やさぐれ英雄と名もなき孤児の少女

月城 月華

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四章

灰色の少女と悔恨にさいなまれる英雄 1

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少女side

少女は必死で走った。冷たい雪の中を幼い赤子を抱えて、たった一人で。

道は暗くて、月も星もでていない。手に持っているのは小さな魔道カンテラのみ。

本来なら、道に迷って死んでいたであろう。しかし、幸いと言っていいのかは分からないが、王城から出火した大火災の灯りは煌々とあたりを照らし、夜道を行く人を助けてくれていた。

加えて、雪道であったため、少女が通った痕跡も残りにくく、逃げるには最適の日だと言えた。

はあーと白い息を吐きながら、少女は長い間過ごした王都を振り向かずに後にした。






リオンside

国王が死んだあと、リオンは宮廷魔導士団の詰め所が完膚なきまで燃えていることを確認してから、王城を後にした。

暗闇の中から黒いローブを被った小柄な男が歩いてくる。

リオンの前でローブを脱いで、その男は燃え広がり、地下から外にも広がってきた炎をみやる。

「派手にやったね、リオン」

「……久しぶりだな、元宮廷魔導士団長。お前は、今回加担してなかったんだな」

「そもそも、魔王討伐後、一線をしりぞいていたしね。……それに、もう二度と、友を裏切ることはしたくないよ」

「は、今更」

こうなってようやく、後悔したってか。とリオンは毒づいた。そのリオンに対して、元宮廷魔道師団長は幼子を見るような目と少しの寂寥含ませていた。

「ほら、リオン、追手がかかる前に逃げな。信じるか信じないかは好きにしたらいいが、神殿に向かうといい」

「ーーお得意の占いってやつか?今の俺に教えるメリットは何なんだ?」

「さあね、きまぐれかな。それか、つぐないか……心配しなくても、例の部屋は僕が向こう五百年は復元できないようにしておくから」

「そうか……じゃあな」

「うん、リオン、元気で」

出会った頃と変わらず、少年のような容姿と言動をしているのに、実は騎士団長よりもはるかに年上だという元魔導士団長は王城の重要カ所には燃え広がらないように水魔法で対処し始めた。

リオンはその背中を一度だけ振り返ると、暗闇に消えて行った。






リオンは吹雪いている夜道を歩きながら、元宮廷魔導士団長に言われた事に従うか迷っていたが、彼が、誰にも言われずに王城にいたことを思い出して、とりあえず神殿に行ってみることにした。

彼の家は王都の外れにあり、事件をある程度予知していなかったらあのタイミングで王城にたどり着くのは難しいからだ。

一瞬、吹雪の中の蜃気楼か、激しすぎる訓練に嫌気がして彼の隣に避難し、おだやかに本を読む彼と話した一時が目の前に浮かんだ気がしたがそれが自身の未練なのかよくわからなくて、苦笑した。

やがてリオンの背中は王城の炎も届かない暗闇に消えて行った。
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