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番外編5 こぼれ話
5 ルイスとレンの日常生活③
午後三時になって、ルイスが近くの幼稚園にマリアンヌを迎えにいくと、マリアンヌは帰りの準備を整えて待っていた。
幼稚園の先生に一日の様子を聞いたあと、二人で手をつないで幼稚園を出る。
「マリー、今日はどうだった? パパに教えてくれる?」
「あのねえ、おすなばであそんでねえ。りこちゃんと、まーちゃんと、ひーくんと」
「マリーはすごいな。幼稚園に行きはじめてまだ二ヶ月なのに、お友達がたくさんできたんだね」
「うん!」
なお、ルイスにはお友達がいない。
「お砂場遊び、楽しかったね。何を作ったの?」
「おやま、かわ、おしろ、おだんご、ぞうさん……」
「すごいな。いろいろ作ったね。今度パパにも作ってくれる?」
「うん。あ、こんど、サンカンがあるのよ」
「サンカン。保育参観。さっき先生が言っていたね。パパもお父さんも行くからね。たぶん陸も。なにをするか決まっているの?」
「マリーのいちばん好きなあそびのほうほうを、おうちの人におしえてあげるんだって」
「マリーのいちばん好きな遊び? どれだろう。楽しみだなあ」
「おすなばと、リトミックとねー、あとパズルだよ」
「そうか。お砂場も、リトミックも、パズルも好きなんだね」
いちばんが三つもあり、ルイスは笑った。
ちょうどマンションに到着して、敷地内の公園でいつもの犬連れのおばあさんに挨拶をしてから、三階にあがる。
「ただいまー」
ルイスがドアを開けながら声を掛けると、キッチンからレンが返事をする。ごはんが炊ける、いいにおいに満ちている。
「おかえりー」
「ただいまー、お父さーん!」
レンがキッチンから廊下に出てきて、靴を脱ぎ散らかして廊下に駆け込んだマリアンヌを笑顔で抱き上げた。
「おかえりマリー! 幼稚園は楽しかった?」
「うん! あのねえ、おすなばあそびしてねえ」
とレンの腕の中で報告しはじめるマリアンヌの荷物をおろさせつつ、ルイスは言う。
「マリー、靴はちゃんと並べるんだよ。先にパパと手を洗おう。お着替えもするよ。おいで」
「はあい」
「あとでお父さんに教えてね、マリー。パパと手を洗っておいで」
「うん! あのねえ」
「マリー。あとで。あとでお父さんに教えてあげて。ほら、パパとおいで」
「むー」
レンはマリアンヌをおろして、キッチンに戻って夕食を作る。
荷物をおろしたり手を洗ったりしてから部屋着に着替えたマリアンヌは、レンの足元にまとわりつきながら一日の報告をする。
ルイスはマリアンヌの荷物を片づける。連絡帳とプリントを確認する。
「レン。保育参観があるんだって、今度の木曜日か。レンも行くでしょ。陸は来るかな。あ、スケジュールを押さえないと。南さんに連絡しておこう」
「行く。マリー、そろそろテレビつけようか。おうたの時間だよ」
気づいたマリアンヌはすぐにリモコンに駆け寄る。マリアンヌは音楽が好きだ。テレビにかじりつく。
陸と南にそれぞれメッセージを送信したルイスは、携帯電話を置いて、レンに訊ねる。
「レン。晩ごはんは一緒に食べられる?」
「ごめん、今日はあと少しで出ないといけないんだ。作ったら置いておくから、食べといて。おやつは蒸しパン」
「わかった」
ルイスは荷物を片づけたあと、マリアンヌに蒸しパンを食べさせつつ、リビングでマリアンヌと一緒になってラグの上に座り、テレビを観る。幼児向けの音楽番組が終わって、そこからは惰性で観る。
マリアンヌはテレビを観つつ、ピアノの教則本を取り出してルイスに依頼する。
「パパ、このご本、弾いて」
「どれ。パパが弾いたらマリーはおうたをうたってくれるかな?」
「マリーが弾いて、パパがうたうのでもいいよ」
マリアンヌはミシェルの影響でピアノが好きなので、マリアンヌが来てしばらくして、アップライトピアノを買った。リビングに置いてある。
ルイスはピアノ経験があるので、マリアンヌのために時々弾いている。教えるほどではないので、マリアンヌがピアノを習うときには講師が必要だと思っている。
ルイスは渡された教則本を見て驚いた。
「え、マリー、これ弾けるの? というか、なぜソナチネがうちに? 僕のじゃないよね」
「クリスお姉ちゃんがくれたの」
「ああ、クリスお姉ちゃんが置いていってくれたんだね。ほとんど開いていないな。クリス、ソナチネでやめたのか。エマ姉さんと同じ」
クリスティナは先日ピアノをやめたので、マリアンヌが弾くならと教則本を置いていった。ルイスは、エマも同じ時期にピアノをやめたことを思い出した。
姉がやるというのでルイスも付き合っていたのに、結局ルイスのほうが長く続けた。
「マリー、はやくおピアノ弾きたいなあ」
「そうだね。もう少しだけ大きくなったらね。あとちょっとの辛抱だ。きっとすぐだよ。マリーは日に日に大きくなっているからね」
マリアンヌはまだ身体が小さいので、せめて五歳か六歳くらいになって、骨が発達してからのほうがいいとルイスもレンも考えているが、マリアンヌは早く弾きたがる。
そうこうしているうちに、食事の支度を終えたレンがエプロンを外しながらリビングにやってくる。
「マリー、ジェイミー。お父さん、お仕事に行くね」
「よし、マリー。お父さんにいってらっしゃいをしよう」
「えー! お父さん行っちゃうのー?」
「お仕事なんだ。ごめんね」
レンは申し訳なさそうにし、ルイスはマリアンヌを撫でながら言い聞かせた。
「マリー。お父さんはたくさんのお客さんに晩ごはんを作っているんだよ。みんな腹ペコだからね。今夜も大忙しだ。マリーはお父さんを応援してあげよう」
「……はぁい。がんばってね、お父さん」
「ありがと、マリー。マリーに応援してもらえると、お父さんはすっごく頑張れるよ」
ルイスは立ち上がってマリアンヌを促す。レンは廊下を歩いていく。
ルイスはマリアンヌを抱き上げ、玄関に立って靴を履いているレンと視線を合わせさせる。
「マリー。いい子でいるんだよ。いってらっしゃいのちゅー、してくれる?」
「ちゅ」
レンが頬を向けると、マリアンヌはキスをした。
レンも、いってきますと笑って、マリアンヌの頬にキスをする。
「僕も。いい子でいるから」
「はい」
ルイスがねだるので、レンは笑いながら、レンの方からルイスの唇に軽く口づける。ルイスは嬉しい。
「レン。気をつけてね。いってらっしゃい」
ルイスはマリアンヌと一緒に手を振った。
「いってらっしゃぁい」
「おやすみ、マリー。いってきます」
そう言って、レンは手を振りながら、自宅を出た。
レンの姿が見えなくなるとマリアンヌは少しぐずる。マリアンヌを腕に抱いたままリビングに向かいながら、ルイスは訊ねた。
「さあ、マリー。マリーのためならパパは何でも弾いてあげるよ。マリーの好きな曲は何かな?」
「ラ・カンパネラ……」
「それは厳しいな……」
ルイスは頭を抱えた。世界中のピアニストが最高難易度と評するといわれるピアノ曲である。
クリスティナがそう答えるように言ったに違いない。
<ルイスとレンの日常生活 終わり>
幼稚園の先生に一日の様子を聞いたあと、二人で手をつないで幼稚園を出る。
「マリー、今日はどうだった? パパに教えてくれる?」
「あのねえ、おすなばであそんでねえ。りこちゃんと、まーちゃんと、ひーくんと」
「マリーはすごいな。幼稚園に行きはじめてまだ二ヶ月なのに、お友達がたくさんできたんだね」
「うん!」
なお、ルイスにはお友達がいない。
「お砂場遊び、楽しかったね。何を作ったの?」
「おやま、かわ、おしろ、おだんご、ぞうさん……」
「すごいな。いろいろ作ったね。今度パパにも作ってくれる?」
「うん。あ、こんど、サンカンがあるのよ」
「サンカン。保育参観。さっき先生が言っていたね。パパもお父さんも行くからね。たぶん陸も。なにをするか決まっているの?」
「マリーのいちばん好きなあそびのほうほうを、おうちの人におしえてあげるんだって」
「マリーのいちばん好きな遊び? どれだろう。楽しみだなあ」
「おすなばと、リトミックとねー、あとパズルだよ」
「そうか。お砂場も、リトミックも、パズルも好きなんだね」
いちばんが三つもあり、ルイスは笑った。
ちょうどマンションに到着して、敷地内の公園でいつもの犬連れのおばあさんに挨拶をしてから、三階にあがる。
「ただいまー」
ルイスがドアを開けながら声を掛けると、キッチンからレンが返事をする。ごはんが炊ける、いいにおいに満ちている。
「おかえりー」
「ただいまー、お父さーん!」
レンがキッチンから廊下に出てきて、靴を脱ぎ散らかして廊下に駆け込んだマリアンヌを笑顔で抱き上げた。
「おかえりマリー! 幼稚園は楽しかった?」
「うん! あのねえ、おすなばあそびしてねえ」
とレンの腕の中で報告しはじめるマリアンヌの荷物をおろさせつつ、ルイスは言う。
「マリー、靴はちゃんと並べるんだよ。先にパパと手を洗おう。お着替えもするよ。おいで」
「はあい」
「あとでお父さんに教えてね、マリー。パパと手を洗っておいで」
「うん! あのねえ」
「マリー。あとで。あとでお父さんに教えてあげて。ほら、パパとおいで」
「むー」
レンはマリアンヌをおろして、キッチンに戻って夕食を作る。
荷物をおろしたり手を洗ったりしてから部屋着に着替えたマリアンヌは、レンの足元にまとわりつきながら一日の報告をする。
ルイスはマリアンヌの荷物を片づける。連絡帳とプリントを確認する。
「レン。保育参観があるんだって、今度の木曜日か。レンも行くでしょ。陸は来るかな。あ、スケジュールを押さえないと。南さんに連絡しておこう」
「行く。マリー、そろそろテレビつけようか。おうたの時間だよ」
気づいたマリアンヌはすぐにリモコンに駆け寄る。マリアンヌは音楽が好きだ。テレビにかじりつく。
陸と南にそれぞれメッセージを送信したルイスは、携帯電話を置いて、レンに訊ねる。
「レン。晩ごはんは一緒に食べられる?」
「ごめん、今日はあと少しで出ないといけないんだ。作ったら置いておくから、食べといて。おやつは蒸しパン」
「わかった」
ルイスは荷物を片づけたあと、マリアンヌに蒸しパンを食べさせつつ、リビングでマリアンヌと一緒になってラグの上に座り、テレビを観る。幼児向けの音楽番組が終わって、そこからは惰性で観る。
マリアンヌはテレビを観つつ、ピアノの教則本を取り出してルイスに依頼する。
「パパ、このご本、弾いて」
「どれ。パパが弾いたらマリーはおうたをうたってくれるかな?」
「マリーが弾いて、パパがうたうのでもいいよ」
マリアンヌはミシェルの影響でピアノが好きなので、マリアンヌが来てしばらくして、アップライトピアノを買った。リビングに置いてある。
ルイスはピアノ経験があるので、マリアンヌのために時々弾いている。教えるほどではないので、マリアンヌがピアノを習うときには講師が必要だと思っている。
ルイスは渡された教則本を見て驚いた。
「え、マリー、これ弾けるの? というか、なぜソナチネがうちに? 僕のじゃないよね」
「クリスお姉ちゃんがくれたの」
「ああ、クリスお姉ちゃんが置いていってくれたんだね。ほとんど開いていないな。クリス、ソナチネでやめたのか。エマ姉さんと同じ」
クリスティナは先日ピアノをやめたので、マリアンヌが弾くならと教則本を置いていった。ルイスは、エマも同じ時期にピアノをやめたことを思い出した。
姉がやるというのでルイスも付き合っていたのに、結局ルイスのほうが長く続けた。
「マリー、はやくおピアノ弾きたいなあ」
「そうだね。もう少しだけ大きくなったらね。あとちょっとの辛抱だ。きっとすぐだよ。マリーは日に日に大きくなっているからね」
マリアンヌはまだ身体が小さいので、せめて五歳か六歳くらいになって、骨が発達してからのほうがいいとルイスもレンも考えているが、マリアンヌは早く弾きたがる。
そうこうしているうちに、食事の支度を終えたレンがエプロンを外しながらリビングにやってくる。
「マリー、ジェイミー。お父さん、お仕事に行くね」
「よし、マリー。お父さんにいってらっしゃいをしよう」
「えー! お父さん行っちゃうのー?」
「お仕事なんだ。ごめんね」
レンは申し訳なさそうにし、ルイスはマリアンヌを撫でながら言い聞かせた。
「マリー。お父さんはたくさんのお客さんに晩ごはんを作っているんだよ。みんな腹ペコだからね。今夜も大忙しだ。マリーはお父さんを応援してあげよう」
「……はぁい。がんばってね、お父さん」
「ありがと、マリー。マリーに応援してもらえると、お父さんはすっごく頑張れるよ」
ルイスは立ち上がってマリアンヌを促す。レンは廊下を歩いていく。
ルイスはマリアンヌを抱き上げ、玄関に立って靴を履いているレンと視線を合わせさせる。
「マリー。いい子でいるんだよ。いってらっしゃいのちゅー、してくれる?」
「ちゅ」
レンが頬を向けると、マリアンヌはキスをした。
レンも、いってきますと笑って、マリアンヌの頬にキスをする。
「僕も。いい子でいるから」
「はい」
ルイスがねだるので、レンは笑いながら、レンの方からルイスの唇に軽く口づける。ルイスは嬉しい。
「レン。気をつけてね。いってらっしゃい」
ルイスはマリアンヌと一緒に手を振った。
「いってらっしゃぁい」
「おやすみ、マリー。いってきます」
そう言って、レンは手を振りながら、自宅を出た。
レンの姿が見えなくなるとマリアンヌは少しぐずる。マリアンヌを腕に抱いたままリビングに向かいながら、ルイスは訊ねた。
「さあ、マリー。マリーのためならパパは何でも弾いてあげるよ。マリーの好きな曲は何かな?」
「ラ・カンパネラ……」
「それは厳しいな……」
ルイスは頭を抱えた。世界中のピアニストが最高難易度と評するといわれるピアノ曲である。
クリスティナがそう答えるように言ったに違いない。
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蔵屋
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漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
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沖合(近海)漁業という仕事もある。
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この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。