You Could Be Mine 【改訂版】

そのよん

そのよん-10

酔っ払っている時の尊は、危険だ。

今朝、迎えに行ったら尊の様子がおかしかった。

いつものドーナツショップで、尊はその綺麗な顔を崩して。

笑っていた。

微笑むんじゃない。

ヘラヘラ笑ってやがる。

「みのりさん～」

店の中で、いきなり抱き着いてきた。

「……」

朝っぱらから周りの人の視線が痛い。

ヘラヘラ笑う尊を車に乗せて、尊の家に向かった。

ああ。

危険だ。

尊と付き合いだして、けっこう経つけど、この尊には未だに慣れない。

そんなに何度も見る頻度はではないけど。

て、ゆーか、嫌い。

「尊、ちゃんと歩いて！」

背の高い尊を、担ぐ様にして、どうにか寝室まで連れて行った。

「みのりさあん」

ベッドに座って、あたしを呼ぶ。

「尊、スーツ皺になるから脱いで！」

尊はジャケットだけ脱いで、ベッドに放り投げて

「みのりさあん、こっち来てぇ」

ヘラヘラ笑いながら、自分の足の間を叩く。

無視してジャケットを拾いに行こうとしたら、尊の腕の捕獲範囲で捉まる。

足の間に、無理矢理座らされる。

「ねえ、みのりさん」

後ろからあたしを抱き締める。

「俺の事、好き？」

うう。答えたくない。

「ねえ、ってばー」

黙ってると、すすり泣きが聞こえ出した。

「…くすん…嫌いになったの？」

あー。鬱陶しい。

答えるな、とあたしの頭からは避難警報。

「ねえー！嫌いなの？…くすん」

「…う。嫌いじゃ…ない」

「じゃあ、好き？」

「す…好き」

「良かったあ！じゃあ」

き。

来た。 

「俺のお願い、聞いてくれるよね？みのりさん」 

い、嫌だ。

尊の"お願い"は聞きたく無い！

このまま、大人しく寝てくんねえかな…。

つーか、寝ろ！

頼むから寝てくれ！！

「ぐすん……みのりさん」

返事をしないでいると、また泣き出した。

ああ。神様。

どうか、コイツを気絶でもいいから寝かせてクダサイ。

仏教徒やけどね、あたし。

どこかにいる、神様。

あたしのお願いを聞いてクダサイ。

それとも、あたしのお願いは、小説家になれた事で打ち止めなんですか！？

「ぐす…みのりさんが冷たい…」

神様、ホント、マジで！！

明日から、ちゃんと親孝行もします！

好き嫌いも言いません！

締め切りも絶対守ります！

「…ぐす…みのりさん…」

「………」

「やっぱり、俺の事、嫌いに、なった、の？」

しゃくりあげるから、声が切れ切れになってる。

どうやら、本格的に泣き出したな。

「みっ…ひっく…のり…ぐす…さんに…ひっく…き…嫌われ…ぐすっ…たら」

あああああ。

「俺っ…生きていけないーーっ！！」 

「な…泣かないでよ…」

ああ、神様。

あなたは子羊を見捨てるのですか。

「ひっく…嫌いじゃ…ない？」

ああ、もう。

「み…のり…さん、こっち、向いて？」

首をまわして、後ろを見たら。

「ぅっ…んっ」

尊が唇を塞いだ。

「俺の事、好き？」

唇を離して、尊はあたしを見た。

なんだよ…。

捨てられた仔犬みたいな瞳、すんじゃねぇよ。

あたしは、助けてくれない神様と、尊に逆らえない自分を呪った。

「好きだから、尊」

「じゃあ、俺のお願い聞いて？」

「……なに？」

「ちょっと待ってね！」

尊はキラキラの笑顔でベッドを飛び降りて、クローゼットを開けた。

って！ウソ泣きかあああっ！！

「ハイ！これ着て！みのりさんに絶対似合うから！」

渡されたものを見て、泣きたくなるあたし。

数分後。

「可愛いー！みのりさん！」

着替えたあたしを、ベッドに座って抱き締める。

あたしの頭には、もふもふのネコ耳がついた、カチューシャ。

そして。

着せられているのは。

メイド服………それも超ミニ。

誰か、今すぐあたしを殺してくれっっっ！！！

「あのね、みのりさん」

尊が、あたしの耳元でごにょごにょ言った。

「…って言ってね？ネコ語でね？」

マジかょ……っ！

ネコ語ってなんだああああ！！

期待で瞳をキラキラさせる尊。

バカヤロおおおおお！！

そして、やっぱり、尊の事が好きなあたしは、言う事を聞いてしまうのだった。

手を、胸の前でグーにして。

「…ごっ…ご奉仕させてくださいにゃん、ご主人様」

……………………死ね。あたし。