元カレが社内で迫ってくる

みつきみつか

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第三章 オクトーバーフェスト、二次会

五 二次会

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 音響機器を返したり、荷物を片付けるべく、俺は休日の会社に、なぜか高岡主任とふたりやってきた。というか、俺が会社に行くといったら、高岡主任は勝手についてきた。
 しかも、私服ペアルック。
 なんでやねん。
 休日といっても、出勤しているひとはいて、全体的にはがらんとしつつも、一部従業員が行き交っている。
 取り急ぎ、総務にある自分のデスクにイベントをまとめた資料を置いた。総務と労務は今日は誰もおらず、同じフロアには休日当番の経理と庶務がひとりふたりいるだけ。
 高岡主任は言った。

「今日は一日お疲れさま。徹平くんがよければ、二次会しない?」

 二次会。
 なんとなく、定義的にさ、婚活イベントの二次会というのは、男女間でおこなわれるものを指すような気がするんだ。
 男同士、女同士でひらかれるのは、反省会とか、打ち上げとか、そういう表現かなって。
 まぁ、なんでもいいけど。
 俺、だいたい一次会の片づけ係で、参加側に回ることはそんなにない。
 高岡主任と二次会か。
 ゆっくり話せるいい機会かな?

 社内にはカフェテリアがある。
 社内カフェは休日の夕方とあって、誰もいなかった。静かだ。
 イベントまでの二週間は、高岡主任も忙しくしていて俺に絡んではこなかった。俺も高岡主任には話しかけないようにしていたのだった。今日は久しぶりに会い、話せる機会だ。
 よし。話すぞ!
 カフェテリアは、無人のドリンクサービスコーナーがあって、壁向きのカウンター席と、真ん中に二十人掛けの大きな長テーブルがある。また、ソファ席が四セット点在している。社員同士の交流スペースだ。
 俺はホットコーヒーをふたつ淹れて、長テーブルに掛ける高岡主任の隣に掛けた。
 高岡主任は荷物の中から焼き菓子を取り出した。

「はい、徹平くんの分。もらっていなかったでしょ」
「あ、嬉しいです! 俺、これ好きです!」
「レモンとチョコ、どっちがいい? 好きなほうとって」
「じゃあチョコがいいです!」

 高岡主任はチョコ味のフィナンシェを俺にくれた。

「やっぱり、チョコ好きだよね」
「はい!」

 むかしのこと覚えてるのかな。だとしたら記憶力いいな。
 どの程度覚えてるものなんだろう。
 俺は付き合ったのが高岡主任だけだから、誰かと交際した記憶というのは高岡主任とのものだけだ。
 デートしたり、遊んだり、体の関係も、ぜんぶがたったひとり。だから付き合っていたころのことは、かなり覚えてる。
 だけどそこそこ美人の姉や妹は、すみだ水族館は初めての顔をして十回は行ったが誰と行ったのか覚えていないと言っていたり、いま身につけているヴァンクリのアルハンブラが誰のプレゼントなのかは覚えていなかったりしていた。
 長く付き合うひとがいるとそのひととの思い出が蓄積されていくのだろうけれど、数ヶ月の付き合いのひととの記憶は薄いのが通常だそうだ。
 こないだたまたま実家に帰って話したときに、三年前に三ヶ月付き合ったひとのことをどの程度覚えているかを訊ねたら、もはや誰と付き合っていたかもわからないし、もしこのひとだよと教えてもらったとしても、そのひととどこへいって何をしたのかまでは思い出せない、と姉妹は言っていた。
 まぁ、そんなのは、相手が途切れることのない極端なひとの例なのだろうけれど。
 でも高岡主任ってモテモテだし、常に誰かと付き合っているタイプだろうし。

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