魔力ゼロのセブン王子、キスで無限パワー!

霧島

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1-2 魔法姫の来訪

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第1章1-2 魔法姫の来訪

 セレスティア王国の王都アルディオン。
 その中心に聳える白金の城が、今日ほど賑わいを見せた日はなかった。
 春を告げる花々が街を彩り、衛兵たちの鎧が陽光を反射して眩しく光る。
 城門前には民衆が集まり、口々に囁いていた。

 「アルトメリアの“蒼の魔法姫”がいらっしゃるんだって!」
 「第一王子様の婚約者候補だとか!」
 「美しく、そして最強の魔導師――だそうだ。」

 その声の中心に、金の髪を風に揺らす少女がいた。
 ――サリーナ・アルトメリア。十八歳。

 蒼空を映す瞳に静かな炎を宿し、
 その歩みは気品に満ちていた。
 彼女の一歩ごとに、周囲の空気が微かに震える。
 それは圧倒的な魔力の波――まるで“世界そのもの”が彼女を敬っているようだった。

 しかし当の本人は、馬車の中で小さく息を吐いていた。

 (……これも政略の一環。王子たちの“見極め”なんて、退屈な儀礼にすぎないわ。)

 彼女は戦場を知っていた。
 魔法で敵を打ち倒し、傷を癒し、国を守ってきた。
 そんな彼女にとって、煌びやかな舞踏会も王族の取り繕いも、
 どこか現実味のない“芝居”にしか見えなかった。

 (……でも、せめて見る価値のある相手だといいのだけど。)


---

 王城の大広間。
 七色のステンドグラスから光が差し込み、床の大理石が虹色に輝く。
 王と王妃が玉座に座り、重臣たちが列をなす。
 サリーナが進み出ると、その美しさに場の空気が変わった。

 「アルトメリアの王女、サリーナ・アルトメリア。謹んでご挨拶申し上げます。」
 深く一礼する姿は完璧で、優雅で、誰もが息を呑んだ。

 王妃が満足げに微笑む。
 「まあ……噂に違わぬ品格ですわね。」

 だが、その微笑みの裏に潜む探るような視線を、
 サリーナは見逃さなかった。

 (この人……まるで“獲物を選んでいる”みたい。)

 王が口を開く。
 「サリーナ殿下、そなたを歓迎する。これより我が六人の息子たちを紹介しよう。」

 六人の王子が前に進み出る。
 第一王子リオンを筆頭に、各々が自信に満ちた笑みを浮かべていた。


---

 最初に一歩を踏み出したのはリオン。
 真紅の外套に王家の紋章をあしらい、整った顔に炎のような瞳を宿す。
 「お会いできて光栄です、サリーナ殿下。私が第一王子、リオン・セレスティアです。」

 彼は軽く印を結ぶ。
 瞬間、空気が熱を帯び、掌から紅蓮の花が咲いた。
 花弁が宙に舞い、空中で燃えながら文字を描く。

 『ようこそ、我が国へ』

 場内に拍手が沸き起こる。
 サリーナは穏やかに微笑み、拍手に応じた。
 だが心の奥では、冷静に分析していた。

 (確かに制御は完璧。でも……力を“見せる”ことに酔っている。戦場じゃ、こんな魔法は無意味。)

 次に現れたのは、氷の王子アルディス。
 彼は白銀の魔力を纏い、空中に氷の花園を創り出した。
 「貴女の美しさを氷に閉じ込めました。」
 口調も仕草も完璧――だが、どこか冷たく機械的だ。

 (……また同じ。完璧すぎる、けど、心が見えない。)

 三王子は雷の使い手、四王子は風を操り、五王子は大地の守護を誇り、六王子は光の加護を纏う。
 それぞれが華々しい魔法を披露し、
 まるで“見世物競争”のように輝きを放った。

 だが――そのどれも、サリーナの胸を打つことはなかった。

 (どんぐりの背比べ、ね。確かに皆、強いわ。でも、どれも同じ“色”に見える。)

 彼女は笑みを保ちながらも、胸の奥に冷たい違和感を抱いていた。
 彼らは皆、同じ“型”の中で育てられている。
 王妃の手のひらの上で、均一に磨かれた六つの宝石。
 完璧だが、どれも光り方が同じ――息苦しいほどに。

 「どうか、お気に召す方をお選びくださいませ。」
 王妃の言葉が、妙に響いた。

 (お気に召す方、ね……。まるで“品定め”じゃない。)

 サリーナは笑みを浮かべたまま、静かに頭を下げた。
 「皆さま、本当に見事な魔力です。セレスティア王家の伝統が息づいていますわ。」

 その返答に王妃は満足げに頷き、周囲も安堵の息を漏らす。
 だがサリーナだけは、内心でため息をついた。

 (本当にこれが、“王の血筋”の限界なの?)


---

 夜。
 宴の喧騒が去り、サリーナは一人、月光の差す回廊を歩いていた。
 重たい礼服を脱ぎ、薄い外衣を羽織ると、ようやく息ができた気がした。

 (どうしてかしら……あの王妃の笑顔を思い出すと、胸がざわめく。)

 彼女は窓越しに中庭を見下ろす。
 満月の光が白い石畳を照らし、その奥――黒い鉄の門が見えた。
 昼間は見落としていたが、今ははっきりと見える。

 風が吹き抜け、彼女の髪を揺らした。
 その瞬間、微かな魔力の波を感じた。
 ――柔らかく、優しい。だが確かに“生きている”気配。

 「これは……?」

 サリーナは目を細めた。
 魔法感知の素養を持つ者だけが感じ取れる、独特の波長。
 だが、それは人の魔力ではない。
 “自然そのもの”が鼓動しているような――まるで世界が囁いているかのようだった。

 「……この国には、まだ“見えない魔法”がある。」

 彼女の胸に、奇妙な予感が生まれた。

 (誰も気づかないような場所に、眠っている何か。
  それを探すことが、きっと――私がここに来た“本当の理由”。)

 風が頬を撫でる。
 まるで「行け」と囁くように。

 「立入禁止区域……ね。」

 サリーナの唇に挑むような笑みが浮かぶ。
 (そんな札があっても、私の好奇心を止められないわ。)

 そのまま彼女は門の方向へ歩き出した。
 月光の下、その姿は夜に咲く一輪の花のように美しく、
 静かに運命の“扉”へと近づいていく。

 ――この一歩が、封印された少年との邂逅へとつながるとも知らずに。


---

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