魔力ゼロのセブン王子、キスで無限パワー!

霧島

文字の大きさ
10 / 16

3-2 命を賭して――姫の祈り、少年の涙

しおりを挟む
第3章3-2 命を賭して――姫の祈り、少年の涙

 光の奔流が収まり、セブンとサリーナの身体は地に落ちた。
 そこは、王都から遠く離れた北方の森の奥。夜の静寂を破って、木々がざわめく。
 遠くでは、王城が炎に包まれる光が見えた。闇の波が押し寄せ、空を黒く染めていく。

 「はぁ、はぁ……転移、成功……したみたいね……」
 サリーナが肩で息をしながら呟く。魔法陣の残滓が、地面に青白く光って消えていった。
 魔力を使い果たした彼女の額には汗が滲み、頬は血の気を失っていた。

 「サリーナ! 大丈夫!?」
 セブンが駆け寄り、必死に支える。
 「平気……とは言えないわね。でも……あなたが無事でよかった」

 サリーナの笑顔は儚く、炎の光を映す瞳は微かに揺れていた。
 だが、その視線の奥にあるのは、確かな意志――。

 セブンは拳を握りしめた。
 「僕……また、何もできなかった……」
 「そんなことないわ。あなたが私を守ってくれたのよ」
 「守れたなんて……僕のせいで君が……傷ついてるじゃないか……!」

 セブンの声が震えた。
 王族でありながら、何の力もない。
 “ゼロ”の烙印を押され、家族にすら存在を隠されてきた。
 そして今、王都は燃えている。
 兄が悪魔に取り憑かれ、国が滅びようとしている。

 それなのに、自分には何もできない――。

 「僕のせいで、皆が……!」
 小さな拳を地面に叩きつける。
 その震える背に、サリーナがそっと手を置いた。

 「違うわ、セブン。あなたは“何もできない”んじゃない。まだ“何もしていない”だけよ」
 「……?」
 「力はあるの。ただ、見えないだけ。――封印されているから」

 サリーナの声は、静かで、確信に満ちていた。
 「私は魔眼を持つの。魔力の流れを“見る”ことができる。あなたの体の奥に、私の国でも見たことがないほどの膨大な力が眠ってる」
 「でも、そんなもの……感じたこともない」
 「それが封印の証拠よ。あなたの魔力は“ゼロ”なんかじゃない。――無限なの」

 セブンは息を呑んだ。
 彼の心の奥で、何かがかすかに震えた。

 「無限……?」
 「ええ。きっと、誰かが恐れたのよ。この力を」
 サリーナは夜空を見上げる。
 黒い雲が渦を巻き、王都の方向に赤黒い光が立ち上るのが見えた。
 「……悪魔王が復活したのね。おそらく、あなたの封印と関係がある」

 「僕の……封印が?」
 「そう。あの“力”を封じた者が、知らずに悪魔の思惑に絡め取られたのかもしれない。だから、今、世界が歪んでいる」

 セブンは言葉を失った。
 世界の破滅が、彼自身に繋がっている――そんな恐ろしい現実。

 しかし、その沈黙を破るように、地面が震えた。
 森の向こうから、低く唸る音。
 闇を裂いて、黒い影が現れる。

 「……悪魔の軍勢!? こんな場所まで……!」
 サリーナが杖を構える。
 だが、彼女の魔力はすでに限界に近かった。
 「サリーナ、逃げよう!」
 「無理よ……転移陣を展開する力がもう……」

 黒い獣のような悪魔が群れをなし、森の木々をなぎ倒して迫ってくる。
 「来るな……来るなぁぁぁぁ!!」
 セブンが叫ぶ。
 だが、彼の手からは何も起きない。
 祈るように両手を握っても、炎も、光も生まれない。

 「嫌だ……僕は……何もできない……!」
 悪魔の爪が光を裂き、サリーナの肩を掠めた。
 血が飛び散る。

 「サリーナっ!!」
 「大丈夫、まだ……立てるわ……!」
 彼女は血に濡れた杖を握り、最後の魔法陣を展開した。
 「セブン、私の後ろに!」

 光の盾が現れ、迫る悪魔の群れを押し返す。
 しかし、押し返すたびに彼女の体が震え、膝が崩れ落ちていく。

 「お願い……もうやめてくれ……サリーナが……死んじゃう……!」
 セブンの叫びが森に響く。
 だが、闇は止まらない。
 数十の悪魔が一斉に突進してきた。

 ――その瞬間。

 サリーナが振り返り、微笑んだ。
 「セブン。……あなたは優しい子ね」
 「やめて……そんな顔しないで……!」
 「大丈夫。あなたは必ず、光を取り戻す人……だから」

 サリーナの杖が砕け、光が弾けた。
 轟音。
 眩い閃光が森を包み、悪魔たちの悲鳴が響く。
 光の波動はあまりにも強く、セブンもその中に吹き飛ばされた。

 ――静寂。

 気づけば、森は灰色の霧に包まれていた。
 地面には、サリーナが倒れていた。
 彼女の魔力は消えかけ、微かな息だけが残っていた。

 「サリーナっ……! ねぇ、目を開けてよ……!」
 震える手で抱き起こす。
 「セブン……」
 「僕のせいだ……僕が力を持っていれば……!」

 涙が頬を伝い、サリーナの胸に落ちた。
 「あなたは……もう気づいてるはずよ……」
 「え……?」
 「あなたの中にある“光”が……私の魔力に……共鳴してる……」

 サリーナの手がセブンの頬に触れる。
 その手は温かく、そして弱々しかった。
 「お願い……セブン……この世界を……救って……」
 その言葉を最後に、彼女の瞳がゆっくりと閉じた。

 セブンは泣き叫んだ。
 その涙が、サリーナの唇に落ちた瞬間――。

 彼の胸の奥から、光が溢れ出した。
 封印が震える。
 心臓の鼓動が、世界の鼓動と重なった。

 「力が……応えてる……!?」

 大地が光り、森全体が白く染まる。
 闇が一瞬だけ退き、天を貫く光柱が立ち上がった。
 サリーナの髪が揺れ、その唇に、再び生命の色が戻り始める。

 そして――セブンの瞳が黄金に輝いた。


---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...