エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

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第二部 1 ある三月の春の夜

十一* 撤回できない

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 新大阪駅。
 和臣さんは関西国際空港駅行きの特急列車に乗り換え。発車時刻まで10分もない。在来線乗り場へ足早に向かう和臣さんの背を追うように俺はついていく。
 ホームに続く階段を降りる前に和臣さんは立ち止まって振り返った。

「ごめん、俺のせいで今回バタバタしたね。いつもごめんね。付き合ってくれてありがとう。着いたら連絡するけど、真夜中だから、待たずに寝ておいてね。おやすみなさい」

 早口で言う和臣さんの手を引いて、ふたりで階段をおりながら、俺は言う。

「ホームまで見送ります」
「いいの?」

 ホームにおりる。間に合った。
 特急列車はすでに停まっている。車両のドアを背に、数歩離れて二人で向かい合う。そこで繋いでいた手を離す。
 あと少しだけ。
 ホームに人はおらず、乗り込む人もいない。窓ごしにみえる車内はガラガラ。まあ、日曜日の夕方の関空行きだもんな。

「あ、多紀くん! 誕生日のお祝いしてない!」

 和臣さんは思い出して後ろ頭を掻いた。

「ごめん! なんで忘れてたんだろ。プレゼントを送るよ。また欲しいものを教えて」
「あ、それなんですけど、和臣さんも誕生日近いですよね。たしか四月」
「あれ? 言ったっけ?」

 言ってなくても知っててもおかしくないでしょ。俺の三月三十一日もどこから漏れてるんだか。

「誰かに聞いたんですけど、誰かは覚えてないです。たぶん高校のとき」
「そんな昔のことなのに、多紀くんの頭の中に残っていたなんて……嬉しい……」
「でも、日までは覚えてないですよ。何日ですか?」
「二日。四月二日」
「えっ、すぐじゃないですか」
「多紀くんと二日違いだよ」
「じゃあ、俺と和臣さんってまるっと三年離れてるんですね。一日二日、どっちかが早かったり遅かったりしたら、高校で会ってなかったんですね」

 俺は笑ったけれど、和臣さんは眉根を寄せる。嫌そう。俺はまた笑う。言いたいことはわかる。
 でもそんな顔をしなくたって、出会ったんだからいいじゃん。

「プレゼント交換しませんか?」
「うん……!」
「何がいいですか?」
「そうだな……」

 だが特急列車のタイムリミット。アナウンスが流れる。もうすぐドアが閉まる。
 和臣さんは車両に乗り込んで振り返った。
 目が合う。
 俺は慌てて自分のスーツケースを掴んで、一歩二歩、三歩。踏み出した。
 駆け込み乗車。
 和臣さんは左手を差し伸べて、俺の腕を力強く引っ張る。
 ブザーの音とともに、俺の背後で車両のドアが閉まった。
 列車が動き始める。
 和臣さんはきつく抱きしめてくる。俺も応えるように抱きしめる。
 どうか、誰もデッキを通りませんように。

「多紀くん……」
「こうなったら関空まで見送りですね……」
「決まりだよ。撤回できないよ。天王寺で降りちゃだめだよ」
「あ、天王寺で停まるんでした」
「お願いだから、一緒にいて……」

 俺の頬を両手で挟んで口づけてくる。
 天王寺は大阪市内だからせいぜい二十分。関空はそこから三十分以上。
 だけど、まあいっか。関空まで見送りに行っても。こういう日があっても。
 このまま見送るのが惜しくて、離れがたくて、思わず特急列車に飛び乗ったのは俺のほうだし。
 誰も通りがからないのをいいことにデッキで抱き合ったまま、キスをつづけた。
 そろそろ車掌さんが来るんじゃないかな……。特急料金も支払わないと。

「交換するプレゼントを……何にするか、ゆっくり考えましょうか。何か欲しいものがあるなら、教えてください。あまり高いものは難しいですけど」
「ひとつ提案が……」
「なんですか?」

 額同士が触れている。和臣さんの顔が赤くて熱い。目を見合わせる。
 和臣さんはとても恥ずかしそうに言った。

「ペアのものがいい……ペアリング……交換したい……。ごめん、少しくらいは高いものがいい……。恥ずかしい。つけることがじゃないよ。おねだりが恥ずかしいだけ。多紀くんが嫌ならやめとく……多紀くんの欲しいもの、買うから……」
「……今度、一緒に見に行きましょう。指輪」

 そう言うと、和臣さんは顔をくしゃくしゃにして泣きはじめる。涙もろいな……。
 濡れた唇に、俺のほうから口づける。
 でも、そんな大切そうなものを買ってしまったら、本当に好きであるべき人が俺ではなかったときに、どうやって手放せばいいんだろ……。




 <次の章に続く>
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