元カレが社内で迫ってくる

みつきみつか

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第三章 オクトーバーフェスト、二次会

六 誤解

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 高岡主任は、自分の荷物から、何やら大きめの包みを取り出した。

「あとね、店員さんに聞いて、タッパーに詰めてきた」
「え?」
「食事」

 と、高岡主任の手元には、やや大きめの透明タッパー。中身は、今日のオクトーバーフェストで食べ放題になっていたドイツのヴルストが数本、シュニッツェル、チーズとマッシュポテト、サバの燻製。
 途端におなかが鳴った。

「徹平くん、ごはん食べてなかったでしょ? 見てたよ」

 やっぱり監視されてたな。

「俺のために……!? 助かります」

 一応、司会進行の合間に食べれそうなものはつまんだ。
 けど十分じゃなかった。食べそびれてたんだ。

「高岡主任も食べましょ」
「僕は食べたよ。僕のこと監視してたから知ってるでしょ? これは徹平くんの。冷めててごめんね」
「冷めててもおいしいです」
「今日はお疲れさま。みんなオフだったけど、徹平くんだけ仕事だったよね」

 うう、優しさが沁みる……。皆さま協力的だから進行は楽だったけど、たしかに仕事だよ。なんで俺だけ仕事なの? 乾杯の掛け声もしたのに、一滴も呑んでないよ。
 高岡主任にもらったお箸で食べる。
 選んでくれたメニューはどれも、冷めていてもすごく美味しい。しかも俺の好きなものばかり。
 そうだ、高岡主任って、俺がおなかをすかせていたり、眠そうにしていたら、よく気を遣ってくれたな。むかしから。
 チョコ味のフィナンシェも、わざわざ俺の好きな味。
 チョコが好きだって言ったのはいつだったっけ。
 こういう気遣いができて、周りとも円滑で、しごできだから、営業部長は高岡主任を手放したくないらしかったのだけど、本人の希望で、財務や経営のほうにいくことになったんだった。

「台北は、どうでした?」
「長かったよ」
「三年ですもんね」
「うん」

 おなかすきすぎてタッパーの中身はあっという間にぜんぶたいらげた。タッパーごと食べる勢い。
 フィナンシェとコーヒー。
 お店大正解。おいしい。

「徹平くんは、三年、なにしてた?」
「えーっと、いくつか転々として、神戸……あ、そうだ。神戸の件!」

 誤解をといておかないと。
 俺に神戸でいい感じになった女の子なんかいない。神戸だけではなく、京阪神に範囲を広げても、いや、全国、全世界に範囲を広げたって、そんな相手はいない。逆になんでいないのか聞きたいぐらい、いない。

「神戸の女の子は、支社長の……関係者で、俺はまったくこれっぽっちもノータッチです!」
「……知ってるよ。支社長の愛人でしょ」

 えっ、知ってたのかよ。
 早く言ってよ。
 あと何の誤解をといておかないといけないんだっけ。
 そうだ。

「中央エレベーターには監視カメラがついてるので、エレベーター内で触ったりするのはやめたほうがいいです!」

 数ヶ月前、エレベーター内でお菓子を食べるやつが出没したんだ。
 お菓子の食べこぼしが床に落ちていることが頻発したから、役員が怒って、監視カメラをつけて犯人探しをすることになった。
 俺は犯人を知ってるから、自分のフロアだけで食べないと見つかるとこっそり助言。その後、監視カメラの設置に社内システムが関わったので、本人も深く反省している。
 なので、これから食べこぼしが見つかる可能性はないのだけど、それは言えないので、監視カメラはこのままだ。
 高岡主任はくすくす笑っている。

「あの後、真上を見て、カメラに気づいたよ」
「さすがです!」

 俺なら一生気づけないや。

「あとは……」

 誤解。とかなきゃいけないもの。
 いちばんの誤解。

「俺――なかったことでも大丈夫では、なかったです、よ……」

 俺は言った。
 別れるときの俺の返答を、さ。
 高岡主任から告白されたのも、付き合ったのも、酒に酔ったノリだと思ってた。でも、素面になっても付き合っていて、ふたりで楽しくて、高岡主任は優しくて、三ヶ月はあっという間で、自分でも信じられないくらい、しあわせだった。
 だからといって異動に伴うお別れに、自分では抗いようがなかった。だから、心に蓋をすることにした。なんでもないことだって思うようにしてた。俺も札幌に異動になったから、気持ちを切り替えたらいいと思ってた。だってたった三ヶ月だもの。
 宣言通り、なかったことにすればいいんだ。
 でも、実際のところ、しばらくいたはずの札幌の記憶はほとんどない。なんとなく、すごく寒かったってことだけ。
 ずっと島根での出来事を思い返していたんだ。
 高岡主任は、苦しそうに眉を寄せ、俺を抱きしめてくる。

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