鮮やかな殺人

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Alcoholic Beauty

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 成人式を迎えた。
「ねぇ、菜乃花。この後バーに行かない?」
 菜乃花は友人から誘いを受け、人生初のバーへ足を運ぶことにした。
 バーは、ドラマなどでよく見ていたらしく、皆、小さく騒いだ。
 友人は先輩のオススメのお店だと言う。
 メジャーな酒から、癖のある酒、珍しい酒、そして、この店でしか取り扱ってない酒。
 いかにも高級そうだが、メニューの値段は普通のカクテルと同じ料金だった。
 カウンター席に腰をかけると、バーテン服を身につけたマスターが礼儀良く挨拶してきた。
 友人は、「マスターの気まぐれで」と頼んだ。先輩に言われた通りにしているのだろうか。
 菜乃花も他の友人も右に同じくと続けた。
 マスターは、「承知致しました」と軽く頭を下げ、一人一人の顔を覗き見た。
 お花は好きですか? 好きな動物は? 生まれはどこですか? などなど、よくわからない質問を一人一人にした。
 マスターは少しの間考える素振りを見せ、その後、ブレンドした酒をシェイクした。
 菜乃花を含め、皆小声で歓声をあげた。
 最初に頼んだ友人のがきた。
 今までにない美味しさに目を見開いていた。
 皆それぞれ、味と風味に満足したようだ。
「皆様のお好みでブレンドされております。お楽しみいただけましたでしょうか?」
「おかわりいいですか?」
「承知致しました」
 
 酔い始めた頃に、マスターは提案してきた。
「皆様、占いはお好きでしょうか?」
 皆、「好きぃ!」と元気良く言い放つ。
「それは良かったです。わたくし、手相占いを嗜んでおりまして、皆様いかがでしょうか?」
 異口同音に「やるぅ!」と言葉が飛び交う。
マスターは頭を軽く下げた。
 一人一人見てもらった。
「お客様は、電撃結婚なさる方のようです。子供は二人、女の子と男の子ですね。そして、お客様は現在、恋人がいらっしゃいますね」
「すごい、彼氏いるの当たってるぅ!」
 笑いと驚きの連鎖だった。次々に見てもらうなか、菜乃花だけは時間がかかった。マスターは必要以上に手に触れ、腕まで隈なく舐めるように見た。
 その日の帰り際に、菜乃花はマスターから手紙をもらった。
 手紙の内容はバイトの誘いだった。時給もかなり高く、マスターは温厚な紳士、非の打ち所がないバーで働けるのは幸運だった。
 次の日から菜乃花は早速バイト始めることにした。
 マスターは満面の笑みで菜乃花を歓迎していた。
 夜になると、友人たちが飲みに来てくれる。
 菜乃花にとっては毎日が幸せだった。



 バイトを続けて一年。
 マスターに店が閉店した後で、マスターに呼び出された。
「なんですか? マスター」
「君に見せたいものがあるんだ」
 そういってマスターは地下に続く階段へ、菜乃花を連れた。
 布で覆われている大きな箱のようなものが十数箱あった。
「マスターこれなんですか?」
「菜乃花君、お酒は好きかい?」
 話題を変えてきた。触れてはいけないことなのだろうか。
「はい、大好きですが」
「私もだ」
 マスターは小ビンを取り出し、ガラスのコップに注いだ。
「これを飲んでみたまえ」
 菜乃花は躊躇する素振りもなくそれを飲んだ。
「美味しいで……す…………」
 菜乃花は目の前が霞み、足元がふらついた。

 気がつくと、巨大な瓶の中にいた。
「マスター、これは!」
 ガラス越しに立っていたマスターは、先ほど布を被っていた箱らしきものの正体をみせた。
 酒に漬かった女性の数々。
 菜乃花は声が出なかった。震えが止まらなかった。
「菜乃花君! 君を一目見たとき思ったよ。君は、美しい! 君の好きな動物は意外にも蛇で、好きな花はガーベラ。地元愛は人並み以上。何より君の透き通ったその肌!酒に漬けたらどんな美酒が生まれるのか、私は見たくてたまらないよ!」
 マスターは狂い、不気味に笑い出した。
 「ああ、そうそう。君と一緒につける蛇なんだけど、コブラなんてどうかな。外国でも人気なんだよ」
 そういって巨大ビンに梯子をかけ、一段、また一段と菜乃花に迫って来る。
「いや……嫌だよマスター! 元の、私の知ってるマスターに戻って! お願い! マスター!」
「心配しなくていいよ菜乃花君、そこまで鬼ではないよ。ちゃんとコブラの毒液は抜いておいたから」
 マスターはコブラを数匹投下した。
 コブラは、容赦なく菜乃花に噛み付く。足、腕、腹、首に牙を刺し、何重にも巻きつく。
  痛い。苦しい。
 何かがまた投下された。
 ーーーーアルコール。
 冷たい液体が身体から体温を奪っていく。
 唇が紫になり、震えだした。
「これで君はもう、私のものだ。愛してるよ菜乃花君」
 マスターの狂気に満ちた笑い声が遠のいていく。
 
 ーーーーなんて醜いんだろう。



「いらっしゃいませ」
 菜乃花の友人だった。
「あんたの占い外れたじゃない」
 菜乃花の友人はカウンターテーブルを叩いた。
「何が永遠に幸せになりますだよ。ふざけんなよ! 菜乃花をどこにやったのよ!」
 バーに怒声が響く。
 カウンターに座っていた別の女性が恐れている。
「お客様、他のお客様のご迷惑となりますので、どうぞおかえりください」
 マスターはとぼけた顔で、菜乃花の友人に告げた。
 菜乃花の友人は舌打ちを残してバーを出て行った。
「申し訳ありませんでした。お客様」
「いいえ。それより美味しいですね、これ」
 女性は場の空気の換気に、話題を変えてきた。
「ありがとうございます。そちらの酒は私の新作でございます。お楽しみいただけて何よりです」
 マスターはそう言って頭を軽く下げると、上目で彼女を見つめた。

「なんて美しいんだろう」

「何か言いました?」
「いいえ、何でもございません」

 彼女が飲んだ美酒は、ほんわかにガーベラの風味がした。
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