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Dark Happiness
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「及川先輩、付いてますよ」
「えっ、何が?」
「ご飯粒です」
「ああ、そっちか」
俺は少し戸惑ってしまった。
彼女、笹宮咲は「そっちかって他に何がついてるんですか」と無邪気に微笑みながら、ご飯粒を取ろうとする。
「いいよ。自分で取るから」
もしそんなことしたら、どうなってしまうだろうか。
俺にもわからない。
俺の背中に憑いている彼女が何をしだすかなんて。
俺の背中にいる彼女は、俺に好意を持っているらしい。
髪やまつ毛は白く、赤眼の眼差しは透き通っていて見惚れてしまうほどだ。
彼女は朝食は摂らず、毎日同じ白いドレスを纏い、四六時中俺に憑いている。
そして俺は、俺だけは彼女が見え、彼女と会話ができる。
「ねぇ、たっ君。いい加減あの女と関わらないでっ」
彼女は透き通った美声で、耳元で囁いた。
「わかってるよ」
「ううん。たっ君は何もわかってない。あの女、たっ君のこと絶対好きだよ。でも、たっ君には私がいる。なのにたっ君は、彼女を拒もうとしない。どうして? ねぇ、どうして?」
俺は立ち尽くすしかなかった。
君が不気味だから。君に足がないから。君が怖いから。君は虚ろだから。君はもう人ではないから。
伝えたら俺はどうなってしまうのだろうか。また、殺意むき出して殺しにくるのだろうか。
あの時は、「君を愛してる」と伝えて命拾いをした。二度目はもう通用しないだろう。
俺は命と引き換えに幸せを捨てたんだ。
「私をもっと愛して。たっ君」
彼女は俺に微かに冷たいキスをした。
「大丈夫? たっ君」
酷い熱だ。今日は一歩も歩けそうにない。
「ごめんね。私、肉体ないから……」
彼女は幽体であるため、陽の出ている間は活動が制限されてしまうらしい。
せめての思いで、彼女は俺の額にキスをする。
そして、俺は次第に意識が薄れていき、気がつくと夜が来ていた。
携帯電話の着信音が部屋に鳴り響いていた。
「はい」と短く応答すると、中から咲の声がした。
「及川先輩、大丈夫ですか? 今、先輩の家の前まで来てるんですけど、開けられますか? 栄養のある食材買ってきたので、私が何か作ろうと思うんですけどーーーー」
その後の言葉は耳から抜けていってしまった。
俺はただただ恐ろしかった。
「いいよ。たっ君」
だが、予想に反して白い彼女は美しく微笑んでいた。
「いいよって何が?」
「たっ君、私よりもあの子といるときのほうが嬉しそうだった。楽しそうだった。だから、いいよっ。彼女をここに入れて」
不思議なくらい殺意や怒りはなかった。いつもならば、黒い殺意で威嚇するが、今の彼女は自然体である。
咲を帰らせるのも悪いため、俺は咲を家にあげた。
刹那ーーーー。
暗い。停電か。動こうとするがまだ身体がだるいのか、微動だにしない。
俺は椅子に座っていた。
周囲は一面闇の世界。だが、自分の身体ははっきりと見えている。
だんだん目が慣れてきた。
すると、近くから悲鳴が聞こえてきた。
今までに聞いたことのない悲痛な叫びだった。
瞬きの間に、俺に背中を向けて膝立ちしている白い彼女が現れた。
そして、彼女の向かいに咲が座っている。自分の左手を抑えながら、咲は泣いていた。一本なくなっていた。
咲の白い髪と服に赤い色が染みていく。
「お前、咲に何をした!」
「たっ君。私をもっと愛して」
俺の方に振り返った彼女は、咲の薬指を咥えていた。
そして、見せつけるかのように飲み込んでみせた。
「何で……何で何で!! どうして!! 彼女が何したって言うんだ!!」
「たっ君を誑かした」
「してねぇよ!!」
「ううん。したよ。だってたっ君のこと私のほうがずっとずぅっと愛してるのにたっ君を迷わせてる。 彼女のほうが指小さくて細いもんね」
そういって、また咲の指を噛みちぎった。咲の悲鳴が空間に響く。
「やめろ……」
「彼女のほうが足細いもんね」
彼女は咲の足を毟った。
「やめろ……やめろやめろやめろ!! やめろ!!ーーーー」
「たっ君、ちょっとうるさいよっ」
言葉が出ない。
身体が動かないのは熱のせいだけではなかった。
「終わったら、ちゃんと解くよ。金縛りっ」
次に咲の腕をひねりちぎった。
それを美味しそうに舐めまわす彼女。
咲は目で俺に「助けて」と訴えているようだった。
何もできない自分を呪った。
先の胴体の肉が剥ぎ取られる頃にはもう咀嚼音しか空間に響かなかった。
腸の先を咥えて、飲み込んでいく赤髪の彼女。
白かったドレスはもう赤一色。
胃を飲み込むと次は肺、心臓、卵巣、腎臓、肝臓、膵臓ーーーー。
時々、彼女は美味しいと言い、俺に微笑んできた。
口周りの血肉を取っては口に運ぶ。
骨まで嚙み砕き、ついには咲の頭しか残らなかった。
「たっ君見て、もうすぐで完成だよ」
彼女は僕の目の前で咲の頬をかじってみせた。血が俺の頬についた。服には赤い斑点。
彼女が脳みそを舐め回す時には、俺は何も考えられなくなっていた。
彼女は眼球を咀嚼し終えると「ご馳走さまでしたっ」と笑みを浮かべた。
身体が動く。
だが、もう気力は残ってなかった。
「これで、私はたっ君に見てもらえる。泣かないでたっ君。大丈夫よ。私はこれからも、たっ君のそばにいるからね」
包丁のテンポのいい音がする。
カーテンの隙間からの木漏れ日で目が覚めた。
「おはよう、ご飯もうすぐだからちょっと待って」
咲の声だった。慌ただしく台所へ向かうと、エプロン姿の咲がいた。
俺は思わず先を抱きしめた。
「良かった…………咲だ……咲なんだ」
思わず泣いてしまった。
酷い夢だった。
「そうだよ、私は咲だよっ」
咲も俺を抱きしめた。
そして、咲は耳元で囁いた。
「私をもっと愛して。たっ君」
「えっ、何が?」
「ご飯粒です」
「ああ、そっちか」
俺は少し戸惑ってしまった。
彼女、笹宮咲は「そっちかって他に何がついてるんですか」と無邪気に微笑みながら、ご飯粒を取ろうとする。
「いいよ。自分で取るから」
もしそんなことしたら、どうなってしまうだろうか。
俺にもわからない。
俺の背中に憑いている彼女が何をしだすかなんて。
俺の背中にいる彼女は、俺に好意を持っているらしい。
髪やまつ毛は白く、赤眼の眼差しは透き通っていて見惚れてしまうほどだ。
彼女は朝食は摂らず、毎日同じ白いドレスを纏い、四六時中俺に憑いている。
そして俺は、俺だけは彼女が見え、彼女と会話ができる。
「ねぇ、たっ君。いい加減あの女と関わらないでっ」
彼女は透き通った美声で、耳元で囁いた。
「わかってるよ」
「ううん。たっ君は何もわかってない。あの女、たっ君のこと絶対好きだよ。でも、たっ君には私がいる。なのにたっ君は、彼女を拒もうとしない。どうして? ねぇ、どうして?」
俺は立ち尽くすしかなかった。
君が不気味だから。君に足がないから。君が怖いから。君は虚ろだから。君はもう人ではないから。
伝えたら俺はどうなってしまうのだろうか。また、殺意むき出して殺しにくるのだろうか。
あの時は、「君を愛してる」と伝えて命拾いをした。二度目はもう通用しないだろう。
俺は命と引き換えに幸せを捨てたんだ。
「私をもっと愛して。たっ君」
彼女は俺に微かに冷たいキスをした。
「大丈夫? たっ君」
酷い熱だ。今日は一歩も歩けそうにない。
「ごめんね。私、肉体ないから……」
彼女は幽体であるため、陽の出ている間は活動が制限されてしまうらしい。
せめての思いで、彼女は俺の額にキスをする。
そして、俺は次第に意識が薄れていき、気がつくと夜が来ていた。
携帯電話の着信音が部屋に鳴り響いていた。
「はい」と短く応答すると、中から咲の声がした。
「及川先輩、大丈夫ですか? 今、先輩の家の前まで来てるんですけど、開けられますか? 栄養のある食材買ってきたので、私が何か作ろうと思うんですけどーーーー」
その後の言葉は耳から抜けていってしまった。
俺はただただ恐ろしかった。
「いいよ。たっ君」
だが、予想に反して白い彼女は美しく微笑んでいた。
「いいよって何が?」
「たっ君、私よりもあの子といるときのほうが嬉しそうだった。楽しそうだった。だから、いいよっ。彼女をここに入れて」
不思議なくらい殺意や怒りはなかった。いつもならば、黒い殺意で威嚇するが、今の彼女は自然体である。
咲を帰らせるのも悪いため、俺は咲を家にあげた。
刹那ーーーー。
暗い。停電か。動こうとするがまだ身体がだるいのか、微動だにしない。
俺は椅子に座っていた。
周囲は一面闇の世界。だが、自分の身体ははっきりと見えている。
だんだん目が慣れてきた。
すると、近くから悲鳴が聞こえてきた。
今までに聞いたことのない悲痛な叫びだった。
瞬きの間に、俺に背中を向けて膝立ちしている白い彼女が現れた。
そして、彼女の向かいに咲が座っている。自分の左手を抑えながら、咲は泣いていた。一本なくなっていた。
咲の白い髪と服に赤い色が染みていく。
「お前、咲に何をした!」
「たっ君。私をもっと愛して」
俺の方に振り返った彼女は、咲の薬指を咥えていた。
そして、見せつけるかのように飲み込んでみせた。
「何で……何で何で!! どうして!! 彼女が何したって言うんだ!!」
「たっ君を誑かした」
「してねぇよ!!」
「ううん。したよ。だってたっ君のこと私のほうがずっとずぅっと愛してるのにたっ君を迷わせてる。 彼女のほうが指小さくて細いもんね」
そういって、また咲の指を噛みちぎった。咲の悲鳴が空間に響く。
「やめろ……」
「彼女のほうが足細いもんね」
彼女は咲の足を毟った。
「やめろ……やめろやめろやめろ!! やめろ!!ーーーー」
「たっ君、ちょっとうるさいよっ」
言葉が出ない。
身体が動かないのは熱のせいだけではなかった。
「終わったら、ちゃんと解くよ。金縛りっ」
次に咲の腕をひねりちぎった。
それを美味しそうに舐めまわす彼女。
咲は目で俺に「助けて」と訴えているようだった。
何もできない自分を呪った。
先の胴体の肉が剥ぎ取られる頃にはもう咀嚼音しか空間に響かなかった。
腸の先を咥えて、飲み込んでいく赤髪の彼女。
白かったドレスはもう赤一色。
胃を飲み込むと次は肺、心臓、卵巣、腎臓、肝臓、膵臓ーーーー。
時々、彼女は美味しいと言い、俺に微笑んできた。
口周りの血肉を取っては口に運ぶ。
骨まで嚙み砕き、ついには咲の頭しか残らなかった。
「たっ君見て、もうすぐで完成だよ」
彼女は僕の目の前で咲の頬をかじってみせた。血が俺の頬についた。服には赤い斑点。
彼女が脳みそを舐め回す時には、俺は何も考えられなくなっていた。
彼女は眼球を咀嚼し終えると「ご馳走さまでしたっ」と笑みを浮かべた。
身体が動く。
だが、もう気力は残ってなかった。
「これで、私はたっ君に見てもらえる。泣かないでたっ君。大丈夫よ。私はこれからも、たっ君のそばにいるからね」
包丁のテンポのいい音がする。
カーテンの隙間からの木漏れ日で目が覚めた。
「おはよう、ご飯もうすぐだからちょっと待って」
咲の声だった。慌ただしく台所へ向かうと、エプロン姿の咲がいた。
俺は思わず先を抱きしめた。
「良かった…………咲だ……咲なんだ」
思わず泣いてしまった。
酷い夢だった。
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