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2#1 月の花―gekka―
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数日後、カツイはとうとう竹石に捕まり生活指導室に連れて行かれた。
「まったく……お前は進学する気ないのか? カツイ」
ひどくご立腹な様子の竹石はもういい歳だというのに、灰皿から溢れそうな吸い殻と、部屋いっぱいに副流煙が充満させている。しかし一方のカツイはシャツをだらしなくはだけさせて、パイプ椅子に浅く腰かけ、背もたれに寄りかかっている。
「先生はこんなにお前の行く末を案じてやってるのに」
竹石がそう言いながら二十五本目の煙草に火をつけた時、突然カツイは何を思ったのか立ち上がる。その拍子にパイプ椅子は後ろに倒れる。ポロリと煙草が竹石の手から落ち、それを見たカツイは机の上にばんと手を叩きつける。
「案じる? オレの事? バカな事言わないでよセンセ。熱血教師のつもり? 流行んないよそんなの今時」
カツイを凝視する竹石を軽蔑の目で見ながら、カツイは扉に手をかける。
「ま、待ちなさいカツイ!」
「あー言い忘れてたけど」
扉を五センチほど開き、カツイは竹石を振り返る。
「オレ、進学する気なんて全っ然ないから。センセももうオレの事いちいち気にかけなくていーよ」
「おい、ちょっと待……!」
カツイは扉を閉める。自分の保身しか考えていない大人にいい加減苛立っていた。大人は信用できない。自分を残してこの世を去った両親も、炎の中、最後まで自分を信じていてくれた人間を刺し殺そうとしたアイツも。
自分の瞳が、いつもと違う事を感じていた。人の気配を感じ、カツイが視線を落とすと、扉のすぐ脇に座り込んでいるゲッカと目が合った。
「終わったんですか? 先輩」
「おお、お前、こんなトコまでっ……」
「『家出人』に入れてもらえるまでつきまといますよ」
ニッコリと花のように微笑むゲッカ。屋上でカツイにけんもほろろに断られてからというもの、ゲッカはカツイのいる所に必ず現れていたのだった。
「トバっちドコ……? タスケテ……」
しかしその願いも叶わず、ゲッカの笑顔を向けられたカツイはげんなりとしてしまうのだった。
「大体お前……」
「ゲッカです」
「どっからその事知ったんだよ」
「秘密です」
そう言ってゲッカはふふっと笑う。しかしその時カツイはゲッカに妙な物を感じた。それはデジャヴ。前にもこんな風に怪しげな笑みをする人間がいた。カツイの頭の中に、突然過去の記憶が飛び込んでくる。
――なんでっ、なんでなんだよっ!!
カツイは自分に背を向けて歩いていく人間を怒鳴りつける。それでもその人間は振り返らない。
――やめろカツイ!
カツイの体にしがみついて彼を必死に止めようとしているのは彼の兄。
その兄も、今は――
「まったく……お前は進学する気ないのか? カツイ」
ひどくご立腹な様子の竹石はもういい歳だというのに、灰皿から溢れそうな吸い殻と、部屋いっぱいに副流煙が充満させている。しかし一方のカツイはシャツをだらしなくはだけさせて、パイプ椅子に浅く腰かけ、背もたれに寄りかかっている。
「先生はこんなにお前の行く末を案じてやってるのに」
竹石がそう言いながら二十五本目の煙草に火をつけた時、突然カツイは何を思ったのか立ち上がる。その拍子にパイプ椅子は後ろに倒れる。ポロリと煙草が竹石の手から落ち、それを見たカツイは机の上にばんと手を叩きつける。
「案じる? オレの事? バカな事言わないでよセンセ。熱血教師のつもり? 流行んないよそんなの今時」
カツイを凝視する竹石を軽蔑の目で見ながら、カツイは扉に手をかける。
「ま、待ちなさいカツイ!」
「あー言い忘れてたけど」
扉を五センチほど開き、カツイは竹石を振り返る。
「オレ、進学する気なんて全っ然ないから。センセももうオレの事いちいち気にかけなくていーよ」
「おい、ちょっと待……!」
カツイは扉を閉める。自分の保身しか考えていない大人にいい加減苛立っていた。大人は信用できない。自分を残してこの世を去った両親も、炎の中、最後まで自分を信じていてくれた人間を刺し殺そうとしたアイツも。
自分の瞳が、いつもと違う事を感じていた。人の気配を感じ、カツイが視線を落とすと、扉のすぐ脇に座り込んでいるゲッカと目が合った。
「終わったんですか? 先輩」
「おお、お前、こんなトコまでっ……」
「『家出人』に入れてもらえるまでつきまといますよ」
ニッコリと花のように微笑むゲッカ。屋上でカツイにけんもほろろに断られてからというもの、ゲッカはカツイのいる所に必ず現れていたのだった。
「トバっちドコ……? タスケテ……」
しかしその願いも叶わず、ゲッカの笑顔を向けられたカツイはげんなりとしてしまうのだった。
「大体お前……」
「ゲッカです」
「どっからその事知ったんだよ」
「秘密です」
そう言ってゲッカはふふっと笑う。しかしその時カツイはゲッカに妙な物を感じた。それはデジャヴ。前にもこんな風に怪しげな笑みをする人間がいた。カツイの頭の中に、突然過去の記憶が飛び込んでくる。
――なんでっ、なんでなんだよっ!!
カツイは自分に背を向けて歩いていく人間を怒鳴りつける。それでもその人間は振り返らない。
――やめろカツイ!
カツイの体にしがみついて彼を必死に止めようとしているのは彼の兄。
その兄も、今は――
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