LA・BAR・SOUL(ラ・バー・ソウル) 第1章 プロローグ

吉田真一

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第1章 憂鬱

第10話 ミネラルウォーター

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「宜しい......じゃあここからは中級編だ。マドモアゼルのタブレットを持ち出す動機が有るとしたらそれはなに? またそれを持ち出して得する奴は誰?」

「詰め込まれてる情報の大半は、社員全員に共有されてるもの。それ以外に強いて言うとしたら、私がこれから営業展開してこうと目論んでた見込客リストかな。他には......ええと......えっ、あっ、そうだ!」

 ここで私は、ある重要なファイルを思い出したのである。

「果て......その心は?」

「次の営業会議で発表しようと思って開発部と秘密裏に温めてた新製品のサンプルとテストデータ!」

 もしかして、それがお目当てってことなの? でも誰が......
 
「よし、また一つ紐がほどけたな。じゃあおまけにもう一つ。その情報を奪って得する奴は誰だ?!」

 喜太郎さんは、いよいよ話を確信に持っていく。きっと興奮してるんだろう。顔が明らかに赤味を帯びていた。気付けば、私の目の前で立ち止まり、熱い視線を私に向けているじゃない!


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ちょっとここで一旦ストップ! 初心に帰って、もう一度頭を整理してみたいと思うの。さっきから勢いのままどんどん話が進んじゃってるけど、やっぱちょっと変な気がする。

 それはどう言うことかって言うと、あなたは誰? 私は誰? って疑問なの。私の記憶が正しければ、あなたはバーのマスターで、私はただのお客さんだったような気がするんだけど。それがいつから、あなたは『探偵』、私は『被疑者』になってしまったのでしょうか? 

 別に私は助けて貰ってる立場だから構わないんだけど、初めて会ったばかりの私に、なんであなたはそこまで関わってくれるのか、その理由が分からない。

 ただの謎解きマニアのお戯れとか、客が居ないから暇潰しとかじゃ無いと思う。もしかしたら、私の知らぬ何か大きな理由でも有るんだろうか?......

 一旦トークバトルを止めて、なんで? って聞いてみたい気もするけど、喜太郎さんがあまりに一生懸命頑張ってくれてるから、ここで話を折るのもちょっと気が引ける。

 まぁ、実際の所、私も本気で困ってる訳だから、ここは有り難くご好意を頂戴するのがいいのかも。うん、そうだ、そうしよう......

 よしっ、邪念を払って喜太郎さんの話に集中しよう。タブレットを絶対に見付け出すんだから! 

「分かったぞ!」

「えっ?」

「犯人は琢磨だ」

「おえっ!」

 なぜだか急に胃液が込み上げて来た。元々胃は強い方じゃ無い。

「大丈夫か?」

 全然大丈夫じゃ無いけど、

「だ、大丈夫......」

 と言うしか無かった。

「これでも飲んで」

 トクトクトク......今日3杯目のミネラルウォーターを注いでくれる喜太郎さん。

「ありがとう」

 実際のところ有り難かった。思い返してみれば、昼から何も食べて無い。精神的ストレスと1時間雪に当たったことが全部胃に来たんだろう。そんなミネラルウォーターを飲み干すと、私はゆっくり顔を上げる。そして言い切った。

「琢磨君じゃ無いわ」

「何で言い切れる?」

「琢磨君はそんな人じゃ無いから」

「まだ未練タラタラだな」

「今日振られたばかりなもんで」

「振られたから犯人じゃ無いのか?」

「......」

 それにしても、一体この人はなんでそこまでズバズバ言えるんだろう? 私のこと全然女だと思って無いな......3杯目のミネラルウォーターを注いで貰った時に、一瞬でも優しい人なのかと思った自分がバカに思えて来る。

 問題解決に『先入観』は禁物だってことは分かるんだけど。うっ、うっ、うっ......やだなぁ、また涙が出て来ちゃった。

「まぁ、これでも飲んで」

 トクトクトク......4杯目のミネラルウォーターを注いでくれる喜太郎さん。店の在庫を全て飲み干す勢いだ。

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