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7 おもちゃ箱とプロポーズ(最終章)
四 お名前
しおりを挟む「尚くん。はい、手。足元に気をつけて。荷物は僕が! 僕が持つ! 寒くない? 暑くない? 足元に気をつけて。そうっと、そうっと」
タクシーを降りると、先に降りた文弥さんが物凄く心配性。
駅でタクシーに乗るときも、とにかく安全運転でお願いしますと念押しに念押しを重ね、運転手さんを困惑させていた。
おりて、タクシーを見送って、あと少しの距離を歩いて別荘に向かう。
前回来たときはまだ雪が残っていたものの、梅雨が終わり、すっかり夏で、でも東京よりもぐっと涼しい。避暑地だもんね。
吐きづわりが少しあったけれど、それよりも食べづわりと眠気がすごくて、フライドポテトと生トマトを反復横跳びしながら寝落ち、自宅引きこもり生活が続いていた。
おかげさまで予定よりも何キロも太ってしまい、紹介先の産科の先生には、ウォーキングをするなどして、太りすぎないこと、と強めの注意。すみません。
おなかは少し出てきてる。
「すみません、無理に連れてきてもらって」
「え? なんで? 僕も来たかったよ?」
別荘に着いた。ウッドデッキをあがったら玄関。文弥さんが鍵を開けてくれる。
新婚旅行直前に妊娠がわかったので、急遽、海外旅行は延期になった。
そこで、文弥さんと相談して、安定期に入ったらハワイに行こうって話していたのだけれど、話し合いの途中で文弥さんの心配性が爆発して、とにかく安静にしていてほしいということで、飛行機を使わない国内に旅行することになった。
国内旅行もあれこれ考えたのだけど、遠すぎるのも負担かもしれないと、これまた文弥さんの心配性が炸裂。
そこで俺のリクエストで、文弥さんの別荘。ここならば文弥さんに土地勘があるし、ゆっくりできる。それでも文弥さんは心配してた。
リビングのソファにかける。日々、体が重たくなってきてる。おなかのなかで何かが着々と育っている、不思議な感覚だ。
文弥さんは床に敷いたラグの上に座り、俺の足元で、俺の太ももに頰を寄せる。俺は文弥さんの髪を撫でた。
文弥さんはあたたかそうに目を閉じて言った。
「名前候補一、なおや」
「俺たちの名前からですね」
「二、ふみなお」
「あは。俺たちそのまま」
「三、なおふみ」
「逆に」
「四、なおすけ」
「なんでですー?」
「五、なおなお」
「俺がふたり……!」
文弥さんは少し考えてる。
「六、あやな」
「あ、女の子。可愛いですね」
「でも、女の子の名前が難しいんだ。尚くんと僕から両方は取りづらくて」
「無理に取らなくてもいいですよ?」
「うーん。あ、尚くんは、候補は?」
訊ねられて、俺は躊躇う。時々考えてたけど、まだ口にはしていなかった。
「恥ずかしがってる?」
「えへ」
「尚くんと僕がこれから毎日、一生呼ぶ名前だよ。真剣に考えないとね?」
「プレッシャーがすごいです」
「はい、ひとつめ」
「……みらい」
文弥さんは「首位独走」と唸った。
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