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番外編20 季節ものSS
クリスマスプレゼントの話(※)
しおりを挟む会社からの帰り道。午後七時。すっかり夜。
最寄り駅まで歩きながら。街路樹のイルミネーションはきらびやか。寒くて身を震わせるけれど華やか。もうすぐクリスマスかー。
ショーウィンドウを眺めつつ、俺は和臣さんに渡すクリスマスプレゼントについて考えている。何がいいかな。直接聞くのもな。サプライズ的にしたいな。交換することはわかってるんだけどさ。
レストランを予約するか自宅でディナーにするかは、話し合いの末、自宅になった。ふたりきりでパーティー。和臣さんが料理、俺がクリスマスケーキとシャンパンを用意する予定。すでに予約済。
メニューの希望があればできれば二日前までに教えてねって言われているけれど、まだ迷ってる。和臣さんの手料理って何でも美味しいもんね。何にしてもらおうかな。餌付けされてる俺。とりあえず肉は必須。
と、そのとき、電話がかかってきた。ヒロだ。
『多ー紀ー!』
お。七面鳥だな。
「ヒロ。こないだはありがとう」
つい先日結婚パーティーをひらいた。ヒロと紗英ちゃんは俺側で参列してもらったし、色々盛り上げてもらって、二次会の幹事もしてくれてさ。あれこれやってくれて助かったんだわ。
『いいってことよ。せめてもの……罪滅ぼし……』
「?」
『いや、こっちの話。ところで多紀、今ヒマ? 買い物付き合ってくれない?』
「いいよ。どこ?」
「真後ろ」
声が降ってきたから振り返ったらヒロいるじゃん。
思わず飛び上がった。
「驚かせるなよぉ。お疲れ!」
仕事帰りのスーツにビジネスコートのヒロは、スマホを耳に当てつつ、ヨッと片手をあげている。
長身で細身で、パーマにおしゃれメガネで、スーツも洒落てる。商社勤務という雰囲気はあんまりない。
「お疲れ。疲れたわー、癒やして多紀」
「なに? 仕事大変だった?」
「飲み会多くてさー。週四で呑んでんの。合コンの数合わせも含めると週六。今日も八時から呑み」
疲れているのは主に肝臓だな。
「合コンいいね」
「おいやめろ。小野寺課長に聞かれたらどうする! 誘ってないからな!」
「行きたいとは言ってないよ。誘われても行かないし……。懐かしいだけ……」
「羨ましがるな! 不用意な発言は慎むように!」
ヒロは周囲をきょろきょろと見回し、警戒している。和臣さんを極端に怖がっている、へんなヒロ。
和臣さんは、他人には、俺に接しているときみたいにニコニコはしていない。むしろ鉄仮面と呼ばれるくらい無表情で、話し方もきつく、野村さんがいうには最初はかなりとっつき辛くて、葉子さんがいなければ関わらなかったそうな。
葉子さんは誰にでもぐいぐい迫って垣根を越えてしまう。警戒心の強い和臣さんがほだされたのは不思議だけど。
部下や後輩には厳しいんだと思う。
「ヒロ、買い物? 一緒に行けばいいの?」
「そーそー。時間ある?」
「和臣さん遅くまで残業だから、時間あるよ」
「法務部忙しいもんねー」
「事業部も忙しいでしょ?」
「俺飲み会と宴会芸担当だから」
「何ができるの?」
「マジックとモノマネ。激似」
「えー誰誰」
「社内の内輪ネタだからさ。ちなみに『小野寺課長』も持ちネタよ。喋らないからほぼ顔芸だけど」
「怖いからいいや」
大丈夫かよ。俺は笑えるだろうけど、ヒロは怒られそう。
ということで俺達は連れ立って、手近の百貨店に入ることにした。明るい店内はクリスマス一色。人波に流れるようにエスカレーターでのぼっていく。
俺は訊ねた。
「ヒロ、何買うの?」
「あっ、彼氏あてのプレゼント!」
「ヒロ、いま恋人いるんだ?」
「珍しく付き合うことにしてさー。てか彼氏は初めてかも」
俺にはわからない世界なのだけど、ヒロはこれまで、男女問わず、複数名のセックスフレンドと体の関係だけを持ってきたらしい。
「……なぁ、いつから付き合ってんの? 合コン行っていいの? 今夜も?」
「先約だから仕方ないじゃん。これからは行かないつもり。合コンは行きたいけどねぇ。いい子いたらもったいないし」
この程度の貞操観念しか持ち合わせていないのに誰かと付き合うなんて、自由というか、不誠実というか。いいのかよ。
まぁいっか。業界のこと、よくわからないし。
「俺も和臣さんへのプレゼント、考えてるところだよ」
「ラブラブですねー」
「そんなんじゃないけど」
「恋人同士ってのもアリだよな。課長と多紀、幸せそうだもんね」
俺たちがヒロに心境の変化をもたらしたのだろうか。そう思うと少しほっこりする。へへ。毎日ふたりでいて、平和で楽しいもんね。
俺を見習って誠実に付き合えよな。
「多紀、プレゼント候補はあるのん?」
「迷ってるんだよね」
キーケースを贈ったら大切に使ってくれているし、何をあげても喜んでくれると思う。だけど和臣さんの身の回りの物って外商やブランドの店舗担当が選んでいて、センスがあるんだよね。
本人曰く「俺にはこだわりもセンスもないから大人しく着せ替え人形になってるだけ」だそうだ。
俺が選んだアイテム、和臣さんが必ず身につけるとわかっているからこそ、ちゃんとしたものを選ばないと。
「ネクタイ、ネクタイピン、カフスボタン、万年筆、ボールペン、ハンカチ……」
紳士服・紳士洋品雑貨の階をぷらぷら一回り。だけど俺はピンとこない。ヒロは途中で、迷いもせずにカジュアル系のブランドに入って、アウトドアに使えそうなアウターを選んでいる。
色だけ相談して購入。
「趣味のものだと楽だよな」
「趣味……」
「課長の趣味、知らないけど」
なんだろ。むかしはバイクに乗っていたな。いまは売却して、以来乗っていない。その他の趣味は知らないや。ランニングかな。あと筋トレ? 読書してるけれど仕事の本ばかり。
よく考えると、和臣さんの好きなもの知らなかったりしない?
急に焦りを感じるじゃないか。
「商品券にでもしとけば?」
「うーん……」
使ってくれたらいいけれど、あのひと、多紀くんがくれたものだからとか言って、そのまま取っておきそう。使ってくれるにしても、現金と同じで、実用的だけど味気ないし。
「喜んでくれたら何でもいいっしょ」
「喜ぶだけならなんでも喜ぶもんね」
「はいはい。のろけ乙。一番喜ぶのは?」
一番喜ぶもの……。
「俺……」
ヒロはしばらく呆れたように絶句した後、急に言った。
「わかったぞ、名案!」
*
「もっ、和臣さんっ、イきすぎて、あっああっ……!」
これ何回目だろ。
トナカイのコスプレをしたままやられていて、ベッドに四つん這いになって深く浅くがんがん突いてくる。
前立腺も奥も全部気持ちよくて、俺は泣きながら尻を突き上げて振ってる。
「こんな格好して、犯されないはずないじゃんねー」
「んんー! あっあっあっ、あひっ、あっ、あっ、出る、イく……!」
「イっていいよ」
クリスマスイブはふつうに夜からパーティーをすることにして、映画みたり読書会したりのまったりおうちデート。
ディナーのあと、一緒にお風呂に入り、俺は先に出て、ヒロ監修のトナカイコスプレをしながら和臣さんが出てくるのを待ってみた。
布面積極小の茶色いパンツと首輪とツノ、真っ赤な鼻に、手首足首にも茶色いベルトみたいな、なんというか、セクシー系コスプレ。プラス、プレゼント用のリボン。
風呂上がりでごく普通に出てきた和臣さんはひと目見て固まった。俺はほぼ全裸の寒さとあまりの居心地の悪さに膝を抱えて丸まってたんだけど、すぐにベッドに横抱きで連行されて……。
両腕を後ろにして、引っ張られる。引かれながら奥に押し込まれて、ベッドシーツにトコロテン。白濁の液体がぽたぽたこぼれて、拭きたいけど止まってくれない。
「イ……っ、あっ、あっ、あっ……!」
「恥ずかしかった?」
「ん、んんっ、恥ずかしかっ、た」
「こうなるのわかってたよね?」
「わかって、ました」
「なのに待ってたんだ。いやらしいね、多紀くん」
「んんっ、ん、ふ、あぅ、きもち、い」
「すごい濃いの出そう。多紀くんがやらしいせい」
「ちょうだい……っ」
「あー、やっば……」
でも和臣さんは味わうようにそれからも突き続けてきてなかなかイかなかった。
俺はくたくた。
*
「おはよう、倉本。メリークリスマス」
「!? はよっす、お、小野寺かちょ」
「お前もたまにはいい仕事をするじゃないか」
「??? 何か提案しましたっけ?」
「ただし、程々に」
「……はぁ、はい。???」
<クリスマスプレゼントの話 終わり>
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