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第1章 憂鬱
第11話 結衣
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「大丈夫。もう胃に入らないので」
「琢磨の部署は?」
グラスにミネラルウォーターを注ぐのが早ければ、次の話に入るのもやたらと早い。
「営業課。成績はいつも超優秀で、今季も営業成績が社内全体で2位。表彰も受けてる。そんな成績優秀な人が他人の情報なんか盗む訳が無いわ。凄いプライドが高い人だし」
「そうか? 逆にそこまで会社に評価されてるんだったら、今更悪い成績取れなくなるんじゃないか? プライドが高けりゃ尚更だ。きっと2位でも満足して無いだろうに。それと、マドモアゼルも営業なんだよな。君は何位なんだ?」
「そんなの答えるつもりは無いわ。だって事件と関係無いでしょう」
すると喜太郎さんは、私の為に注いでくれたミネラルウォーターを一気に飲み干した。そして満を持して語る。
「俺の頭の中では今一つの仮説が出来上がりつつ有る。その仮説を成立させるには、その質問の答えが必要なんだ。別に興味本位で聞いてる訳じゃ無い。だからもう一度聞くぞ。結衣さんは今季何位だったんだ?!」
今日初めて『結衣』と言う名前を呼んで貰えた。なぜそんなことが無性に嬉しかったのか分からない。ただそんな些細なことが、今まで臭いものに蓋をしていた私の心を、一歩前に進ませる勇気を与えてくれたのかも知れない。
喜太郎さんの頭の中に、今出来つつある仮説......それはきっと、私が敢えて封印していた『信じたく無い現実』ときっと一致してるんだと思う。
もう現実から逃げていても仕方がない......『結衣さんは何位なんだ?』、喜太郎さんのそんな質問に対し、私は正直に答えようと思う。
「前期は琢磨君が1位で私が2位。今季は私が1位。遂に琢磨君を抜いたの」
「なるほど、思った通りだ。今、仮説が成立した」
「つまり、琢磨君が私の情報を横取りする為にタブレットを盗んだ......そう言いたいんだと思うけど、物理的にそれは無理。今日琢磨君は午後一番から外回りに出てて、会社には戻って来て無いわ。だからノーチャンスだったと思う」
私は事実をありのまま伝えた。一切脚色してない。すると喜太郎さんは、また想定外の話を繰り出して来た。
「琢磨の写真は有るか?」
「写真を見て何か分かることでも有るの?」
「見る前に聞かれても分かる訳無いだろ」
もちろん、スマホで撮った写真は何枚も有る。見たい気もするし、見るとまた涙が出て来ちゃいそうで怖い気もする。まだ心の整理が出来て無いんだから当たり前だ。
私は少し震える手でスマホを立ち上げた。すると真っ先に現れた画面は、
『行こうと思ったんだけど、やっぱ止めとく。俺達、もう終わりにしよう......』
そんなLINE文字だったのである。
「あっ!」
慌てて画面を切り替えた私だったけど、多分見られてたと思う。案の定、
「(タブレットが手に入らなかったら)行こうと思ったけど、(タブレットが手に入ったから)やっぱ止めとく。(タブレットが手に入ってもうお前に用が無くなったから)俺達、もう終わりにしよう......俺にはそう書いてあるように見えたんだが......おっと、申し訳ない。また思ったことを、そのまま言っちまった」
ブルブルブル......気付けば、痙攣に近いような震えが、身体全体に広がっている。それが激しい怒りから来るものなのか、深い悲しみから来るものなのか? はたまたそれが琢磨君に対してのものなのか、喜太郎さんに対してのものなのか? 正直全てがよく分からなかった。
ただ、精神崩壊寸前の所まで達していたことだけは間違い無い。ここでそのまま廃人と化して、病院行きとなるか、不死鳥の如く甦るかは私次第だったと思う。
ここまで落ちきれば、もうこれ以上落ちようが無い......ある種、開き直りと言う名のアドレナリンが、僅かでも脳に分泌を始めてくれたのも、きっと喜太郎さんが発してくれたこの気付け薬のおかげだったのかも知れない。
真実を知りたい、私にはそれを知る権利がある! 泣くのはその後だ......問題が全て解決するまでは二度と泣くまい! 遂に心が臨界点へ到達した私の顔は、きっと鬼のようだったと思う。
「喜太郎さん、水!」
「了解!」
トクトクトク......本日5回目のミネラルウォーターをグラスに勢いよく注いでいく喜太郎さん。心無しか手が震えていたような気がする。多分、私の繰り出すアドレナリンが、彼にも伝播していたんだろう。
私はそんなミネラルウォーターを1秒で飲み干すと、
「はい、これが琢磨君、初めて付き合い始めた時の写真、次にこれが一週間後、柱時計の前で撮った写真、そしてこれが、事務所内で撮った時の全体写真。今から2週間位前だったかな......営業の一人が退職する時にみんなで撮ったって言う経緯よ。それで次が......」
私が更に写真を進めようとしたその時、
「ちょっと待って。その写真よく見させて」
突如、喜太郎さんがストップを掛けた。私は言われた通り、写真を元に戻し、少しアップ気味に全体写真を表示する。
「琢磨の部署は?」
グラスにミネラルウォーターを注ぐのが早ければ、次の話に入るのもやたらと早い。
「営業課。成績はいつも超優秀で、今季も営業成績が社内全体で2位。表彰も受けてる。そんな成績優秀な人が他人の情報なんか盗む訳が無いわ。凄いプライドが高い人だし」
「そうか? 逆にそこまで会社に評価されてるんだったら、今更悪い成績取れなくなるんじゃないか? プライドが高けりゃ尚更だ。きっと2位でも満足して無いだろうに。それと、マドモアゼルも営業なんだよな。君は何位なんだ?」
「そんなの答えるつもりは無いわ。だって事件と関係無いでしょう」
すると喜太郎さんは、私の為に注いでくれたミネラルウォーターを一気に飲み干した。そして満を持して語る。
「俺の頭の中では今一つの仮説が出来上がりつつ有る。その仮説を成立させるには、その質問の答えが必要なんだ。別に興味本位で聞いてる訳じゃ無い。だからもう一度聞くぞ。結衣さんは今季何位だったんだ?!」
今日初めて『結衣』と言う名前を呼んで貰えた。なぜそんなことが無性に嬉しかったのか分からない。ただそんな些細なことが、今まで臭いものに蓋をしていた私の心を、一歩前に進ませる勇気を与えてくれたのかも知れない。
喜太郎さんの頭の中に、今出来つつある仮説......それはきっと、私が敢えて封印していた『信じたく無い現実』ときっと一致してるんだと思う。
もう現実から逃げていても仕方がない......『結衣さんは何位なんだ?』、喜太郎さんのそんな質問に対し、私は正直に答えようと思う。
「前期は琢磨君が1位で私が2位。今季は私が1位。遂に琢磨君を抜いたの」
「なるほど、思った通りだ。今、仮説が成立した」
「つまり、琢磨君が私の情報を横取りする為にタブレットを盗んだ......そう言いたいんだと思うけど、物理的にそれは無理。今日琢磨君は午後一番から外回りに出てて、会社には戻って来て無いわ。だからノーチャンスだったと思う」
私は事実をありのまま伝えた。一切脚色してない。すると喜太郎さんは、また想定外の話を繰り出して来た。
「琢磨の写真は有るか?」
「写真を見て何か分かることでも有るの?」
「見る前に聞かれても分かる訳無いだろ」
もちろん、スマホで撮った写真は何枚も有る。見たい気もするし、見るとまた涙が出て来ちゃいそうで怖い気もする。まだ心の整理が出来て無いんだから当たり前だ。
私は少し震える手でスマホを立ち上げた。すると真っ先に現れた画面は、
『行こうと思ったんだけど、やっぱ止めとく。俺達、もう終わりにしよう......』
そんなLINE文字だったのである。
「あっ!」
慌てて画面を切り替えた私だったけど、多分見られてたと思う。案の定、
「(タブレットが手に入らなかったら)行こうと思ったけど、(タブレットが手に入ったから)やっぱ止めとく。(タブレットが手に入ってもうお前に用が無くなったから)俺達、もう終わりにしよう......俺にはそう書いてあるように見えたんだが......おっと、申し訳ない。また思ったことを、そのまま言っちまった」
ブルブルブル......気付けば、痙攣に近いような震えが、身体全体に広がっている。それが激しい怒りから来るものなのか、深い悲しみから来るものなのか? はたまたそれが琢磨君に対してのものなのか、喜太郎さんに対してのものなのか? 正直全てがよく分からなかった。
ただ、精神崩壊寸前の所まで達していたことだけは間違い無い。ここでそのまま廃人と化して、病院行きとなるか、不死鳥の如く甦るかは私次第だったと思う。
ここまで落ちきれば、もうこれ以上落ちようが無い......ある種、開き直りと言う名のアドレナリンが、僅かでも脳に分泌を始めてくれたのも、きっと喜太郎さんが発してくれたこの気付け薬のおかげだったのかも知れない。
真実を知りたい、私にはそれを知る権利がある! 泣くのはその後だ......問題が全て解決するまでは二度と泣くまい! 遂に心が臨界点へ到達した私の顔は、きっと鬼のようだったと思う。
「喜太郎さん、水!」
「了解!」
トクトクトク......本日5回目のミネラルウォーターをグラスに勢いよく注いでいく喜太郎さん。心無しか手が震えていたような気がする。多分、私の繰り出すアドレナリンが、彼にも伝播していたんだろう。
私はそんなミネラルウォーターを1秒で飲み干すと、
「はい、これが琢磨君、初めて付き合い始めた時の写真、次にこれが一週間後、柱時計の前で撮った写真、そしてこれが、事務所内で撮った時の全体写真。今から2週間位前だったかな......営業の一人が退職する時にみんなで撮ったって言う経緯よ。それで次が......」
私が更に写真を進めようとしたその時、
「ちょっと待って。その写真よく見させて」
突如、喜太郎さんがストップを掛けた。私は言われた通り、写真を元に戻し、少しアップ気味に全体写真を表示する。
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