淀むモノクローム

古河さかえ

文字の大きさ
5 / 7
序章

しおりを挟む
「鏡子も今急ぎ帰国の準備をしているところだから、君の仕事は鏡子が戻ってくるまで彼を守り続ける事だな。車両の手配は私がしておくから――」
 ミナトにもやる事が多かった。組織の追跡を逃れる為のGPSの付いていない車両の用意もそうだが、第一に組織へ戻り晶を捕まえ鏡子からの連絡を橋渡ししなければならない。
 唐突にレニーが命を狙われるこの状況こそが本来ならば有り得ないことだったのだ。元々レニーは鏡子の庇護下に居た。組織の長から海外への出張を命じられ鏡子が側近で相棒のバトラーと共にイギリスへと発ったその日、【鴉】に対してレニーの抹殺指令が発令された。幾らなんでもタイミングが良すぎたのだ。その上レニー殺害の指令を出した晶と、今までレニーを守ってきていた鏡子が直接連絡の取れない状態となっている。
「有森、ねえ有森!」
 レニーの叫びにミナトが視線を落とすと、ぐったりと顔面蒼白の有森をレニーが揺すっていた。黒い革のジャケットは右肩からの出血でどす黒く汚れている。
「弾は?」
「貫通してるはず、だと思うけど……」
 肩口を捲り上げると生々しい銃創が重症の度合いを示していた。弾が綺麗に抜けてくれた事が幸いしたのか出血自体はほぼ止まりかけている。今のこの状態は緊張の糸が切れた事と出血をし過ぎた事による昏睡だろうとミナトは読んだ。すぐにでも場所を移し安静を取らせたいところだったが、組織の息が掛かっている機関を使う訳にもいかなかった。
「私が戻ってる間、どこかで寝かせられれば良いんだが」
「そこの廃ビルの中なら? 見つからないと思うけど……」
「いや近すぎる。徳馬が戻ってきた時に真っ先に見つかるだろう」
 ミナトが追い払った徳馬がいつこの場所に戻ってくるかも分からない。このような裏切りを防ぐ為に組織の人間は本来二人一組で行動をする。片方が裏切った時もう片方が処分を下す為だ。
 それが出来ずに組織に逃げ帰った徳馬の末路は一つだけだった。独立機関である拷問官に制裁を加えられるのだ。
 先にミナトが気付いた。続いてレニーが気配に気付いた。向かおうとしていた道の奥に長い影が伸びてきていた。先程までの徳馬の発砲音を不審に思った一般人だろうか。肩から流血し意識の無い有森、誤解を招かない訳が無かった。ミナトは一度上着の中に仕舞った銃に手を伸ばす。情報はまだ漏れていないはずだったがもし逃げ帰った徳馬が一早く応援を要請したとしたら――。
 近付く足音に緊張が走る。建物の陰から顔を出したのは――制服を着崩した男子高生だった。
 明るい髪色の長髪を頭の後ろで一つに結ぶ彼、久我は通学用のスポーツバッグを肩に掛けたまま気配のする路地を覗き込んだ。そこに居たのは三人の男たち。一人は既に死んでいるのか、横たわったまま微動だにしなかった。
「おたくら、こんなとこで何してんの?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...