少女がいる。
彼は咄嗟に天板へと手を伸ばしたが、それよりも先に視界へと別の手が伸びてきていた。
「く、熊!」
「…大丈夫」
それは『熊』の手だった。
滑り落ちる前に軽く跳ね上げて台の上へ戻したために天板は床へ落ちることもなかったが、そんなことは彼にとってはどうでもいいことだ。
「やだ、大丈夫!?火傷したでしょう?」
「ううん、一瞬だったから。これくらい大丈夫だよ」
騒然とする中、彼は「えっと…まぁ、一応さ」と口を開く。
「いくら一瞬だったとしても冷やしたほうがいいことはいいだろ、な?うん。俺、水汲んでやるからさ、来いよ」
「うん」
裏口の方へと『熊』を連れていった彼は、扉を閉めると、すぐさま冷たい水を汲み出して『熊』の手を冷やし始めた。
天板が触れたらしい部分は赤く、熱を持っているようだ。
彼は自らの手が冷えるのも構わず、何度も水を汲んでは『熊』の手にかけていく。
「そんなにしなくても大丈夫だよ、少し水に浸けておけばいいから」
「……」
「ね、君の手まで冷えちゃうよ」
彼は自らの内に湧き上がるひどい後悔に打ちのめされながら『熊』の手を冷やし続ける。
(俺…天板がぐらついたのを知ってたのに、それを放っておいた…どうして『大丈夫』なんて思っちゃったんだ、危ないって気付いてたのに…分かってたのに…分かってたのに、こんな…)
「あ、あの…」
「はい」
『熊』の手からどうしても目を離せない彼は、あの少女の声と扉の開く音だけを聞く。
「その…ごめんなさい、その火傷は私が…」
「いえ、違いますよ」
「…そうだよ、お嬢さんのせいじゃない」
「でも…」
「気にすることないんだ、俺が…」
彼がふと少女の方を振り向くと、『熊』は「本当に大丈夫ですから」と微笑んでいた。
その言葉と微笑みは、彼を深く突き刺す。
(熊…お前、どうしてそんな風に微笑むんだよ。はっきり言って、ちっとも大丈夫じゃないだろ。手は料理人の仕事道具だし、いつも怪我をしないようにって気をつけてるのに。それともなんだ、まさかその子に怪我がなかったから、『庇えて良かった』なんて微笑んでるんじゃ…ないよな?)
彼は思っていることが口をついてしまいそうになるのを堪えながら「お嬢さんも驚いたよな」と努めて明るい声を出した。
「気にするなよ、うん」
「ありがとうございます…あの、これ、お使いになってください。火傷によく効く薬ですから」
「あ…うん、ありがとう。えっと、容れ物は…」
「いえ、差し上げます。私、家が穀物とかの焙煎の仕事をしていて…火傷をした人に配るためにいつもこうして持ち歩いているんです。他にもたくさん持っていますから、それはそのままお持ちになってください」
「そっか、それじゃ…」
彼は濡れた手を拭うと、少女から薬の入った容器を受け取った。
ーーーーーー
「…ほら」
「うん、ありがとう」
その日の夜、湯浴みを終えていつものように2階へと上がった彼は『熊』の手に薬を塗り直し、きちんと包帯を巻いて手当を済ませる。
だが、彼のざわついた気持ちは少しも収まっていなかった。
(分かってる、全部俺のせいなんだ。俺があの時、気づいたあの時にちゃんと動いてればこんなことにはならなかったんだから。つまり…だからつまり、熊が怪我をしたのは俺のせい、なんだ…)
彼の心の内には自分自身への怒りと後悔、そしてその他のありとあらゆることが渦巻いていて余裕がない。
「ねぇ」
「…なんだよ」
自分でもはっとしてしまうほど冷たい声が出たことに彼は驚いた。
いくら他に気を取られていたとはいえ、これでは『熊』に悪いと考えた彼はすぐさま「…悪い」と謝る。
「ごめん、俺、その…今日はもう休んだほうがいいよ、熊。な?」
「…うん」
(はぁ…俺、何やってんだ…熊にあんな言い方するのは違うだろ、怪我してるっていうのに…)
彼は机の上の包帯などを片付け終えると、寝台の奥で横になり、再び悶々と考え込んだ。
(なんていうか…俺が悪いのもそうなんだけど、それだけじゃないんだよな…。熊のあの表情は…あの子がどうとかじゃないはずなんだ、多分。だって熊はこの6年間ずっと俺のことしか見てなかったし、心の底から愛し合ってるってのは散々確かめ合ってきたから。だけど…いくらあの子を安心させるためとはいえ、あんな表情をする…もんなのかな。手だって怪我をしてるんだ、治るまでは存分に腕をふるえないのに…はぁ、それもこれも全部俺のせいなんだけどさ…)
彼が奥の方で丸まっていると、部屋の灯りを落とした『熊』が寝台へあがってきた。
暗闇の中、『熊』は彼の肩までを掛け具でしっかりと覆うと、後ろから抱きしめ、耳元へ優しく口づける。
「…何かあったの?」
「……なんでもない」
「…そっか」
『熊』の静かな声音と耳を掠める唇に、彼は涙を流しそうになるのをなんとか堪えようとする。
だが、『熊』が「話したくなったら、言えばいいからね」と言った途端、急に別の思いが込み上げてきた。
(俺が?話したくなったら?なんだ、なんか他人事じゃないか?俺は昼のことでこんな思いをしてるっていうのに、熊はどうしてそんな…いや、違う、違うはずだ。熊があんな表情をしてたのはあの子を、庇った相手を安心させたかったからで…待てよ、『庇った』?そういえば、どうして熊はあんなに早く手が出たんだ?俺よりも天板から遠かったのに。…違う、偶然天板が傾いたのを見たからだ、きっと。でも、でもどうしてあの後あんな表情をしたんだ、怪我をしてるのに、あんな、あんな幸せだとでもいいたげな…)
知らぬうちに彼は起き上がり、わなわなと寝具を握りしめていた。
不安定になった心は、今にもばらばらと崩れ落ちてしまいそうだ。
「…して…」
「うん?」
「どうして…」
1度言葉が口をついてしまうと、もはやそれを止めることはできず、彼は落ち着かない気持ちのまま捲したてる。
「どうして熊は俺に言わせようとするんだ、どうして俺だけがこんな思いをしなきゃならないんだ」
「ど、どうしたの…」
「どうした?心当たりが無いっていうのか?もう、なんで俺ばっかり…俺から聞こうとするな、ちょっとは自分で考えてみろよ!」
彼は手を握ろうとする『熊』に背を向け、再び横になる。
(こんなはずじゃなかったのに…でも、熊は昼のことを本当になんとも思ってないんだな…熊の心も体も魂も、全部俺のものだって言ってたじゃないか。それなのに人を庇って怪我をした挙げ句にあんな表情を…そうだ、これだ。熊は俺のものなのに。俺ものなのに怪我をして、なんともないって…傷1つ付けるなって言ったのに、こんなことがあるか?それもこれも、俺がしっかりしてなかったからなんだ、そうだ、全部俺のせいで…)
彼は深い自己嫌悪に沈んでいった。
ーーーーーー
『熊』から何も話がないまま日々は過ぎて行き、最初はひどく取り乱していた彼も次第に落ち着きを取り戻していく。
毎日怪我の手当をしてやる他は体に触れることもなく、会話も最小限になっていたが、むしろ彼にはこれも冷静さを取り戻すのに必要だったのだと思える。
『熊』は意図して彼の好物ばかりを作って食べさせてきたが、彼は(熊がなにか話すまでは)とあえて反応しなかった。
1度、茶葉の焼き菓子を作って出してきたこともあったが、それらをそのまま全て食べてしまうのはなんだか負けのような気がして、結局『熊』の前では1つ2つ口に運んだだけだ。
もっとも、後から隠れて全て食べたのだが。
(もう喧嘩…みたいなことをしてから1週間か。いや、8日は経ったのかな?つまりそれは俺らが最後にシてからそれだけ経ったってことだけど…はぁ、まさかこんなことになるとは思いもしなかったよ。俺達はいつまでも夜は抱き合うものだとばっかり思ってたからな…でもいつまでも毎日ヤるとは思えないし、いいきっかけにはなったのかも。いや、このままじゃ良くないけどさ)
彼は真っ暗な寝台の上で寝返りを打ち、隣で眠る『熊』を見る。
(いい加減話し合わなきゃだめだよな…だけど、俺からは話しづらいっていうか…そもそも、なんで熊は何も言い出さないんだよ。まさかもうずっとこのままか?そんなわけないだろ?いつまでこんなことを続けるつもりなんだよ。ろくに会話もしないしさ…俺達はまだ若いんだし、頻度を落とすにしたってヤりたいことはヤりたいはずだろ……あぁ、まずいな、ここで思い出すのはまずい…)
彼は自身の後ろと前が疼くのを感じて眉をひそめた。
この数日間、1度も『その気』が起きなかったにもかかわらず、何度も体を合わせてきた寝台の上で横にいる『熊』の寝顔を見ていると つい眠っていた感覚を呼び覚まされてしまう。
(はぁ…本当にまずいぞ、シたくなってきた。ちょっとでも思い出しちゃうと、もうこの寝台とか熊の匂いに引きずられて…どうしよう、そもそも1週間以上出してないからな、これは収まりそうにないぞ。となるとやることは1つなんだけど…)
しばらくの間じっと『熊』の様子を窺うものの、目を閉じて規則正しく呼吸している『熊』からは起きる気配がまったく感じられない。
(…どうせ起きないよな、熊は。もう暖かくなってきたから寝起きはそこまで悪いわけじゃないけど、それでもやっぱり寝起きがいいとは言えないし。こんな夜中なんか尚更だろ。うん、音を立てないようにすればいいんだ。起こさないようにすれば…別に浮気をしようとかってわけじゃないんだし、うん。いいよな、ちょっと自分で気持ちよくなるくらい…)
彼は『熊』に背を向けると、そっと下衣の布越しにある自らのものに手を伸ばした。
(熊が俺のに触るときは口づけをしながら…はぁ、今日はそれがないけど仕方ないよな…こうやってまず全体と先とを交互に触ってもっと勃つまで…)
「ん…んっ……」
(こ、声出る…我慢はしたことないから…まぁなんとかなるだろ。どうせもう止めらんないし…)
彼は上衣の端を咥えると、布越しに触れている手を少しだけ早める。
(久しぶりだからかな…出るのも早そうだ。もう直接触っちゃおう、熊がやるみたいに俺も…んっ、そうだ、こうやって…)
手を動かすとどうしても寝具と擦れて音が出てしまうため、彼は全体を扱うのではなく、なるべく先端の方を握ったりすることで快感を得ることにした。
直接触れていると次第に先端から濡れ始め、拍動を強めていく。
彼はそこで刺激の物足りなさに気づいた。
(あぁ…後ろも…後ろもヤりたい…でもだめだよな、さすがに。そんなことをしたら俺もどうなるか分かんないし…そもそも用意してないから後が面倒になる。でも…うぅ…明日…明日、湯を浴びてる時にヤるんだったら別に良いよな…そうだ、せめて明日にしよう、後ろは…今はとりあえずこっちだけ…前だけで…)
「んっ……」
僅かに漏れ出る声を抑え込むには上衣を咥えただけでは不十分で、彼は寝具に顔を埋めるようにしてやり過ごそうとする。
高まる愉悦は理性を失わせていくため、擦る手による音を少しでも少なくしようと、彼はほとんどうつ伏せになりながら下の部分に空間を作って手の動きを早めた。
くぐもった声は自らの耳に大きく響き、一体どれほど外に聞こえているかは分からない。
(あっ、で、でる…んんっ、でちゃ…でちゃう…あっ、あぁっ…!!!)
手の中に熱く粘つくものが広がる。
快感が弾けるのと同時に力が抜けた体は、しっかりと掛け具に覆われていることもあって若干汗ばんでいる。
いくらか呼吸が収まるのを待ってから、彼は手巾を取り出して自らについた痕跡を拭い始めた。
(暑っ…汗までかいたな…久しぶりだったからすごく出たし…今日はもう…よく眠れそう…)
後始末を終えてからきちんと寝間着を整えた彼は、快感の後から打ち寄せる心地いい疲労感に包まれ、そのまま深い眠りに落ちていった。
薄明かりが照らす食堂の2階。
寝台の上で向き合って座っている『熊』に跨った彼は体を上下させ、天井を仰ぎ見ながら愉悦の声をもらす。
自身の重さで深く突かれることはもちろんだが、腕を回し、互いに固く抱きしめ合いながら快感を得ることができるこの体位は彼が最近好んでいる体位だ。
「今日は…特にキツいね。そんなに気持ちいい?」
「ん…うん…」
「…かわいいな」
胸を舌でなぞられ、彼は嬌声をあげながら動きを止めた。
吸われ、舐められる度にビリビリとした感覚が全身を駆け巡り、足や腰から一切の力を失わせてしまう。
後ろに『熊』のものを深く咥えこんだまま胸を攻められるのも、彼がこの体位を好む理由の1つだ。
抱き合い、胸を攻められながら軽く前後に揺り動かされると、彼の中はまた大きく硬いものにかき回され、突かれるのとはまた違う快感に晒される。
彼の前のものも痛いほどに張りつめ、漏れ出る嬌声は荒い吐息へと変わっていく。
「仰向けになって。…奥まで突いてあげる」
頷くことさえままならない状態の彼は体位を変えられるのさえもされるがままだ。
ゆっくりと背を寝具につけられ、覆い被さってくる『熊』のためになんとか足を広げると、両足の間からは水音と肌のぶつかり合う音がし始めた。
ーーーーーー
「あぁ…またいい季節になったな。ちょっと湯が冷めてるくらいが丁度いい」
「そうだね」
体を洗い終えた『熊』が彼の入っている湯桶に身を沈めると、適温の湯はざぁっと音を立てて浴室の床へ流れていく。
「なぁ、俺達が一緒になってもうどれくらい経った?6年くらい?」
「うん。6年と8ヶ月」
「そんなに細かく憶えてるのか?まさか日までは分からないだろ」
そのまさかで、軽く笑い声をあげながら言う彼に『熊』は「15日」と答える。
「今、日が変わってたら16日」
「うわ、なんでそんなのまで知ってるんだ…それが合ってるかどうかも俺にはさっぱりだな。でもそうか、6年になるのか…熊はちっとも変わんないね、もうじき30だっていうのにさ、何1つ変わってない」
「…君は随分と様変わりしたよ」
「俺が?へぇ…どこが?」
「色々だよ。例えば…」
6年という月日が経ち、彼は出逢った当時の『熊』の年齢を3つも越していた。
『熊』の言う通り、彼は6年前よりも体つきから何からが変化している。
鉱業地域の奥地で暮らしていた当時は、筋肉はあってもどこか頼りなく、笑顔にも どこか陰りがあった。
しかし、今ではしっかりとした食事のためもあってか筋肉の密度が増し、ややほっそりとした印象にはなっているものの、以前よりずっと頼もしい体躯をしていて、笑顔も心の底からの、明るいものになっている。
さらに、「熊に髪を触られるのが好きだから」という理由で後ろ髪の1部分を伸ばし、毎朝結わせているのも印象を変えた大きな要因の1つだ。
ややほっそりとした体躯は2人共同じでよく似ているため、彼がこうして後ろ髪を伸ばす前はよく後ろ姿で間違えられていた。
「たしかに、まぁ変わったといえば変わったか…でも髪はともかくとして、自分じゃよく分かんないよ」
「そう?」
「うん、そういうもんじゃないかな。他は?ほら、かっこよくなったとか、どう?」
「…かっこよくて、可愛くて、素敵なのはずっと変わらない。変わったのは…」
「…っ!」
胸に触れられて思わず体を跳ねらせてしまった彼は、細めた目を『熊』に向ける。
「へぇ…口で言えばいいのにわざわざ実践するなんてな。思い出した、熊も1つ変わったところがあったよな?俺の『味』にすっかり虜になってる…」
彼が胸元にある『熊』の手を取り、感触を確かめるように何度か握ってから1本の指先に口づけると、『熊』は彼を引き寄せて唇を重ね合わせた。
その口づけは深さを増し、結局互いの首筋を舐め尽くすほどの情熱的なものへと変化する。
「んっ…もう、また…今 体を洗ったばっかなのにな…」
「…」
「ほら、湯桶ではのぼせて散々な目に遇ってきたろ…出よう…」
軽く頷いて応えると、湯桶からあがった『熊』は慎重に彼を抱き上げて浴室の床へ寝かせ、そのまま新たな一戦を始めた。
ーーーーーー
食堂へは実に多くの人々が食事を求めてやってくる。
地域間を物品の配達の為に行き交う人や休みをとって遊びに来た人、作業の忙しさから昼食の用意ができない人。
毎日のように顔を合わせる人もいれば、全く見たことのない人もいる。
昼時は広い食堂が人でいっぱいになるほどの盛況ぶりで目が回るような忙しさになるものの、彼はそれにも慣れ、食器下げなどの手伝いを率先しておこなっては女性達に頼りにされていた。
「兄ちゃんもよく働くよなぁ、疲れないか?」
「うん、このくらい大丈夫だよ」
「おい、そりゃそうだろ!兄ちゃんは若いもんな」
「そうだよ、俺らとは違うよ!この前なんか積荷を降ろすのも軽々とやっててさ、頼もしいったらなかったぞ」
「なんだ?おじさん達、今日は随分と俺をおだててくるな」
すっかり顔馴染みとなった男性達と談笑を交わす彼は、時々おどけたような話し方をしてよく可愛がられている。
「俺をおだてても何もないぞ。…汁物でも、もう1杯もらってこようか?」
「いやいや、いいよ!そんなんじゃないって、本当に感心してるんだ」
「そうそう!俺らは常々言ってるんだよ、『兄ちゃんみたいなのが仕事を手伝ってくれりゃあな』ってさ」
「俺らの息子達は職人になったり城で料理人になったりして離れたから、男手がないんだ。娘は働きもんだけど、力仕事をさせるのは気が引けるし…」
「今はまだいいけど、いつ俺らも動けなくなるか分かんないからな」
男性達の口ぶりやそれとなく家庭事情を話す様子から、彼はその裏にある意図を汲み取って笑みをこぼす。
(わぁ、これ、婿候補ってことかな?でも俺、とっくに誰かさんの夫になってるからなぁ)
後ろの調理場では『熊』がこちらの様子を伺っているのが見なくても分かり、思わず笑い出しそうになるのを堪えながら「悪いけど…」と口を開く。
すると、彼よりも先に横を通りがかった食堂の女性が「ちょっと!」と声を上げて彼を遮った。
「ここの貴重な働き手を引き抜こうっていうの?やめてちょうだい」
「引き抜きですって!?この子を?」
「いや、手伝ってくれたら楽だと…」
「いい?ここの男手は絶対に渡さないわよ、居なくなったら困るんだから!」
「他をあたってちょうだい!」
2人の女性にきっぱりと言われてたじろぐ男性達に、彼は「俺は人気だなぁ」とのんびり笑顔で言った。
ーーーーーー
「なぁ、さっきの、聞いてたんだろ。ん?」
昼時を過ぎ、すっかりガラガラになった食堂の厨房で彼は『熊』にニコニコと尋ねる。
「聞き耳、立ててたよな?」
「…何の話かよく…」
「もう、しらばっくれちゃって。6年も一緒に居るんだ、熊のことは知り尽くしてるんだぞ。だいたいさ、いつも俺のことを気にしてるくせに こういう時だけ誤魔化そうとしてどうするんだ?…なぁ、今、熊が考えてることを当てようか…」
彼が声を潜めて『熊』に近付くと、食堂の扉が開いて「すみません、あの…」と1人の女性が入ってきた。
「今、おやすみ…ですか?」
「いいえ、大丈夫よ。お食事?」
「いえ、あの…こちらのお菓子を貰ってきてほしいと母から頼まれまして…」
「あら、おつかい?お菓子ね、もちろんいいわよ」
「ありがとうございます」
10代の大人しそうな少女は母親から持たされたらしいかごを携えていて、それを受け取った食堂の女性達は常備しているものと簡単に作れる数種類の菓子を用意し始めた。
広い陸国ではそれぞれの地域に特色があり、それらは料理にも色濃くあらわれている。
工芸地域に属しているこの食堂では地域を代表する木の実などを使った菓子が主に用意されていて、こうして他地域の人々が菓子や料理を求めてやってくることも少なくない。
この少女も遣いに来るのは初めてのようだが、菓子には以前から強い関心があったらしく、女性達が「用意している間に一息ついてね」とお茶や菓子を差し出すと嬉しそうにお礼を言った。
「すごくいい香り…お茶までいただいて、ありがとうございます」
「いいのよ、そんなに遠慮しないで。やっぱりお菓子にはお茶がなくちゃね。お嬢さんはどこから来たの?」
「農業地域です、漁業地域寄りの。母が元々この辺りの出身で…よく工芸地域のお菓子の話をしてはいたんですが、昨日話していたらどうしても食べたくなったみたいで私にお遣いを…」
「あら、そうだったの!」
「ここまで来るのは大変だったでしょう?焼き上がるまでにそんなに時間はかからないけど、ゆっくり休んでから帰ってちょうだいね」
「あ…ありがとうございます」
和やかな雰囲気の食堂や女性達に囲まれ、すっかり緊張が解けた少女は菓子を口に運んでは「美味しいです、とても」と笑みを見せる。
特に目立つような娘ではないが、柔らかく、人当たりの良い印象だ。
「あの子、若いなぁ。もしかしたら熊の半分くらいの歳じゃないか?」
「…そうかな」
「まぁ、『歳だけで言えば』な。熊は若々しいし、俺より歳下だって言っても信じられる気がする。…この鍋、片付けてくるよ」
「うん」
「そこのもちょうだい、一緒に持ってくから」
彼はいくつかの調理器具と鍋とをまとめて持つと、裏の倉庫へと向かい、慣れた様子で1つずつ収納していく。
昼の片付けがすべて済むと次は余った材料を使って女性達がそれぞれの家庭に持ち帰るための夕食を数品作ることになっているため、彼は持ってきたものをしまい終えると、今度は小鍋などを持ち出した。
これも彼にとっては毎日のことだ。
食堂ではすっかり打ち解けた女性達が少女を中心に何やら楽しげに話していて、とても賑やかになっていた。
「…なんだ、随分と楽しそうにしてるな」
「うん。焼き菓子は木の実と茶葉、どっちが好きかって話になって」
「あぁー、それはどっちも捨てがたいな。選ぶことなんかできないけど、どっちか1つ選ぶとしたら…うーん…そうだな、俺は…」
「茶葉、だよね」
「うん!さすが分かってるな、熊!あれはいくらでも食べれちゃうから危ないんだ、本当に」
彼は持ち出してきた小鍋などを並べながら声を潜めてさらに続ける。
「でも、もっと言えばさ、ただの茶葉の菓子じゃなくて『熊が作った茶葉の焼き菓子』が1番なんだ…」
「……」
「熊、照れてんのか?もう何度もこんなことを言ってきたっていうのに、まだ照れるのか」
顔を背ける『熊』に、彼は満面の笑みを見せた。
「ねぇ、そろそろ焼き上がるわよ!」
「お嬢さんもこっちにおいで、焼き立ての香りを味わっていきなさい」
「わぁ…!ありがとうございます!」
女性達が窯の周りに集まれるよう、彼と『熊』はそっと厨房の奥の方に移動して場所をあける。
窯から出された菓子は美しい色に焼き上げられていて、それを見た女性達は「もう…どっちも美味しいそう」「木の実も茶葉も、どっちも食べればいいわよ」とくすくす笑い合った。
厨房の台に置かれた3枚の天板にはそれぞれ木の実、茶葉、そして何も入っていない普通の焼き菓子がのっている。
いそいそとお茶の支度が進められているのを見ると、少女が持ち帰る分以外は女性達の休憩のお供となるようだ。
(あ、この天板、ちょっと不安定じゃないか…?)
彼は1番端の、自らの前に置かれた天板が僅かにぐらついたのを見た。
だが、それもほんの一瞬のことで、今見てもまったく他と変わりないように見える。
(…まぁ、天板自体にも重さはあるし、菓子ものってるからな。そんな簡単には落っこちたりしないだろう。まだ熱いし、下手に触らないほうがいいか)
そう考えた彼が何気なく1つずつ盛られていく菓子を見ていると、最後の1つが無くなった瞬間、天板はわずかにぐらついて再び斜めになった。
(あっ、危ない…)
天板の滑り落ちそうな先には少女がいる。
彼は咄嗟に天板へと手を伸ばしたが、それよりも先に視界へと別の手が伸びてきていた。
「く、熊!」
「…大丈夫」
それは『熊』の手だった。
滑り落ちる前に軽く跳ね上げて台の上へ戻したために天板は床へ落ちることもなかったが、そんなことは彼にとってはどうでもいいことだ。
「やだ、大丈夫!?火傷したでしょう?」
「ううん、一瞬だったから。これくらい大丈夫だよ」
騒然とする中、彼は「えっと…まぁ、一応さ」と口を開く。
「いくら一瞬だったとしても冷やしたほうがいいことはいいだろ、な?うん。俺、水汲んでやるからさ、来いよ」
「うん」
裏口の方へと『熊』を連れていった彼は、扉を閉めると、すぐさま冷たい水を汲み出して『熊』の手を冷やし始めた。
天板が触れたらしい部分は赤く、熱を持っているようだ。
彼は自らの手が冷えるのも構わず、何度も水を汲んでは『熊』の手にかけていく。
「そんなにしなくても大丈夫だよ、少し水に浸けておけばいいから」
「……」
「ね、君の手まで冷えちゃうよ」
彼は自らの内に湧き上がるひどい後悔に打ちのめされながら『熊』の手を冷やし続ける。
(俺…天板がぐらついたのを知ってたのに、それを放っておいた…どうして『大丈夫』なんて思っちゃったんだ、危ないって気付いてたのに…分かってたのに…分かってたのに、こんな…)
「あ、あの…」
「はい」
『熊』の手からどうしても目を離せない彼は、あの少女の声と扉の開く音だけを聞く。
「その…ごめんなさい、その火傷は私が…」
「いえ、違いますよ」
「…そうだよ、お嬢さんのせいじゃない」
「でも…」
「気にすることないんだ、俺が…」
彼がふと少女の方を振り向くと、『熊』は「本当に大丈夫ですから」と微笑んでいた。
その言葉と微笑みは、彼を深く突き刺す。
(熊…お前、どうしてそんな風に微笑むんだよ。はっきり言って、ちっとも大丈夫じゃないだろ。手は料理人の仕事道具だし、いつも怪我をしないようにって気をつけてるのに。それともなんだ、まさかその子に怪我がなかったから、『庇えて良かった』なんて微笑んでるんじゃ…ないよな?)
彼は思っていることが口をついてしまいそうになるのを堪えながら「お嬢さんも驚いたよな」と努めて明るい声を出した。
「気にするなよ、うん」
「ありがとうございます…あの、これ、お使いになってください。火傷によく効く薬ですから」
「あ…うん、ありがとう。えっと、容れ物は…」
「いえ、差し上げます。私、家が穀物とかの焙煎の仕事をしていて…火傷をした人に配るためにいつもこうして持ち歩いているんです。他にもたくさん持っていますから、それはそのままお持ちになってください」
「そっか、それじゃ…」
彼は濡れた手を拭うと、少女から薬の入った容器を受け取った。
ーーーーーー
「…ほら」
「うん、ありがとう」
その日の夜、湯浴みを終えていつものように2階へと上がった彼は『熊』の手に薬を塗り直し、きちんと包帯を巻いて手当を済ませる。
だが、彼のざわついた気持ちは少しも収まっていなかった。
(分かってる、全部俺のせいなんだ。俺があの時、気づいたあの時にちゃんと動いてればこんなことにはならなかったんだから。つまり…だからつまり、熊が怪我をしたのは俺のせい、なんだ…)
彼の心の内には自分自身への怒りと後悔、そしてその他のありとあらゆることが渦巻いていて余裕がない。
「ねぇ」
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自分でもはっとしてしまうほど冷たい声が出たことに彼は驚いた。
いくら他に気を取られていたとはいえ、これでは『熊』に悪いと考えた彼はすぐさま「…悪い」と謝る。
「ごめん、俺、その…今日はもう休んだほうがいいよ、熊。な?」
「…うん」
(はぁ…俺、何やってんだ…熊にあんな言い方するのは違うだろ、怪我してるっていうのに…)
彼は机の上の包帯などを片付け終えると、寝台の奥で横になり、再び悶々と考え込んだ。
(なんていうか…俺が悪いのもそうなんだけど、それだけじゃないんだよな…。熊のあの表情は…あの子がどうとかじゃないはずなんだ、多分。だって熊はこの6年間ずっと俺のことしか見てなかったし、心の底から愛し合ってるってのは散々確かめ合ってきたから。だけど…いくらあの子を安心させるためとはいえ、あんな表情をする…もんなのかな。手だって怪我をしてるんだ、治るまでは存分に腕をふるえないのに…はぁ、それもこれも全部俺のせいなんだけどさ…)
彼が奥の方で丸まっていると、部屋の灯りを落とした『熊』が寝台へあがってきた。
暗闇の中、『熊』は彼の肩までを掛け具でしっかりと覆うと、後ろから抱きしめ、耳元へ優しく口づける。
「…何かあったの?」
「……なんでもない」
「…そっか」
『熊』の静かな声音と耳を掠める唇に、彼は涙を流しそうになるのをなんとか堪えようとする。
だが、『熊』が「話したくなったら、言えばいいからね」と言った途端、急に別の思いが込み上げてきた。
(俺が?話したくなったら?なんだ、なんか他人事じゃないか?俺は昼のことでこんな思いをしてるっていうのに、熊はどうしてそんな…いや、違う、違うはずだ。熊があんな表情をしてたのはあの子を、庇った相手を安心させたかったからで…待てよ、『庇った』?そういえば、どうして熊はあんなに早く手が出たんだ?俺よりも天板から遠かったのに。…違う、偶然天板が傾いたのを見たからだ、きっと。でも、でもどうしてあの後あんな表情をしたんだ、怪我をしてるのに、あんな、あんな幸せだとでもいいたげな…)
知らぬうちに彼は起き上がり、わなわなと寝具を握りしめていた。
不安定になった心は、今にもばらばらと崩れ落ちてしまいそうだ。
「…して…」
「うん?」
「どうして…」
1度言葉が口をついてしまうと、もはやそれを止めることはできず、彼は落ち着かない気持ちのまま捲したてる。
「どうして熊は俺に言わせようとするんだ、どうして俺だけがこんな思いをしなきゃならないんだ」
「ど、どうしたの…」
「どうした?心当たりが無いっていうのか?もう、なんで俺ばっかり…俺から聞こうとするな、ちょっとは自分で考えてみろよ!」
彼は手を握ろうとする『熊』に背を向け、再び横になる。
(こんなはずじゃなかったのに…でも、熊は昼のことを本当になんとも思ってないんだな…熊の心も体も魂も、全部俺のものだって言ってたじゃないか。それなのに人を庇って怪我をした挙げ句にあんな表情を…そうだ、これだ。熊は俺のものなのに。俺ものなのに怪我をして、なんともないって…傷1つ付けるなって言ったのに、こんなことがあるか?それもこれも、俺がしっかりしてなかったからなんだ、そうだ、全部俺のせいで…)
彼は深い自己嫌悪に沈んでいった。
ーーーーーー
『熊』から何も話がないまま日々は過ぎて行き、最初はひどく取り乱していた彼も次第に落ち着きを取り戻していく。
毎日怪我の手当をしてやる他は体に触れることもなく、会話も最小限になっていたが、むしろ彼にはこれも冷静さを取り戻すのに必要だったのだと思える。
『熊』は意図して彼の好物ばかりを作って食べさせてきたが、彼は(熊がなにか話すまでは)とあえて反応しなかった。
1度、茶葉の焼き菓子を作って出してきたこともあったが、それらをそのまま全て食べてしまうのはなんだか負けのような気がして、結局『熊』の前では1つ2つ口に運んだだけだ。
もっとも、後から隠れて全て食べたのだが。
(もう喧嘩…みたいなことをしてから1週間か。いや、8日は経ったのかな?つまりそれは俺らが最後にシてからそれだけ経ったってことだけど…はぁ、まさかこんなことになるとは思いもしなかったよ。俺達はいつまでも夜は抱き合うものだとばっかり思ってたからな…でもいつまでも毎日ヤるとは思えないし、いいきっかけにはなったのかも。いや、このままじゃ良くないけどさ)
彼は真っ暗な寝台の上で寝返りを打ち、隣で眠る『熊』を見る。
(いい加減話し合わなきゃだめだよな…だけど、俺からは話しづらいっていうか…そもそも、なんで熊は何も言い出さないんだよ。まさかもうずっとこのままか?そんなわけないだろ?いつまでこんなことを続けるつもりなんだよ。ろくに会話もしないしさ…俺達はまだ若いんだし、頻度を落とすにしたってヤりたいことはヤりたいはずだろ……あぁ、まずいな、ここで思い出すのはまずい…)
彼は自身の後ろと前が疼くのを感じて眉をひそめた。
この数日間、1度も『その気』が起きなかったにもかかわらず、何度も体を合わせてきた寝台の上で横にいる『熊』の寝顔を見ていると つい眠っていた感覚を呼び覚まされてしまう。
(はぁ…本当にまずいぞ、シたくなってきた。ちょっとでも思い出しちゃうと、もうこの寝台とか熊の匂いに引きずられて…どうしよう、そもそも1週間以上出してないからな、これは収まりそうにないぞ。となるとやることは1つなんだけど…)
しばらくの間じっと『熊』の様子を窺うものの、目を閉じて規則正しく呼吸している『熊』からは起きる気配がまったく感じられない。
(…どうせ起きないよな、熊は。もう暖かくなってきたから寝起きはそこまで悪いわけじゃないけど、それでもやっぱり寝起きがいいとは言えないし。こんな夜中なんか尚更だろ。うん、音を立てないようにすればいいんだ。起こさないようにすれば…別に浮気をしようとかってわけじゃないんだし、うん。いいよな、ちょっと自分で気持ちよくなるくらい…)
彼は『熊』に背を向けると、そっと下衣の布越しにある自らのものに手を伸ばした。
(熊が俺のに触るときは口づけをしながら…はぁ、今日はそれがないけど仕方ないよな…こうやってまず全体と先とを交互に触ってもっと勃つまで…)
「ん…んっ……」
(こ、声出る…我慢はしたことないから…まぁなんとかなるだろ。どうせもう止めらんないし…)
彼は上衣の端を咥えると、布越しに触れている手を少しだけ早める。
(久しぶりだからかな…出るのも早そうだ。もう直接触っちゃおう、熊がやるみたいに俺も…んっ、そうだ、こうやって…)
手を動かすとどうしても寝具と擦れて音が出てしまうため、彼は全体を扱うのではなく、なるべく先端の方を握ったりすることで快感を得ることにした。
直接触れていると次第に先端から濡れ始め、拍動を強めていく。
彼はそこで刺激の物足りなさに気づいた。
(あぁ…後ろも…後ろもヤりたい…でもだめだよな、さすがに。そんなことをしたら俺もどうなるか分かんないし…そもそも用意してないから後が面倒になる。でも…うぅ…明日…明日、湯を浴びてる時にヤるんだったら別に良いよな…そうだ、せめて明日にしよう、後ろは…今はとりあえずこっちだけ…前だけで…)
「んっ……」
僅かに漏れ出る声を抑え込むには上衣を咥えただけでは不十分で、彼は寝具に顔を埋めるようにしてやり過ごそうとする。
高まる愉悦は理性を失わせていくため、擦る手による音を少しでも少なくしようと、彼はほとんどうつ伏せになりながら下の部分に空間を作って手の動きを早めた。
くぐもった声は自らの耳に大きく響き、一体どれほど外に聞こえているかは分からない。
(あっ、で、でる…んんっ、でちゃ…でちゃう…あっ、あぁっ…!!!)
手の中に熱く粘つくものが広がる。
快感が弾けるのと同時に力が抜けた体は、しっかりと掛け具に覆われていることもあって若干汗ばんでいる。
いくらか呼吸が収まるのを待ってから、彼は手巾を取り出して自らについた痕跡を拭い始めた。
(暑っ…汗までかいたな…久しぶりだったからすごく出たし…今日はもう…よく眠れそう…)
後始末を終えてからきちんと寝間着を整えた彼は、快感の後から打ち寄せる心地いい疲労感に包まれ、そのまま深い眠りに落ちていった。
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