魔力ゼロのセブン王子、キスで無限パワー!

霧島

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2-4 紅の月の夜

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第2章2-4 紅の月の夜

 ――夜空が赤く染まっていた。

 それは血の色とも、地獄の炎とも言われる異様な輝きだった。
 月が紅く光り、王城全体がその光に包まれている。
 王都の民は怯え、祈りの声を上げた。
 だが、祈りは届かない。

 王城の北塔から立ち上る黒煙は、まるで巨大な竜のように空を裂き、
 その中心で、黒い王子アレスが不敵に笑っていた。

 「見ろ、これが新しい王国の夜明けだ――!」

 その声が雷鳴のように響く。
 地上では、王国軍と黒の軍団が激突していた。
 剣が火花を散らし、魔法が炸裂し、悲鳴が空へ昇っていく。

 アレスの軍勢は常識を超えていた。
 彼の影から次々と悪魔の兵が生まれ、倒しても倒しても数が減らない。
 死者の魂すら喰らい、新たな兵として蘇らせていく。

 「兄上たちの時代は終わった!」
 アレスは高笑いし、空へ腕を掲げた。
 「今、この国を“再生”させる!」

 その叫びに応えるように、紅い月がさらに強く輝く。
 黒い雷光が空から降り注ぎ、城の尖塔を焼いた。

 「アレス殿下! おやめください!」
 王国騎士団の隊長が叫ぶ。
 「これ以上は――」

 「黙れ。」
 アレスの指がわずかに動く。
 瞬間、隊長の体が宙に浮き、骨が軋む音が響いた。
 「秩序を守るだけの人形に、王を止める資格はない。」

 次の瞬間、隊長の身体は音もなく霧散した。
 風が血の香りを運ぶ。


---

 その頃、王城南部の回廊では――。

 サリーナがセブンを抱きかかえながら、崩れ落ちた天井の間を走っていた。
 瓦礫の上に舞う炎が、彼女の金髪を紅く染める。
 「急がないと……!」

 後方では、アレスの放った悪魔の獣たちが迫っていた。
 壁を突き破り、牙を剥く。

 「サリーナさんっ!」
 セブンが叫ぶ。

 サリーナは振り向きざまに魔法陣を展開した。
 「《アーク・プロテクション》!」

 閃光が走り、空気が震える。
 防御障壁が広がり、獣たちの突進を弾き返した。
 だが、力の反動で彼女の膝が崩れる。

 「くっ……」

 セブンが慌てて支える。
 「サリーナさん、大丈夫ですか!?」

 「平気よ。……でも、魔力の流れが滅茶苦茶。
  このままじゃ、城そのものが……」

 その時、廊下の先――崩れた瓦礫の向こうから、黒い影が現れた。
 それは人の形をしていたが、顔は闇の中に沈んで見えない。

 「光の器……ここにいたか。」

 声が響いた瞬間、サリーナの全身に悪寒が走る。
 (……悪魔の眷属じゃない。もっと強い……これは――)

 「アレス……王子?」

 「ふふ……姫君。お久しぶりですね。」
 紅の月の光を背に、アレスが姿を現した。
 その瞳は、もはや人間のものではなかった。

 「あなた、どうして……!」

 「どうして? 簡単なことですよ。
  人間の限界に飽きた。それだけです。」

 アレスの背後に浮かぶ魔法陣がうねる。
 空間そのものが歪み、闇の炎が立ち上がる。

 「サリーナ、逃げて!」
 セブンが叫んだ。

 「逃がすと思うか?」

 アレスが指を弾く。
 炎が蛇のように伸び、二人を呑み込もうとした。
 サリーナはとっさに魔法で盾を張る。
 「《セレスティア・ウォール》!!」

 爆風が轟き、光と炎がぶつかり合う。
 衝撃波が廊下を吹き飛ばし、壁が崩れた。

 サリーナはセブンを庇いながら倒れ込む。
 彼女の腕に焦げ跡が浮かび上がる。

 「サリーナさん……!」

 「大丈夫……でも、限界ね。」
 彼女の視線の先では、アレスがゆっくりと歩み寄ってくる。

 「可愛い弟よ。お前は知っているか?
  お前の中に眠る“力”こそ、我が完成の最後の欠片なのだ。」

 「僕の……?」

 「そうだ。お前の封印を解き、力を吸収すれば、
  我は完全な悪魔王として復活する。」

 サリーナの瞳が見開かれた。
 「そういうこと……! あなたの目的は封印そのものだったのね!」

 「姫君、理解が早い。さすが“魔法姫”だ。」
 アレスは微笑んだ。
 「だが、理解したところで――何が変わる?」

 再び、紅い炎がうねる。
 サリーナは必死に立ち上がり、腕を広げた。

 「セブンを……絶対に渡さない!」

 「ならば――死ね。」

 アレスが指を鳴らす。
 次の瞬間、床が爆ぜ、闇の触手がサリーナを絡め取った。
 体が宙に浮き、呼吸が奪われる。

 「くっ……!」

 セブンが叫ぶ。
 「やめろ! サリーナさんを離せっ!!」

 「……ほう?」
 アレスの瞳が彼を見つめた瞬間、世界が一瞬止まった。
 ――封印が、共鳴した。

 セブンの体から光があふれ出す。
 胸の奥で、何かが“壊れる”音がした。

 アレスが驚愕の声を漏らす。
 「何……この力……!?」

 サリーナはその隙を突き、魔力を集中させた。
 「《ホーリーフィールド》ッ!!」

 閃光が爆発し、闇の触手が弾け飛ぶ。
 サリーナは床に落ち、セブンを抱き寄せた。

 「セブン……今のは……?」

 セブンは震えながら首を振る。
 「わかりません……でも、体の中が熱くて、苦しくて……!」

 サリーナは唇を噛んだ。
 (もう封印が限界……! このままでは、彼の中で暴走する!)

 アレスがゆっくりと立ち上がる。
 「姫君……余計なことを。」

 彼の体から闇が噴き出し、城全体を包み始める。
 「もう止まらん。この国は――闇に飲まれる。」

 サリーナは震える手でセブンの頬を包んだ。
 「ごめんなさい……。本当は、まだ時期じゃないの。
  でも――もう、迷っていられない。」

 「サリーナさん……?」

 「あなたを救うには、封印を解くしかない。」

 サリーナの瞳に決意が宿る。
 「どんな結果になっても、私があなたを信じる。」

 紅い月の光が二人を照らした。
 その光の中で、サリーナの唇が小さく震える。

 (次にこの唇を重ねるとき――世界が変わる。)

 「……必ず、あなたを守るわ。」

 その瞬間、紅い月がさらに輝きを増した。
 そして、王国全体に響き渡る一つの鼓動。

 ――それが、“覚醒”の予兆だった。


---

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