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第3章:距離が縮まる二人
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3-1:苛立ちと違和感
ヴィヴィアンとアレクサンダーの関係は、セリーナの失脚を機に微妙に変化し始めていた。アレクサンダーが彼女を守るために行動したことで、ヴィヴィアンの中にはこれまで抱えていた孤独感が少しだけ薄まり、彼に対するわずかな信頼が芽生えていた。
しかし、二人の間には依然として契約結婚という冷たい壁が存在していた。公爵夫人としての務めを果たしながらも、ヴィヴィアンは彼との距離を意識し続けていた。
---
ある日の夕方、ブラックモア公爵家の広間で行われた小規模な茶会において、ヴィヴィアンはまたもや周囲からの無遠慮な視線に晒されていた。出席した貴族たちはセリーナの失脚後もなお、ヴィヴィアンを軽視し、冷たい言葉を投げかける者もいた。
「公爵夫人様、セリーナ様の件ではさぞお疲れだったでしょうね。」
「まぁ、公爵様の助けがなければ、どうなっていたことかしら?」
その言葉に微かな皮肉が込められているのは明らかだった。ヴィヴィアンは微笑みを崩さず、冷静に応じた。
「確かに、セリーナ様の件は大変でしたが、公爵様の力添えのおかげで無事解決いたしました。ご心配いただき、ありがとうございます。」
毅然とした彼女の態度に、一部の貴族たちは言葉を失ったが、冷たい視線は依然として彼女に注がれていた。
その光景を、部屋の隅で黙って見つめるアレクサンダーの灰色の瞳が鋭く光った。彼はヴィヴィアンが侮辱されるたびに、胸の奥に抑えきれない苛立ちを感じ始めていた。
「なぜ、ここまで彼女が侮られる必要がある?」
彼女が公爵夫人としての責務を完璧に果たしていることを知っているからこそ、その理不尽な扱いに怒りを覚えたのだ。しかし、アレクサンダーはそれを言葉や態度で表すことなく、冷静を装い続けていた。
---
その夜、ヴィヴィアンは茶会の疲れを感じながら、自室で一人静かに休んでいた。広間での出来事を思い返しながら、彼女は自分がこの立場にいることの意味を改めて考えていた。
「私は、この結婚に期待してはいけない。」
そう自分に言い聞かせる一方で、最近のアレクサンダーの行動が彼女の心に小さな波紋を広げていた。彼がセリーナの罠から彼女を守るために動いたこと。そして、茶会の場で感じた、彼の冷たい視線の奥に隠された苛立ち――。
「公爵様は、本当に冷徹な方なのかしら……?」
その疑問が頭を離れなかった。
---
翌朝、ヴィヴィアンはいつものように朝食の席に着いた。普段はアレクサンダーが同席することはほとんどなかったが、その日は珍しく彼が席に現れた。
「おはようございます、公爵様。」
ヴィヴィアンが礼儀正しく挨拶すると、アレクサンダーは短く頷き、彼女の向かいに座った。
「昨日の茶会、よく耐えたな。」
突然の言葉に、ヴィヴィアンは一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「公爵夫人として当然のことをしたまでです。」
その答えに、アレクサンダーは微かに眉をひそめた。彼は彼女の毅然とした態度に感心しつつも、どこか違和感を覚えていた。
「君は、何故そこまで完璧であろうとする?」
その問いかけは、彼自身も意図していなかったものだった。しかし、ヴィヴィアンはしばらく沈黙した後、静かに答えた。
「それが、私の役目だからです。公爵夫人として、家の名を傷つけないために。」
アレクサンダーはその言葉に表情を動かさなかったが、心の中で何かが揺れた。彼女の強さが、どこか悲しいものに思えたのだ。
「……無理をするな。」
その言葉は、彼が発するにはあまりにも不器用なものだったが、ヴィヴィアンはその一言に驚き、彼を見つめた。
「ありがとうございます、公爵様。」
その場に漂う微妙な空気を壊すように、アレクサンダーは食事に手を伸ばし、二人の会話はそれ以上続かなかった。しかし、互いの胸の中には確かに何かが残っていた。
---
その後もヴィヴィアンは公爵夫人としての務めを果たし続けたが、アレクサンダーの態度が少しずつ変化していることに気づき始めていた。彼はこれまでのように無関心を装うことが少なくなり、彼女が侮辱される場面では冷静に見守るだけでなく、時折厳しい目を向けるようになっていた。
そして、ヴィヴィアン自身もまた、彼の中に隠された優しさに気づき始めていた。
3-2:セリーナの最後の罠
ヴィヴィアンとアレクサンダーの関係が少しずつ変わり始めた矢先、嵐のような事件が二人を再び試すこととなった。セリーナ・モーガン――公爵家から追放された彼女が、まだ諦めていないことを示すかのように、最後の罠を仕掛けてきたのだ。
---
ある日、ヴィヴィアンは執事から市場の視察について相談を受けた。領民たちが新たに提案した政策を実行に移すかどうかを確認するため、彼女が視察に向かうべきかを尋ねられたのだ。ヴィヴィアンはこれを公爵夫人としての役割と考え、即座に視察を引き受けた。
「公爵様にお伝えする必要はありません。これは私一人で十分対応できます。」
ヴィヴィアンはそう言い残し、自らの判断で市場へと向かった。しかし、それが彼女を狙った罠だとは、彼女自身も執事も気づいていなかった。
---
市場は以前と同じように活気に満ちていた。領民たちはヴィヴィアンの訪問に驚きつつも歓迎の態度を見せ、彼女が提案内容を確認して回る様子には感謝の声が上がった。
「公爵夫人様、いつも私たちのことを考えてくださってありがとうございます。」
「いいえ、皆さんが一生懸命働いてくださっているからこそ、領地が成り立っています。」
ヴィヴィアンの言葉に、領民たちは満足げに微笑んだ。しかし、その和やかな雰囲気の裏で、不穏な影が動いていた。
彼女が市場を巡っている最中、一人の若い男が彼女に接近した。その男は平民の服を着ていたが、その動きにはどこか不自然なものがあった。
「公爵夫人様、少しお時間をいただけますか?」
男は恭しく頭を下げながら言った。ヴィヴィアンは少し警戒しつつも、その場を離れることは領民たちに不安を与えると考え、彼の話を聞くことにした。
「もちろんです。どういったご用件でしょうか?」
しかし、その男が口を開く前に、別の方向から突然声が響いた。
「危ない!離れてください!」
その瞬間、何かがヴィヴィアンの足元で弾けた。男が何かを仕掛けたことを察したヴィヴィアンは、咄嗟に身を引いたが、足を滑らせて地面に倒れ込んでしまった。
視界がぐらつく中、混乱した人々の声が聞こえる。
「誰か助けて!公爵夫人様が倒れた!」
「何をしているんだ!捕まえろ!」
騒ぎの中で、ヴィヴィアンは朦朧とした意識の中、男が逃げ出すのを目にした。足首に鈍い痛みが走り、立ち上がることができない。
「これは、罠……。」
彼女はすぐに理解した。この事件は偶然ではなく、誰かが仕組んだものだと。しかし、追い詰められた状況でどうすることもできなかった。
---
その時、ヴィヴィアンの目に見慣れた灰色の影が飛び込んできた。アレクサンダーだった。彼は馬を飛ばして現場に駆けつけ、ヴィヴィアンの元に膝をついた。
「ヴィヴィアン、大丈夫か!」
彼が彼女の名前を呼ぶのは初めてだった。その声にはこれまで聞いたことのない焦りと怒りが混ざっていた。
「公爵様……どうして……?」
ヴィヴィアンが驚いた声を上げると、彼は強く彼女を見つめた。
「お前が一人で市場に行ったと聞いて、すぐに追った。お前が危険に晒されることなど許せるはずがない。」
その言葉に、ヴィヴィアンの胸が熱くなった。彼がここまで怒りを見せるのは初めてだった。そして、その怒りが自分のためだという事実に、彼女は戸惑いを覚えた。
---
アレクサンダーは立ち上がり、周囲に命令を下した。
「この場を封鎖しろ。逃げた男を追え。必ず捕まえるんだ!」
彼の言葉に、騎士たちがすぐに動き出した。その姿を見て、ヴィヴィアンは再び彼の力強さを実感した。
アレクサンダーは再びヴィヴィアンの元に戻り、彼女をそっと抱き上げた。
「動くな。怪我が悪化する。」
彼の言葉は短く冷静だったが、その行動には確かな優しさが込められていた。ヴィヴィアンは彼の腕の中で小さく頷いた。
「ありがとうございます、公爵様……。」
---
屋敷に戻った後、ヴィヴィアンの怪我は軽い捻挫と診断された。幸いにも大事には至らなかったが、アレクサンダーは彼女の傍から離れようとしなかった。
「誰が仕組んだ罠かはすぐに分かる。だが、それよりも――。」
彼は言葉を止め、深く息を吐いた。そして、真剣な目でヴィヴィアンを見つめた。
「お前が無事でよかった。」
その一言に、ヴィヴィアンの胸はさらに熱くなった。これまで冷たく無関心だと思っていた彼が、自分を本気で気にかけていることを感じたからだ。
「公爵様……。」
二人の間に漂う静寂は、これまでとは違った温かみを帯びていた。それは、二人の距離が確実に縮まり始めた証だった。
3-3:守りたいという思い
ヴィヴィアンがセリーナの仕掛けた罠により怪我をした翌日、ブラックモア公爵家は不穏な静けさに包まれていた。事件の詳細を知った使用人たちや執事は、屋敷の空気が張り詰めているのを感じていた。それもそのはず、公爵であるアレクサンダーが普段の冷静さを失い、怒りを露わにしているからだ。
---
ヴィヴィアンは自室のベッドに横たわりながら、足首に巻かれた包帯を見つめていた。軽い捻挫とはいえ、公爵夫人としての務めを果たせないことに申し訳なさを感じていた。
「私の判断が軽率だった……。」
彼女は自分を責めるように呟いた。市場視察を一人で引き受けたことが、結果的に罠に嵌る原因となった。周囲への負担を減らそうとしたつもりが、逆に混乱を招いてしまったのだ。
そのとき、扉をノックする音が響いた。
「失礼する。」
アレクサンダーの低い声が聞こえ、ヴィヴィアンは驚きながらも姿勢を正した。彼が直接自室を訪れることなど、これまで一度もなかったからだ。
「公爵様……どうなさいましたか?」
彼女が問いかけると、アレクサンダーは無言で部屋に入り、彼女の傍らの椅子に腰を下ろした。その表情はいつも通り冷静に見えたが、その瞳には何か強い感情が宿っているように思えた。
「お前の怪我の具合を確認しに来ただけだ。」
短くそう告げた彼の声には、どこかぎこちなさが感じられた。
「ありがとうございます。怪我は軽いものですので、すぐに回復すると思います。」
ヴィヴィアンは微笑みを浮かべながら答えたが、その言葉にアレクサンダーはわずかに眉をひそめた。
「軽い怪我で済んだからと言って、安心するな。お前があの場で命を落としていたかもしれないことを忘れるな。」
その厳しい言葉に、ヴィヴィアンはハッとした。彼がこんなにも強い感情を露わにするのは初めてだった。
「公爵様……。」
彼女が驚いた顔で彼を見つめると、アレクサンダーは少し言葉を選ぶように間を置いた。
「私が……もっと早く気づいていれば、こんなことにはならなかった。」
その言葉に、ヴィヴィアンは彼が自分を責めていることに気づいた。冷徹だと思っていた彼が、自分の失態を悔やんでいる――その事実に胸が締め付けられる思いがした。
「公爵様、どうかご自分を責めないでください。あの場で私を助けてくださったおかげで、大事には至りませんでした。」
ヴィヴィアンの言葉に、アレクサンダーは一瞬だけ目を伏せた。その仕草は、彼が普段見せる冷たい仮面をほんの一瞬だけ外したように見えた。
「君が傷つくことなど、あってはならない。」
彼の低い声が部屋に響いた。その言葉に込められた真剣さに、ヴィヴィアンは胸が熱くなるのを感じた。
---
アレクサンダーが部屋を去った後、ヴィヴィアンはベッドの上で考え込んでいた。彼の言葉や態度は、これまでの彼の印象とは全く違うものだった。
「公爵様は、本当に冷たい人ではないのかもしれない……。」
そう思うと同時に、自分が彼に対して抱いていた不信感が徐々に溶けていくのを感じた。
その夜、ヴィヴィアンは眠れず、広い屋敷の中庭を歩いていた。夜空には満天の星が輝き、冷たい風が彼女の頬を撫でていた。
「どうして私は、あの人のことばかり考えているのだろう……。」
ヴィヴィアンは胸の内で呟いた。契約結婚という枠の中にいるはずの二人だが、彼女の中にはアレクサンダーへの思いが少しずつ生まれていることに気づいていた。
---
一方、アレクサンダーもまた、自室で眠れずにいた。書斎の椅子に深く腰掛け、ヴィヴィアンの顔を思い浮かべていた。
「私は、なぜここまで彼女に執着しているのか……。」
冷静であることを自らの美徳としてきた彼が、初めて感情に振り回されているのを感じていた。彼女の毅然とした態度、領民たちへの真摯な対応、そして何より、自分に向けられる微笑み――それらが彼の心を揺さぶっていた。
「彼女を守りたい、ということか……。」
自分の中に芽生えた感情に気づきながらも、それを認めることに戸惑いを感じていた。だが、彼女が怪我を負い、自分がその場で彼女を抱き上げたとき、確信した。
「もう二度と、彼女を傷つけさせるわけにはいかない。」
その決意が、彼の胸に静かに刻まれたのだった。
3-4:心の距離が近づく夜
ヴィヴィアンがセリーナの罠による怪我から回復しつつある頃、ブラックモア公爵家には穏やかな日常が戻りつつあった。だが、ヴィヴィアンとアレクサンダーの間には、それまでの冷たく形式的な関係とは異なる新たな感情が芽生えつつあった。それはまだ互いに言葉にできるものではなかったが、確実に二人の心を近づけていた。
---
ある夜、ヴィヴィアンは不意に目が覚めた。夜風が窓から入り込み、カーテンを揺らしている。寝付けないままベッドを出ると、静まり返った屋敷の廊下を歩き始めた。月明かりが照らす廊下を進みながら、自然と足が中庭へ向かっていた。
中庭に足を踏み入れると、そこにはアレクサンダーが一人で立っていた。いつもの冷静な雰囲気ではなく、何かを考え込むような表情を浮かべ、夜空を見上げている。ヴィヴィアンは思わず足を止めたが、彼は彼女の気配に気づいたようで振り返った。
「こんな時間にどうした?」
彼の声は驚きよりも優しさを含んでいた。それに気づいたヴィヴィアンは、自分でも驚くほど自然に答えた。
「少し寝付けなくて……それで、月明かりに誘われてここに来てしまいました。」
アレクサンダーはそれを聞いて小さく頷くと、手で彼女に近くのベンチを指し示した。
「少し座れ。夜風が冷たい。」
ヴィヴィアンはその提案に従い、ベンチに腰を下ろした。アレクサンダーも隣に座り、二人で静かな夜の空気を共有した。
---
しばらくの沈黙の後、アレクサンダーが口を開いた。
「君は……本当に強い女だ。」
不意に告げられたその言葉に、ヴィヴィアンは驚いて彼を見つめた。
「突然、どうしてそんなことを?」
アレクサンダーは少し視線を落としながら続けた。
「セリーナの罠にも負けず、噂にも屈しなかった。あの場でも毅然として立ち向かった。その姿を見て、私は初めて……君を誇りに思った。」
その言葉に、ヴィヴィアンの胸が熱くなった。これまで冷たく無関心に見えた彼が、自分の行動をしっかりと見てくれていたことが嬉しかった。
「ありがとうございます、公爵様。でも、強いなんてことはありません。ただ、私がやるべきことをやっただけです。」
彼女の答えに、アレクサンダーは少しだけ笑みを浮かべた。
「それが君の強さだ。どんな状況でも、自分を見失わない。私には……それが眩しく見える。」
その言葉は、彼がこれまで心に抱えてきた孤独をほんの少しだけ打ち明けたように感じられた。ヴィヴィアンは彼の言葉の重みを感じ取り、静かに返した。
「公爵様も同じです。普段は冷静で、誰よりも強い。それでも、時折見せる優しさに、私は救われています。」
アレクサンダーは驚いたように彼女を見つめた。
「優しさ、か。君がそう思うなら……私は少しは人間らしく見えるのかもしれないな。」
彼の言葉にはどこか自嘲が混じっていた。それを感じたヴィヴィアンは、少しだけ前に身を乗り出した。
「公爵様は、冷たい人ではありません。ただ、それを隠しているだけです。私にはわかります。」
アレクサンダーの灰色の瞳が一瞬だけ揺らいだ。それは、彼の心の奥に触れた証拠のように見えた。
---
二人はそれからも静かに話を続けた。ヴィヴィアンが幼い頃の話や、アレクサンダーが領地のために尽力していることについて。これまでほとんど交わされなかった互いの本音が、少しずつ言葉に乗せられていった。
「君は……この結婚をどう思っている?」
突然の問いに、ヴィヴィアンは少し考え込んだ。
「この結婚が契約であることは理解しています。でも、それが私に与えてくれたものも確かにあります。公爵様と出会い、この家のために尽くすことで、自分が少しでも人の役に立てていると感じることができました。」
アレクサンダーは彼女の言葉を黙って聞きながら、ふと視線を月明かりに向けた。
「私にとって、この結婚は……最初はただの責務だった。だが、今は違う。」
彼はそう言うと、ゆっくりとヴィヴィアンの方に目を向けた。
「君がここにいることで、私は何度も救われている。」
その言葉に、ヴィヴィアンの瞳が見開かれた。彼がここまで自分の気持ちを打ち明けたのは初めてだった。そして、それが彼の本心であることを、彼女は直感的に感じていた。
「公爵様……。」
言葉が出てこないまま、二人はしばらく見つめ合った。夜風が吹き抜ける中、二人の距離はこれまでにないほど近づいていた。
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その夜、ヴィヴィアンは自室に戻りながら胸の奥で感じた温かさを抱きしめていた。一方、アレクサンダーもまた、自分の中で何かが変わり始めたことを自覚していた。
契約結婚という枠の中にいた二人の関係が、この夜を境に確実に変わりつつあった。
ヴィヴィアンとアレクサンダーの関係は、セリーナの失脚を機に微妙に変化し始めていた。アレクサンダーが彼女を守るために行動したことで、ヴィヴィアンの中にはこれまで抱えていた孤独感が少しだけ薄まり、彼に対するわずかな信頼が芽生えていた。
しかし、二人の間には依然として契約結婚という冷たい壁が存在していた。公爵夫人としての務めを果たしながらも、ヴィヴィアンは彼との距離を意識し続けていた。
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ある日の夕方、ブラックモア公爵家の広間で行われた小規模な茶会において、ヴィヴィアンはまたもや周囲からの無遠慮な視線に晒されていた。出席した貴族たちはセリーナの失脚後もなお、ヴィヴィアンを軽視し、冷たい言葉を投げかける者もいた。
「公爵夫人様、セリーナ様の件ではさぞお疲れだったでしょうね。」
「まぁ、公爵様の助けがなければ、どうなっていたことかしら?」
その言葉に微かな皮肉が込められているのは明らかだった。ヴィヴィアンは微笑みを崩さず、冷静に応じた。
「確かに、セリーナ様の件は大変でしたが、公爵様の力添えのおかげで無事解決いたしました。ご心配いただき、ありがとうございます。」
毅然とした彼女の態度に、一部の貴族たちは言葉を失ったが、冷たい視線は依然として彼女に注がれていた。
その光景を、部屋の隅で黙って見つめるアレクサンダーの灰色の瞳が鋭く光った。彼はヴィヴィアンが侮辱されるたびに、胸の奥に抑えきれない苛立ちを感じ始めていた。
「なぜ、ここまで彼女が侮られる必要がある?」
彼女が公爵夫人としての責務を完璧に果たしていることを知っているからこそ、その理不尽な扱いに怒りを覚えたのだ。しかし、アレクサンダーはそれを言葉や態度で表すことなく、冷静を装い続けていた。
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その夜、ヴィヴィアンは茶会の疲れを感じながら、自室で一人静かに休んでいた。広間での出来事を思い返しながら、彼女は自分がこの立場にいることの意味を改めて考えていた。
「私は、この結婚に期待してはいけない。」
そう自分に言い聞かせる一方で、最近のアレクサンダーの行動が彼女の心に小さな波紋を広げていた。彼がセリーナの罠から彼女を守るために動いたこと。そして、茶会の場で感じた、彼の冷たい視線の奥に隠された苛立ち――。
「公爵様は、本当に冷徹な方なのかしら……?」
その疑問が頭を離れなかった。
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翌朝、ヴィヴィアンはいつものように朝食の席に着いた。普段はアレクサンダーが同席することはほとんどなかったが、その日は珍しく彼が席に現れた。
「おはようございます、公爵様。」
ヴィヴィアンが礼儀正しく挨拶すると、アレクサンダーは短く頷き、彼女の向かいに座った。
「昨日の茶会、よく耐えたな。」
突然の言葉に、ヴィヴィアンは一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「公爵夫人として当然のことをしたまでです。」
その答えに、アレクサンダーは微かに眉をひそめた。彼は彼女の毅然とした態度に感心しつつも、どこか違和感を覚えていた。
「君は、何故そこまで完璧であろうとする?」
その問いかけは、彼自身も意図していなかったものだった。しかし、ヴィヴィアンはしばらく沈黙した後、静かに答えた。
「それが、私の役目だからです。公爵夫人として、家の名を傷つけないために。」
アレクサンダーはその言葉に表情を動かさなかったが、心の中で何かが揺れた。彼女の強さが、どこか悲しいものに思えたのだ。
「……無理をするな。」
その言葉は、彼が発するにはあまりにも不器用なものだったが、ヴィヴィアンはその一言に驚き、彼を見つめた。
「ありがとうございます、公爵様。」
その場に漂う微妙な空気を壊すように、アレクサンダーは食事に手を伸ばし、二人の会話はそれ以上続かなかった。しかし、互いの胸の中には確かに何かが残っていた。
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その後もヴィヴィアンは公爵夫人としての務めを果たし続けたが、アレクサンダーの態度が少しずつ変化していることに気づき始めていた。彼はこれまでのように無関心を装うことが少なくなり、彼女が侮辱される場面では冷静に見守るだけでなく、時折厳しい目を向けるようになっていた。
そして、ヴィヴィアン自身もまた、彼の中に隠された優しさに気づき始めていた。
3-2:セリーナの最後の罠
ヴィヴィアンとアレクサンダーの関係が少しずつ変わり始めた矢先、嵐のような事件が二人を再び試すこととなった。セリーナ・モーガン――公爵家から追放された彼女が、まだ諦めていないことを示すかのように、最後の罠を仕掛けてきたのだ。
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ある日、ヴィヴィアンは執事から市場の視察について相談を受けた。領民たちが新たに提案した政策を実行に移すかどうかを確認するため、彼女が視察に向かうべきかを尋ねられたのだ。ヴィヴィアンはこれを公爵夫人としての役割と考え、即座に視察を引き受けた。
「公爵様にお伝えする必要はありません。これは私一人で十分対応できます。」
ヴィヴィアンはそう言い残し、自らの判断で市場へと向かった。しかし、それが彼女を狙った罠だとは、彼女自身も執事も気づいていなかった。
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市場は以前と同じように活気に満ちていた。領民たちはヴィヴィアンの訪問に驚きつつも歓迎の態度を見せ、彼女が提案内容を確認して回る様子には感謝の声が上がった。
「公爵夫人様、いつも私たちのことを考えてくださってありがとうございます。」
「いいえ、皆さんが一生懸命働いてくださっているからこそ、領地が成り立っています。」
ヴィヴィアンの言葉に、領民たちは満足げに微笑んだ。しかし、その和やかな雰囲気の裏で、不穏な影が動いていた。
彼女が市場を巡っている最中、一人の若い男が彼女に接近した。その男は平民の服を着ていたが、その動きにはどこか不自然なものがあった。
「公爵夫人様、少しお時間をいただけますか?」
男は恭しく頭を下げながら言った。ヴィヴィアンは少し警戒しつつも、その場を離れることは領民たちに不安を与えると考え、彼の話を聞くことにした。
「もちろんです。どういったご用件でしょうか?」
しかし、その男が口を開く前に、別の方向から突然声が響いた。
「危ない!離れてください!」
その瞬間、何かがヴィヴィアンの足元で弾けた。男が何かを仕掛けたことを察したヴィヴィアンは、咄嗟に身を引いたが、足を滑らせて地面に倒れ込んでしまった。
視界がぐらつく中、混乱した人々の声が聞こえる。
「誰か助けて!公爵夫人様が倒れた!」
「何をしているんだ!捕まえろ!」
騒ぎの中で、ヴィヴィアンは朦朧とした意識の中、男が逃げ出すのを目にした。足首に鈍い痛みが走り、立ち上がることができない。
「これは、罠……。」
彼女はすぐに理解した。この事件は偶然ではなく、誰かが仕組んだものだと。しかし、追い詰められた状況でどうすることもできなかった。
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その時、ヴィヴィアンの目に見慣れた灰色の影が飛び込んできた。アレクサンダーだった。彼は馬を飛ばして現場に駆けつけ、ヴィヴィアンの元に膝をついた。
「ヴィヴィアン、大丈夫か!」
彼が彼女の名前を呼ぶのは初めてだった。その声にはこれまで聞いたことのない焦りと怒りが混ざっていた。
「公爵様……どうして……?」
ヴィヴィアンが驚いた声を上げると、彼は強く彼女を見つめた。
「お前が一人で市場に行ったと聞いて、すぐに追った。お前が危険に晒されることなど許せるはずがない。」
その言葉に、ヴィヴィアンの胸が熱くなった。彼がここまで怒りを見せるのは初めてだった。そして、その怒りが自分のためだという事実に、彼女は戸惑いを覚えた。
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アレクサンダーは立ち上がり、周囲に命令を下した。
「この場を封鎖しろ。逃げた男を追え。必ず捕まえるんだ!」
彼の言葉に、騎士たちがすぐに動き出した。その姿を見て、ヴィヴィアンは再び彼の力強さを実感した。
アレクサンダーは再びヴィヴィアンの元に戻り、彼女をそっと抱き上げた。
「動くな。怪我が悪化する。」
彼の言葉は短く冷静だったが、その行動には確かな優しさが込められていた。ヴィヴィアンは彼の腕の中で小さく頷いた。
「ありがとうございます、公爵様……。」
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屋敷に戻った後、ヴィヴィアンの怪我は軽い捻挫と診断された。幸いにも大事には至らなかったが、アレクサンダーは彼女の傍から離れようとしなかった。
「誰が仕組んだ罠かはすぐに分かる。だが、それよりも――。」
彼は言葉を止め、深く息を吐いた。そして、真剣な目でヴィヴィアンを見つめた。
「お前が無事でよかった。」
その一言に、ヴィヴィアンの胸はさらに熱くなった。これまで冷たく無関心だと思っていた彼が、自分を本気で気にかけていることを感じたからだ。
「公爵様……。」
二人の間に漂う静寂は、これまでとは違った温かみを帯びていた。それは、二人の距離が確実に縮まり始めた証だった。
3-3:守りたいという思い
ヴィヴィアンがセリーナの仕掛けた罠により怪我をした翌日、ブラックモア公爵家は不穏な静けさに包まれていた。事件の詳細を知った使用人たちや執事は、屋敷の空気が張り詰めているのを感じていた。それもそのはず、公爵であるアレクサンダーが普段の冷静さを失い、怒りを露わにしているからだ。
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ヴィヴィアンは自室のベッドに横たわりながら、足首に巻かれた包帯を見つめていた。軽い捻挫とはいえ、公爵夫人としての務めを果たせないことに申し訳なさを感じていた。
「私の判断が軽率だった……。」
彼女は自分を責めるように呟いた。市場視察を一人で引き受けたことが、結果的に罠に嵌る原因となった。周囲への負担を減らそうとしたつもりが、逆に混乱を招いてしまったのだ。
そのとき、扉をノックする音が響いた。
「失礼する。」
アレクサンダーの低い声が聞こえ、ヴィヴィアンは驚きながらも姿勢を正した。彼が直接自室を訪れることなど、これまで一度もなかったからだ。
「公爵様……どうなさいましたか?」
彼女が問いかけると、アレクサンダーは無言で部屋に入り、彼女の傍らの椅子に腰を下ろした。その表情はいつも通り冷静に見えたが、その瞳には何か強い感情が宿っているように思えた。
「お前の怪我の具合を確認しに来ただけだ。」
短くそう告げた彼の声には、どこかぎこちなさが感じられた。
「ありがとうございます。怪我は軽いものですので、すぐに回復すると思います。」
ヴィヴィアンは微笑みを浮かべながら答えたが、その言葉にアレクサンダーはわずかに眉をひそめた。
「軽い怪我で済んだからと言って、安心するな。お前があの場で命を落としていたかもしれないことを忘れるな。」
その厳しい言葉に、ヴィヴィアンはハッとした。彼がこんなにも強い感情を露わにするのは初めてだった。
「公爵様……。」
彼女が驚いた顔で彼を見つめると、アレクサンダーは少し言葉を選ぶように間を置いた。
「私が……もっと早く気づいていれば、こんなことにはならなかった。」
その言葉に、ヴィヴィアンは彼が自分を責めていることに気づいた。冷徹だと思っていた彼が、自分の失態を悔やんでいる――その事実に胸が締め付けられる思いがした。
「公爵様、どうかご自分を責めないでください。あの場で私を助けてくださったおかげで、大事には至りませんでした。」
ヴィヴィアンの言葉に、アレクサンダーは一瞬だけ目を伏せた。その仕草は、彼が普段見せる冷たい仮面をほんの一瞬だけ外したように見えた。
「君が傷つくことなど、あってはならない。」
彼の低い声が部屋に響いた。その言葉に込められた真剣さに、ヴィヴィアンは胸が熱くなるのを感じた。
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アレクサンダーが部屋を去った後、ヴィヴィアンはベッドの上で考え込んでいた。彼の言葉や態度は、これまでの彼の印象とは全く違うものだった。
「公爵様は、本当に冷たい人ではないのかもしれない……。」
そう思うと同時に、自分が彼に対して抱いていた不信感が徐々に溶けていくのを感じた。
その夜、ヴィヴィアンは眠れず、広い屋敷の中庭を歩いていた。夜空には満天の星が輝き、冷たい風が彼女の頬を撫でていた。
「どうして私は、あの人のことばかり考えているのだろう……。」
ヴィヴィアンは胸の内で呟いた。契約結婚という枠の中にいるはずの二人だが、彼女の中にはアレクサンダーへの思いが少しずつ生まれていることに気づいていた。
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一方、アレクサンダーもまた、自室で眠れずにいた。書斎の椅子に深く腰掛け、ヴィヴィアンの顔を思い浮かべていた。
「私は、なぜここまで彼女に執着しているのか……。」
冷静であることを自らの美徳としてきた彼が、初めて感情に振り回されているのを感じていた。彼女の毅然とした態度、領民たちへの真摯な対応、そして何より、自分に向けられる微笑み――それらが彼の心を揺さぶっていた。
「彼女を守りたい、ということか……。」
自分の中に芽生えた感情に気づきながらも、それを認めることに戸惑いを感じていた。だが、彼女が怪我を負い、自分がその場で彼女を抱き上げたとき、確信した。
「もう二度と、彼女を傷つけさせるわけにはいかない。」
その決意が、彼の胸に静かに刻まれたのだった。
3-4:心の距離が近づく夜
ヴィヴィアンがセリーナの罠による怪我から回復しつつある頃、ブラックモア公爵家には穏やかな日常が戻りつつあった。だが、ヴィヴィアンとアレクサンダーの間には、それまでの冷たく形式的な関係とは異なる新たな感情が芽生えつつあった。それはまだ互いに言葉にできるものではなかったが、確実に二人の心を近づけていた。
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ある夜、ヴィヴィアンは不意に目が覚めた。夜風が窓から入り込み、カーテンを揺らしている。寝付けないままベッドを出ると、静まり返った屋敷の廊下を歩き始めた。月明かりが照らす廊下を進みながら、自然と足が中庭へ向かっていた。
中庭に足を踏み入れると、そこにはアレクサンダーが一人で立っていた。いつもの冷静な雰囲気ではなく、何かを考え込むような表情を浮かべ、夜空を見上げている。ヴィヴィアンは思わず足を止めたが、彼は彼女の気配に気づいたようで振り返った。
「こんな時間にどうした?」
彼の声は驚きよりも優しさを含んでいた。それに気づいたヴィヴィアンは、自分でも驚くほど自然に答えた。
「少し寝付けなくて……それで、月明かりに誘われてここに来てしまいました。」
アレクサンダーはそれを聞いて小さく頷くと、手で彼女に近くのベンチを指し示した。
「少し座れ。夜風が冷たい。」
ヴィヴィアンはその提案に従い、ベンチに腰を下ろした。アレクサンダーも隣に座り、二人で静かな夜の空気を共有した。
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しばらくの沈黙の後、アレクサンダーが口を開いた。
「君は……本当に強い女だ。」
不意に告げられたその言葉に、ヴィヴィアンは驚いて彼を見つめた。
「突然、どうしてそんなことを?」
アレクサンダーは少し視線を落としながら続けた。
「セリーナの罠にも負けず、噂にも屈しなかった。あの場でも毅然として立ち向かった。その姿を見て、私は初めて……君を誇りに思った。」
その言葉に、ヴィヴィアンの胸が熱くなった。これまで冷たく無関心に見えた彼が、自分の行動をしっかりと見てくれていたことが嬉しかった。
「ありがとうございます、公爵様。でも、強いなんてことはありません。ただ、私がやるべきことをやっただけです。」
彼女の答えに、アレクサンダーは少しだけ笑みを浮かべた。
「それが君の強さだ。どんな状況でも、自分を見失わない。私には……それが眩しく見える。」
その言葉は、彼がこれまで心に抱えてきた孤独をほんの少しだけ打ち明けたように感じられた。ヴィヴィアンは彼の言葉の重みを感じ取り、静かに返した。
「公爵様も同じです。普段は冷静で、誰よりも強い。それでも、時折見せる優しさに、私は救われています。」
アレクサンダーは驚いたように彼女を見つめた。
「優しさ、か。君がそう思うなら……私は少しは人間らしく見えるのかもしれないな。」
彼の言葉にはどこか自嘲が混じっていた。それを感じたヴィヴィアンは、少しだけ前に身を乗り出した。
「公爵様は、冷たい人ではありません。ただ、それを隠しているだけです。私にはわかります。」
アレクサンダーの灰色の瞳が一瞬だけ揺らいだ。それは、彼の心の奥に触れた証拠のように見えた。
---
二人はそれからも静かに話を続けた。ヴィヴィアンが幼い頃の話や、アレクサンダーが領地のために尽力していることについて。これまでほとんど交わされなかった互いの本音が、少しずつ言葉に乗せられていった。
「君は……この結婚をどう思っている?」
突然の問いに、ヴィヴィアンは少し考え込んだ。
「この結婚が契約であることは理解しています。でも、それが私に与えてくれたものも確かにあります。公爵様と出会い、この家のために尽くすことで、自分が少しでも人の役に立てていると感じることができました。」
アレクサンダーは彼女の言葉を黙って聞きながら、ふと視線を月明かりに向けた。
「私にとって、この結婚は……最初はただの責務だった。だが、今は違う。」
彼はそう言うと、ゆっくりとヴィヴィアンの方に目を向けた。
「君がここにいることで、私は何度も救われている。」
その言葉に、ヴィヴィアンの瞳が見開かれた。彼がここまで自分の気持ちを打ち明けたのは初めてだった。そして、それが彼の本心であることを、彼女は直感的に感じていた。
「公爵様……。」
言葉が出てこないまま、二人はしばらく見つめ合った。夜風が吹き抜ける中、二人の距離はこれまでにないほど近づいていた。
---
その夜、ヴィヴィアンは自室に戻りながら胸の奥で感じた温かさを抱きしめていた。一方、アレクサンダーもまた、自分の中で何かが変わり始めたことを自覚していた。
契約結婚という枠の中にいた二人の関係が、この夜を境に確実に変わりつつあった。
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