エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

文字の大きさ
388 / 396
番外編22 大和を迎えたときの話

しおりを挟む
   二

『そうなんですか!』

 犬!
 ごめん、三郎。何かしでかしたとか疑って。日頃の行いのせいってことで許してほしい。
 犬は好きだ。将来的には絶対に飼いたい。生活にもう少し余裕ができたら。
 和臣さんの実家の犬たちと遊ばせてもらうだけでも癒やしだけど、もし自宅で飼えるなら、今度こそ手放すことなく愛情をもって面倒をみたい。

『とても可哀相な子でね。元の飼い主に捨てられて、早めに飼い主を見つけないといけないんだ。いろんな方面に声をかけているから、飼ってくれる人は見つかるとは思う』

 そうなんだ。捨てられたなんて悲しい。

『俺が一時的に預かろうとしたんだけど、うちの嫁さんが動物アレルギーを発症してしまって、家に連れ帰れないんだ』
『アレルギー大変ですよね』
『近くのペットホテルの空きもなくてさ。だから、飼い主が見つかるまでの間、預かってくれないかな?』

 現実的に考えてみる。
 うちは分譲マンションで、中型犬一匹を飼うことができる。
 もともと俺も和臣さんも、いつか犬を飼うつもりでいたから、犬部屋もある。いまは物置状態だけど、すぐに片づけられる。準備したら預かることはできるはずだ。
 エサはどんなものを用意すればいいのかな。トイレグッズも、散歩グッズも、あるものを使うのかな。あと何が要るっけ。ごはんの器も。
 犬……!
 途端わくわくしてくる。
 預かっているあいだ、散歩は何回できるかな。たくさんしたいな。
 暑い日も寒い日も朝晩行くのは大変だけど、むかし飼ってた犬の散歩は俺の担当で、早起きが得意な俺は散歩を欠かしたことはなかったんだ。
 明け方に犬に起こされて起きて、朝焼けの中を散歩してた。
 少し前を歩く犬の耳や、尻尾、足取り、おしりを眺めながら、時々振り返って俺を仰ぐあいつのきらきらした濡れた瞳を思い出す。鼻と、歯の覗く口から、寒い日は白い息が浮かんでた。
 笑っているみたいな顔を撫で回すと、生温かい舌でぺろぺろ舐めてきたりして……。
 次郎お兄さんから追撃が来た。

『もちろん、断ってくれて大丈夫。急だもの。とりあえず事務所で預かって、俺が事務所に寝泊まりする予定なんだ』

 俺は慌てた。ぼんやりしている場合じゃない。

『預かります! 預からせてください!』
『本当? 助かるけど無理してない? 気を遣わないでね。相田くんは犬好きだと知ってるけど、マンションの規約もあるだろうし、それに、飼ったことはないんだよね?』
『大昔、実家で飼ってました! マンションは中型犬なら可です!』
『たぶん中型犬! 小型かな?』
『なおさら大丈夫です! お世話は久しぶりなので上手くできるかわかりませんが、がんばります! 犬好きなので、嬉しいです!』
『そっか! それならよかった! 俺もがんばって次の飼い主を早めに見つけるから!』
『わかりました!』
『でも、もし見つからなかったときは、長めに預かってもらうことになる可能性があるけれど、どのぐらいだったら平気? あ、犬に必要な物はもらえるのと、しばらくのエサはあって、足が出るときの費用は持つよ』
『とんでもないです! 長くても大丈夫ですよ!』

 本当なら俺が飼いたいくらいだもん。一ヶ月でも二ヶ月でもさ。
 でも和臣さんとちゃんと相談しないとね。和臣さんが希望する犬種があるかもしれないし。

『よかった……。実は、飼い主が飼えなくなってから、いろんな家を転々としていて、塞ぎ込んでる様子なんだ。もともとは懐っこい性格らしいなのに、人間の都合に振り回されて疲れているのかもしれない。できれば次の飼い主にいくときまで、同じおうちがいいんじゃないかな』
『ワンちゃんにとってストレスですもんね』

 もとのご主人と離れ離れになった上、転々としていたなんて、気の毒だ。

『俺は実家を早々に出てて、実は犬を飼ったことがないから、相田くんのほうが俺より詳しいね。教えてほしいんだけど、最初に連絡を寄越してきたひとにそのまま決めるんじゃなく、生育環境を精査したほうがいいんだよね? 飼える条件を満たしているのか。素人判断になるんだけど』
『難しいですよね……。厳しすぎると行けるおうちがないかもしれないですし……。ワンちゃんにとっていい環境かの物差しって、うちも悩みどころです。ひとりにさせてしまう時間帯もあって、可哀相かなって』
『そんなふうに考えてくれるような相田くんに飼ってもらえる犬は幸せだと思うよ』

 そう言われて、次郎お兄さんは配慮が行き届いたひとだなと思うと同時に、いつか飼う犬が俺の場所で幸せになってくれたらいいな、と思う。
 そのとき、

『あ、犬の写真を送るね』

 と、次郎お兄さんからデータが届いた。

しおりを挟む
感想 341

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

処理中です...