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二章

ー閑話2ー side man

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せっかくの壮行会なのに、全員がお通夜ムードだ。

いつもはキラキラしい王子様も、清純派筆頭!!みたいな聖女様もみんなどんよりとしている。

当初はおきれいな杯で飲んでいたお酒は時間が経つにつれてやけくそのようにジョッキでの一気飲みに代わっていた。まあ、聖女様たちは除くが。

ガン!!

俺の二つ隣で飲んでいた王子様がそこらの荒くれものみたいにグラスをテーブルに叩きつけた。いくらお酒に慣れていると言ってもジョッキを一気飲みし続けたら酔っぱらうだろうに。

音もなく、後ろから王子様付きの侍従がやってきて、無言でジョッキにお酒を継ぎ足した。

「大丈夫か?」

心配になって声をかける。王子様は赤くなった顔を上げて、こちらを見つめた。

「……明日になれば、貴族や有力者を集めての正式な壮行会だ。今みたいに私達だけでやるものとは違う。そこでは私は王子として在らなければならない。今ぐらいは羽目を外させてくれ……」

弱弱しいその口調に何も言えず、俺は黙って杯を合わせ、飲みに付き合った。

正直、こんな気分で王城での壮行会を兼ねた宴会とかくそらえだとは思う。それでも、魔に侵されたこの国では皆を元気づける為に必要なことだと説明されていた。

不意にカツンと別の杯が俺の杯にぶつかった。騎士団長の杯だ。彼は言葉少なくも優しい眼差しで「飲もう、明日の為に」と言った。

短い付き合いだが、俺をいさめてくれているのがわかるその口調に、俺も静かに杯を重ねた。

「未来に」

聖女が厳かに杯を掲げる。

「「「未来に」」」

その場にいた皆が切なさと少しの希望を込めて杯を掲げた。



王城での壮行会は、今この国が危機に瀕しているとは思えないほど、豪奢なものだった。

使われているカトラリー一本だけで、庶民が少なくとも一か月は暮らしていけるだろう。

こんなにお金があるなら、魔物の被害を受けている地域に支援する金額を増やせばいいのに、と思ったが、今日は近隣の外交官等も出席している宴なので、みすぼらしければ国の威信にかかわるとか。

国が滅びようとしている時に威信だのなんだのと、近代社会からやってきた俺にはなじまないが、この世界は中世世界の王政がメインの世界。しかも魔物もいるし、魔法もある。地球とは別物だと思えば仕方のないことなのかもしれない。

昨日はあれだけ酔っぱらっていた王子様は今日は澄ました顔をして登壇している。聖女様も昨日の憂いに満ちた顔ではなく、慈愛の表情を浮かべていた。

ほんと、立場のあるやつはあるやつで大変だな、と他人事のように眺めていたら、国王陛下が俺の名前を呼んだ。

「紹介しよう!!我らの召喚に答えてくれた、神に選ばれし英雄、名をリオンという」

登壇し、王子様と聖女様と並ぶ。やがて隣に騎士団長、魔法師団長が並んだ。

「この五名が魔王を討伐し、今一度世界に光をもたらしてくれる神に選ばれた者たちだ!!」

国王陛下が高らかに告げると、会場が歓声に沸いた。激励の言葉があちこちから聞こえる。それを見ていると、昨晩感じていた惨めさは薄れ、選ばれた俺たちが魔王を討伐し、彼らに安寧をもたらせる、そのことに誇りを感じた。

「がんばろうな」

俺はそっと王子様に話しかける。

王子様も少し笑って、頷いた。

神殿の大神官に祝福され、そうして俺たち五人と騎士団一個大隊は魔王討伐に出発した。
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