魔力ゼロのセブン王子、キスで無限パワー!

霧島

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1-3 禁じられた庭園

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第1章1-3 禁じられた庭園

 夜明け前。
 王城の回廊は静まり返り、遠くの鐘の音だけが石壁に反響していた。
 サリーナは薄手のマントを羽織り、音を立てぬように歩いていた。

 (昨日見た“あの門”……やっぱり気になる。あの奥に、何かがいる。)

 足音が響かないよう踵を浮かせ、影のように進む。
 王城の最奥――“立入禁止区域”と呼ばれる庭園への道。
 王家の血筋しか立ち入れないはずの場所。
 それを訪れる自分に、ほんのわずかな罪悪感が生まれた。

 (でも……あの魔力の揺らぎは異常だった。放っておけない。)

 彼女の魔力感知能力は、アルトメリアでも群を抜いていた。
 その直感が告げている。――“あそこには、眠れる何か”があると。

 重い鉄の門の前に立つ。
 月光に濡れた扉には蔦が絡みつき、「立入禁止」と掠れた文字。
 サリーナは手を伸ばし、指先で錠をなぞった。
 微かに光を宿した魔法陣が浮かび上がる。

 「――《解錠(オープン)》」

 静かな呪文とともに、錠が軽やかに弾けた。
 ギィ……と音を立てて門が開く。
 冷たい風が頬を撫で、髪を揺らした。

 中は、時が止まったような世界だった。
 蔦に覆われた噴水、苔むした石像、咲き乱れる無数の花。
 それなのに、どこか“人の気配”がある。
 手入れの痕跡――花が整然と咲き、枯れ葉が一枚も落ちていない。

 (誰かが、ここで暮らしている……?)

 霧の中を進むと、柔らかな歌声が耳に届いた。
 ――小さな少年の声。

 「おはよう、今日も咲いたね」

 サリーナは木陰からそっと覗き込む。
 そこにいたのは、一人の少年。

 銀の髪が朝露を弾き、淡い光を放つ。
 白い衣を纏い、花々に水をやる姿は、まるで絵画の天使。
 その横顔を見た瞬間、サリーナの呼吸が止まった。

 (……な、なにこの子。かわいい……じゃなくて、綺麗……?)

 胸の奥が妙にざわめく。
 八歳くらい。けれど、その眼差しはどこか大人びていた。
 澄んだ瞳が朝の光を映し、どこか寂しげでもある。

 「あなた……誰?」

 思わず声をかけていた。

 少年は振り向き、目を丸くする。
 驚いたように瞬きし、そして小さく微笑んだ。

 「ぼくは、セブン。七番目の王子だよ。」

 「七番目……王子?」

 その言葉にサリーナは息を呑んだ。
 昨日、紹介されたのは六人だけ――。
 ならばこの少年は、存在を“隠された王子”。

 「あなたが……王子殿下?」

 「うん。でも、みんなには忘れられてるみたい。
  僕には魔力がないから。」

 セブンは照れたように笑う。
 その笑顔が、妙に痛々しかった。

 「魔力が、ない……?」

 「そう。生まれた時から、何も感じないんだ。
  だから“王家の恥”だって言われて、ここにいさせてもらってる。」

 淡々と語る言葉の奥に、孤独の影が見える。
 サリーナの胸が締め付けられた。

 (王家の恥、ですって? こんな優しい子を……!)

 「寂しくは、ないの?」

 「ううん。この庭には、花たちがいる。
  話を聞いてくれるし、風も優しい。」

 セブンはそう言って、微笑む。
 すると――庭の花々が、同時に揺れた。

 「……!」

 サリーナは思わず身を乗り出した。
 (今の……風の流れが、彼に呼応した!?)

 ただの偶然とは思えない。
 確かに、彼を中心に空気が脈打った。
 “魔力の流れ”――それも、異常なほど澄んだ波動。

 (これは……魔力を“失っている”んじゃない。
  むしろ、世界と完全に同調している……?)

 サリーナの分析眼が鋭く光る。
 だが、その一方で心が落ち着かない。
 セブンが笑うたびに、胸の奥で小さな熱が灯る。

 (だ、だめ。年下の子に何を感じてるの私……!)

 頭を振って思考を追い払う。

 「セブン王子。あなたの周りには……何か、感じるわ。」

 「感じる?」

 「ええ。まるで見えない“幕”が張られているような……。」

 サリーナは周囲に意識を集中させた。
 見えた。薄い光の膜が、セブンの身体を包むように覆っている。
 柔らかく、しかし絶対に破れない――まるで母の腕のような魔力の結界。

 (これは……封印。しかも極めて古く、精緻な構造。)

 彼女は唇を噛む。
 (誰が、何のために……?)

 「サリーナさん?」
 「えっ……あ、なんでもないわ。」

 慌てて微笑むサリーナ。だが心は乱れていた。
 封印を解けるほどの知識を持つ自分でも、今は軽々しく触れられない。
 それほどに――危険な力を秘めている。

 「ねえ、サリーナさん。」
 「なに?」
 「外の世界って、どんなところ?」

 純粋な瞳に問われ、サリーナは息をのむ。
 (こんなにも閉ざされた子が、外を知らずに生きているなんて……。)

 「外の世界は……広くて、うるさくて、でも美しいわ。
  人の笑い声も、涙も、風の音も。全部、生きてるの。」

 セブンは目を輝かせて頷いた。
 「いいなあ……僕も、見てみたい。」

 「いつか、きっと見られるわ。」

 「本当?」

 「ええ。約束する。」

 サリーナは手を差し出した。
 セブンは少し戸惑いながらも、小さな手でその指を握る。
 その瞬間、温かい光が二人の間を走った。

 風が吹き、花びらが舞う。
 それは祝福のように、静かに庭を包んだ。

 ――“約束”は運命の鍵。

 それが後に、封印を解く“キス”へと繋がるとは、
 この時、誰も知らなかった。


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