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第三部 1 ある事件直後の土日
五 多紀vs紗英
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翌日。土曜日、午前十時。
雲一つない好天。
和臣さんを予備校に送っていった後、マンションに戻って部屋の掃除をしていると、俺の携帯電話に、知らない電話番号からの着信があった。
誰だろう、と思いつつ出てみる。
「はい」
「あ、相田? オレオレ」
オレオレ詐欺かな? というのは冗談。
声に聞き覚えがある。昨日の晩に聞いたばかり。覚えた。
「倉本さん?」
「そうそう」
「昨日はありがとうございました」
そういえば名刺交換したとき、携帯番号も書いてっていわれて書いたな。かかってくるとは思いもよらなかった。和臣さんや葉子さんの後輩。おしゃれメガネ。
倉本さんは、昨日が初対面だったはずなのに、まるでむかしからの友達じみたノリで訊ねてくる。
「元気? 今ひま?」
「え、はい」
和臣さんは昼頃に帰ってくる。昼飯は俺が作る予定。大したものは作れないけれど。お米は研いで、炊飯器にセットしてある。
倉本さんからは近所のカフェに呼び出し。カフェに入ると、そこには倉本さん。窓際の四人掛けの丸テーブル席を確保してる。
「おう、相田。こっちこっち」
「倉本さん、昨日はどうも……」
もうひとり、奥に女性。掛けていて、俺を見て会釈してくる。
俺は硬直。
数秒後、やっと事態を理解した俺は、あわあわしながら口走る。
「さ、紗英さん……!」
美少女。たしか俺と同い年。
顔ちっちゃい。肌が白くて、目が大きくて、唇が厚めで、小柄な、今風の美少女。きらっきら。表情は硬いけれど。
今日は着物じゃなくてふんわりしたグレーのレースのワンピース。袖がふわんとしてる。長めのネックレス。
ロングヘアを三つ編みの編み込みにして首の後ろでまとめてる。手元は派手過ぎないピンク色のネイル。ピアノの演奏会みたい。休日もばっちりだ。
倉本さんは昨日と違う太フレームのおしゃれ眼鏡に、モード系の黒のジャケットと細デニム。足が長くてシルエットがきれい。幅の細いローカットのスニーカーはヴィンテージっぽくて高価そう。仕事も休日も意識高くて洒落こんでる。
ふたりが並んでいると、ベクトルは異なるけれど似合う。このふたりが付き合えばいいんじゃない? そんな風に思いつつ……。
首回りユルユルの長袖サマーニット一枚に着古した迷彩柄ハーフパンツの俺は、おしゃれなふたりを前にして完全なる敗者。サンダルだし。
聞いてないよー。
俺が目で訴えると、倉本さんはへらへら笑った。
「悪い。お紗英様が、相田と話がしたいっていうからさ」
「はあ、はい」
俺は情けない返事。
「あ、俺ら、同学年なんだ。相田もでしょ」
「そうですか……」
テーブルに視線を落としながら、すごすごと紗英さんの向かい側に着席。
紗英さんに、めっちゃ睨まれてる気がする。気のせいじゃないな。睨まれてる。もし睨んでなかったとしたら、見てる。めっちゃ見られてる。空気が張りつめていて痛いほど。
まさか俺が紗英さんに呼び出されて軟禁?
雲一つない好天。
和臣さんを予備校に送っていった後、マンションに戻って部屋の掃除をしていると、俺の携帯電話に、知らない電話番号からの着信があった。
誰だろう、と思いつつ出てみる。
「はい」
「あ、相田? オレオレ」
オレオレ詐欺かな? というのは冗談。
声に聞き覚えがある。昨日の晩に聞いたばかり。覚えた。
「倉本さん?」
「そうそう」
「昨日はありがとうございました」
そういえば名刺交換したとき、携帯番号も書いてっていわれて書いたな。かかってくるとは思いもよらなかった。和臣さんや葉子さんの後輩。おしゃれメガネ。
倉本さんは、昨日が初対面だったはずなのに、まるでむかしからの友達じみたノリで訊ねてくる。
「元気? 今ひま?」
「え、はい」
和臣さんは昼頃に帰ってくる。昼飯は俺が作る予定。大したものは作れないけれど。お米は研いで、炊飯器にセットしてある。
倉本さんからは近所のカフェに呼び出し。カフェに入ると、そこには倉本さん。窓際の四人掛けの丸テーブル席を確保してる。
「おう、相田。こっちこっち」
「倉本さん、昨日はどうも……」
もうひとり、奥に女性。掛けていて、俺を見て会釈してくる。
俺は硬直。
数秒後、やっと事態を理解した俺は、あわあわしながら口走る。
「さ、紗英さん……!」
美少女。たしか俺と同い年。
顔ちっちゃい。肌が白くて、目が大きくて、唇が厚めで、小柄な、今風の美少女。きらっきら。表情は硬いけれど。
今日は着物じゃなくてふんわりしたグレーのレースのワンピース。袖がふわんとしてる。長めのネックレス。
ロングヘアを三つ編みの編み込みにして首の後ろでまとめてる。手元は派手過ぎないピンク色のネイル。ピアノの演奏会みたい。休日もばっちりだ。
倉本さんは昨日と違う太フレームのおしゃれ眼鏡に、モード系の黒のジャケットと細デニム。足が長くてシルエットがきれい。幅の細いローカットのスニーカーはヴィンテージっぽくて高価そう。仕事も休日も意識高くて洒落こんでる。
ふたりが並んでいると、ベクトルは異なるけれど似合う。このふたりが付き合えばいいんじゃない? そんな風に思いつつ……。
首回りユルユルの長袖サマーニット一枚に着古した迷彩柄ハーフパンツの俺は、おしゃれなふたりを前にして完全なる敗者。サンダルだし。
聞いてないよー。
俺が目で訴えると、倉本さんはへらへら笑った。
「悪い。お紗英様が、相田と話がしたいっていうからさ」
「はあ、はい」
俺は情けない返事。
「あ、俺ら、同学年なんだ。相田もでしょ」
「そうですか……」
テーブルに視線を落としながら、すごすごと紗英さんの向かい側に着席。
紗英さんに、めっちゃ睨まれてる気がする。気のせいじゃないな。睨まれてる。もし睨んでなかったとしたら、見てる。めっちゃ見られてる。空気が張りつめていて痛いほど。
まさか俺が紗英さんに呼び出されて軟禁?
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