牧草地の白馬

蓬屋 月餅

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プロローグ

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 雄大な自然と活気に満ち溢れた人々の国、陸国。
 陸国は建国から長きに渡り、ありとあらゆる自然や もの への敬いの心を持つ人々によって平穏を保ってきた。
 特定の唯一神ではなく、身の回りのもの全てに神が宿っているという考えの元に成り立つ陸国。
 人々が神の姿を見ることは、ほぼないと言っていいだろう。
 …しかし、神々は実際に存在している。

ーーーーーーーーー

 ある日突然、神々は陸国の地に目醒めた。

 ある神は巨木の樹上で。
 ある神は平原の丘で。
 またある神は清らかな川辺で。

 長い眠りから醒めたように、ゆっくりと起きあがった神々。
 『生まれた』とも表現できる瞬間だったが、神々は目醒めながらにして己の果たすべき役割や互いの存在を旧知のように知り尽くしていた。
 当初、神々はなぜ自分達が目醒めたのかを理解していなかったが、それはすぐに知るところとなる。
 神々が目醒めた理由。
 それは、この地に人々が移住してきたためだった。
 ただの野原と山、森、川しかなかったこの地へやってきたのは、遠く離れた国から平穏を求めて旅をしてきた老若男女達だ。
 まだ『国』となるには程遠いような、小さな集落がいくつかあるのみだったが、神々はそうした人々がこの地に住むことを決めたことによって自分達が出現したのだとはっきり理解した。
 …とはいえ、目醒めたばかりの神々にとってはそんな人々や集落に対する愛着などは微塵もなく、果たすべき役割の最低限のことをするばかりで、まったく自由気ままな暮らしを送っていた。
 風の神は気まぐれに強風を吹かせて人や家をなぎ倒し、水の神は網にかかっていた魚達を逃し、花の女神は美しいものばかりを一所にしか咲かせず、愛の女神は人よりも動物達と過ごすことを大いに好んだ。
 森の神でさえ、森の中へ迷い込んでしまった人々を導くこともせずにただ見ているだけだった。

 そんな神々の意識を変えたのは、他ならぬ陸国の人々の『想い』だ。

 集落がいくらか大きくなってきた ある年の秋。
 突然のただならぬ雰囲気に驚いて大小問わず集落のそばへと集まってきた神々は、言葉を失ってその場に立ち尽くした。
 なんと人々は神々への感謝だと言い、舞を奉納し始めたのだ。
 集落を束ねている5つの家はそれぞれ
・家畜から肉を取るための刀
・鉱石を採掘するための鎚
・木を切るための斧
・作物を刈り取るための鎌
・魚を突くための銛
を使って舞い、さらにその5つの家を束ねる長は祝詞をのべた。
 環境がいいわけでもなく、けっして住みやすい環境とは言えなかったこの地に、人々は皆揃って感謝したのだ。
 それを聞いた神々はそれまでの自らの意識と行いを恥じ、自らが『人々と共にある』ということがどういうことなのかを改めてきちんと考えるようになった。

 人々が暮らしやすいよう、自らの神力を使って成すべきことをする。

 それはすなわち、神々自身の神力を高めることにも繋がっていた。
 人々が暮らしやすくなると、より一層感謝の気持ちや想いが神々に届けられ、それによって神々の力や存在が大きくなる。
 目醒めた当初から神力を発揮する範囲が広かった森や風、水の神、そして花や愛の女神達は、そうして神々の中でも特に大きな力をもつ存在となっていった。

 そんな陸国の神々において、ただ1神、『牧草地の神』だけは特殊な出自をもちながらも他の大きな神に匹敵する力を得た存在だ。
 ただの草の神として目醒めたその神は、広大な土地に影響を及ぼすことができる素質をもちつつも人と関わり合うことが少なかったため、神力を得ることなく、ひたすら野原を眺めるだけの日々を過ごしていたのだが、集落が他の神々の力によってさらに発展して大きくなってくると、次第に草の神は家畜にとって重要な『牧草地の神』として認識が改められるようになった。
 神にとって、人々からの『想い』は『神力』や『神格』に直接関係する 非常に重要なものだと言える。
 認識を改められ、人々から感謝の『想い』が寄せられるようになったことで、元々子供のような姿をしていた草の神の『神格』は大幅に引き上げられることとなり、やがて立派な神の一柱にいたるまで成長させた。

ーーーーーーーー

「それじゃ…今日も見回りに行こうか」

 裾や袂、衿などに薄緑の繊細な模様が描かれた白の衣を纏う『牧草地の神』。
 そんな牧草地の神は神々しいほどに美しく輝く白馬に跨がり、豊かな緑の中を悠然と歩き出した。
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