35 / 90
四章
灰色の少女と悔恨にさいなまれる英雄 1
しおりを挟む少女side
少女は必死で走った。冷たい雪の中を幼い赤子を抱えて、たった一人で。
道は暗くて、月も星もでていない。手に持っているのは小さな魔道カンテラのみ。
本来なら、道に迷って死んでいたであろう。しかし、幸いと言っていいのかは分からないが、王城から出火した大火災の灯りは煌々とあたりを照らし、夜道を行く人を助けてくれていた。
加えて、雪道であったため、少女が通った痕跡も残りにくく、逃げるには最適の日だと言えた。
はあーと白い息を吐きながら、少女は長い間過ごした王都を振り向かずに後にした。
リオンside
国王が死んだあと、リオンは宮廷魔導士団の詰め所が完膚なきまで燃えていることを確認してから、王城を後にした。
暗闇の中から黒いローブを被った小柄な男が歩いてくる。
リオンの前でローブを脱いで、その男は燃え広がり、地下から外にも広がってきた炎をみやる。
「派手にやったね、リオン」
「……久しぶりだな、元宮廷魔導士団長。お前は、今回加担してなかったんだな」
「そもそも、魔王討伐後、一線をしりぞいていたしね。……それに、もう二度と、友を裏切ることはしたくないよ」
「は、今更」
こうなってようやく、後悔したってか。とリオンは毒づいた。そのリオンに対して、元宮廷魔道師団長は幼子を見るような目と少しの寂寥含ませていた。
「ほら、リオン、追手がかかる前に逃げな。信じるか信じないかは好きにしたらいいが、神殿に向かうといい」
「ーーお得意の占いってやつか?今の俺に教えるメリットは何なんだ?」
「さあね、きまぐれかな。それか、つぐないか……心配しなくても、例の部屋は僕が向こう五百年は復元できないようにしておくから」
「そうか……じゃあな」
「うん、リオン、元気で」
出会った頃と変わらず、少年のような容姿と言動をしているのに、実は騎士団長よりもはるかに年上だという元魔導士団長は王城の重要カ所には燃え広がらないように水魔法で対処し始めた。
リオンはその背中を一度だけ振り返ると、暗闇に消えて行った。
リオンは吹雪いている夜道を歩きながら、元宮廷魔導士団長に言われた事に従うか迷っていたが、彼が、誰にも言われずに王城にいたことを思い出して、とりあえず神殿に行ってみることにした。
彼の家は王都の外れにあり、事件をある程度予知していなかったらあのタイミングで王城にたどり着くのは難しいからだ。
一瞬、吹雪の中の蜃気楼か、激しすぎる訓練に嫌気がして彼の隣に避難し、おだやかに本を読む彼と話した一時が目の前に浮かんだ気がしたがそれが自身の未練なのかよくわからなくて、苦笑した。
やがてリオンの背中は王城の炎も届かない暗闇に消えて行った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる