魔力ゼロのセブン王子、キスで無限パワー!

霧島

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1-1 ゼロの王子

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第1章1-1 魔力ゼロの王子

 セレスティア王国。
 それは“魔力を持つ者こそが貴族である”と定められた、絶対的な魔法国家であった。

 王族たちは代々、膨大な魔力を血に宿し、その強さによって地位と尊厳を示してきた。
 第一王子は炎、第二王子は氷、第三王子は雷――。
 それぞれが王家の象徴たる魔法を持ち、民からは“神の末裔”と称えられていた。

 だが、その王家の片隅に、ひとりだけ異質な存在がいた。

 王宮の奥深く。誰も足を踏み入れぬ静寂の庭園に、ひとりの少年がいた。
 陽光の中でしゃがみこみ、花に水をやる。
 銀色の髪が光を反射し、淡い青の瞳は湖のように澄んでいる。
 ――それが第七王子、セブン。年齢はわずか八歳。

 だが、王子でありながら彼には護衛も侍女もいない。
 理由はただ一つ。
 魔力がまったく存在しないからだ。

 「おい、あの“ゼロの王子”を見たか?」
 「まさか。王宮の恥を見物しに行く趣味はないよ。」
 「聞いたか? 魔力測定石を握っても、まったく光らなかったらしいぞ。」
 「ハハ、まるで平民以下だな。」

 そんな囁きが、城中の陰で飛び交っていた。
 セブン本人の耳にも届いていたが、怒りも悲しみも見せなかった。
 ただ静かに、花へ水を注ぐ。

 (僕には、魔力がない。みんなそう言う。でも……花は、ちゃんと咲いてくれる。)

 セブンは、壊れた木製のジョウロを大切に使っていた。
 それは亡き母――側室リリィアが最後に残してくれたものだった。
 「おまえの力は、この世界のどんな魔法より優しいのよ」と微笑んでくれた日の記憶。
 それだけが、彼の心を支えていた。

 母は、セブンが四歳のときに病で亡くなった。
 それ以来、正妃が宮廷を仕切り、側室の血を持つ子供たちは地位を失っていった。
 セブンも例外ではなく、王命により“表舞台に出ることを禁じられた”。

 その命令は、つまり“幽閉”だった。

 (僕は、いらない子なんだろうか。)

 そう思う夜もあった。
 けれど彼は泣かなかった。
 泣いても誰も来ないことを知っていたから。

 ただ、空を見上げて呟く。
 「母上……僕、ちゃんと咲かせてるよ。」

 彼の周囲には、いつも花が咲いていた。
 世話をする者もいないのに、不思議と枯れない。
 まるで、この庭園そのものがセブンを見守っているかのようだった。

 その異変に、昔から気づいていた者もいる。
 ――しかし、それを口にした者は誰ひとりいなかった。
 王妃が「第七王子の話題を出すことを禁ず」と命じたからだ。

 王は冷たい沈黙を守り、側近たちは従った。
 誰も彼を哀れまず、誰も助けようとはしない。

 それでも、セブンの世界は静かで穏やかだった。
 花と風、そして時折舞い降りる小鳥たちだけが、彼の友だった。

 ある日、年老いた侍女がこっそり訪ねてきた。
 灰色のローブをまとったその女性は、セブンの幼少期から唯一の味方だった。

 「セブン様……お元気そうで何よりです。」

 「ルミナおばあさま! また来てくれたんだね。」

 「ええ、内密に、ほんの少しだけ。」
 彼女は小さな包みを取り出した。
 「今日は新しいパンを焼いたんですよ。まだ温かいの。」

 セブンの顔がほころぶ。
 だが、ルミナの目には涙が浮かんでいた。

 「……あなたは、本当に優しい子ですね。」

 「え?」

 「いいえ、なんでもありません。――セブン様、どうか、どうか健やかに。」

 ルミナは去り際、ふと呟いた。
 「……あなたの中の“光”が、いつか世界を照らしますように。」

 その言葉の意味を、セブンは理解できなかった。
 けれどその夜、彼は夢を見た。

 暗い闇の中で、誰かが囁く夢だった。
 ――『目覚めるな。まだ早い。』

 目を覚ますと、胸がどきどきしていた。
 汗ばんだ手のひらを見つめ、彼は首を傾げる。
 「……今の、夢だよね?」

 不思議と胸の奥が熱い。
 まるで、体の中で何かが“うずいている”ような感覚だった。
 だが、それもすぐに消えた。

 セブンは何事もなかったかのように、再び花壇へ向かった。
 ――その日、王国ではある知らせが届いていた。

 「アルトメリア王国より、“魔法姫”サリーナ殿下が到着されます!」

 その報せは王宮中を駆け抜け、宴の準備が始まった。
 第一王子リオンをはじめ、六人の王子たちは新たな同盟の象徴として誇りを競い合う。

 けれど、その喧噪は奥の院までは届かない。
 セブンはただ、遠くの鐘の音を聞いていた。

 (新しい人が来るんだって。……きっと、僕とは関係ないけど。)

 彼は笑って水をやる。
 だが、風が不意に強く吹いた。
 花びらが舞い上がり、ひとひらが彼の頬に触れる。

 その瞬間、彼の瞳の奥で淡い光が一瞬だけ揺れた。

 誰も知らない。
 それが“封印された魔力”が、最初に反応した瞬間だった――。

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