You Could Be Mine 【改訂版】

てらだりょう

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そのじゅう

そのじゅう

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ある朝。

尊を迎えに行こうと、家を出た。

ガレージの、おかんのワゴンRとあたしの206の間に。

なんか、いる。

ソフトボールくらいの黒っぽい、もふもふ。

近付いてしゃがんで見ると。

ちっさい三角が二つ、ぴょこって見える。

うわお。

もふもふを、そぉっ、と撫でると。

みー! 

あたしを見て、鳴いた。

きやあああ!

すかさず抱っこ!

さばとら柄の身体に、綺麗なはち割れのお顔と、中途半端な短いしっぽ。

らぶりいいいいいいい!!

「おかんっ!仔猫っ!!」

台所に駆け込んだ。

「いやあー!なにいー!どしたんーっ!?」

包丁持って、相好くずすおかん。

「ガレージにおった!」

「いやあ!ちっさ!」

あたしから仔猫を取り上げ様とする、おかん。

興奮してるのはわかるけど、包丁は置けよ。ばばあ。

「いやあ。おなかすいてにゃいでしゅかあ?」

ネコ語になるおかん。

「みのり、ミルク!早く!お湯で薄めて!」

「よっしゃ!」

こう言う時だけ強い、親子の絆。

二人しゃがんで、牛乳舐める仔猫を、かわりばんこになでなで。

そうです。

家は大の猫好きです。

前に飼っていた、茶とらのちゃーちゃんが老衰で天に召されて以来。

悲しすぎて十年、動物は飼ってない。

「どうする?」

飼う?

「どうするて、アンタ。いやあ!膝乗って、まあ!」

「うわおっ!」

あたしの膝に、ちょこん、と前足乗っける。

「あー!もう!こんな寒いのに外だせるかいな!」

おかんの一言で、ウチの子決定。

そうすると。

風呂入れて、病院行って予防注射して。

と。

尊の事、忘れてた。

用事出来たから後で行く。

と、メッセージ。

うん。わかった。

尊の返事。

仔猫を病院連れてってから。

このもふもふを。

尊にも味あわせてやろう。

と、思った。

「たけるーっ!」

「みのりさん、なんかあったの?遅いから心配してたんだよ?」

グレーのシルクのパジャマの尊。

ちなみに、あたしのはピンク。

尊が買ってきた。

「なに、それ?」

床に置いたキャリーバッグに眼を止めた。

「んふ。あたしのオトウトが出来ました」

「…意味、わかんない」

キャリーのファスナーを開ける。

にー!

あたしを見上げる仔猫。

かわゆいっ!

実は、もう名前つけた。

おかんと二人で考えて。

懐かしの名作漫画。

じゃりんこチエ

の小鉄にそっくりなんで。

こてつ。

呼び名は、てっちゃん。

「な、なに。今の鳴き声」

てっちゃんを抱っこして。

「じゃーん!てっちゃんでぇす!」

尊に見せる。

どうだ。

この、もふもふ。

「………」

この愛らしいもふもふを前に。

完璧なほど無表情の、尊。

あら?

なに。

この反応の悪さ。

お腹に顔、もふもふすると気持ち良いから。

尊の顔に。

てっちゃんのお腹を。

ダーイブ!

空を切るてっちゃんの身体。

無表情で、頭だけでよける、尊。

おかしいな。

もういっかい。

ダーイブ!

スカッ。

あれま。

虚ろな尊の眼。

てっちゃんを抱っこしたまま、一歩前へ。

一歩後退する尊。

もう一歩前へ。

もう一歩後退。

無言の攻防戦。

なんで。

この愛らしい。

天使の様な生き物に対して。

この反応。

まさか。

コイツ。

試しに、もっかい。

ダーイブ!

スカッ。

お。

おもろ。

もっかい、やってみよ。

ダーイブ!

スカッ。

ダーイブ!

スカッ。

すげえ。

首の筋肉だけでよけてやがる。

尊ってば。

「たけるー。あたしのてっちゃん、抱っこしてくれんの?」

ずい!

てっちゃんを尊に突き出す。

「………」

遠くを見る尊。

ぷくく。

やっぱ。

猫、ダメなのか。

むふふ。そか。

弱味を握って、思わずにやける。

「……なにがおかしいの。みのりさん…」

遠くを見ながら言う、尊。

「た…」

おっと。

言わんどこ。

変な事言うと、お仕置きネタにされるからな。

「てっちゃん、おにーちゃん抱っこしてくれんねえ。なんでかなあ」

「………」

「もしかして、お姉ちゃんに赤ちゃん産まれても、抱っこしてくれんやったりするんかなあ?」

ソファーに座って、てっちゃんに語りかける。

ぴくり、と反応する尊。

「パパが抱っこしてくれんやったら、かわいそうやねえ」

「あ。赤ちゃんなら抱っこするよ!」

「てっちゃんもまだ赤ちゃんなのに。なんで抱っこしてもらえんのかなあ」

「………」

「てっちゃん抱っこ出来んかったら、赤ちゃんも抱っこ出来んかもねえ?」

ぶくくくくく。

笑いが出る。

尊は。

なにかを決心した顔であたしの前に来て。

深呼吸した。

それから。

勢いつけて。

あたしからてっちゃんを奪い取り。

ぎゅうっ、と。

もの凄い、強張った顔でてっちゃんを抱き締め。

あたしの膝にてっちゃんを戻し。

「俺、寝る……」

うなだれて寝室に行った。

勝った!尊に勝った!

みのり初勝利!

いぇい!

後日。

「俺には、可愛いみのりさんがいるから。ペットなんかいらないの」

あたしはアナタの。

ペットじゃ。

ありませんから!!!!!!
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