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3 あるひとりぼっちの夜
二 来ちゃった
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そんなこんなで翌日である日曜の午後近くになって解散。紗英ちゃんも一緒にヒロんちに泊まった。
途中でヒロ兄と姉も参戦してゲームしてたら明け方。
紗英ちゃん、格闘ゲーとレースゲー、鬼強。誰ひとり手も足も出なくてボコにされた。最弱はヒロ。それからみんなで桃鉄百年しながらコタツで寝落ち。
昼飯に、母じゃなくて実は父だったヒロ母(父)が作ってくれた卵雑炊をいただいて、乾いた冬景色の中、俺は、いったん自宅に戻り、シャワーを浴びて着替えて、ひとりぼっちの部屋をまた出て、現在、なんと甲府にいる。
山梨県。約二時間。
この距離を通おうとしたお馬鹿さんもいるわけだけど。
実は始発で通勤可能なんだよね。恐ろしいことに。
『多紀くんと離れ離れになるなら司法修習なんていかない』とごねた男を、白表紙と呼ばれる修習で使うテキストの山が入ったダンボールとともに送り出して、早二ヶ月。
引っ越しのときに一度来たアパート。驚かせようと思って何も言わずにやってきたけど、これ、めっちゃ「来ちゃった」じゃない? やっちゃったなあ。
チャイムを鳴らしてみる。
だけど、どれほど待っても返事はなく、出てくる気配もない。
不在だな。
和臣さん、どこにいってるんだろう。日曜の午後だから、外にいても不思議じゃないな。
電話しようかな。とスマホを手にして――考える。
……どうしようか。
そういえば、駅ビルのファミレスでよく勉強してるって聞いたような。一回行ってみようかな。いなかったら、それから電話するか考えよう。
駅ビルの上にあるファミレスに行ってみると、窓際のテーブル席で、何人かが勉強してるのが見える。
和臣さん、いた。見つけた。私服姿。シャツの上に長袖のセーター着てる。眼鏡かけてる。ここ一年で少し視力が落ちて、勉強するときだけ掛けてる。
俺の存在には気づいていない。隣の女性と真剣な眼差しで会話している。テキストをひらいて、何か早口で話してる。女性のほうも夢中。目を輝かせている。
俺は目をそらす。
こういうのが見たくなかったんだ。
浮気の心配なんてしてない。
そんなんじゃない。
和臣さんは難関の予備試験に合格して、司法試験も合格。
伯父上には遅いと詰られたらしいけど、新卒で一流企業に就職して、社会人をしながら合格するなんて、とんでもなく優秀だって。成績も上位。元係長に対するやっかみのひどいヒロでさえ認めてた。
誰に聞いても褒めちぎられてる、完璧な恋人。
試験に合格してから、笑顔が増えたらしい。同期のひとたちがお祝いの会をひらいてくれて、そのときに、さいきん性格が良くなったって言われてた。余計なお世話だって怒ってたけど。
やっぱり、コンプレックスだったんだろうな。そして解消できたから、精神的に安定したんだと思う。
そんな和臣さんを見ていて、自分と釣り合わないと思うことが増えた。俺は行政書士の試験に落ちたし。
和臣さんはどんどん変わっていく。だけど、俺は何も変わらない。その変わらなさでいいのか?
和臣さんが民間企業にいたときは、あのひとはビジネスマンだったけど、仕事の内容は殆ど踏み込まなくて、優秀さとか、周囲の期待の大きさなんかも、ちゃんと見えてなかった。もともと、遥か高みにいるひとだとはわかってたけれど、真に理解はしていなかった。
だけど、目の当たりにしてしまったんだ。
格差。
俺ってお荷物じゃない?
来ちゃったけど、ちょっと会いたかっただけ。でも会いたくない思いもあったから、複雑。
よし、帰ろう。
顔は見れたし、元気そうで楽しそうだし。こういう気持ちを持って接するの、精神衛生上よくないもんね。
ちょうどいい機会だから、もう少し、落ち着いて考えてみよう。ひとりで。
途中でヒロ兄と姉も参戦してゲームしてたら明け方。
紗英ちゃん、格闘ゲーとレースゲー、鬼強。誰ひとり手も足も出なくてボコにされた。最弱はヒロ。それからみんなで桃鉄百年しながらコタツで寝落ち。
昼飯に、母じゃなくて実は父だったヒロ母(父)が作ってくれた卵雑炊をいただいて、乾いた冬景色の中、俺は、いったん自宅に戻り、シャワーを浴びて着替えて、ひとりぼっちの部屋をまた出て、現在、なんと甲府にいる。
山梨県。約二時間。
この距離を通おうとしたお馬鹿さんもいるわけだけど。
実は始発で通勤可能なんだよね。恐ろしいことに。
『多紀くんと離れ離れになるなら司法修習なんていかない』とごねた男を、白表紙と呼ばれる修習で使うテキストの山が入ったダンボールとともに送り出して、早二ヶ月。
引っ越しのときに一度来たアパート。驚かせようと思って何も言わずにやってきたけど、これ、めっちゃ「来ちゃった」じゃない? やっちゃったなあ。
チャイムを鳴らしてみる。
だけど、どれほど待っても返事はなく、出てくる気配もない。
不在だな。
和臣さん、どこにいってるんだろう。日曜の午後だから、外にいても不思議じゃないな。
電話しようかな。とスマホを手にして――考える。
……どうしようか。
そういえば、駅ビルのファミレスでよく勉強してるって聞いたような。一回行ってみようかな。いなかったら、それから電話するか考えよう。
駅ビルの上にあるファミレスに行ってみると、窓際のテーブル席で、何人かが勉強してるのが見える。
和臣さん、いた。見つけた。私服姿。シャツの上に長袖のセーター着てる。眼鏡かけてる。ここ一年で少し視力が落ちて、勉強するときだけ掛けてる。
俺の存在には気づいていない。隣の女性と真剣な眼差しで会話している。テキストをひらいて、何か早口で話してる。女性のほうも夢中。目を輝かせている。
俺は目をそらす。
こういうのが見たくなかったんだ。
浮気の心配なんてしてない。
そんなんじゃない。
和臣さんは難関の予備試験に合格して、司法試験も合格。
伯父上には遅いと詰られたらしいけど、新卒で一流企業に就職して、社会人をしながら合格するなんて、とんでもなく優秀だって。成績も上位。元係長に対するやっかみのひどいヒロでさえ認めてた。
誰に聞いても褒めちぎられてる、完璧な恋人。
試験に合格してから、笑顔が増えたらしい。同期のひとたちがお祝いの会をひらいてくれて、そのときに、さいきん性格が良くなったって言われてた。余計なお世話だって怒ってたけど。
やっぱり、コンプレックスだったんだろうな。そして解消できたから、精神的に安定したんだと思う。
そんな和臣さんを見ていて、自分と釣り合わないと思うことが増えた。俺は行政書士の試験に落ちたし。
和臣さんはどんどん変わっていく。だけど、俺は何も変わらない。その変わらなさでいいのか?
和臣さんが民間企業にいたときは、あのひとはビジネスマンだったけど、仕事の内容は殆ど踏み込まなくて、優秀さとか、周囲の期待の大きさなんかも、ちゃんと見えてなかった。もともと、遥か高みにいるひとだとはわかってたけれど、真に理解はしていなかった。
だけど、目の当たりにしてしまったんだ。
格差。
俺ってお荷物じゃない?
来ちゃったけど、ちょっと会いたかっただけ。でも会いたくない思いもあったから、複雑。
よし、帰ろう。
顔は見れたし、元気そうで楽しそうだし。こういう気持ちを持って接するの、精神衛生上よくないもんね。
ちょうどいい機会だから、もう少し、落ち着いて考えてみよう。ひとりで。
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