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そのはち

そのはち

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「……はあー…」

ため息が、止まらない。

さっきから、ずっと。

ベッドの上で寝返りを打っては、ため息つく、あたし。

「…はぅー…」

左に寝返った。

「……ふぅ…」

右になった。

ベッドとくっついている、壁が眼に入った。

転がって、壁に身体をくっつけた。

ベッドの反対側のはしっこまで、何回転できるかな。 

転がってみた。

ベッドから落ちた。

「ふぅーー」

起き上がって、もっかいため息。

仕事に煮詰まってるワケじゃない。

ただただ。

憂鬱なだけだ。

明日、あたしにとって、憂鬱な事態が待ってる。

明日は家から、出られない。

なぜならば。

お客様、が、おみえになる。

から。

なんで、こんなに憂鬱かと言うと。

お客様が、あの。

松本氏。やから。

カンヅメの時、あたしをスランプから救ってくれた、松本氏。

だからと言って、別に、お友達になったワケじゃない。

担当編集者として、相変わらず、怖い。

スランプを抜けたと言っても、あたしの筆は速くはならない。

まあ、原稿の進み具合は、東京に連行されるほど遅れてはないけど。

また、なんか怒られるんやろな。

松本氏、あたしと話す時、とりあえず小言言っとけ、みたいなとこあるしな。

あーーーーーー。ゆううつ。

『所用があってそちらに行くので、ご挨拶に伺います』

数日前、松本氏からの連絡。

来なくていいっ!!

言えません。

そんなワケで現在、あたしの目の前にいる、松本氏。

「………天海さん」

「…………ハイ」

松本氏は、紙束テーブルに置いた。

今朝プリントアウトした、あたしの原稿。

場所はウチのリビング。

「……ここの、同じ花を見て、京都と上野で思いを共感する、と言うのはいいんですが」

「……ハイ」

「はっきり言って、僕は読んでみて共感出来ません」

松本氏の来訪の目的は、ご挨拶。

「そこに至るまでの、心理描写が弱いです」

ではなく。お仕事。

「いや、でも。そこを突っ込んで書くと、ページ数が……収まらなく…なってしまって…」

「無駄なエピソードが多いです」

「あ、いや、でも。それなりに必要なエピソードで」

松本氏は、怖い。

「例えば。この、茶店で茶を飲む部分とか」

う。

「飲んでる茶葉の産地や製法は、本編に関係無いと思いますが?」

それは、調べてて面白かったんで、書いてみたダケです。

「横道に逸れるエピソードが多いです」

おっしゃる通りでございます…。

「……余計な話、削ります」

「…そうして下さい」

うう。

連載なってから、松本氏、更に怖くなった。

「まあ、でも、天海さん」

「ハイっ!?」

まだ、何かっ!?

「連載一回目の読者アンケート、好評でしたよ」

え!?マジですかっ!?

「まだ、中の上と言ったところですが、この調子で頑張っていきましょう」

松本氏がちょっと、笑顔で言った。

だから、あたしも嬉しくなって。

「ハイ!頑張ります!」

笑顔で答えた。

「………」

松本氏が、あたし見て固まった。

あたし、なんかした!? 
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