制御不能なS級魔法使いは、パーティーのお荷物 ― ストレス解消に神々の領域で無双してきます ―

霧島

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3-3 歪律のオルド ― 観測不能

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第3章 魔神四天王との遭遇

3-3 歪律のオルド ― 観測不能

 静寂。
 氷界が蒸発したあとの神々の領域に、またひとつ異変が生じていた。

 歪んだ空間の裂け目から、無数の数式が溢れ出す。
 数字と記号が光の粒となり、方程式のように空中に描かれていく。

 その中心に立つのは、白衣をまとった青年の姿をした存在――歪律のオルド。
 髪は銀糸、瞳は深い蒼。手には巨大な羽ペンのような杖を持ち、周囲には魔導式演算陣が幾重にも浮かんでいた。

「……氷界消失。温度差理論崩壊。
 対象:人間種、名はダイア。属性:不定。
 判定不能――これは、誤差ではなく“例外”。」

 オルドは淡々と呟き、額に指を当てる。
「観測不能事象、分類コードを新設……“理外現象体・D”。」


---

 一方その頃。
 当の“理外現象体”本人は、湯気の立つ地形でのんびりしていた。
「露天風呂、最高~……。
 神界って、けっこう良いお湯出るんですね~」

 彼女は完全に温泉気分である。
 それを遠くから見下ろすオルドの眉がピクリと動いた。

「……あれが、世界法則を二度も書き換えた張本人?
 入浴中?」

 彼は呆れながらも記録を開始する。
「対象は人間的習慣に執着。戦闘意志薄弱。
 危険度:中……いや、潜在危険度:特級。観測開始。」

 魔導式陣が回転し、幾千の観測魔眼がダイアを取り囲む。
 彼女の体温、心拍、魔力循環、思考波――
 すべてを数値化し、演算する。


---

「ふむ、やはり法則の外にある。
 魔力総量は無限大、出力制御値は……0?
 矛盾している。制御不能……」

 オルドが呟いた瞬間、観測陣のひとつが突然ショートした。
「な……観測陣が……過負荷!?」

 次々に破裂音。演算式が崩壊し、文字が光の破片となって消えていく。
「出力ゼロのはずなのに、なぜ観測魔法が焼き切れる!? 方程式が解けん!」

「わぁ~! なんか光ってますねぇ!」
 ダイアがのんきに言う。
「……あの人、観測波動を魔力反射してる!? 理論上あり得ない!」
 オルドの眼鏡がずり落ちた。


---

「すみません! 入浴中なんで、少し静かにしてもらえませんか?」
「な……何を言ってる!? 私は世界法則を司る者だぞ!」
「ふぇ~……じゃあ、お風呂の温度でも調整できます?」
「そ、そんなことは――」
「ちょっとぬるいんで、上げますね!」

 ダイアが手をかざす。
「――Lv1ファイヤーボール」

 小さな火球が、ぽっと浮かんだ。
 オルドは思わず笑う。
「ふん、これがあの脅威か。Lv1では、分子運動も――」

 次の瞬間。

 空間が白く焼き切れた。
 観測結界が吹き飛び、空間の論理座標が壊れる。

「なっ……何が起きた!?」
 オルドの声が裏返る。

 白炎は小さく見えた。だが、周囲の次元ごと“局所再構成”を引き起こしていた。
 理論上、Lv1のエネルギーではありえない現象。

「ちょっと熱すぎましたね~。もうちょい弱火にすれば……」
「弱火!? これは次元蒸発現象だぞ!? 量子基盤が溶けているんだぞ!?」
「え? あ、じゃあ遠火でいきますね!」

 オルドが止める間もなく、ダイアの指先から淡い光が走る。


---

「――Lv0.5ファイヤー。」

 ふわりと漂う柔らかな光。
 それは確かに、見た目だけなら“弱火”だった。

 しかし――。

「……ん?」
 オルドが観測水晶を見る。
 数値が狂っていた。

 出力:∞。
 温度:測定不能。
 空間安定値:NaN(存在しない数値)

「NaN!? 数値が……存在しない!?
 “観測不能”って、理論がバグってるだと!?」

 次の瞬間、柔らかな光が周囲を包み、全てを“ホワイトアウト”させた。


---

 ……数秒後。
 ダイアは何事もなかったように湯から上がり、タオルで髪を拭いていた。
「いいお湯でした~。やっぱ神界の温泉は格が違いますね~」

 一方で、近くの岩陰にオルドが転がっていた。
 白衣は焦げ、髪は立ち上がり、手にはまだ羽ペンが残っている。

「……観測不能。数式、成立せず……。
 論理、敗北……」

 彼は虚ろな目で空を見上げる。
「世界は……理屈では動かないのか……」
 そのつぶやきを最後に、オルドの体はチリのように分解され、空気に溶けた。


---

 その瞬間、神王宮に非常アラートが鳴り響く。
「報告! オルド様、観測から消失!」
「またかよ! 三連敗だぞ、魔神軍!」
「しかも今回は“観測不能”でログすら取れてません!」
「なにぃ!? ログがない!? 記録も!? どうやって報告書書くんだ!?」
「書けません! 何も残ってません!!」
「ちょっと神王陛下、もう撤退を――」
「……いや、残るは最後の一人。闇のルギウスのみだ。」

 魔神王アズモディアスは深く笑った。
「ダイア……貴様という存在。理も氷も焼くなら、次は“闇”で覆ってみせよう。」


---

 神々の領域の片隅。
 ダイアは腰に手を当てて伸びをした。
「は~、なんかスッキリしました! あとは……軽くお茶でも飲もうかな」
 彼女の足元では、蒸発したオルドの残留データが微かに光を放っていた。

 それを見下ろしながら、ダイアは首をかしげる。
「……“観測不能”って書いてありますけど、なんの観測ですかね?」

 誰も答えなかった。
 ただ、神界全体が、彼女という異常値に震えていた。


---

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