11 / 13
第参話/三方一両損・転章
しおりを挟む
一
「お楽さん、仙ちゃんは?」
駆け込んできた新八とお葉は、戸を開けるなり大声で叫んだ。
ここはお楽と仙太の住む丸源長屋。
突然の客に、伏せっていたお楽が無理に身体を起こし、咳き込みながら答えた。
「あの子は、何か用があるって出かけましたけれども……」
「チッ、一足遅かったかぁ~」
「仙太が何か? もしや何か変事でも?」
新八の慌てぶりに、何やら不穏なものを感じたお楽は、焦った表情。
「仙太はあるお武家を強請ってるんですよ、お楽さん」
「えっ! まさか仙太が…」
「強請りの根多について、何か心当たりがありやせんか?」
心当たりと言えば、ひとつしかない。
「実は………あの子の父親は徳島藩の殿様、鉢須賀主水様なんです」
今度は新八とお葉が声を揃えて「ええっ!」と驚く番であった。
「あたしの里方は本屋でして、殿様が手すさびに描かれた浮世絵を、売りに出した縁で…」
「仙太ができたと?」
「殿様は御台所にすると、そうおっしゃってくださったんですが…」
「側室ならまだしも、町人の娘が正室になるのを周囲が許さなかったと?」
途切れ途切れのお楽の言葉を、新八が察して補ってやる。
言葉にするのは、お楽にもためらわれるのだから、当然である。
だが、これにお葉が噛み付いてきた。
「お殿様は反対を押し切らなかったの? どこぞの旗本や大名家の養女にいったんしてから、嫁に向かえ入れるって、よく聞く話じゃないのよぉ。三代将軍家光公の生母だって、京かどこかの八百屋の娘だって聞いたわよ?」
「無理言うんじゃねぇよ。殿様には殿様の、立場ってもんがあらぁな」
「そんな、だって好きだったら、何があったって…」
「あたしは殿様の、御正室にしたいとの言葉だけで充分です」
そうやって、お楽は静かに微笑むのである。
根が控えめな人柄なのだろう。
「そんなの…バカよ。お楽さんもお殿様も!」
「おいおい、言い方に気をつけろよ。向こうは分家とはいえ大名だ、子供のお葉にはわからねぇこともあるんだろうよ」
「子供じゃないもん!」
「何を拗ねてんだぁ、おめぇは?」
「拗ねてないもん!」
口をとがらせ、そっぽを向くお葉を持て余し、新八はお楽に話を振った。
「お楽さん、それを仙太に喋りやしたか?」
「もう長くないと思ったものですから、つい…でも鉢須賀家のことは、何も言ってないんですよ。おまえの父親はさる藩のお殿様だとだけ」
「じゃぁ新八さん、仙太坊はどうやって鉢須賀家のことを、突き止めたの?」
お葉の疑問はもっともだが、こればかりは新八にはわからない。
仙太は歳に似合わぬしっかり者だし、頭の回転も早い。
僅かな手掛かりから、自分の父親を探し当てたとしたら、並みの知力ではない。
同心の息子として、一通りの武技や捜査の手練も学んでいる新八としては、舌を巻くしかないが。
「お楽さん、他に何か仙太に喋ったことは?」
「殿様が描いてくだすった絵を、あの子に見せたんです。そこの箪笥に」
お楽が指し示した箪笥の中から、取り出した絵を見る、新八とお葉。
若き日のお楽を描いた錦絵である。
「うわぁ、お楽さん綺麗ぃ~! これ、売れっ子の絵師が描いたみたい」
だが新八は、別のことに気付いた。
「お楽さんは、大事なことを、隠してますね?」
ギクッとした顔のお楽、新八から目線を伏せながら、
「そんな隠し事など…」
「いいや隠してる! 絵を嗜む文人大名は、平戸藩の松浦様や秋田藩の佐竹様など、少なくない。だが、鉢須賀の殿様が十年前に絵を描いていたなんてぇ話は、とんと聞いたことがねぇ」
言葉に詰まるお楽であった。
新八は一気に、お楽の隠しているであろう、核心に迫った。
「お楽さんの実家てぇのは、ひょっとして藤華屋ですかい?」
「ど、どうしてそれを……」
「やっぱりな。これですべて合点承知!」
新八はポンと、柏手を打った。
お葉とお楽は、合点も承知もできず、呆然としていた。
二
その頃、鉢須賀家の江戸屋敷の庭では、当主の主水が庭にたたずんでいた。
ひとくちに武家屋敷と言っても、上屋敷は藩主とその妻子などが暮らす。
中屋敷は隠居した先代藩主や世継ぎなどが暮らす、上屋敷の控え的な役割である。
下屋敷は江戸府中より離れた、別荘的な役割がある。
火事が多い江戸では、藩の上屋敷や下屋敷が罹災したとき、避難所としても使われた。また国元からの米などを揚げるため、水辺につくられた蔵屋敷が下屋敷を兼ねることもあった。
屋敷の大きさは、幕府からの拝領なので、大身の藩は大きく、一万石そこそこの小藩は、下屋敷はない所も多い。鉢須賀家の上屋敷は、大名にしては手狭ではあった。
と、塀の外から石をくるんだ書き付けが投げ込まれた。
拾い、見る主水。
中には、前回とは違う筆跡で、指示が書かれていた。
「今度は不忍の池か……これ、誰かある! 出かける支度をせい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここは不忍の池。
蓮の花を浮かべ、上野の寛永寺の麓で、憩いの場になっている。
不忍池は、琵琶湖を模している。
京の内裏の鬼門の位置に、弘法大師空海が比叡山延暦寺を開いたように。
江戸城の鬼門の方角に、東叡山寛永寺がある。東の比叡山の意味である。
不忍池は、琵琶湖で弁天堂は琵琶湖に浮かぶ竹生島に対応する。
そのほとりに、宗十郎頭巾をかぶった主水に酒田、二人の手下が仙太を待っていた。
「何も殿が直々にお出でにならなくとも──」
「その子供の顔を、見てみたいのじゃ」
そこへ割り込むように、子どもの声が混ざった。
「金はもってきたのか?」
「餓鬼の分際で、その口の聞き方はなんだ!」
怒鳴る前に酒田は、右手は刀の柄に、左手は鯉口を切っている。
だが、主水は泰然として尋ねた。
「そちか……」
主水は感慨深げに、仙太を見つめる。
「なに見てんだよぉ。それより早く金を出せ!」
「おうおう、そうであったな。では一両、渡してやろう。刀の届かぬ位置に居るとは、歳に見合わず聡明じゃな」
「と、殿ッ」
主水は「よいのじゃ」と言いつつ、一両を仙太の足下に投げて渡す主水。
仙太、その一両を受け取る。
だが、持ち慣れていないので、本物か偽物か、見分けがつかず、戸惑っている様子である。
「さぁ、金は渡した。今度は我が藩の秘密とやらを、聞かせてはくれぬかな」
「……主楽といえば、わかるだろ?」
「こ、小僧、どうしてそれを!」
「お屋敷に忍びこんだ時に、蔓屋と話しているの、聞いたんだい」
「ううっ、かくなる上はただで帰すわけにはいかん」
酒田の声に呼応して、手下二人も刀を抜く。
「よせ酒田、よすのじゃ!」
「この秘密が洩れますれば、我が藩の存続にかかわりまする。ここは御容赦を」
野太い掛け声とともに、手下が仙太に斬りかかろうと刀を振り下ろした瞬間!
サッと割って入る人影。
「まぁた遭ったな、おい」
新八が手下の刀を、喧嘩煙管でがっちり受け止めていた。
手下を勢いよく押しやると、新八は啖呵を切った。
「やめねぇか! この子はそこにおわす殿様の、御落胤だぜ」
「な…にぃ!?」
突然の言葉に、酒田は戸惑い、仙太の顔と殿様の顔を、交互に見ている。
言われてみれば、利発そうな口元や薄い眉など、二人は似ている。
「やはりそうか……お楽は元気か?」
主水は宗十郎頭巾を取り、仙太に相対する。
笑みを浮かべる主水に対して、仙太の表情は険しい。
「おっかあを捨てたくせに、それ聞いてどうするってんだい!」
そこにお葉が、ようやく新八に追いついて、現われた。
「仙ちゃん、それは違う。二人とも本当に好き合ってたのよ」
「嘘だ! こいつはおっかあを嫌いになったんだ。だから一度も訪ねてこねぇし、おっかあが病で伏せっても、ほったらかしだい」
「仙太が生まれた九年前、おっかさんは姿を隠さなくちゃならねぇ訳が、あったんだよぉ。そいつはまさに、その江戸家老が口にした、藩の存続に関わるんだよな」
「…訳?」
戸惑う仙太に、さらに別の声がかかった。
「そいつは…ハァハァ、あたしが…お話しハァ、ましょうか」
息を切らして現れた初老の男に、今度は仙太が驚く番だった。
「蔓屋のおじさん!」
仙太が世話になってる版元の、蔓屋の主人、九郎平であった。
「お楽さん、仙ちゃんは?」
駆け込んできた新八とお葉は、戸を開けるなり大声で叫んだ。
ここはお楽と仙太の住む丸源長屋。
突然の客に、伏せっていたお楽が無理に身体を起こし、咳き込みながら答えた。
「あの子は、何か用があるって出かけましたけれども……」
「チッ、一足遅かったかぁ~」
「仙太が何か? もしや何か変事でも?」
新八の慌てぶりに、何やら不穏なものを感じたお楽は、焦った表情。
「仙太はあるお武家を強請ってるんですよ、お楽さん」
「えっ! まさか仙太が…」
「強請りの根多について、何か心当たりがありやせんか?」
心当たりと言えば、ひとつしかない。
「実は………あの子の父親は徳島藩の殿様、鉢須賀主水様なんです」
今度は新八とお葉が声を揃えて「ええっ!」と驚く番であった。
「あたしの里方は本屋でして、殿様が手すさびに描かれた浮世絵を、売りに出した縁で…」
「仙太ができたと?」
「殿様は御台所にすると、そうおっしゃってくださったんですが…」
「側室ならまだしも、町人の娘が正室になるのを周囲が許さなかったと?」
途切れ途切れのお楽の言葉を、新八が察して補ってやる。
言葉にするのは、お楽にもためらわれるのだから、当然である。
だが、これにお葉が噛み付いてきた。
「お殿様は反対を押し切らなかったの? どこぞの旗本や大名家の養女にいったんしてから、嫁に向かえ入れるって、よく聞く話じゃないのよぉ。三代将軍家光公の生母だって、京かどこかの八百屋の娘だって聞いたわよ?」
「無理言うんじゃねぇよ。殿様には殿様の、立場ってもんがあらぁな」
「そんな、だって好きだったら、何があったって…」
「あたしは殿様の、御正室にしたいとの言葉だけで充分です」
そうやって、お楽は静かに微笑むのである。
根が控えめな人柄なのだろう。
「そんなの…バカよ。お楽さんもお殿様も!」
「おいおい、言い方に気をつけろよ。向こうは分家とはいえ大名だ、子供のお葉にはわからねぇこともあるんだろうよ」
「子供じゃないもん!」
「何を拗ねてんだぁ、おめぇは?」
「拗ねてないもん!」
口をとがらせ、そっぽを向くお葉を持て余し、新八はお楽に話を振った。
「お楽さん、それを仙太に喋りやしたか?」
「もう長くないと思ったものですから、つい…でも鉢須賀家のことは、何も言ってないんですよ。おまえの父親はさる藩のお殿様だとだけ」
「じゃぁ新八さん、仙太坊はどうやって鉢須賀家のことを、突き止めたの?」
お葉の疑問はもっともだが、こればかりは新八にはわからない。
仙太は歳に似合わぬしっかり者だし、頭の回転も早い。
僅かな手掛かりから、自分の父親を探し当てたとしたら、並みの知力ではない。
同心の息子として、一通りの武技や捜査の手練も学んでいる新八としては、舌を巻くしかないが。
「お楽さん、他に何か仙太に喋ったことは?」
「殿様が描いてくだすった絵を、あの子に見せたんです。そこの箪笥に」
お楽が指し示した箪笥の中から、取り出した絵を見る、新八とお葉。
若き日のお楽を描いた錦絵である。
「うわぁ、お楽さん綺麗ぃ~! これ、売れっ子の絵師が描いたみたい」
だが新八は、別のことに気付いた。
「お楽さんは、大事なことを、隠してますね?」
ギクッとした顔のお楽、新八から目線を伏せながら、
「そんな隠し事など…」
「いいや隠してる! 絵を嗜む文人大名は、平戸藩の松浦様や秋田藩の佐竹様など、少なくない。だが、鉢須賀の殿様が十年前に絵を描いていたなんてぇ話は、とんと聞いたことがねぇ」
言葉に詰まるお楽であった。
新八は一気に、お楽の隠しているであろう、核心に迫った。
「お楽さんの実家てぇのは、ひょっとして藤華屋ですかい?」
「ど、どうしてそれを……」
「やっぱりな。これですべて合点承知!」
新八はポンと、柏手を打った。
お葉とお楽は、合点も承知もできず、呆然としていた。
二
その頃、鉢須賀家の江戸屋敷の庭では、当主の主水が庭にたたずんでいた。
ひとくちに武家屋敷と言っても、上屋敷は藩主とその妻子などが暮らす。
中屋敷は隠居した先代藩主や世継ぎなどが暮らす、上屋敷の控え的な役割である。
下屋敷は江戸府中より離れた、別荘的な役割がある。
火事が多い江戸では、藩の上屋敷や下屋敷が罹災したとき、避難所としても使われた。また国元からの米などを揚げるため、水辺につくられた蔵屋敷が下屋敷を兼ねることもあった。
屋敷の大きさは、幕府からの拝領なので、大身の藩は大きく、一万石そこそこの小藩は、下屋敷はない所も多い。鉢須賀家の上屋敷は、大名にしては手狭ではあった。
と、塀の外から石をくるんだ書き付けが投げ込まれた。
拾い、見る主水。
中には、前回とは違う筆跡で、指示が書かれていた。
「今度は不忍の池か……これ、誰かある! 出かける支度をせい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここは不忍の池。
蓮の花を浮かべ、上野の寛永寺の麓で、憩いの場になっている。
不忍池は、琵琶湖を模している。
京の内裏の鬼門の位置に、弘法大師空海が比叡山延暦寺を開いたように。
江戸城の鬼門の方角に、東叡山寛永寺がある。東の比叡山の意味である。
不忍池は、琵琶湖で弁天堂は琵琶湖に浮かぶ竹生島に対応する。
そのほとりに、宗十郎頭巾をかぶった主水に酒田、二人の手下が仙太を待っていた。
「何も殿が直々にお出でにならなくとも──」
「その子供の顔を、見てみたいのじゃ」
そこへ割り込むように、子どもの声が混ざった。
「金はもってきたのか?」
「餓鬼の分際で、その口の聞き方はなんだ!」
怒鳴る前に酒田は、右手は刀の柄に、左手は鯉口を切っている。
だが、主水は泰然として尋ねた。
「そちか……」
主水は感慨深げに、仙太を見つめる。
「なに見てんだよぉ。それより早く金を出せ!」
「おうおう、そうであったな。では一両、渡してやろう。刀の届かぬ位置に居るとは、歳に見合わず聡明じゃな」
「と、殿ッ」
主水は「よいのじゃ」と言いつつ、一両を仙太の足下に投げて渡す主水。
仙太、その一両を受け取る。
だが、持ち慣れていないので、本物か偽物か、見分けがつかず、戸惑っている様子である。
「さぁ、金は渡した。今度は我が藩の秘密とやらを、聞かせてはくれぬかな」
「……主楽といえば、わかるだろ?」
「こ、小僧、どうしてそれを!」
「お屋敷に忍びこんだ時に、蔓屋と話しているの、聞いたんだい」
「ううっ、かくなる上はただで帰すわけにはいかん」
酒田の声に呼応して、手下二人も刀を抜く。
「よせ酒田、よすのじゃ!」
「この秘密が洩れますれば、我が藩の存続にかかわりまする。ここは御容赦を」
野太い掛け声とともに、手下が仙太に斬りかかろうと刀を振り下ろした瞬間!
サッと割って入る人影。
「まぁた遭ったな、おい」
新八が手下の刀を、喧嘩煙管でがっちり受け止めていた。
手下を勢いよく押しやると、新八は啖呵を切った。
「やめねぇか! この子はそこにおわす殿様の、御落胤だぜ」
「な…にぃ!?」
突然の言葉に、酒田は戸惑い、仙太の顔と殿様の顔を、交互に見ている。
言われてみれば、利発そうな口元や薄い眉など、二人は似ている。
「やはりそうか……お楽は元気か?」
主水は宗十郎頭巾を取り、仙太に相対する。
笑みを浮かべる主水に対して、仙太の表情は険しい。
「おっかあを捨てたくせに、それ聞いてどうするってんだい!」
そこにお葉が、ようやく新八に追いついて、現われた。
「仙ちゃん、それは違う。二人とも本当に好き合ってたのよ」
「嘘だ! こいつはおっかあを嫌いになったんだ。だから一度も訪ねてこねぇし、おっかあが病で伏せっても、ほったらかしだい」
「仙太が生まれた九年前、おっかさんは姿を隠さなくちゃならねぇ訳が、あったんだよぉ。そいつはまさに、その江戸家老が口にした、藩の存続に関わるんだよな」
「…訳?」
戸惑う仙太に、さらに別の声がかかった。
「そいつは…ハァハァ、あたしが…お話しハァ、ましょうか」
息を切らして現れた初老の男に、今度は仙太が驚く番だった。
「蔓屋のおじさん!」
仙太が世話になってる版元の、蔓屋の主人、九郎平であった。
0
あなたにおすすめの小説
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる