エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

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2 ある七月の暑い夜

九 なのでこうした①(※)

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 部屋に引き込まれた俺は、玄関に裸足で立っているカズ先輩に、正面から抱きしめられる。
 抱擁という感じだ。
 背後で玄関のドアが閉まる。

「タキくんが、上司に当たられて辛くなったり、消耗品みたいな扱いを受けているの、ただ聞いてるだけだった。でも、この際だから言うよ。そんな会社は今すぐやめて、もっと幸せに生きてほしい。自分を粗末にしないでほしい……」

 俺は呟いた。

「うわ、しんどいです……」

 それさあ、言うの、事件前じゃだめだったの?
 もし事件前にそんな風に言われたら、感動していたんじゃないかな。カズ先輩、俺のことこんなに大切に思ってくれてるんだって。
 いまはカズ先輩が何を言おうと、でもやったじゃんって思ってしまう。
 体が離れる。
 俺の冷たい視線に気づいて、カズ先輩は傷ついたみたいな目をする。
 どれほど謝られたって、どれほどなんでもされたって、まだ記憶に新しいあの出来事は、なかなか忘れられない。
 昨晩のあれは、気持ちよかったけどさ……。
 カズ先輩は俺の手を取って廊下にあがらせようとする。俺は靴を脱いで、カズ先輩に引かれるがままについていく。

「ちょ、先輩」

 洗面所だ。
 壁に顔を押しつけられて、背後から腕を回されて、ベルトが抜き取られる。履いていたスラックスは少しゆるくて、ベルトとボタンを外したら足元まで落ちる。
 昨日二回も出したんだからしばらくはしなくていいんだけど。

「あのー、先輩、俺、もういいです」
「動かないでね」

 首根っこを押さえつけられて、急に、下着の後ろに手を突っ込まれる。お尻の穴に冷たいノズルが入ってきたので、俺は慌てた。
 ぷちゅ、とへんな音がする。何かを注入されるみたいな。

「!!!」

 入ってくる。何か。体を捩ろうとしても、あちこち押さえられてちっとも動けない。

「トイレに行っておいで」

 やっと解放されたけど、俺は冷や汗が流れてくる。落ちたスラックスを上げようとするけど、動いたらまずい。

「カズ先輩、ちょっと待ってください」
「俺は待つけど」
「待って……今の」
「タキくんは待てるの?」

 カズ先輩の、冷酷な瞳と笑みに俺はぞっとする。
 待てないのは俺のほう。
 そう思いながらトイレを借りる。
 トイレを出たらカズ先輩に腕を掴まえられた。痛いって。

「手を洗わせてください、手、触らないで」
「うん」

 めっちゃ笑顔。笑顔すぎて怖い。
 洗面で手を洗っている俺の邪魔をしながら、カズ先輩は衣服を剥ぎ取ろうとする。カズ先輩のほうが体格が良いし、抵抗できない。
 手を拭き終わった頃にはすでに半裸だ。下着は死守してるけど。

「脱いで。洗おうね」
「先輩、やめて、カズ先輩」
「洗わずにそのままする? 俺はいいよ」
「よくないです。何もしないって言ったじゃないですか。嘘つき。カズ先輩なんか大ッ嫌い」
「嫌われてもいいよ。どうせその覚悟だもん」

 開き直りやがった、この人。

「こ、今度は訴えますよ!」
「好きにして。それも覚悟してる」

 もう打つ手がないよ……。今この人を止めないといけないのに。
 このままじゃ、やられる。
 カズ先輩は、俺の腕を掴んで、隣の浴室に無理やり連れて行く。
 俺は浴室の少し柔らかな床で、尻を隠そうと、入口に立つカズ先輩のほうに向いて、座り込む。と、カズ先輩は、腕を伸ばして、何をするかと思ったら、俺の頭上のシャワーを出した。
 うわ、いきなり降り掛かって冷たい。

「つめたっ……」

 避けながら、腕で顔を覆う。驚いて身をすくませたその拍子に、身体をひっくり返される。くそ、罠だった。
 カズ先輩は、一度水を止めた。いやな金属音。
 肩を掴まれて、端っこに追いやられる。壁に押し付けられて冷たい。

「やめてください、カズ先輩、ほんとに……俺、しんどいです、カズ先輩のこと信じてたのに、こんなことされて、つらいです」

 カズ先輩は、手を止めた。

「タキくん――じゃあ会社やめる?」

 え? それが交換条件なの?
 カズ先輩がこだわってるの、そこ?

「三、二、一……」

 で、即決しろとでも?

「ちょっとタンマ。待ってください、それはその」

 頭の中にいろんなことが過ぎる。
 生活費の支払い、給料の振込日と金額、貯金残高。今の仕事の引き継ぎ、住む場所、次の仕事のあて。

「……やめないの?」
「だっていろいろ事情が、そりゃ、やめたいですけど、すぐにはやめられないというか」
「ううん。すぐにやめて。あとで退職届を出してきて今日辞めて」
「そんなこと言われたって……」

 俺が言いよどむと、カズ先輩は俺の下着を破いて、指で俺の穴の周りになにかを塗って、ホースの先を、俺の中に、ぐいっと押し込んだ。
 ぬるいお湯が入ってくる。

「いっ」
「タキくん。上手にできてるよ。もう少しの辛抱だからね」
「も、もう、いっぱい、です」

 ホースの先が抜けていく。お湯を俺の尻に当てながら、カズ先輩は優しく言う。

「いいよ。出して」

 優しいのは言い方だけ。内容は最低。
 カズ先輩は流すお湯の出を少し強くする。
 俺が耐えかねて顔を覆うのを楽しげに見ている。視線を感じる。

「見ないでください……お願いします」
「大丈夫。見てないよ」

 ほんと嘘つき。この人のいうこと全部嘘っぱち。
 流した後、お湯を止めて、またホースの先を入れられる。
 俺は絶望的な気分になってくる。
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