エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

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番外編21 和臣の妄想Ⅰ

十九 両想いの話

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   十九

 翌朝。
 起きた。体のあちこちが軋むようで、日頃の運動不足を痛感。だけど、幸せな痛みというか。
 カズ先輩。
 隣で寝てる。俺を腕枕して、俺の髪に鼻を埋めて、すぴすぴと寝息を立ててる。カズ先輩のにおいに包まれてる。
 昨夜、カズ先輩と初めてした。俺もカズ先輩も初体験だったけれど、丁寧にしてくれて、痛くなくて、少し苦しくてきつかったものの、気持ちよくて、カズ先輩もすごく気持ちよさそうで……。
 初めて見る表情だった。切なそうで色っぽくて、必死で、俺のことが大好きで……。
 カズ先輩、高校生の時から俺のことを好きだって言ってた。だから再会したとき、すでに、俺を好きだったんだ。
 連絡を取り合ってたときも、メシ食ってるときも、優しくて素敵な先輩を演じながら、俺に片想いしてたなんて、いじらしい。
 そんなカズ先輩の好意に気づいた俺は、最初こそカズ先輩を恋愛対象にするなんて難しいと思ってた。
 でも蓋を開けてみれば、なんのことはない。もともと俺はカズ先輩が大好きで、その気持ちは恋じゃなかったけど、オセロをひっくり返すみたいに、一気に全部が恋になった。
 手をつないで、キスをして、体を重ねて、大好きで、こんな朝を迎えるなんて想像していなかったのに、何もかも自然だった。
 まるでこうなることが運命で、決まっていたことみたいだ。

「タキくん」
「はい」
「おはよう」
「おはようございます」

 起きたカズ先輩は俺の肩を抱いて、俺の髪を吸ってる。

「ふぅ……」
「あはは。汗っぽいですよ」
「タキくんのにおい……」

 においフェチなのかな。カズ先輩、俺のにおいをしょっちゅう嗅いでる。俺も人のこと言えなくて、カズ先輩の胸に鼻を埋める。

「カズ先輩のにおい……」
「汗臭いよ」
「くさくないですよ」

 汗のにおいもいいにおいなんだから、俺もわりときてるな。

「好きなひとのにおいですもん」
「タキくん……」

 カズ先輩はたまらなさそうに俺を抱きしめてくる。包み込まれる。

「昨日、痛くなかった? 大丈夫そう?」
「痛くなかったです。……気持ちよかったです……思い出すと恥ずかしいですけど……」
「すごく、すごく可愛かったよ。また、俺としてくれる?」
「……はい」

 昨日……、抱かれたんだ。カズ先輩に。
 長年、ごくふつうの先輩と後輩だったのに、まさかこんな関係になるなんて、むかしの俺が知ったら驚いて卒倒するかも。

「どうしたの、タキくん」

 ついにやにやしていたら、カズ先輩は微笑んでる。

「えっ、いえ、なんというか……俺たちの関係って、不思議だなぁって」
「そう?」
「まさかカズ先輩と、こんなふうになるなんて……」

 カズ先輩は目を伏せた。

「ごめんね。俺はタキくんとこんなふうになりたかった。ずっと、ずっと好きだった。ごめん、タキくん」

 俺は首を振る。
 悪い意味で言ったんじゃない。だからそんな顔しないでほしい。

「謝るの、もうやめましょ」
「うん……」
「想像こそしてなかったですけど、後悔してないです。むしろ……」

 得たものが大きくてさ。もっと早く恋人になっていたらと思ってしまうんだ。俺の灰色な日々が、こんなに幸せになるなんて。人生って捨てたもんじゃないな。
 愛するひとが隣にいる朝を迎える未来を、俺は望まないようにしてた。知らなければ大丈夫だと思ってた。そう、俺は本当に知らなかったんだ。
 その気持ちがどれほどかけがえのない感情なのか。
 カズ先輩は、静かに言った。

「これから先も、タキくんと一緒にいたいよ。どんなことがあっても、二人で乗り越えたい」
「カズ先輩……」

 カズ先輩はむっくり起き上がって、俺も起き上がって、カズ先輩は俺の左手を取った。

「指輪、買わせてくれないかな。お揃いの……。今日じゃなくていいよ。タキくんの気持ちがもっと追いついてからでいい。いまはまだ、きっと俺の気持ちのほうが重たいから」

 指輪。
 お揃いの指輪。ペアリング。

「あとね。俺のこと、和臣って呼んでほしい……。カズ先輩もいいけど、恋人だから……もっと気安く……、敬語もやめてほしい」
「で、でも、カズ先輩、俺のこと、タキくんって呼ぶじゃないですか」
「……多紀って呼んでもいいなら呼びたいよ」
「よ、呼んでもいいです」
「……多紀?」
「か、和臣……?」

 さん付けじゃだめかな……。先輩って呼んでたのにいきなり呼び捨てだなんて。
 カズ先輩は、俺を抱きしめて、俺の髪を撫でながら、耳元で味わうみたいに、俺の名前を呼んでる。初めて呼ばれているみたいだ。
 恋人として呼んでるんだ。
 恋人。
 俺は言った。

「……俺の気持ち、追いついてないことないです。俺だって、『カズ先輩』を好きだった時間は長いですから。負けてないです!」
「……」
「カズ先輩と付き合ってからというもの、俺、幸せなんです。この気持ちがもっと、ずっと続いてほしいです。この先も二人でいたら幸せなんだと思うと、俺、嬉しくって」
「タキくん……」

 俺はカズ先輩って呼んじゃってるし、カズ先輩も俺のことタキくんのまま。お互い、恋人同士の呼び方を忘れていて、まだ先は長そう。
 でも大丈夫。少しずつ進んでいける。

「だから、指輪、今日行きましょ」
「いいの?」
「恋人の証、俺も欲しいです」
「……俺たち、恋人同士って思っていい?」
「俺たち、とっくに、正真正銘の恋人同士です。これから先もずっと!」

 カズ先輩は微笑んで、俺の肩に額を置いた。噛み締めてるみたいだった。少し泣いてて、俺も笑いながら泣けてくる。
 幸せで涙が出るって本当なんだな。
 そんな種類の涙があるなんて、カズ先輩との関係が変わらなかったら知らないままだった。
 でももう、知ってしまったから手放せないよ。
 泣き終わったら、またキスしたいな。何度もしたい。この大好きが伝わるように。



(~Love forever…~)
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