エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

文字の大きさ
296 / 396
番外編15 リクエストなどなど2

新居に引っ越す話

しおりを挟む
 今日は引っ越し。
 晴れ。気持ちいい天気。
 午前中は、今日まで住んでる賃貸のほうで家財一式を搬出、午後から新居に荷物を運び込んでもらうことになった。
 新居は一週間前に引き渡し完了していたんだけど、賃貸の解約が月末までで、ぎりぎりまで前の部屋に住んでた。会社近いし、スケジュールの都合で。
 引っ越したらここには戻らないんだと思ったら、感慨深かったな。何年も住んだ。あそこで、本当に色んなことがあってさ。思い出がたくさん詰まった場所。
 新居は賃貸から三駅ほど離れた築十年のファミリーマンションで2LDK。
 会社との距離は少し離れてしまったものの、歩けない距離ではないし、相場より安い。いい物件なのになぜだろうと思ったら、売り主が早く現金化したかったらしい。
 間取りの真ん中に玄関がある形の、分譲マンションの一室。
 玄関入って狭い廊下。左手側に風呂トイレと寝室、右手側にリビングダイニングキッチンと洋室とクロークとベランダ。
 午前中に引っ越しの積み込みを終えた後、からっぽの部屋を掃除して、和臣さんと外で昼飯にしていたら、和臣さんは次郎お兄さんから緊急のお呼び出し。
 午後の搬入には間に合うように帰ると言いながら出ていった。
 俺は和臣さんを見送り、搬入前に掃除しておこうと新居にやってきた。というわけである。
 契約前に清掃会社が入って掃除してくれたけれど、それから二週間程度経っている。軽く乾拭きしておこう。
 契約直後に二人で見に来たとき、つまり一週間前。この部屋で和臣さんに抱かれて、そのときにも掃除したけど、なにか残ってたら嫌だし、チェックしておきたい。
 まず玄関だな。ドアとか壁とかに押し付けられて……跡はないや。よかった。床にも何もない。
 それから洗面所と風呂か。
 水もお湯も出たから、シャワーを浴びたんだった。排水溝は大丈夫。
 浴槽内でもやられたな。タオルとローションとゴムを隠し持ってきたってことは、あのとき、やるつもりで来たな、あの人。しれっとした顔していたくせにさぁ。
 壁に押し付けられることが多いんだ。額や手もつくし、いろんな液体がほとばしってしまうので、壁を入念にチェック。
「ここを寝室にしようか」と言いながら、ベッドの位置と向きを検討するために二人で寝転がってそのままやられたんだった。
 フローリングだと背中痛いのに。和臣さんも膝が痛そうだったな。自業自得だよ。
 L字型キッチン。ここでも立ちバックでやられたし。
 リビングは……あっ、そうだ。掃き出し窓に手をついたんだった。んで、バックで。
 まだカーテンをつけていなくて、見られちゃうって言ったのに。全然ひとの話聞いてない。というかむしろ興奮してたわ。
 まったく同じ事実を認識していても、俺と和臣さんは考えることが異なるという典型例。
 八階だけど、周りもマンションだし、気になるって。あ、窓に指紋ついてる。拭いておこう……。はぁ。
 リビングの隣に和室。ここを寝室にする案もあって、ここだと背中痛くないねって言われながらやられたわ。
 終わったあとで、でも和室で寝るの苦手だからやっぱりあっちが寝室だねとか言っていた。やりたかっただけだな。
 風を通しておこう。
 窓を二箇所開けて、ベランダに出る。
 見下ろすと、和臣さんが遠いところを歩いてきているのが見えた。通りすがりの若い女の子たちに二度見されてる。やめておいたほうがいいよ、危険人物。
 歩きながら、和臣さんが顔を上げた。見下ろしている俺と目が合って、眩しそうに、嬉しそうに、ふにゃふにゃの笑顔で手を振ってくる。

「……………………仕方ないな」

 俺は手を振り返した。
 和臣さんはスキップし始めた。目立つよ。




〈新居に引っ越す話 終わり〉
しおりを挟む
感想 341

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

処理中です...