制御不能なS級魔法使いは、パーティーのお荷物 ― ストレス解消に神々の領域で無双してきます ―

霧島

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3-2 氷月のセレネ ― 遠目の強火です

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第3章 魔神四天王との遭遇

3-2 氷月のセレネ ― 遠目の強火です

 炎獄界が静まり返った。
 かつて灼熱の海だったその地は、いまや一面の黒焦げ。
 マグマさえ蒸発し、地形が“焼けた皿”のように平らになっている。

 その中心で、ダイアは腰に手を当てていた。
「ふぅ……焼き加減、ちょっと強かったかな。
 もうちょっと中火で止めるべきでしたね~」

 その呟きを聞いた者は、もう誰もいなかった。


---

 その少し離れた次元の裂け目で、
 氷のように透き通った瞳の女が静かに息をついた。

「イグニスが……消滅、ですか?」
「ええ、跡形もなく」
 報告を受けたのは、魔神四天王のひとり、氷月のセレネ。

 彼女の周囲の空気は、息をするだけで凍る。
 白銀の髪が風に揺れるたび、粉雪が舞う。

「彼、あれでも炎の支配者でしたのに……。
 人間風情に“強火で焼かれる”なんて、聞いたことがありませんわ」

 セレネは薄く笑い、氷の扇を開いた。
「面白い。では、今度は私がその“人間”とやらを冷ましてあげましょう」

 次の瞬間、世界が凍った。
 空間そのものが氷に覆われ、ダイアの立つ地平が一瞬で白く染まる。


---

「……え?」
 ダイアがきょとんとした顔を上げた。
 炎獄界だったはずの大地が、一面の氷原に変わっている。
 氷の結晶が空に浮かび、輝きながら音を立てて降り注いでいた。

「わぁ~! きれい……! 雪景色ですか? ここ、エアコン効きすぎですね!」
「……“エアコン”?」

 声が響く。
 氷の柱の上に立つセレネは、まるで氷の女王のようだった。

「我は氷月のセレネ。魔神四天王の一角です。
 あなたが、我らの同胞――イグニスを灰に変えた張本人、ですね?」

「はいっ! えっと、ちょっと焼きすぎちゃって……反省してます!」
「“焼きすぎ”という表現で済ませる気ですか?」
「もうちょっと焦げ目控えめにするべきでした!」
「料理の話ではありません!」


---

 セレネは静かに扇を閉じた。
「あなたがどれほどの存在であれ、我が氷結の前では全てが静止します。
 ――凍てつきなさい、《アブソリュート・フリーズ》」

 彼女の声とともに、世界が瞬時に凍結する。
 音が消え、光が止まり、時間さえ氷に閉じ込められた。
 あらゆる生命が凍り、神々の観測鏡が次々と“データ停止”を報告する。

「全系統、凍結エラー発生! 観測不能です!」
「セレネ様、範囲広すぎます! このままだと神界も凍結を――」
「構いません。静寂こそ、至高です。」


---

 氷の世界の中心で、ダイアは動かずに立っていた。
 氷の結晶が頬に触れても、微動だにしない。

「……」
 セレネは勝ち誇ったように微笑む。
「ふふ、終わりです。
 あなたの炎など、もう――」

「くしゅんっ!」

「え?」

 氷原の中心で、くしゃみが響いた。
 凍っていた時間が震え、世界に小さな亀裂が走る。

 ダイアが両腕をこすりながら言った。
「さ、寒いぃぃ! 冷えすぎですって!」
「なっ……動ける……!?」

 セレネは驚愕した。
 彼女の氷結魔法は“神格”すら停止させる絶対零度の術。
 それを破るなど、理論上不可能。

「どういう……存在なの、あなたは……」
「体が冷えると、魔力の循環が悪くなるんですよ~。
 だから――あっためますね♪」


---

 その笑顔に、セレネは本能的な恐怖を覚えた。

 次の瞬間、世界が“逆に”燃え上がる。
「――Lv5ファイヤー・コンベクション!」

 彼女の頭上で、赤と白の光が爆ぜた。
 炎の柱が遥か彼方から降り注ぎ、氷原を覆い尽くす。
 火と氷がせめぎ合い、空間そのものが悲鳴を上げる。

「ば、馬鹿な……この熱、次元が溶けていく……!」
「遠目の強火で~す!」
「遠目ってなに!?」
「近いと焦げすぎるんで、ちょっと離して焼くんです!」
「料理人かぁぁぁ!!!」

 氷が蒸気になり、蒸気が光になり、光が爆発する。
 瞬間、空が白く閃いた。


---

 王座の間。
 神々の観測班が慌ただしく走り回る。

「報告! セレネ様、観測から消失!」
「え!? まさかイグニス様のときと同じ!?」
「同じどころか、氷界そのものが蒸発しました!」
「氷界が……蒸発……?」
「温度逆転現象です!! 凍土が気化しました!!!」
「えっ、氷の世界が“お湯”になったの!?!?」
「正確には“超臨界水”です!!」
「わけわかんねぇぇぇぇ!!!」


---

 セレネは、氷の残骸の中で震えていた。
 髪は焦げ、扇は溶け、表情は完全に真っ白。
 その視界に、ダイアがにっこり笑って映る。

「すっごくあったかくなりましたね! 体ポカポカです!」
「……あ、あんた……なんなの……?」
「温活系魔法使いです!」
「そんなジャンルねぇぇぇ!!!」

 セレネはそのまま意識を失った。
 氷の花びらが溶けるように、ゆっくりと倒れ込む。


---

 遠く離れた神王宮。
 アズモディアスが顎に手を当て、映像を見つめていた。
「……なるほど。炎獄を焼き、氷界を蒸発させるとは。」
「どうしますか、陛下?」とオルドが問う。
「放っておくのも一興だが……退屈しのぎには、まだ良い刺激だ。」

 魔神王は口角を上げた。
「では次は――“知識の支配者”たるお前が行け、オルド。」
「……はっ。しかし、あれはもはや理屈を超越した存在。
 言葉が通じるかどうかも……」
「だからこそ面白い。」


---

 一方その頃、ダイアは気持ちよさそうに伸びをしていた。
「氷の人って、けっこう頑丈なんですね~。
 でも、次はどんな方がいらっしゃるんだろう。楽しみです!」

 彼女の足元では、湯気がもうもうと立ちのぼっている。
 ――氷界は、完全に“露天風呂”になっていた。


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