鮮やかな殺人

文字の大きさ
4 / 5

Ten Counter

しおりを挟む
 私は、何で生きているんだろう。
 生きていても楽しいことなんてもうない。
 楽しいって何だっけ?
 私は、泣き方すらわからなくなるほどーーーー絶望していた。

「お前に力をやる」
「誰?」
 仰向けのまま、天井を見つめる。
 どこから聞こえているのだろうか。
「お前に力をやる代わりに命を喰らう。これが条件だ」
 答える気力はない。
「貴様の指を切り落とせば人一人の命を私が喰らおう。最後の指がなくなったとき、お前の命を喰らう」



「おい、何してる! さっさと起きろ!」
「あなた……私、寝てた……! ごめんなさい。今すぐ夕飯の支度を」
 私は、旦那に打たれた。
「そんな時間じゃない! 裕太は外で食べてきたそうだ。俺が帰ってくるまで呑気に昼寝とはいい度胸だな! 親としての責任はないのか!」
「すみません、すみません」
「親父、もういいだろ母さんだって疲れてんだよ」
「お前は母さんに優しすぎるんだ。」
 最近は体調がおかしい。吐き気がするときが多々ある。ストレスからなのか調子が出ない。
 「裕太はもう部屋に戻りなさい。後は、俺が母さんと話す」
 裕太が戻ると、本格的な説教が始まった。
 夫は正座している私の周りをぐるぐる回り始める。
 ああ、私ってほんとついてないなぁ。
「お前はいつもそうだ。母親としての自覚はないのか」
 私の後頭部を足裏で踏み、顔が床につくまで踏み倒した。
「裕太は今大事な時期なんだ。いい高校、いい大学。お前も行かせたいだろ? なぁ、美由紀さんよぅ」
 もう、こんな生活嫌だ。これで何度目? 私が悪いの? 私が悪いからこんなことされて当たり前なの? 他の家庭ではこんなことしない。他の奥さんは優れているから? 私が劣っているから? こんなにも頑張っているのに。何で? 何で……。
「聞いてんのか! 美由紀さんよぅ、俺は本当はこんなことしたくないんだ。君がもっと上手くやってくれていればーー」
「私の気持ちなんて知らないくせに……」
「あぁん?」
「私の気持ちなんて考えたこともないくせに!」
 私は夫を押し倒して、台所にある包丁を手に取った。
 だが、怖くなった。人を殺す勇気が無かった。
 夫はゆっくりと立ち上がり、鬼のような顔でこちらを睨みつけている。
 そのときに、思い出した。
 ーーーー悪魔の囁きーーーー
 私は、躊躇なく自分の小指を根元から切り落とした。
 イタイ、イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイーーーー。
 痛かった。
 刹那、夫は黒い霧に覆われた何かに喰われた。
 夫の姿はもうどこにもない。
 これで自由だ。これで自由になれるんだ。
 私が殺さなくても、あの化け物が殺してくれる。

 後は、裕太の学費と生活費だ。
 夫が消えてから家計は少しばかり窮屈になった。
 それと引き換えに私の心は開放感で満ちている。
 ーーーーやっといなくなってくれた。
 私は元夫の父親を訪ねた。
 私の元夫とは仲が悪いらしく、学費は出してくれなさそうだ。
 だから私は聞いた。生命保険には入っているのかと。もちろん、ストレートには聞いていない。遠回しに上手く、不快に思われないように、できる限りの配慮で尋ねたのだ。夫の両親は生命保険に入っているとのことだった。
 だから私は、躊躇なく指を二本根元から切り落とした。
 期待通り、二人は消えてくれた。
 だが、保険は降りなかった。死体がないからだ。
 さらに不幸はことに、遺産も貰えなかった。遺書に夫の名前は出てこなかったのだ。余程嫌われていたのだろう。
 
次に私は私の両親を眼中に入れた。両親は生命保険に入っており、さらには遺産もたんまりある。
 私はまた二本指を切り落とした。今度は根元からではなく、関節あたりから切り落とした。
 すると、両親の半身だけが消滅した。
 おかげで保険も、遺産も入った。
 けれど、私の家は四人兄妹だった。お金は四分の一しか入ってこない。
 裕太の大学の学費、生活費……。まだ家計が持ちそうにない。だから、私はまた三本、指を切り落とした。
 これで安定した生活ができる。私は息子の幸せを第一に願う良いお母さんだ。

 数日にして、八人が死んだ。
 さすがの裕太も不可解に感じたのか、私に問うた。
「母さん、本当のこと教えて」
「どうしたの?」
「父さんをどこに埋めたの……」
「ちょっとどうしたのよ急に」
「最近おかしいよ。葬式ばっかで……。母さんだっていつの間にか指無くなってるし……。なのに、嬉しそうだし……。」
 私は裕太の頭を撫でた。
「私は裕太の幸せのために頑張るよ」
「母さんは……どうかしてるよ」
 裕太に嫌われた。私は良いお母さんじゃなかったの? また、私が悪かったの? どうして? こんなになるまで頑張ったのに……。
 ならもういっそう、自分のために生きようかな。
 私はもう一本切り落とそうとした。
 だが、裕太が止めに入った。
「離して!」
「母さん落ち着いてくれ! 何でまた自分の指を切ろうとするんだ!」
 私は、裕太と取っ組み合いになり、壁に吹き飛ばされた。
 包丁を取られてしまった。
 「殺して……裕太を……私の息子を殺して! いるんでしょ! ねぇ!」
 刹那、黒い霧の怪物が裕太を喰った。
 これで、私は自由。自由だわ!
 けれど、私はここで異変に気付いた。
 最後の一本が残ってない。
 夫、夫の両親、私の両親、兄妹、裕太。死んだのは九人。
 ない指で数えるがどうしても指一本足りない。
 黒い化け物は消えていなかった。
「どういうこと?」
 私は化け物に尋ねた。
 化け物は私を指す。
 私は察した。
 最近、体調が優れなかった理由。時たまやってくる吐き気。

ーーーー私、妊娠してたんだーーーー。

「いたのね。私のもう一人の息子。気づかなくてごめんね」
 黒い霧が私に押し寄せてきた。

「いただきまぁす」

 この日私は、裕太の後を追ったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

処理中です...