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1-4 影に蠢くもの
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第1章1-4 影に蠢くもの
朝日が昇りきるころ、王城は再び活気に包まれていた。
朝の儀礼、侍女たちの行き交う足音、香の匂い――
だが、サリーナだけは静かな自室の中で、鏡の前に佇んでいた。
鏡に映る自分の顔。
目の奥には、まだあの“禁じられた庭園”の記憶が残っている。
(セブン……あの子、ただの王子じゃない。あれほど澄んだ“世界の共鳴”を感じたのは初めて。)
手を胸に当てる。
まだ指先が、あの小さな手の温もりを覚えていた。
「外の世界を見てみたい」――彼の言葉が、頭から離れない。
(あれが……“封印”なのね。誰かが意図的に、彼の魔力を閉じ込めた。
でも、なぜ? そして――誰が?)
サリーナは椅子に腰を下ろし、深く息を吐く。
彼女の母国・アルトメリアでも、“封印魔法”は禁術中の禁術だった。
人の魂や生命をも歪める行為――
それを王家の血に施すなど、ありえない。
(もし意図的に封じたとすれば……王家内部の者。おそらく、正妃。)
その推測に、背筋が凍った。
---
一方その頃、王妃エリゼは玉座の間で侍女たちを下がらせ、
ただ一人、薄暗い空間に佇んでいた。
大理石の床に描かれた魔法陣が、かすかに脈打っている。
赤黒い光が蠢き、影のような煙がゆらゆらと立ち上る。
「……まだ足りぬのか、贄(にえ)が。」
どこからともなく、低い笑い声が響いた。
『焦るな、エリゼ。すべては“混沌”の流れに従うのみ。』
「……あなたは、約束したはずです。私の子――リオンを王位につけると。」
『ああ、約束しよう。お前の息子は、王となる。だが――』
闇の中から、影の腕が伸び、彼女の頬を撫でた。
『そのためには、“あの子”が邪魔だ。』
エリゼの目が細くなる。
「七番目の……セブン王子。」
『そうだ。彼の中には“原初の魔”が眠っている。放っておけば、やがてお前の息子を飲み込む。』
「だから封印を……」
『だが封印は、完全ではない。時が来れば、あの子は覚醒する。』
エリゼの唇が震えた。
「どうすれば……完全に、封じられるのです?」
影の声が囁く。
『簡単なことだ。戦を起こせ。混乱の中で、“王の血”を流せばよい。』
「……まさか、それが目的?」
『我は混沌の王。秩序ある国など、つまらぬだけだ。』
エリゼは目を閉じた。
心の奥では恐怖と同時に、歪んだ満足が広がっていく。
(この声に従えば……リオンが、王になれる。)
『もうすぐ“器”が整う。六の王子の中から、一人が我を受け入れる。』
「器……?」
『その名は――第六王子、アレス。』
闇が笑い、陣が赤く光る。
エリゼは目を見開き、思わず後ずさった。
「なっ……!」
『選ばれし者は血の契約を果たす。そうすれば、この国は再び“戦の時代”へ――』
影が薄れ、闇の声が消える。
部屋の空気は元に戻ったが、エリゼの頬を冷や汗が伝っていた。
「……それでも、リオンのためなら……。」
---
同じ頃、サリーナは王妃の間に呼ばれていた。
朝食の場。だが、そこには微妙な緊張が漂っていた。
「サリーナ殿下、昨日のご滞在はいかがでしたか?」
王妃の微笑は完璧。けれど、その瞳は冷たく探るようだ。
「ええ、とても美しい国ですわ。王子殿下方も、それぞれ立派で……。」
「そう。それは何よりです。」
王妃はワインを口に含み、意味ありげに言葉を続けた。
「ただ……この城には、立ち入らぬ方がよい場所もあります。
古き封印が眠る区域など、ね。」
サリーナの手が一瞬止まる。
(――気づかれてる!?)
だが顔には出さず、にっこり微笑んだ。
「まあ……怖いお話。肝に銘じておきますわ。」
王妃の唇が微かに歪む。
「怖いものなどありませんわ。ただ、王家の血が触れてはならぬ“もの”があるだけ。」
(やはり……封印のことを知っている。)
会話を終えたサリーナは席を立ち、部屋を出る。
背後から、王妃の視線が針のように突き刺さっていた。
(この国は、何かがおかしい。
王家を覆うこの冷たさ――まるで“生きた氷”の中にいるよう。)
---
その日の夕刻。
サリーナは再び自室で魔法書を開き、指先で文字をなぞっていた。
“封印とは、恐れから生まれる。
それを施す者の心が、封印の強さを決める。”
ページの一文を見つめながら、彼女はつぶやく。
「恐れ……。王妃は何を恐れているの?」
答えは出ない。だが、胸の奥で確信が育ちつつあった。
(セブンは“危険”なんかじゃない。
あの優しさを、世界は恐れているのよ。)
窓の外、夜風が吹く。
ふと見ると、月が雲間から顔を覗かせた。
その光が、まるで彼を照らすように柔らかく輝いている。
「セブン……あなたは、何者なの?」
囁きは夜に溶けていった。
その足元では、知らぬ間に――
床の影が、わずかに蠢いた。
まるで“何か”が、目覚める時を待っているかのように。
---
> 次回 第2章「悪魔王の影」
――封印された力が、再び世界を揺るがす。
---
この第1章1-4で:
王妃=封印の実行者であり、悪魔王の囁きに操られている
第6王子アレス=今後の“敵の器”として暗示
サリーナは気づきながらも動けず、内に葛藤を抱える
ラストで“封印が再び波打つ”演出で、物語を次章に接続
---
朝日が昇りきるころ、王城は再び活気に包まれていた。
朝の儀礼、侍女たちの行き交う足音、香の匂い――
だが、サリーナだけは静かな自室の中で、鏡の前に佇んでいた。
鏡に映る自分の顔。
目の奥には、まだあの“禁じられた庭園”の記憶が残っている。
(セブン……あの子、ただの王子じゃない。あれほど澄んだ“世界の共鳴”を感じたのは初めて。)
手を胸に当てる。
まだ指先が、あの小さな手の温もりを覚えていた。
「外の世界を見てみたい」――彼の言葉が、頭から離れない。
(あれが……“封印”なのね。誰かが意図的に、彼の魔力を閉じ込めた。
でも、なぜ? そして――誰が?)
サリーナは椅子に腰を下ろし、深く息を吐く。
彼女の母国・アルトメリアでも、“封印魔法”は禁術中の禁術だった。
人の魂や生命をも歪める行為――
それを王家の血に施すなど、ありえない。
(もし意図的に封じたとすれば……王家内部の者。おそらく、正妃。)
その推測に、背筋が凍った。
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一方その頃、王妃エリゼは玉座の間で侍女たちを下がらせ、
ただ一人、薄暗い空間に佇んでいた。
大理石の床に描かれた魔法陣が、かすかに脈打っている。
赤黒い光が蠢き、影のような煙がゆらゆらと立ち上る。
「……まだ足りぬのか、贄(にえ)が。」
どこからともなく、低い笑い声が響いた。
『焦るな、エリゼ。すべては“混沌”の流れに従うのみ。』
「……あなたは、約束したはずです。私の子――リオンを王位につけると。」
『ああ、約束しよう。お前の息子は、王となる。だが――』
闇の中から、影の腕が伸び、彼女の頬を撫でた。
『そのためには、“あの子”が邪魔だ。』
エリゼの目が細くなる。
「七番目の……セブン王子。」
『そうだ。彼の中には“原初の魔”が眠っている。放っておけば、やがてお前の息子を飲み込む。』
「だから封印を……」
『だが封印は、完全ではない。時が来れば、あの子は覚醒する。』
エリゼの唇が震えた。
「どうすれば……完全に、封じられるのです?」
影の声が囁く。
『簡単なことだ。戦を起こせ。混乱の中で、“王の血”を流せばよい。』
「……まさか、それが目的?」
『我は混沌の王。秩序ある国など、つまらぬだけだ。』
エリゼは目を閉じた。
心の奥では恐怖と同時に、歪んだ満足が広がっていく。
(この声に従えば……リオンが、王になれる。)
『もうすぐ“器”が整う。六の王子の中から、一人が我を受け入れる。』
「器……?」
『その名は――第六王子、アレス。』
闇が笑い、陣が赤く光る。
エリゼは目を見開き、思わず後ずさった。
「なっ……!」
『選ばれし者は血の契約を果たす。そうすれば、この国は再び“戦の時代”へ――』
影が薄れ、闇の声が消える。
部屋の空気は元に戻ったが、エリゼの頬を冷や汗が伝っていた。
「……それでも、リオンのためなら……。」
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同じ頃、サリーナは王妃の間に呼ばれていた。
朝食の場。だが、そこには微妙な緊張が漂っていた。
「サリーナ殿下、昨日のご滞在はいかがでしたか?」
王妃の微笑は完璧。けれど、その瞳は冷たく探るようだ。
「ええ、とても美しい国ですわ。王子殿下方も、それぞれ立派で……。」
「そう。それは何よりです。」
王妃はワインを口に含み、意味ありげに言葉を続けた。
「ただ……この城には、立ち入らぬ方がよい場所もあります。
古き封印が眠る区域など、ね。」
サリーナの手が一瞬止まる。
(――気づかれてる!?)
だが顔には出さず、にっこり微笑んだ。
「まあ……怖いお話。肝に銘じておきますわ。」
王妃の唇が微かに歪む。
「怖いものなどありませんわ。ただ、王家の血が触れてはならぬ“もの”があるだけ。」
(やはり……封印のことを知っている。)
会話を終えたサリーナは席を立ち、部屋を出る。
背後から、王妃の視線が針のように突き刺さっていた。
(この国は、何かがおかしい。
王家を覆うこの冷たさ――まるで“生きた氷”の中にいるよう。)
---
その日の夕刻。
サリーナは再び自室で魔法書を開き、指先で文字をなぞっていた。
“封印とは、恐れから生まれる。
それを施す者の心が、封印の強さを決める。”
ページの一文を見つめながら、彼女はつぶやく。
「恐れ……。王妃は何を恐れているの?」
答えは出ない。だが、胸の奥で確信が育ちつつあった。
(セブンは“危険”なんかじゃない。
あの優しさを、世界は恐れているのよ。)
窓の外、夜風が吹く。
ふと見ると、月が雲間から顔を覗かせた。
その光が、まるで彼を照らすように柔らかく輝いている。
「セブン……あなたは、何者なの?」
囁きは夜に溶けていった。
その足元では、知らぬ間に――
床の影が、わずかに蠢いた。
まるで“何か”が、目覚める時を待っているかのように。
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> 次回 第2章「悪魔王の影」
――封印された力が、再び世界を揺るがす。
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この第1章1-4で:
王妃=封印の実行者であり、悪魔王の囁きに操られている
第6王子アレス=今後の“敵の器”として暗示
サリーナは気づきながらも動けず、内に葛藤を抱える
ラストで“封印が再び波打つ”演出で、物語を次章に接続
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