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2-3 堕ちた王子
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第2章2-3 堕ちた王子
その日、王城は奇妙な静けさに包まれていた。
いつもなら朝靄を裂く鐘の音が響くはずなのに、今日は鳴らない。
まるで城そのものが息を潜めているかのようだった。
空は重く、黒い雲の裏で稲光が瞬いていた。
その光が塔を照らし、一瞬だけ王都の街並みを血のように染める。
――そして、その中心に立つのは、第六王子アレス。
彼の背後には、すでに数十人の兵士が跪いていた。
王国軍の中でも最も忠誠心の厚い“黒竜騎士団”――
本来なら王直属の精鋭部隊が、今やアレスの手の中にある。
「殿下、命令を。」
副団長が声を発する。
アレスはゆっくりと微笑んだ。
「北部の守備砦を制圧せよ。
反乱の兆候を“先に”潰すのだ。」
「はっ。しかし、北部の領主は陛下の――」
「構わぬ。王の命はもはや意味を持たぬ。」
アレスの声は静かだったが、背後の空気を震わせるほどの力が宿っていた。
兵士たちは息を呑み、そして誰も逆らえなかった。
「混沌こそが、新たな秩序の始まりだ。」
アレスが手を掲げると、空が裂けるような音を立てた。
黒い霧が渦を巻き、空を覆う雲と混じり合う。
やがて、霧の中から“何か”が現れた。
――黒翼を持つ異形の存在。
牙を剥き、兵士たちを見下ろす悪魔の眷属たち。
兵士の一人が恐怖に駆られ、後ずさる。
「ひっ……ま、魔物が……!」
「安心しろ。彼らは我らの同胞だ。」
アレスは笑った。
「我が力を受け入れよ。
さすれば、お前たちは“常人”を超えた兵となる。」
兵士たちはお互いを見合い、一人、二人と跪いた。
やがて、全員が沈黙の中で頭を垂れる。
黒い霧が彼らを包み、体に刻印が浮かび上がる。
血のような赤い線が腕に走り、鎧が黒く変色していく。
「よくぞ選んだ。我が“黒の軍団”よ。」
アレスの瞳が紅く光った。
その瞬間、雷鳴が轟き、城全体が震えた。
---
一方その頃。
王城の南庭園では、サリーナが異常な魔力の波動を感じ取っていた。
「……信じられない。これほど強い“闇”が、王城の中から発生しているなんて。」
空が紫に染まり、風が逆巻いている。
彼女の髪がはためき、魔法陣が自動的に展開された。
「セブン、あなたはここにいちゃだめ!」
「でも、サリーナさん……!」
少年は怯えながらも、必死に彼女の袖を掴んだ。
「さっきから胸が痛いんです。何か、締めつけられるような……!」
サリーナは息を呑んだ。
「封印が――反応してる!」
彼女が振り返ったとき、セブンの瞳が微かに光を帯びていた。
それはまるで、何かを“呼び合う”ような輝き。
「まさか……アレス王子の力に、封印が共鳴しているの?」
サリーナは少年を抱きしめた。
「落ち着いて、セブン。あなたは悪くない。
これは、あなたを利用しようとしている“何か”の仕業よ。」
「利用……?」
「ええ。あなたの中の光を、闇が欲しているの。」
セブンの身体が小刻みに震える。
「僕、怖い……サリーナさん、どこにも行かないで……」
その言葉に、サリーナの胸が締めつけられた。
――この子は、まだ八歳の少年なのだ。
戦も、陰謀も知らない。
それでも、世界を巻き込む“鍵”を抱えて生まれた。
「大丈夫よ、セブン。
私が、あなたを守る。」
その瞬間、王城の北塔が閃光に包まれた。
眩い光の後、爆発音が響く。
空に黒い柱が立ち上がり、鳥たちが一斉に飛び立った。
「始まった……」
サリーナは唇を噛んだ。
(アレス王子……本当に戦を起こす気なのね。)
---
北塔の戦場。
王国の騎士団が押し寄せる中、アレスの軍勢は異様な勢いで侵攻していた。
黒い霧を纏う兵士たちは、まるで痛みを感じない。
切りつけられても倒れず、むしろ笑いながら前進してくる。
「化け物め!」
第一王子リオンが剣を振るい、叫んだ。
「アレス! 貴様、正気か!」
アレスは戦場の中央で悠然と立っていた。
「正気? ああ、これこそが“正気”だ。
お前たちは王の座を守るために血を流す。
だが俺は、世界を変えるために血を流す!」
「そんな理屈が通るものか!」
「通すんだよ。力でな!」
アレスが手を掲げると、地面が裂け、炎が噴き上がる。
悪魔の紋章が地表に浮かび、兵士たちが次々に飲み込まれた。
悲鳴が夜空に響く。
その光景を、サリーナは遠くから見ていた。
(これが、悪魔の力……。人の理では止められない。)
「サリーナさん……僕、何かしないといけない気がします。」
セブンが小さく呟いた。
サリーナは彼の手を握る。
「ダメ。あなたの封印を解くわけにはいかない。」
「でも、このままじゃ……!」
「いい? 封印が解ければ、あなたは人ではなくなる。
それでも、あなたはそれを望む?」
セブンは唇を噛み、俯いた。
「……嫌です。サリーナさんが悲しむなら。」
その言葉に、サリーナの胸の奥が熱くなった。
(この子は……本当に優しい子。どうして王家は、この子を封じたの?)
そのとき――。
空から、ひときわ大きな雷鳴が轟いた。
そして、闇の裂け目から現れた“影”が、サリーナたちを見下ろす。
それは、アレスの眷属のひとり。
黒い翼を持つ悪魔の兵。
「見つけた……光の器……!」
サリーナは即座に防御陣を展開した。
「下がって、セブン!」
閃光が走る。
悪魔の槍が地面を貫き、土煙が舞い上がった。
「サリーナさんっ!」
サリーナは衝撃に耐えながら叫ぶ。
「絶対に私から離れないで!」
空を覆う黒雲の下、
ひとりの悪魔王子と、ひとりの“封印の子”が、運命の糸で結ばれようとしていた。
---
夜の帳が下り、王城の周囲は炎に包まれていた。
戦いの始まりを告げる夜――
それは、王国史上初めて“天が黒く染まった日”と呼ばれることになる。
その日、王城は奇妙な静けさに包まれていた。
いつもなら朝靄を裂く鐘の音が響くはずなのに、今日は鳴らない。
まるで城そのものが息を潜めているかのようだった。
空は重く、黒い雲の裏で稲光が瞬いていた。
その光が塔を照らし、一瞬だけ王都の街並みを血のように染める。
――そして、その中心に立つのは、第六王子アレス。
彼の背後には、すでに数十人の兵士が跪いていた。
王国軍の中でも最も忠誠心の厚い“黒竜騎士団”――
本来なら王直属の精鋭部隊が、今やアレスの手の中にある。
「殿下、命令を。」
副団長が声を発する。
アレスはゆっくりと微笑んだ。
「北部の守備砦を制圧せよ。
反乱の兆候を“先に”潰すのだ。」
「はっ。しかし、北部の領主は陛下の――」
「構わぬ。王の命はもはや意味を持たぬ。」
アレスの声は静かだったが、背後の空気を震わせるほどの力が宿っていた。
兵士たちは息を呑み、そして誰も逆らえなかった。
「混沌こそが、新たな秩序の始まりだ。」
アレスが手を掲げると、空が裂けるような音を立てた。
黒い霧が渦を巻き、空を覆う雲と混じり合う。
やがて、霧の中から“何か”が現れた。
――黒翼を持つ異形の存在。
牙を剥き、兵士たちを見下ろす悪魔の眷属たち。
兵士の一人が恐怖に駆られ、後ずさる。
「ひっ……ま、魔物が……!」
「安心しろ。彼らは我らの同胞だ。」
アレスは笑った。
「我が力を受け入れよ。
さすれば、お前たちは“常人”を超えた兵となる。」
兵士たちはお互いを見合い、一人、二人と跪いた。
やがて、全員が沈黙の中で頭を垂れる。
黒い霧が彼らを包み、体に刻印が浮かび上がる。
血のような赤い線が腕に走り、鎧が黒く変色していく。
「よくぞ選んだ。我が“黒の軍団”よ。」
アレスの瞳が紅く光った。
その瞬間、雷鳴が轟き、城全体が震えた。
---
一方その頃。
王城の南庭園では、サリーナが異常な魔力の波動を感じ取っていた。
「……信じられない。これほど強い“闇”が、王城の中から発生しているなんて。」
空が紫に染まり、風が逆巻いている。
彼女の髪がはためき、魔法陣が自動的に展開された。
「セブン、あなたはここにいちゃだめ!」
「でも、サリーナさん……!」
少年は怯えながらも、必死に彼女の袖を掴んだ。
「さっきから胸が痛いんです。何か、締めつけられるような……!」
サリーナは息を呑んだ。
「封印が――反応してる!」
彼女が振り返ったとき、セブンの瞳が微かに光を帯びていた。
それはまるで、何かを“呼び合う”ような輝き。
「まさか……アレス王子の力に、封印が共鳴しているの?」
サリーナは少年を抱きしめた。
「落ち着いて、セブン。あなたは悪くない。
これは、あなたを利用しようとしている“何か”の仕業よ。」
「利用……?」
「ええ。あなたの中の光を、闇が欲しているの。」
セブンの身体が小刻みに震える。
「僕、怖い……サリーナさん、どこにも行かないで……」
その言葉に、サリーナの胸が締めつけられた。
――この子は、まだ八歳の少年なのだ。
戦も、陰謀も知らない。
それでも、世界を巻き込む“鍵”を抱えて生まれた。
「大丈夫よ、セブン。
私が、あなたを守る。」
その瞬間、王城の北塔が閃光に包まれた。
眩い光の後、爆発音が響く。
空に黒い柱が立ち上がり、鳥たちが一斉に飛び立った。
「始まった……」
サリーナは唇を噛んだ。
(アレス王子……本当に戦を起こす気なのね。)
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北塔の戦場。
王国の騎士団が押し寄せる中、アレスの軍勢は異様な勢いで侵攻していた。
黒い霧を纏う兵士たちは、まるで痛みを感じない。
切りつけられても倒れず、むしろ笑いながら前進してくる。
「化け物め!」
第一王子リオンが剣を振るい、叫んだ。
「アレス! 貴様、正気か!」
アレスは戦場の中央で悠然と立っていた。
「正気? ああ、これこそが“正気”だ。
お前たちは王の座を守るために血を流す。
だが俺は、世界を変えるために血を流す!」
「そんな理屈が通るものか!」
「通すんだよ。力でな!」
アレスが手を掲げると、地面が裂け、炎が噴き上がる。
悪魔の紋章が地表に浮かび、兵士たちが次々に飲み込まれた。
悲鳴が夜空に響く。
その光景を、サリーナは遠くから見ていた。
(これが、悪魔の力……。人の理では止められない。)
「サリーナさん……僕、何かしないといけない気がします。」
セブンが小さく呟いた。
サリーナは彼の手を握る。
「ダメ。あなたの封印を解くわけにはいかない。」
「でも、このままじゃ……!」
「いい? 封印が解ければ、あなたは人ではなくなる。
それでも、あなたはそれを望む?」
セブンは唇を噛み、俯いた。
「……嫌です。サリーナさんが悲しむなら。」
その言葉に、サリーナの胸の奥が熱くなった。
(この子は……本当に優しい子。どうして王家は、この子を封じたの?)
そのとき――。
空から、ひときわ大きな雷鳴が轟いた。
そして、闇の裂け目から現れた“影”が、サリーナたちを見下ろす。
それは、アレスの眷属のひとり。
黒い翼を持つ悪魔の兵。
「見つけた……光の器……!」
サリーナは即座に防御陣を展開した。
「下がって、セブン!」
閃光が走る。
悪魔の槍が地面を貫き、土煙が舞い上がった。
「サリーナさんっ!」
サリーナは衝撃に耐えながら叫ぶ。
「絶対に私から離れないで!」
空を覆う黒雲の下、
ひとりの悪魔王子と、ひとりの“封印の子”が、運命の糸で結ばれようとしていた。
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