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4 ある二月の雪の夜
一 同意したらしい(※)
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俺は起きた。
ここ、どこだっけ。ベッドの上。暖房がきいている。外は雪で、とても寒いはずだ。二月。
寝室には見覚えがあるものの、俺の今の部屋でも、かつての家のどこでもない。ベッドボードに見覚えがある。あの引き出し。みたらし団子みたいなローターが出てきた記憶。
ラベンダーのほのかな香り。
……ここ、カズ先輩の部屋じゃん。
俺は裸で、下着だけ履いていて、薄手の羽毛布団を被って横向きに寝てる。
記憶ないって。
俺を背中から抱きしめながら寝息を立てている人がいて、背中に温もり。その人の右腕を枕に俺は寝ている。
左腕は俺の身体に回されてて、耳元で規則的な呼吸音。
ここはカズ先輩の部屋でベッドの上なんだから、どう考えても俺を抱いて寝ている人はカズ先輩。ちなみにカズ先輩もおそらく下着だけ。触れているのは素肌。久しぶりの人肌は恐ろしいほど気持ちいい。
だけどなんだか違和感があって、俺は自分の手を見る。
手首。なにこれ。黒い革製の腕輪が巻かれてる。厚手の革ベルトに、五センチくらいの細い銀色の鎖がついていて、その先にキーリングみたいな小さい輪っかがついてる。
両手首に巻かれてる。同じ感触が、両足首と、太ももと、首にもある。首につけるって、これ、首輪って呼ぶんじゃない……?
「なにこれ……?」
「んん、おはよう、タキくん。起きたの。え? いま何時? 十二時? うわ、ずいぶん寝たな……。まだ眠いけど……」
背後にいるのはやっぱりカズ先輩。あくびしてる。
俺は一気に目が覚めたよ。
「あのー、カズ先輩。すみません。状況がまったくわかんないです」
犯人はわかってるんだけどさ。
「ああ、タキくん、酔ってたもんねえ。君、飲みすぎだよ。あんなに飲んで大丈夫? 止めたのに聞かないし。頭は痛くない?」
カズ先輩は心配そうな声で、俺の前髪を掻き分け、熱を測るみたいに額に触れる。
大きな手のひらで優しく撫でられて、大切そうにされて心地好い。
「飲みすぎましたね……。二日酔いはないほうで」
「そっか。よかった。でも飲みすぎは体によくないから気をつけよう」
「はい。すみません」
そう、昨晩は飲み会があった。そのときも結構飲んだ。それから、いろいろあってファミレスで、ワインを大量に飲んだ。俺はアルコールはかなり強いほうだけど、相当飲んだから、途中から記憶がない。
「んー……」
カズ先輩は俺が枕にしていた腕を抜いて、半身を起こす。
腕が痺れているらしく伸ばしている。
「あ、すみません」
「ううん。いいよ。タキくんを腕枕できるんだったら毎晩でもいいよ」
「……え。カズ先輩、まだ俺のこと好きなんですか?」
カズ先輩と会わなくなって、半年経ったのに。
何なの。この、すべてが振り出しに戻ったみたいな惨状。
「たかだか半年やそこら会わなかったからってタキくんを好きな気持ちが簡単になくなるはずないじゃん?」
と、カズ先輩は照れ臭そうに開き直った。
愚問ってことか。さようか。
俺は手首に巻かれたベルトに目を落とす。
「で、これって何なんですか?」
「見ればわかるでしょ。拘束具」
もちろん見ればわかるんだけど、脳が理解を断固拒否してるんで……。
カズ先輩は俺の両手首のベルトについている鎖の先端のキーリング状の部分を、それぞれ太もものベルトのキーリングと接続する。
あ、そうやって使うんだ。気をつけの姿勢になる。鎖が短いので手足を同時に動かさねばならず、つまりこれで、手の自由がなくなる。
なくなってどうするんだよ。
「どういうことです?」
「今朝、タキくんも同意したじゃん。捕まえていいって。この耳で聞いたよ」
「ちょっと記憶ない感じ……」
「あっそう。でも言質とったし。もう離さない感じ」
カズ先輩は、仰向けになった俺の上になってくる。下着を脱がせてくる。下げられるのは、太ももの拘束具の位置まで。でもそれで十分。
「タキくんが思い出すまで、指でしてあげようねー」
あ、これ思い出してきた。洗わないまま寝たから、俺の中にはまだローションが残ってる。そこにローションを新たに足して、指がぐにゅっと入ってくる。
こらえきれず声が漏れる。
「ああっ……」
「タキくんはやっぱりお尻をいじられるのが好きだね。たっぷりしてあげよう。ちんぽ入れてくださいって可愛くおねだりできたらご褒美にぶち込んであげる」
その繊細そうな外見と本来お持ちのはずの育ちの良さのどこをどう押したら、そんな卑猥な暴言を吐けるのか。下品すぎて卒倒するかも。
「絶対嫌……」
「了解!」
カズ先輩の笑顔が輝いている。何が「了解!」だよ。最低!
執拗な指の動きに、体があの快感を思い出す。
ひとりでは得られない感覚。
「ひ……あ、ああ……!」
「可愛い声。タキくん。あー、可愛い可愛い可愛い可愛い……」
カズ先輩は物凄く幸せそう。なにこれ。何が起きたんだっけ?
ここ、どこだっけ。ベッドの上。暖房がきいている。外は雪で、とても寒いはずだ。二月。
寝室には見覚えがあるものの、俺の今の部屋でも、かつての家のどこでもない。ベッドボードに見覚えがある。あの引き出し。みたらし団子みたいなローターが出てきた記憶。
ラベンダーのほのかな香り。
……ここ、カズ先輩の部屋じゃん。
俺は裸で、下着だけ履いていて、薄手の羽毛布団を被って横向きに寝てる。
記憶ないって。
俺を背中から抱きしめながら寝息を立てている人がいて、背中に温もり。その人の右腕を枕に俺は寝ている。
左腕は俺の身体に回されてて、耳元で規則的な呼吸音。
ここはカズ先輩の部屋でベッドの上なんだから、どう考えても俺を抱いて寝ている人はカズ先輩。ちなみにカズ先輩もおそらく下着だけ。触れているのは素肌。久しぶりの人肌は恐ろしいほど気持ちいい。
だけどなんだか違和感があって、俺は自分の手を見る。
手首。なにこれ。黒い革製の腕輪が巻かれてる。厚手の革ベルトに、五センチくらいの細い銀色の鎖がついていて、その先にキーリングみたいな小さい輪っかがついてる。
両手首に巻かれてる。同じ感触が、両足首と、太ももと、首にもある。首につけるって、これ、首輪って呼ぶんじゃない……?
「なにこれ……?」
「んん、おはよう、タキくん。起きたの。え? いま何時? 十二時? うわ、ずいぶん寝たな……。まだ眠いけど……」
背後にいるのはやっぱりカズ先輩。あくびしてる。
俺は一気に目が覚めたよ。
「あのー、カズ先輩。すみません。状況がまったくわかんないです」
犯人はわかってるんだけどさ。
「ああ、タキくん、酔ってたもんねえ。君、飲みすぎだよ。あんなに飲んで大丈夫? 止めたのに聞かないし。頭は痛くない?」
カズ先輩は心配そうな声で、俺の前髪を掻き分け、熱を測るみたいに額に触れる。
大きな手のひらで優しく撫でられて、大切そうにされて心地好い。
「飲みすぎましたね……。二日酔いはないほうで」
「そっか。よかった。でも飲みすぎは体によくないから気をつけよう」
「はい。すみません」
そう、昨晩は飲み会があった。そのときも結構飲んだ。それから、いろいろあってファミレスで、ワインを大量に飲んだ。俺はアルコールはかなり強いほうだけど、相当飲んだから、途中から記憶がない。
「んー……」
カズ先輩は俺が枕にしていた腕を抜いて、半身を起こす。
腕が痺れているらしく伸ばしている。
「あ、すみません」
「ううん。いいよ。タキくんを腕枕できるんだったら毎晩でもいいよ」
「……え。カズ先輩、まだ俺のこと好きなんですか?」
カズ先輩と会わなくなって、半年経ったのに。
何なの。この、すべてが振り出しに戻ったみたいな惨状。
「たかだか半年やそこら会わなかったからってタキくんを好きな気持ちが簡単になくなるはずないじゃん?」
と、カズ先輩は照れ臭そうに開き直った。
愚問ってことか。さようか。
俺は手首に巻かれたベルトに目を落とす。
「で、これって何なんですか?」
「見ればわかるでしょ。拘束具」
もちろん見ればわかるんだけど、脳が理解を断固拒否してるんで……。
カズ先輩は俺の両手首のベルトについている鎖の先端のキーリング状の部分を、それぞれ太もものベルトのキーリングと接続する。
あ、そうやって使うんだ。気をつけの姿勢になる。鎖が短いので手足を同時に動かさねばならず、つまりこれで、手の自由がなくなる。
なくなってどうするんだよ。
「どういうことです?」
「今朝、タキくんも同意したじゃん。捕まえていいって。この耳で聞いたよ」
「ちょっと記憶ない感じ……」
「あっそう。でも言質とったし。もう離さない感じ」
カズ先輩は、仰向けになった俺の上になってくる。下着を脱がせてくる。下げられるのは、太ももの拘束具の位置まで。でもそれで十分。
「タキくんが思い出すまで、指でしてあげようねー」
あ、これ思い出してきた。洗わないまま寝たから、俺の中にはまだローションが残ってる。そこにローションを新たに足して、指がぐにゅっと入ってくる。
こらえきれず声が漏れる。
「ああっ……」
「タキくんはやっぱりお尻をいじられるのが好きだね。たっぷりしてあげよう。ちんぽ入れてくださいって可愛くおねだりできたらご褒美にぶち込んであげる」
その繊細そうな外見と本来お持ちのはずの育ちの良さのどこをどう押したら、そんな卑猥な暴言を吐けるのか。下品すぎて卒倒するかも。
「絶対嫌……」
「了解!」
カズ先輩の笑顔が輝いている。何が「了解!」だよ。最低!
執拗な指の動きに、体があの快感を思い出す。
ひとりでは得られない感覚。
「ひ……あ、ああ……!」
「可愛い声。タキくん。あー、可愛い可愛い可愛い可愛い……」
カズ先輩は物凄く幸せそう。なにこれ。何が起きたんだっけ?
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